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第5話 お願い事1つ叶えて欲しい byエルネスト

少し修正しました(8/26 20:02)


 次の日の午後、クローディアは部の新設について相談する為に、パースフィールド侯爵家を訪れていた。

 ちなみに本日土の日の授業は午前中のみであった。今日の午後と休日である明日陽の日を使い授業のカリキュラムを組み、休み明けの月の日から授業が本格始動する。

 今クローディアがいるところは、侯爵家の温室で白いおしゃれなテーブルセットにて、エルネストと向かい合って紅茶を飲んでいる。

 この温室はエルネストの祖母が大事にしていた温室で、6歳の時からクローディアがここを世話している。とはいっても、今は王都にいる場合でも半月に一回くらいのペースでしか訪れることがなくなってしまったが。なぜ温室の世話をするようになったか。それは幼少の時、エルネストが抱えた問題を解決する為しばらくこの屋敷に住んだことがきっかけである。

 その際幸か不幸か、前当主、エルネストの祖父に当たるガーブス=パースフィールドに気に入られ、以来この温室のみならず、侯爵家を自由に訪問することを許されている。

 とは言っても、節度は大事なので、訪れる回数は控えめにしているし、先ぶれも忘れない。それでも必要だと思った時には、迷わず訪問している。

 今日はそれだ。

 クローディアは早速、エルネストに昨日サーラとカレンとした話した内容をそのまま伝えた。

「なるほどね」

 エルネストは入学時に行われた学力試験でトップだったらしい。

 その為だろう入学早々生徒会から声掛けがあった。

 生徒会へのお誘いである。誘いとは名ばかりで、実質拒否権はなかったらしい。

 エルネストは生徒会長の指名を受け、生徒会のメンバーになった。

 昨日の部と研究会の発表会の手伝いもしていたらしい。

 入学早々ご苦労なことである。

 クローディアにとっては誠に好都合ではあった。

 部や研究会の運営については生徒会が任されている。

 ならば、部の発足条件も、生徒会役員、つまりはエルネストに頼めば早い。今日の朝、エルネストとちらりと会った時に、午後の訪問をお願いしたのも、それが絡んでいる。

「ふふ」

 エルネストがさもおかしいというように、笑みを零す。

「なんですの?」

 何か笑いをとるところがあっただろうか。

「ああ、ごめん。やっぱりなっと思って」

「やっぱり?」

「うん。クローディアだったら、入りたいと思うような部や研究会がなかったら、作ってしまえと思うだろうなって思ってたから。まさに当たったなと」

 どうやらお見通しだったようである。

 なんかおもしろくない。

「あら、わたくしが思いついたのではないのよ。サーラが言い出したことですの」

「サーラ?」

「ええ。思った部がないとカフェで愚痴を零した時に、提案してくれたのがサーラ、サーラ=マホニー、クラスメイトよ」

「もう友達ができたんだね」

「ふふ。そう! なんと2人もできましたの! もう一人はカレン=キックニーっていうとても凛々しい女の子ですの。お2人、わたくしの部ができましたら、入部してくれると約束してくれましたの。それに部の立ち上げにも協力してくれるっておっしゃってくれました!」

「そう。よかったね」

「ええ! お2人とはぜひ3年間仲良くやっていけたらと思っておりますの!」

 サーラとカレン。2人とは話せば話すほど打ち解けて、楽しさに時間を忘れるほどである。

 エルネストはカップをソーサーに戻すと、クローディアにずいと顔を近づけた。

「僕の事も忘れないでね」

「はい? 何を言ってらっしゃるの? 忘れる訳ございませんわ」

 身分の差があれ、6歳からの付き合いだ。エルネストも大切な友人である。

「なら、いい」

「へんなエルネスト様」

 わからない。忘れるなんてある筈がない。何より、2人には共通の能力がある。

 人ならざるものを視る能力。それがある限り、縁が切れる事はない。

 そうだ。こうして2人であるのも、学院に入って初めてである。聞いておかねばなるまい。

「エルネスト様、学院の雰囲気、大丈夫ですか?」

「‥慣れるまできついね」

 やはりエルネストもそうか。いや、あれだけ邪気がモアっていれば、能力を使わなくても気づくだろう。

 学院にいる生徒が結構平気そうにしていたのが、逆に不思議である。羨ましい。まあ隠れダメージを受けているのかもしれないが。

「視てみました?」

「一瞬ね。すぐに閉じたけど」

 その時の事を思い出したのか、エルネストは顔を顰めている。

 エルネストも目の能力を調整できるのだ。

「まさか。学院があんなになっているとは思いませんでしたわ」

「うん。でも考えてみれば、学院のような公共の施設はそういった場所に建てられることが多いから」

「ああ、やはりそうですのね」

 どうやら、クローディアの推測通りらしい。

「うん。普通の家が建てられないような場所。売れない土地」

「それは物理的にではなく?」

「そう」

 そこで2人は顔を見合わせると、大きなため息をついた。

 いわゆる(いわ)く付きの土地だということである。

「できれば、平和に通いたいです。なるべくトラブルは避けて」

「うん。あれは無理だね。僕たちの手には負えない」

「そうですわよね。なるべく巻き込まれないように過ごしましょう」

 エルネストがこの能力に目覚めてから、トラブルに巻き込まれることが増えた。その為、2人はできるだけ対処できるように自分の手札が増えるようにと頑張ってきた。

 それでも手に入れられたのはほんのわずかであり、力も微々たるものである。

 学園のあの邪気を祓いたい気持ちがあるが、逆に返り討ちにあっては元も子もない。

そこら辺の見極めはつけるようにして来た。

「それならば、今までのスタンスで」

「うん。自分達に降りかかってきたものだけ頑張ろう」

「はい」

 クローディアは力強く頷いた。

「ああ、話が逸れてしまったね。クローディアが部の発足に動くだろうなと予想してたから、前もって調べておいたよ」

 エルネストは紅茶を一口飲むと話を切り替えた。

「まあ! ありがとうございます」

 助かった。これで早く動ける。やはり持つべき者は生徒会役員の友である。

「部の条件としては、2つだね。1つは部員数。最低5名は必要だね」

 これは予想通りである。

「もう1つは生徒会長にその部がいかに有意義なものであるかを認めてもらうことだね」

「えっ生徒会役員の多数決ではなく、会長に認めてもらえば、部として活動できるという事ですか?」

「そうみたいだね」

「じゃあ、人数を集めて、会長にわたくしの気持ちの詰まったプレゼンをぶつければいいって事ですね?」

「気持ちだけ伝えてもだめだよ。ちゃんと順序だてて説明しないとね」

「わかっていますわ!」

 見透かされてる。どうもクローディアは興奮すると気持ちが先行してしまう傾向があるのだ。

「ふふ。では早速部のプレゼン資料をつくろうか」

「手伝ってくれるんですのね?」

「もちろん。僕が手伝わないと思った?」

「思いませんわ! きっと手伝ってくれると思っていましたとも!」

 それを実はあてにしていた。

「その通り。君の願いは僕の願いだからね」

 はい。ここはスルー。スルーである。

 エルネストは知り合ってからここ数年、息をするように甘い言葉を吐くようになった。

 クローディアがエルネストを窮地から救った事が思いのほか、エルネストの心に大きな影響を与えたようである。

 エルネストは恩義と恋愛を勘違いしてしまっているのだ。

 きっと本当に好きな人ができれば、クローディアへの気持ちがただの親愛だと気づくだろう。

 まして二人には大きな壁、身分の差があるのだから。

 友人ならまだ許される。けれどそれ以上はたとえ当人同士が望んでも、結ばれる事はない。

 おとぎ話のようにハッピーエンドにはなりえない。

 だから、本気にしてはいけないのだ。

「それに僕も入る部だしね。必ず作らないと」

 待て待て。今スルーできない事を聞いた。

「どういう事ですか? エルネスト様は生徒会役員だから、部には入れないのでは?」

「いや、会長、副会長、会計以外は大丈夫だよ。部には複数入っても問題ないし、生徒会と部も両方所属しても問題ない」

「でも、だめです!」

「なぜ?」

「エルネスト様が入ったら、部が混乱します」

 そうだ。高位貴族であるエルネストは貴族女子からしたら、超優良物件なのだ。

 侯爵家であり、文武両道。次男だから、侯爵家は継げないものの、文官になっても騎士になっても出世は大いに有望なのである。

「ご令嬢たちのが部に殺到してしまいます!」

「部員が増えていいのではない?」

「わたくしは、真面目に部に取り込んでくれる人が欲しいのですわ!」

 決してパートナー探しが目的で入って欲しくない。

「エルネスト様! どうか考え直してくださいませ!」

「いやだ! ただでさえ、組も違うし、僕は生徒会があるから、部が一緒でないとクローディアと会えないじゃないか」

「それは、そうかもしれませんが!」

「クローディアがまた僕の屋敷に住んでくれるなら、あきらめるよ」

「それはできません!」

 何を言うのだ。この坊ちゃんは。そんな事がどこからもれたら、クローディアの学院生活は嫉妬という針のむしろである。

「そ、そうですわ! 高位貴族は下位貴族が部長の部に入れないとかあるのでは?」

「ないね。そんな規定は。だいたい、学院は学業以外の場で、高位貴族と下位貴族の交流を推進しているんだから。まさに部や研究会がその最もたる場なんだから、そんな規定ある筈ない」

「ですよねー」

 言ってみただけである。

「クローディア、忘れてるようだけど、僕のお願い一つ聞いてくれるって約束してくれたよね? 僕はその約束があったから、泣く泣く学院生活の第一歩となる入学式に、一緒に行くのを諦めたんだよ?」

 クローディアはぎくりと身を強張らせる。

「おほほほほ。もちろん覚えておりますわよ?」

「僕は、今ここでそのお願いを行使する。クローディアの部に入る」

 圧がこもったエルネストの笑顔に、クローディアは逆らうすべはなかった。

 エルネストが部に入る事を極力人に言わない事を条件に、クローディアは渋々了承したのだった。

お読みいただきありがとうございます。

続きが読みたいなと思ってくださると嬉しいです。更にブクマ、評価などしてもらえたら、舞い上がります!よろしくお願い致します!

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