第8話 学院七不思議、調査開始!!
「どうやって調べるんだ?」
クローディアの横を歩きながら、カレンが尋ねる。
「まずは図書棟に行ってみようかと思います」
クローディアたちは入学したばかりで、学院七不思議どころか学院の施設でさえ、不慣れである。そんなクローディアが頼れるのは、書物だろう。
「なるほど、何か資料があれば、学院七不思議がどういったものかすぐにわかりますわね」
サーラもカレンと反対隣りを歩きつつ、頷いている。
そう、まずは学院七不思議とは何かわからなければ、話は進まない。
もし図書棟に資料があれば、手っ取り早いと思ったのである。
ただ心配なのはと、考えたところでカレンが疑問を口にした。
「いくら王城に次ぐ蔵書の多さを誇る学院の図書棟とはいえ、学院の噂話、眉唾物の話を記録しているだろうか?」
「そうなのです。そこが問題なのですわ」
カレンの疑問はまさにクローディアが考えた事である。
書物とまではいかなくても、資料として学院七不思議を残す価値があると思った生徒、あるいは教師が過去にいたかどうか。難しいところである。
「なくて元々、初手としては図書棟で調べるのはよいと思いますわ」
サーラが励ますようにクローディアに目を向ける。
「さようでございますね。図書棟に資料があるか否かを確認するのも大切ですし」
そう話しているうちに、3人は図書棟に到着した。
図書棟。学院の中心に位置する正五角柱の大きな建物である。
学院に入る前からずっと気になっていた図書棟。
王城に次ぐ蔵書数を誇っている。
入学したら、すぐに訪れたいと思っていた場所である。
まさかこんな切羽詰まった理由でここを訪れる事になろうとは思わなかった。
本当なら、どんな本があるのかというわくわく感だけを抱いてここに来たかった。
「どうかなさいましたの?」
クローディアが図書棟を見上げたまま難しい顔をしていたからか、サーラが心配そうな顔で尋ねた。
「いえ、大丈夫ですわ」
2人に要らぬ心配をかけてはいけない。
「ええとその、ふと新商品のアイデアが浮かびそうだったのですが、掴み損ねてしまいまして」
「まあ! 残念でございましたね! それしてもアイデアは予告なく浮かんでくるものなのですわね! 羨ましいですわ!」
サーラが目をキラキラさせてこちらを見つめる。
「そ、そうなのです。ほほほほほ」
「きっとまた浮かんできますわ! それを逃さないでくださいまし! そしてぜひとも、お教えいただければと存じます!」
「ほほほ」
誤魔化さず、素直に本当の事を言えばよかった。あまりに子供っぽい事を考えていたから、つい口から出まかせが出てしまった。心配させまいとして、墓穴を掘ってしまった。
サーラのきらめく視線が痛い。
これは本当のことは言えない。これはこの件が一段落したら、何か新商品のアイデアを練る必要があるかもしれない。要らぬプレッシャーを抱え込んだクローディアである。
「何をやっている。早く入ろう」
カレンはそんな2人の様子を気にした様子もなく、先に足を踏み入れた。我が道を行くである。
図書棟の中に入ると、まず目に入るのは中央の吹き抜け。かなり高い位置にある天井から光が降り注いでいる。そして正五角形の壁に沿って、ぎっしりと本が詰まっていた。よく見ると本に囲まれるようにいくつものドアがある。きっとそのドアの一つ一つの先には部屋があり、そこにもたくさんの本があるに違いない。
ああ、できるなら、ずっとここに入り浸りたい。顔の筋肉がデロンと緩む。
いかん、いかん。本来の目的を忘れてはならない。
クローディアはその甘い誘惑を振り切ると、入口の左手にある大きなカウンターに近づいた。
そこには司書と思われる大人の女性と、生徒男女が1人ずつ。
クローディアは司書の女性に近づくと、尋ねた。
「あのお忙しいところ申し訳ございません。急ぎ調べたい事がございまして、お力をお借りできませんでしょうか?」
「もちろん、承ります。何についてお調べでしょうか?」
「はい。実はこの学院に伝わる学院七不思議についての本、あるいは資料があればと思いまして」
「学院七不思議ですか?」
司書の眉間に皺がより、目がすっと冷たくなった。
学院に入学早々に探す本としては不適切と考えたのかもしれない。
クローディアは慌てて説明する。
「あの、興味本位ではないのです。実は、新しい部を立ち上げたいと生徒会に願い出たのですが、その際に課題を出されまして。それが、学院七不思議についての現状及び、解決策を示せとの事だったのです。見ての通り、わたくしたちは、学院入学したばかりで、知人もおりません。何か手がかりがないかとこうして図書棟へとやって来たのです」
「そうだったのですね。それは大変でございますね。少しお待ちください」
司書はそう告げると、奥の部屋へ入った。
よかった。そのような課題を出される部とはと尋ねられる事はなかった。生徒会の名が出たのがよかったのかもしれない。先程とは違い、親身になってくれているようである。
本に尊卑の差はないとは思うが、ここは街の本屋ではない。学ぶ場所だからだろう。司書も真面目な人なのだろう。今後利用する時には気を付けようと心に留める。
ほどなく司書が戻って来た。
「お待たせ致しました。心当たりの箇所を探してみたのですが、なさそうですわ。お役に立てず、申し訳ございません」
「いえ、お手間をおかけしました。ありがとうございます」
残念。やはりなかったか。この学院の卒業生が面白半分でもよいから、資料として残してくれていればありがたかったが。やはり、この学院の、それも眉唾な話など、資料としては残っていなかった。
3人は踵を返して、図書棟を後にする。
「残念でしたわね」
「はい。予想はしておりました」
「これからどうする?」
カレンが尋ねる。
「資料がないなら、聞き込みしかないですわね」
サーラが提案する。
学院七不思議なんて、発生源のわからぬ噂、口伝がほとんどだ。
「生徒に聞くか? しかし、新入生は入ったばかりで知らないだろう。かといって、上級生に尋ねる内容でもないし」
「はい。それだと時間がかかってしまいそうです。もっと手っ取り早く聞き取りをしたいです」
そうできるだけ時間をかけず、詳細を知りたいのだ。
「誰にお聞きしますの? 教師にお聞きしますか?」
「それも一つですが、果たしてお話いただけるかどうか」
教師が率先して話してくれる内容ではないだろう。学院七不思議など。
「では誰に聞く?」
「ここに勤めていて、先生よりも気軽に聞ける方々にお聞きしましょう」
クローディアは図書棟を出ると真っすぐに正門に向かった。
正確に言えば、正門近くにある、警備室である。
学院に不審者が入り込まないように、門には警備の者が配置されている。その中でも正門には小さい警備室が設置されていた。
そこに真っすぐ歩み寄るとクローディアは目的の方々がいる場所を尋ねる。
警備の人は事情を説明するとすぐに教えてくれた。クローディアは自分のすぐ後ろで待ってくれていたカレンとサーラに尋ねる。
「お2人とも、まだ時間はよろしいでしょうか? もし問題ないようでしたら、この学院の表から裏側までよく知る方々に会いに行きたいのですが」
カレンとサーラは顔を見合わせると、大きく頷いてくれた。
「よかったですわ。では参りましょう」
クローディアは2人を促しつつ、目的の場所へと歩き出した。
皆様、ここまでたどり着き、お読みいただき、ありがとうございます!!
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