第6話 いよいよプレゼンだ! ぐ!!まさか!そんな条件ありですか?!
王子と初対面、初対決(笑) 頑張るクローディアです(*^▽^*)
「いよいよですわね」
クローディアは生徒会室の扉を前にして、背筋をピンと伸ばし自らを奮い立たせた。
希望していた部や研究会がない。このままでは学院生活の楽しさが半減してしまう。
そう悲観していたクローディアに、ならば作ればいいと、友になったばかりの友人が言ってくれた。まさにその通りだ。
そう。ないならば、作ればいいのだ。
そして何としても部室と部費をもらう。
クローディアが一人で研究するには限界がある。それは人的であり資金面であり。だから、ここでしっかりと趣旨を説明し、生徒会長を納得させれば、自らの懐が痛むことなく、欲しいものを手に入れられる。
うん。やるしかない。
その為なら絶対近づかないと心に決めていた生徒会にも赴く。
部を新たに創設するには、学院長の承認ではなく、生徒会の承認が必要だからだ。
この学院では生徒会に、ほぼ自治権がある。
つまりは生徒会の許可さえ、下りれば部として活動できるのである。
クローディアは胸に抱えたプレゼン資料をぎゅっと握る。これで絶対会長に諾の返事をもらう。
この扉の先にはクライアントいや、生徒会役員が生徒会長がクローディアを待ち構えている。
もちろん飛び込みではない。ちゃんと昨日月の日にアポをとっての事である。
「さあ、行くわよ」
一度深呼吸して呼吸を整えると、扉をノックをする。
許可の応えがあったクローディアは中へと足を踏み入れた。
扉の先。真っすぐ視線を伸ばしたその先にいたのは、この部屋の主。生徒会長、その人である。
現生徒会長、言わずと知れたこの国の第2王子、その人である。
ユーリ=シルフィン=カルギニア。
金糸のような髪に透明度の高い碧眼。神が作り出した芸術と言っていい程の美少年である。まだ十分離れている筈なのに、こちらに向ける硬質の視線に、思わず尻込みしそうになる。
負けませんわ!
震えそうにある足を叱咤して、クローディアは前へと進む。
部屋の右手には書記にと指名されたエルネストがいた。
彼の姿を見て、少し肩の力が抜けた。
大丈夫だ。
土の日と休日の陽の日を使い、エルネストに手伝って貰い、更にサーラ、カレンにもアドバイスを貰って、入念に作った資料がある。
後はそれを披露するだけ。絶対大丈夫。クローディアはぐっと腹に力を入れ、歩き出した。
そして生徒会長の机の前まで来ると立ち止まった。
「お初にお目にかかります。1年3組のクローディア=グレームズでございます。今日は殿下や生徒会の皆様の貴重なお時間をいただきありがとうございます」
「いや、生徒会は生徒の声を広く聞こうと努力をしている。たとえそれがどんな声でも、声を上げた者を無視はしない」
歓迎しているようなそれでいてちくりと刺す言葉だ。
「ご配慮ありがとうございます」
「それでも時間は有限だ。早速だが初めてもらえるか?」
「かしこまりました。ではまずは資料を配らせていただきます」
それから5分間、クローディアの運命のプレゼンが始まったのだった。
クローディアの渾身のプレゼンが終わり、生徒会の役員が資料に目を落としている。
生徒会役員に配る資料はすべて手書きである。クローディアが頑張って用意した。丁寧に書いたつもりだが、多少の読みにくさは見逃して欲しい。
生徒会長であるユーリ殿下も資料に目を落としたままだ。
周りを見てもどうも感触が悪いような気がする。
いや、ここで弱気になってはダメだ。
今できる精一杯の事をした。
クローディアは十二分に練習した通りにやり切った。
これでだめなら、また作戦を練って再度挑戦だ。
一度却下されたくらいではめげない。
何度でも挑戦してやる。
そうは思っても、ここに立って返事を待つのは生きた心地がしない。
こうしている間が1分が10分1時間にも感じる。
生殺しだ。
どちらでもいい。いや、よくないが、早く結果を出して欲しい。
生徒会長は熟考しているのか目線を下にし、机に両肘をついて、人差し指で拳をたたいている。
早く。早く。結論をください!
クローディアの背中に汗がつっと流れる。
「大変興味深い話だったよ」
「ありがとうございます」
「ギーブス、君はどう思った?」
自分の斜め後ろに立つ少年に尋ねる。
ギーブス=ヴァレンチノ。ヴァレンチノ侯爵家の子息で生徒会副会長を務める。
アッシュブロンドの髪と瞳は、泣き言は一切許さないそんな雰囲気を漂わせている少年である。
「はい。大変興味深い内容ではありましたが、部にするまではないかと」
ばっさりである。袈裟懸けにばっさり切られた。
ひどい。副会長。この時期に飛び込みで来た事案とはいえ、もう少し考慮してくれてもいいだろう。
クローディアは落胆を顔に出さないように頑張る。
会長は次々に役員に意見を聞いて行く。
副会長に続き、否定的な意見が続く。
「パースフィールド、君の意見はどうだ?」
最後はエルネストだ。
「私は、大変有意義な部になると思います」
「ほう。どこらへんでそう思った?」
「そうですね。これは感覚的なものなのですが、王都で過ごすようになって特に感じるのです。社会全体がギスギスしていると。顕著な例をあげれば、犯罪が増えた。それも陰湿で根が深いものが増えたように感じます。それは社会が人の心が荒んできているのではないかと考えます」
「その原因が、信仰心が薄れたことにあると? 馬鹿馬鹿しい?」
ギーブスが鼻で笑う。
「そうでしょうか? 自分だけがよければ、他人はどうでもいい。そう言った考えが増えれば増えるほど、社会は荒れ、ひいては国が衰退する。それを防ぐ手立てとして、信仰や妖精や精霊への親愛は有効だと思うのです」
「ほう。パースフィールドは神への信仰心や妖精、精霊への親愛は社会を正常に保つための手段の一つと考えていると?」
王子が尋ねる。
「もちろん、私は神や妖精や精霊が存在すると信じております。が、国や教会、あるいは親が子供に神や精霊、妖精を通して他人を尊重し敬う心を教えることによって他人を思いやる心と利己的になりすぎるのを防いでいたという面はあるかと存じます」
「ふむ。一理あるかもしれないな」
「それが、更なる豊かな生活を求めるあまり、そう言った方面の教えが薄れてしまってきているように思います。そしてそれが進めば」
「社会は荒れ、ひいては国が衰退するか?」
「はい。更にいえば、自分たちを敬わなくなった人間に神や妖精、精霊が救いの手を差し伸べるとは思いません。人の力のみで国を動かせると奢っていれば、国も社会も衰退の道をたどることになるかもしれません。我々は神や妖精、精霊に加護をもらっていることを忘れてはならないのだと思います」
そこで一呼吸おいて、エルネストは最後に締めくくる。
「この部の立ち上げは、神や妖精、精霊に国が見捨てられない為、そして社会が荒むのを防ぐ為に有益な部だと思います」
ブラボー!!今エルネストが述べた現実的な考え方のほうが、クローディアのプレゼンよりも生徒会の皆にはより受け入れやすいかもしれない。いや、エルネストはクローディアのプレゼンとはまた違う方向から、援護してくれた。素晴らしすぎる。
「なるほど。一考に値するか」
ユーリ第2王子は机を指でこつんと叩いた。
「君の考えはわかった。それにしても、随分と彼女を支援する発言だな」
「ええ。彼女は私の幼馴染ですから、応援しております」
「ふん。そういう事か」
「それに私は彼女の部ができたら、入部しようと思っております。きっと私に実り多き体験を与えてくれると確信しておりますから」
「実り多き体験ね」
第2王子はこつりとまた机を指で叩いた。
「‥‥部の発足を認めてもよい。幸いにも今の時期、新入生の入部により予算を決める時期でもあるし、1つの部を新設しても問題はないだろう」
「ありがとうございますっ!」
やったあああああああ!!
クローディアはぱあっと気分が学院の屋上を突き抜けるくらい急上昇した。
「会長!」
異議を唱えようとした副会長を第2王子は手で制する。
「ただし、このプレゼンだけで部の新設を認める訳にはいかない。まずは部員5名を確保する事がまず1つ」
「はい!」
これは予想できた条件である。部を私物化しない為にも必須な条件である。
「そしてもう1つは、この学院に噂される学院七不思議がある。このうちの1つを解明あるいは解決してみせてくれ」
「は?」
王子殿下の前で、あまりな物言いになってしまったかもしれない。
しかし、それを気にする余裕がないほど2つめの条件に理解が追い付かない。それに学院七不思議とは何なのか?
「学院七不思議、ですか?」
「学院七不思議とは、学院で噂される不可思議な現象をいう」
クローディアが理解できていないとわかったのか、簡潔に説明してくれる。
「そ、そのようなものがあるのですね。しかしながら、なぜそれの解決が部の新設の承認条件に挙げられるのでしょうか? それに単なる噂ですよね? そんなあるかどうかもわからないもの、解決するには無理があるかと」
多少の言葉が崩れてしまったが許して欲しい。だって、そんな曖昧模糊なもの解明しろなんて無理だから!
それに学院七不思議なるもの自体知らない。なにせ入学したばかりなのだから。
そもそも学院七不思議なんて、解決すべきものなのか。単なる噂だろう。ほっといていい筈である。長いこと学院に残っている言い伝えのようなものなら、何らかの根拠があるのかもしれないししないのかもしれない。偶発的で何の謂れもなく起こっているものならば、解決しようがない。そんなもの調べて生徒会に何の得があるのだ。
だいたい部の発足にこんな条件普通はつけないだろう。
「確かに、私もまだ見た事はない」
おちつけおちつくのよ、クローディア。まずは相手の説明を聞かねば。
「だから、私もこの学院七不思議、害はないと思っていた。が、近年そうでもなくなって来た。残念ながら」
「とおっしゃいますと?」
「実害が出て来ている」
「実害、ですか?」
なんか話の流れから嫌な予感がしてきた。
これはまさかクローディアが望まない方向に話が進むのではないか?
「ああ。そうは言っても、微々たるものだ。誰もいない教室から笑い声が聞こえる、夕方階段を下りていたら一瞬足を掴まれて転げ落ちそうになったなどだ。まだ怪我をしたものはいないかが、それがこれからもそうあるとは限らない」
うわ。それはもしかして妖精や亡霊のしわざか。
いやいや。笑い声はきっと違う場所から聞こえて来たのを勘違いしてしまったとか。足を掴まれたと思ったのは、きっと足がもつれただけ、そうに決まっている。
無理やりにでもそう思いたい。
けれど、この学院の邪気まみれの空気がそれがあった事実ではないかとクローディアに語り掛ける。
年々邪気が濃くなるにつれて、亡霊が力をつけたとか。ありうる。
まさにクローディア案件かもしれない。そういう現象が部の発足のきっかけともいえる。
とすると、この条件はまさにどんぴしゃりの条件か。
いや! それを認めたらだめだ! なんとか断らなくては!
クローディアは目まぐるしく考えを巡らすが、回避の名案は浮かばない。
生徒会長は反論を許さぬように無情にも話を進めて行く。
「君が部を発足させてまで、研究したい題材は、この七不思議にも少なからず関連していると思わないかい?」
おっしゃる通り。でも全面同意はしない。
「確かに不思議な現象ということで括れば、そうかもしれません」
「だろう? だから部の発足条件に丁度いい」
「ですが」
「それとも何か? 君の意気込みはその程度のものなのかな? 机上でみんなで話し合うだけのものなのか? ならば、部を発足させなくてもいいのではないか?」
「っ!」
痛いところをついて来る。
「部として活動するならば、実績を示してもらわなければならない。それはわかるだろう。部を新設するなら、なおさら成果を見せてもらわなければ」
そこで一旦言葉を切ると、王子殿下は見下すように付け加えた。
「まあ、無理だと諦めてもらっても、こちらは一向に構わない。手間も無駄も省ける」
「やります!」
くっ! ここで引いてしまえば、部の発足は遠のく。ここまで言われたらやるしかない。
悔しいが、会長は交渉に置いて一歩も二歩も上手である。
巧みな誘導に、わかっていても引っ掛かってしまう。
「話は決まりだ。君が本当に部を発足させたいなら、その気持ちを証明してみせてくれ」
この王子。クローディアがアポを取った時点で、クローディアがどのような部を作りたいと思っているか調べたのだろうか。どこから洩れた。ああ、うん。カフェで大声で話してたな。
それにしてもだ。
カルギニア王国の王城には聖獣がいて、次の国王になるものを選ぶと言われている。そういった不思議現象が身近にあるなら、部の創設を認めてくれるかもしれないと思ったが、甘かった。
1つ部が新しく創設されれば、学院の部に当てられる予算が変動する。
おいそれと認める訳にはいかないだろう。
それでもこの条件はあまりに厳しいような気がする。
視えないものをどうやって証明しろっていうのだろう。
それができれば、クローディアもエルネストも苦労はしていない。
全く持って解決できる気がしない。
あ、まさか。これは発足させないための出した条件か?
いきなりダメ出しできないから、諦めさせる為の条件。
しかしそうとわかっても飲むしかない。
「畏まりました。全力を尽くします」
「うむ。ああ、リミットは1週間だ」
「1週間!? 短すぎます!」
「それ以上は待てない。予算編成に間に合わなくなる。来週の火の日、閉門時刻までだ」
「っ!」
1週間。1週間って、あまりにも短すぎる。しかし、こちらも無理にねじ込んだ部の発足である。これ以上望むのは無理なのだろう。
「‥謹んでお受けいたします」
「うん。朗報を期待している」
クローディアは神妙に頭を下げた。
が、
無理っ!!無理よ!! 無理なのよう!!ぐああああ!!
と、内心では叫びまくっていたクローディアであった。
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