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第9話 まずは確認。学院七不思議の1つ。音楽室の怪!

 翌日の水の日。授業が終わった後、3人は連日のように通っている2のカフェで昨日の聞き込みを取りまとめていた。

 昨晩各自で聞き取った内容をまとめてはいたが、聞き漏れがないかの突き合わせである。

「まさか、用務員に聞き込みをするとは思わなかった」

 カレンが感心したように頷いている。

「本当ですわ。クローディア様は広い視野をお持ちでいらっしゃいますわ」

「いえ、たいした事ではこざいませんわ」

 クローディアは幼少の時から畑仕事をしたり、侯爵家では温室で植物を育てたりしていた。

 そうしていると、本だけの知識では到底上手く行かない。畑仕事は畑をよく知っている者、温室で植物を育てるには、植物を育てる専門家の庭師に聞くのが一番の近道だった。それをヒントにしただけである。学校にずっといて、学校をよく知る者は誰だろうと考えた時、思い浮かんだのが、学校の備品や設備の修理などを手配したりする用務員である。警備の人間もある程度知っているかもしれないが、噂などは用務員の方がよく知っている気がしたのだ。狙いはよかったらしく。目的の情報を手に入れることができた。

 情報提供のお礼に昼休みに3人で菓子折りを差し入れたところ、大変喜ばれた。

 うん。お礼は大事である。

「それにしても、学院七不思議と言いながら、七つ以上あるのはなぜだ?」

 カレンが腕を組み、眉間に皺を寄せ居ている。

「ふふ。それはその年々で流れるうわさが違ったのでしょう。生徒会長は学院七不思議のどれを解決せよとの指定はなさいませんでした。なので、そのあたりをちゃんと説明申し上げれば、どれを選んでもよろしいかと」

 そうだ。できるだけ、わかりやすく単純な方がいい。

 ()えて難しいものを選ぶ必要はない。できるだけ単純なものを選びたい。

「それにしても、だいたいが古い家であれば、言われていそうなものばかりですわね」

 サーラが木簡を眺めながら呟く。

 羊皮紙のほか、植物による紙も普及しているが、少しお高めだ。学業や商売以外で手軽に使うには少し抵抗がある。その為、木簡が子供の間ではよく使われている。

「ああ、これなんか典型的だな」

 カレンが示したのは、音楽室に飾られている肖像画の目が動くというものだ。

「確かに、先祖の肖像画が飾られている屋敷では起こりそうですわ」

 サーラも同意するように頷く。

「それの原因といえば、先祖の霊が乗り移っているからというのが答えの典型だろうな」

「その答えでだけ片付けられたら、楽ですわね。でもそういう訳には行かないでしょう。何らかの証明が必要でしょうしね」

 その通りだ。生徒会長はそんな推測で納得してくれる御仁ではない。

 学院七不思議の1つ、音楽室の怪だが、仮に本当に肖像画の目が動くとしても普通の人であれば見る事ができないだろう。もし視えるのであれば、もっと騒ぎになっているし、学院側も動いている筈である。だから、きっと視た人はほんの一握り。そのうちのほとんどが気のせいレベルに違いない。そんな事象をどう会長に証明するか。()してやその現象をどのように取り除くか。難問である。

「証明も何も、肖像画の目が動くなんて、単に怖がりな者の目の錯覚だ」

 カレン、ばっさりである。しかしこの意見が大多数の意見であろう。

 カレンはもしかしたら、亡霊などを信じてないのかもしれない。

 凛々しい感じのするカレンは、どうやらリアリストのようだ。見た目通りである。

 それでもこうしてクローディアに付き合ってくれているのだから、ありがたい事である。

「それでこれからどうする?」

 カレンがクローディアに尋ねる。

「お2人にお手伝いしていただいて、学院七不思議がどういったものかわかりました。そのうちの一番とっかかりやすいものを、今日これから調べてみようと思いますの」

「どれでございますか?」

 サーラがテーブルに身を乗り出して尋ねる。

「今お2人が話していた、音楽室に飾ってある肖像画の目が動く、音楽室の怪ですわ」

「ああ、そうだな。確認するには、一番やりやすそうだ。それではこれから行くか?」

「はい。でも、お二人は今日はここまでで。もしかしたら、危険があるかもしれません。万が一の事があったら、困りますから」

「まあ!! 一人で行くおつもりですか?」

 サーラが気遣うような声を上げる。

「危険というなら、私がついていった方がよいだろう。これでも毎日兄上に体術の稽古をつけてもらっている」

 うむ。カレン素手でも強いのか。この件が一段落したら、護身の技の教えを請いたい。

 幼少時、侯爵家の護衛に教えを乞うたのであるが、断られてしまった経緯があるから、慎重に願おう。

「ありがとうございます。わたくしも一人で行くつもりはございませんわ。ちゃんと助っ人を頼んでございます」

「クローディア、お待たせ」

 ちょうどよいタイミングでクローディアの後ろに立ったのは、エルネストである。

 紫がかった銀髪に濃い藍色の瞳を持つ少年。学院の制服がりりしさを更に引き立てている。

「パースフィールド侯爵家のご子息」

 カレンは驚きに声を上げる。

「まあ、素敵なナイト様ですわ!」

 サーラはうっとりと夢見るようにエルネストを見上げた。

「レディたち、姫の警護は僕にまかせてください。必ずやお守りしますから」

 エルネストは華麗に礼をしてみせた。


「エルネスト様、やりすぎですわ」

 目が動く肖像画がある第3音楽室に向かう廊下を歩きながら、クローディアはプンと不平をこぼす。エルネストとは昨晩、グレームズの屋敷(タウンハウス)にて学院七不思議の件で分かったことについて報告済みである。昨日生徒会室を出た後、呼び止められ、問答無用で夜来訪する旨を告げられた。エルネストは生徒会の仕事があるのだから無理をしなくてよいとやんわりお断りをしたのだが、すごい笑顔で手伝いをすると迫られた。

 こんな慎重を地で行く自分をよく知っている筈なのに。

 幼馴染は心配症である。

「僕は、君の大切な友人に僕の誠意を示しただけだけど?」

「大げさすぎですわ! 誤解を受けてしまうではないですか!」

 普段初対面の相手には、基本無表情で、冷ややかな対応をするのが常のエルネストである。特に女子にはそれが顕著である。それなのにどうした事か、サーラとカレンにはなぜあんな態度をとったのか。何かいい事でもあったのか。それにしても悪ふざけがすぎる。

「誤解? クローディアが僕のお姫さまである事は間違いないでしょ?」

「はいはい」

 スルーだ。スルー。そう思いつつも、最近スルーし難い。

 クローディアはじっとエルネストを見つめる。

「なに?」

 さらりと流れる銀髪。藍色の瞳はどこまでも透き通っている。くっ、エルネストが成長するにつれ、カッコよくなってきているのがいけない。全くけしからん。頬がなぜか熱くなる。

 だめだめ。そんなこと考えている場合ではない。

 クローディアは頭をぶんぶん振ると、切り替えた。

「さあ、暗くならないうちに検証しましょう」

「暗くなったほうが、しやすいのではない?」

「わたくしたちには明暗など関係ないでしょう?」

 そう、クローディアとエルネストには、妖精や精霊など普通視えないものが視える目を持っている。

「それにできれば検証した後、その結果について話し合いたいですから、急ぎましょう」

「わかった。今日はどうするの?」

「まずは様子見ですわ。もし本当に亡霊のいたずらだとしたら、相手にこちらが気づいているのがばれないようにしましょう。エルネスト様、怖がらないように、いいですわね?」

「大丈夫だよ。もう子供ではないのだから」

 エルネストが不満そうに口を少し尖らせる。

 いえ、そのしぐさは十分子供です! そして可愛すぎますから! 突っ込みたいが堪える。

「ふふ、頼もしいですわね」

 その時ちょうど第3音楽室に着いた。

 クローディアは教師から預かった鍵を取り出す。

「この音楽室は部活で使われていないの?」

 学院には合唱部、合奏部など、音楽に関連のある部活が多々ある。

「はい。基本的に校舎内にある音楽室は授業でのみ使用するようです。それがこのところ肖像画の目が動くだけでなく、笑い声や不気味な音が頻繁に聞こえるとかで、この教室は使われていないらしいですわ」

 学院にはこの音楽室以外に第1、第2音楽室がある。授業ではそちらを使う為、不便はないらしい。そして部活は音楽棟という専門の建物がある。そちらを使用する為、部活には支障がないらしい。

「そう。となると、肖像画の目が動くというのも真実味を帯びてくるね」

「はい」

 そう残念ながら、そうなのである。

「じゃあ、少し気を引き締めないとね」

「よろしくお願いします。では、エルネスト様、用意はいいですか」

「ん」

 エルネストは一旦瞳を閉じて、ゆっくりと開いた。

 目を解放したのだろう。

 クローディアもそれに倣う。

「では、入りましょう」

 そうして、クローディアは第3音楽室の扉を開けた。

皆様、いつもお読みいただき、ありがとうございます(^^)

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