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第4話 激おこクローディア そう、そうくるなら、こうしますわ!

話がやっと動き出します。

「どういうことですの?!」

 クローディアはテーブルに手を叩きつけ、怒りに震えた。

 新しく友となったサーラとカレンとの楽しい昼食が終わり、いよいよ楽しみにしていた生徒会主導の部と研究会の紹介、いわゆる新入生勧誘会が大講堂で始まった。

 ダンス部、テーブルマナー部、合唱部、合奏部、演劇部、などなど様々な部に所属する在校生が新入部員を獲得しようと短い時間内で熱心な演説を繰り広げた。

 なお研究会についてはこういった研究会がありますよという、本当に紹介だけで新入部員の勧誘要素は一切ない。研究会に入れるのは、研究棟に研究室を持っている教師、この教師が顧問を兼ねているがこの顧問が優秀だと認めて勧誘した生徒、あるいはすでに研究会に所属している生徒が推薦し、顧問がそれを認めた場合のみ入れるのである。

 クローディアはワクワクしながら壇上を見上げて楽しんでいたが、時間が経つにつれて焦りが出た。

 まさか、まさか。

 このまま自分が望む部の紹介がないまま終わってしまうのではないか。いや、そんな筈はない。懸命にその悪い予感を振り払いつつ、壇上を見つめていた。

 が、その希望むなしく、予感が的中。

 そのまさかが起こった。クローディアが望んだような部や研究会の紹介がないままに、新入生勧誘会は終了してしまったのである。

 それが冒頭の嘆きである。

 学院内のカフェで3人でお茶をしつつ、ついつい高ぶる感情のままにクローディアは声を荒げる。

「なぜですの?! どうしてですの!? この国は神々や妖精や精霊と共存してきた筈ですわ! たとえ近年信仰心が薄れて来ていたとしても、少しはそれを匂わせる部や研究会があってもいい筈ですわ!」

「いや、あったじゃないか。ほら、史実研究部が」

 クローディアの剣幕におされ、少したじろぎながらも学院のフォローをするカレン。

「ええ! ございましたとも! けれど史実研究部は歴史にあった事実だけを研究する部でございました! 神話や神に助けられたものは研究に値しないとも申しておりました!」

「あ、ああ。そうだったかな」

 試みるもあえなく撃沈したカレン。シュンとしたカレンを見て、クローディアははっと我に返る。今日出会い友となってくれた彼女に八つ当たりをしてしまった。

「申し訳ございません! つい言葉が過ぎてしまいました」

 クローディアは慌てて謝る。

「いや、気にしないでいい。それだけ、期待していたということだろう。むしろ好ましく感じる」

「ありがとうざいます。でもどうして、これほどまでに神々や精霊や妖精への関心がなくなってしまったのでしょう? 皆様、教会に行ったり、何かの行事でお祈りをしたりしますでしょう。神様の祝福を祈願していますのに」

「ある種祈りも形骸化されてしまっているのかもしれない。また神や妖精、精霊からの恩恵が感じられなくなっているんじゃないか?」

「まあ、そんな! それでは益々神様はわたくしたちから遠ざかるばかりですわ」

「そうだな。今は視えない神や妖精に頼らずとも、自分たちの力でできることが多くなってきているから余計かもしれない」

「もちろん、自力で頑張ることも大切ですが、それではどうしようもできない時が必ずあります。その時神のご加護があるかないかで、大きく道が違ってくるかと思いますのに」

「クローディア嬢がここまで、敬虔な信者だとは思わなかった」

 いかん。つい、熱弁を振るってしまった。視えないものを信じるのは難しいという事を忘れてしまった。

「失礼致しました。決して無理に神や精霊を信じて欲しいとは思っておりませんわ。ただ、もう少し皆様に興味を持ってもらえたらとは思っておりますの」

 そう、言葉にするとどこか胡散臭いセリフを連発してしまったが、人より視える目を持ったクローディアは彼らに随分助けられている。

 そして神は自分たちを常に見守り、妖精や精霊は確かに人間と共存している。何より彼らは人より長い長い時を過ごして来ている、知恵者でもあるのだ。神はもちろん、妖精や精霊はその知恵を持って、人間を導いてくれている。

 昔は神も妖精も精霊も、多くの人間に等しく視えていたらしい。

 それが今はこの国では視える人はほんの一握りである。

 どうしてそうなってしまったのか。

「クローディア様、少しは落ち着きまして?」

 それまで二人のやり取りをお菓子を食べつつ黙って聞いていたサーラが、のんびり口を開いた。

「はい。取り乱してしまい、申し訳ございませんでした」

「いいんですのよ。わたくし、クローディアが布教活動に熱心な事は存じておりましたから」

「布教活動なんてしておりませんよ?!」

 ただ、神を敬い、妖精や精霊と仲良くしていこうとしているだけだ。彼らを知って欲しいとは思うが、押し付けようとは思っていない。

「さようでございますか? 教会で販売している匂い袋、クローディア様の発案でございますよね? わたくしたちくらいの女子の多くは教会でその匂い袋、いえ匂い袋についている毛糸の花を集めるのに、王都の教会巡りをしておりますのよ。その花をバッグに着けるのが今流行しておりますから」

「はい。確かにわたくしのアイデアですわ。少しでも王都の皆様が教会へと足を運んでもらえればと、ない知恵を絞った結果ですわ」

 毛糸の花つきの匂い袋。あれは叔父との交渉が大変だった。へたをすれば商会の利益がなくなってしまうからだ。しかしそうか、あれも布教活動になるのか?

「ふふ。素晴らしいですわ。自分の目的の達成に商売も絡めるなんて!」

「匂い袋は、利益は殆どないですわ。大部分が孤児院の収入になっておりますから」

「そしてクローディア様は教会の覚えめでたく、買い求めている女子も、教会への寄付をしていることにもなります。みんながそれぞれ益を得ておりますわ」

「たまたま偶然ですわ」

 そう、匂い袋はその意味もあり、少しお高めである。

「謙虚ですわね。まあ、そういう事にしておきましょうか?」

 そこで、サーラは紅茶を一口飲むと、クローディアに尋ねる。

「それで、クローディア様はどうなさいますの? 望んでいた部がないなら、部には入りませんの?」

「いえ、できれば部に入りたいですわ」

 部に入らないなんて絶対にいやである。学院に通う楽しみが半減してしてしまう。

「少しでも気になる部はあったのか?」

 カレンもスコーンに手を伸ばしつつ、尋ねる。

「それは‥」

 クローディアは俯いた。

 少しの可能性も見逃すまいとすべての部や研究会の紹介を真剣に聞いていた。興味を引く部や研究会はあるにはあったが、残念ながら入りたいと思うほどの部や研究会はなかった。

 クローディアの顔を見て察したのか、カレンが口を開く。

「まあ、部に入らなくても、学院生活は楽しく過ごせるんじゃないか?」

「そうですわね。クローディア様は叔父様の商会の手伝いもあるでしょうから、部や研究会に入ったら、忙しすぎてしまうかもしれませんわ」

「そうかもしれませんわね」

 2人の慰めの言葉に頷きつつも、クローディアは諦め切れない。

 部で自分の好きな事をやろうとずっと楽しみにしていたのだ。

「神や妖精、精霊についての研究も独自でやってもいいと思うぞ」

「そうですわね。多少規模が小さくなってしまうかもしれませんが」

 サーラの言葉を聞いて、クローディアの無念さが再燃した。

「そうなのですわ! 個人での学びでは小さくなってしまうのです! そして何事もなそうとすれば、お金がかかるものなのですわ!」

 そう、今は多少叔父のお陰で自由にできるお小遣いが増えたとはいえ、そこから部でやろうとしていた研究のお金を出すのは限度がある。

「折角学院に通っているのです! 部費で好きな研究をしたいのです!」

 そう、それ重要。自分の懐を痛まず、好きな事をする。大事な事である。

 何より研究の成果を出し、それも成績に加えて欲しいと思っているのだ。

 それにはどうしての部としての活動が必要なのだ。

 カレンの呆れたような視線にも気づくことなく、クローディアはぐぬぬと悔しがる。

 そんなクローディアを見つめていたサーラが、ぽんと手を叩いた。

「それでは、作ってしまえばいいのではなくて?」

「え?」

「なに?」

 クローディアとカレンがサーラに顔を向ける。

「ですから、入りたい部がないなら、作ってしまえばよろしいのよ。クローディア様は我が国の神々や妖精、精霊について研究したい。更にいえば、今は廃れてしまった神事を再現させたいと思っていらっしゃる。立派な研究ですわ。それを学校側、いえ、部tの新設であれば、生徒会ですわね、そう生徒会に売り込むのです」 

 なければ、作ればいい。サーラに言われるまで、全く思いつかなかった。

 そこに行きつくなんてサーラは偉大である。

「サーラ様すごいですわ!! わたくしにはその発想がまったくございませんでしたわ!!」

「ふふ。お褒め頂き、嬉しいですわ。けれど、きっとわたくしが提案しなくても、クローディア様であれば、ご自分で行きついた筈ですわ」

 なんと謙虚な! 可愛い上に、性格も素晴らしいなんて!!

「わたくし、サーラ様と友になれてよかったですわ!」

 胸が熱くなり、気持ちが言葉になる。

「まあ! わたくしもですわ!!」

 クローディアとサーラは両手を握り合う。

 カレンがごほんと一つ咳をして、注意を引く。

「水を差すようで悪いが、部の新設なんて、可能なのか?」

「少なくとも、禁じられてはいない筈ですわ。ですが、部を発足させるにはいくつかの条件があるとは思いますけど」

 それはそうだ。無条件であれば、誰でも彼でもポンポン部を作れてしまう。

 制限がないとおかしい。

「たとえばどんな条件でしょうか?」

「そうですわね。立ち上げたとして、部員がクローディア一人だけだったら、無理でしょうね」

「なるほど、最低限の部員数がいるだろうな」

 カレンが頷く。

「後はいかに新設する部が有意義なものかを示すことは必要かと。最低でもこの二つは必須条件でしょうね。後は詳しく調べてみないとわからないですわ」

「わかりましたわ! まずはどうすれば、部を新設できるか、それを調べてみなくてはなりませんね!」

「クローディア、それじゃあ、本当に部を作るつもりか?」

「はい! このまま何もしなければ、つまらないままで終わってしまいますもの。やってダメでも何も失うものはございません! それならやってみたいと存じます!」

「流石クローディア様ですわ!」

 サーラがぱちんと手を叩く。

「うん、勇ましいな」

 カレンも賛同するように、大きく頷く。

「わたくし、全面的に協力しますわ! まずはその第一歩として、新設する部の部員第一号にわたくし名乗りをあげますわ!」

「では私は第2号だな」

「ええ?! お2人ともよろしいのですか?! ほかに入りたい部はございませんの?」

 2人が入ってくれればとても嬉しいし心強い。けれど、入りたかった部を我慢して付き合ってもらうのは心苦しい。

「かまいませんわ! クローディア様が作った部の方がおもしろそうですもの!」

「ああ、私も同意見だ」

 やはり入ろうと思っていた部があったようである。それでも2人はクローディアの部に入ると行ってくれる。甘えていいのだろうか。

「本当によろしいのですか?」

「「もちろん」」

 2人は躊躇いなく頷いてくれる。

 ならば、それに甘えよう。

「ありがとうございます! これで部員3人確保ですわ!!」

 友達になったばかりなのに、ここまでしてくれるとは、感謝しかない。

 そしてここまで後押ししてくれる二人を裏切る訳にはいかない。

「わたくし、絶対部を立ち上げてみせますわ!!」

 クローディアはお腹のそこから力が湧きだしてくるのを強く感じた。

「見ていてくださいませ!!」

少しでもおもしろいっっと思っていただけたら、☆をぽちりとしてもらえたら、嬉しいです(*^^*)

評価やブクマをしてもらえたら、励みになります!! よろしくお願い致します!

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