第7話 最強女子3人組。打倒生徒会?!
「殿下、申し訳ありません。少し席を外してもよろしいでしょうか?」
「ああ、かまわない。行ってこい」
自分の言葉に頭を軽く下げると、パースフィールドは生徒会室から出て行った。
おそらく、グレームズ男爵家の娘を追いかけて行ったのだろう。
部の発足を認める条件について、いつ検討するかその約束を取り付けに行ったのかもしれない。
期限は一週間しかない。今日が火の日。来週の火の日がリミットである。先に先に動かないと条件を満たす事は難しいだろう。そうしたところで、出した課題を解決できるとは思えないが。新入生でかつそれほど実益があるとは思えない部の新設など、最初から認める気などない。かといって、建前として検討を一切せず、断る訳にはいかない。全く面倒な事を言いだしてくれたものだ。
ドアに視線を向けたまま、そんなことを考えていると、ギーブスがすっと顔を寄せて来た。
「驚きました。あのような条件を出されるとは」
「面白いだろう?」
我ながら、よい課題を彼女に出したと思う。まさに解決困難な上、ぴったりの課題である。
「面白がっていいものではありません。あの者は真剣なのですよ」
「お前も近頃生徒からの苦情が増えて来たと言っていたではないか」
「それはそうですが。無視しても問題ないくらいの声です」
「彼女にも言ったが、生徒会は生徒の声を広く聞く努力をする。たとえそれがどんな声でも、声を上げた者を無視はしない」
「建前としてそうですね」
王子はくっと笑う。まさに今自分が考えていた事だ。
「無下に断るのも可哀そうだろう。私は希望をあげたのだ」
「希望とおっしゃいますが、万に一つも可能性はないではないですか。学院七不思議など、眉唾物ですよ。それを解決しろとは、全く意地が悪い。それに万が一彼女が危険な真似をして怪我でもしたら、生徒会にも責任が降りかかってきますよ」
「何、きっと彼女だって無茶はしないよ。いや、させてくれないだろうよ」
「どういう事ですか?」
ギーブスが眼鏡を指で上げて尋ねる。
「彼女には守護騎士がいるからね」
「は?」
「私も本当に朗報を期待している。これで未解決な案件が一つでも減れば助かるではないか」
そこで王子は声を一段低める。
「それに今後彼女が使えるか否か判断できる」
もし課題を解決したなら。
「会長?」
「ああ、すまない。こちらの話さ。さあ、中断していた仕事を片付けよう」
ユーリはそう言いつつ、机に積みあがっていた書類に手を伸ばした。
これはもう話はおしまいとの合図である。
ギーブスは素直に引き下がった。
自分の席に戻りつつ、ちらりとドアに目を向ける。
まだ不慣れな学院でそれも一週間という期限付き。
きっと成果をあげるのは難しいだろう。
入学早々新しい部を立ち上げたいなど、生意気を言って来た新入生だが、王子に突飛な条件を突きつられて撃退されるとは気の毒なと頭を振った。
どきどきの生徒会へのプレゼンが終わった後、心配して待っていてくれていたカレンとサーラに学院のカフェで合流する。
この学院には3つのカフェがある。一つは高位貴族専用のカフェである1のカフェ。高位専用とは名うっていないが、少しお高めなお値段で実質的に高位貴族の子女しか利用されない。2つ目は2のカフェで、リーズナブルなお値段設定なカフェ。こちらは主に下位貴族が利用している。最後の3つ目は3のカフェと言われ、高位下位貴族が交流できる場の一つとして作られているがあまり使われない為、少し小さめのカフェになっている。
今クローディアたちがいるカフェは気遣い無用の2のカフェにいる。シンプルなデザインの4人がけのテーブルセットが適当な間隔をおいて並んでいる。学校の施設なので、派手さはない。
クローディアは生徒会室で一連の経緯を2人に話した。
すべてを吐き出しきった後、紅茶をくっくっと一気に飲み干す。
そして一気に大きく息を吐きだした。少しはしたないが許して欲しい。
「まさか、そんな条件を出してくるとはな」
「本当ですわ! 部の創設を認めたくないのですわ!」
カレンとサーラは聞き終わった途端、顔を顰めた。
「確かに去年から相談、もしくは申請が出されているならまだしも、いきなり新入生から部の新設を求められるとは思ってなかったのかもしれない。部への予算配分は、おそらく昨年の実績から、ある程度は固められているだろうから、そこに新たな配分を組むとなると面倒なのはわかる」
「それはそうですけれど! それを言われましたら、わたくしたち新入生は自由な部活動ができないという事になってしまうではありませんか!」
「学院には既存の部が多くある。ほとんどの新入生は今ある部から検討するだろう」
「ひどいですわ! 新入生は、部の立ち上げはするなとおっしゃるのかしら!?」
「建前上は言わないだろう。だからこんな突飛で解決困難な条件を出して来たのだろう」
「まるで高位貴族が下位貴族を見下すやり方そのものですわね!」
「しっ! サーラ声が大きい」
カレンが口に指を当て、注意する。
「ふん! ここは下位貴族専用カフェですわよ! 多少声が聞こえたところで、高位の方々には届きませんわ!」
「いや、どこにでも点数稼ぎをしたい者はいるから、気を付けるには越した事はない」
「‥そうですわね。申し訳ございません。少し興奮しすぎてしまいました」
ぽんぽんと交わされるカレンとサーラと会話を聞いていたクローディアは胸があったかくなる。
「ありがとうございます。お2人とも。わたくしの為に、こんなにも真剣に考えてくれるなんて」
知り合って間もない自分の為にここまで怒ってくれている。
それが嬉しく、そして少しくすぐったい。
「もちろんですわよ! ぜひともクローディア様には部を新設してもらい、生徒会の鼻をあかしてやりましょう!ほほほほほ!」
「すまない。サーラは高位貴族に対して、反骨精神が旺盛すぎるところがあって」
「なんですの! 私は学院での意味のない高位貴族の不遜な態度が許せないだけですわ!」
まだ入学して数日だ。その間に何かあったのだろうか。
「はいはい。おちついて」
クローディアは2人のやりとりを、少し羨ましく見つめる。長年の付き合いからこそ生まれる気安さがそこにはある。自分もこの2人と遠慮なく話せるようになれればと思う。
「2人に話してよかったですわ。頭も整理できましたし、自分では気づかなかった部分も
見えてきましたから」
そうだ。出された条件は、十中八九クローディアを諦めさせる為のものだ。
「その口ぶりからすると、諦めるつもりはないようだね」
カレンが不敵な笑みを浮かべる。
「もちろんですわ」
それにクローディアも同じ表情で答える。諦めるなんて気はさらさらない。あのすました生徒会長の鼻を明かしてやりたい。見てろ!必ずや部費と部室を勝ち取ってくれるわ。
「クローディア様! そう来なくては!」
サーラも応援してくれる気満々のようである。
「リミットは一週間。時間がありません。これから早速学院の七不思議について調べたいと思いますが、お2人ともお手伝い願えますか?」
「ああ!」
「喜んで!」
「ありがとうございます!」
3人は挑むように一斉に立ち上がった。
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