第3話 クラスメイトと初対面! 絶対友達を作りますわ!
長めです。
入学式が終わり、新入生は各教室へと移動する。
そこで、1年お世話になる担任と、クラスメイトとの対面が行われるのだ。
入学式よりも大変重要なセレモニーである。
担任はともかくクラスメイトとの初顔合わせである。
第一印象は非常に重要である。もう一度言おう。初対面での第一印象は非常に重要である。ここでこけると悲惨な一年を過ごさなくてはならないと言っても過言ではない。失敗は許されないのである。気合を入れて望む必要がある。
クローディアは自分の教室に向かいながら、むんと気合を入れた。それにしても今日は気合を入れてばかりのような気がする。それだけ入学初日は重要だということだろう。
叔父の商会を手伝ったり、畑仕事、教会巡りなどしていて、大人との接触が多かったが、なぜか同年代の友人を持つ機会があまりなかったクローディアである。社会に出る前に、この学院でできるだけ友人を作りたい。できれば、同性の親友が欲しいと意気込んでいる。人脈は財産である。まして学院での友達は成人してからのそれよりも損得関係なく付き合える。王都のカフェや雑貨店などを周り、きゃっきゃ、うふふと楽しみたい。
「ふふふ。絶対作ってやるんだから」
クローディアのつぶやきが怖かったのか、はたまたオーラが怖かったのか、隣をあるいていた男子がびくりと身をすくませた。
「あら、ごめんあそばせ」
ほほほと、黒い顔を引っ込めて話を続けようとしたが、そばかす顔の男子はそそくさと先に行ってしまった。
怖がらせてすまない。決して君を怖がらせようと思っての事ではない。これに懲りず仲良くして欲しい。そう願うクローディアだったが、あの逃げっぷりだと叶うのは難しいかもしれない。
「また友達候補一人逃してしまったかしら?」
まあ、いい。これからである。
彼の背中を見送ったクローディアは彼が同じクラスでないとよいなあと思った。
無事何事もなく?3組の教室にクローディアは辿り着いた。
席は特に決まっているわけではないようで、皆各々空いている席に着いているようだ。
「ふむ」
この席のセレクトも大変重要である。よき隣人に巡り合うか否か、このセレクトにかかっているだから。
教室の大きさは生徒が40人弱が机を並べられるくらいである。
窓際は人気があるらしく、主に男子が占めている。
男子の方が女子より多少人数が多そうである。教室の後ろから全体を眺めていたクローディアだったが、あまりぐずぐずしているとどんどん席が埋まってしまう。
「よし」
クローディアは廊下側から2列目の後ろから3番目の席に狙いをつけ、そこに座った。
ここからだと教室全体が見渡せる。前過ぎず、後ろ過ぎず。
なかなかいい席をゲットできたとクローディアは思った。
そして一番の決め手になったのはクローディアの左隣に座っている女子だ。
アイボリー色の少しヴェーブがかかった髪を持つ可愛らしい女の子。親しみやすそうに見える。早速話しかけてみようかと思ったところで、教室の前の扉から背の高い男が入って来て、教壇に立った。
クローディアは残念に思いながらも、前を向く。
「今日から1年間、君たちの担任になるシルクキングリーだ。君たちがこの1年で何を求め、何を学ぶか。それぞれ違うことと思う。私は一人一人学びの手助けをできたらと考える。何かあれば、いつでも相談をして欲しい。」
少しくせ毛のある長いチョコレート色の髪を後ろで括ったまだ20代と思しき男は、エキゾチックな浅黒い肌色である。異国の血が流れているのかもしれない。
ともあれ、なかなかよさそうな先生である。
これは期待できそうだ。
「まずは授業に関する資料を配る。授業は必須科目と選択科目に分かれている。選択科目の中で何をとるか3日間考える時間がある。じっくり考えて決めて欲しい」
そう言いつつ、シルクキングリーは次々と資料を配っていく。
「さて次に、私にしても、君たち皆も、初対面の者が多いだろう。まずは自己紹介をしてもらおうか」
それは妥当でありがたい提案であった。
全く手がかりがなければ、誰と友達になりたいか、指針がないからだ。
「よーし」
クローディアは廊下側の一番前の席からから始まった一人一人の自己紹介を、全身耳にして一言一句逃すことなく集中する。
情報は大事。何事も判断するには情報がなければ、できない。
ほどなくクローディアの番が来た。立ち上がると心持ち身体を中央に向けて話す。
「初めまして。クローディア=グレームズと申します。色々なものに関心を持ち、研究し自分を高めていけたらと考えております。それとともに沢山の方々とお知り合いになれたらとも思っております。どうぞよろしくお願い致します」
そこで一礼すると、席に座った。
ふう。なんとか短くまとめた。クローディアより前の自己紹介が皆短めなので、自分だけ長いと目立ってしまう。クラスに馴染むにはほどほどが肝心である。
そう思っているうちに、左隣の女子の番になった。
「サーラ=マホニーと申します」
とろりと笑った顔が超可愛い。
ん? マホニーどこかで聞いたような。クローディアは心の中で首を捻る。
マホニー、マホニー。あ、思い出した。マホニー商会。王都一の商会である。
まさか。そこのお嬢様か?確かマホニー男爵家が商会を経営していたような。
王都にいる間、叔父の二コラの商会を手伝っている関係で、他の子供よりは知識がある。
マホニー商会は叔父の商会よりも遥かに手広く商売をしており、外国にも支店があると聞く。
もしそこのご令嬢なら、もしかして外国へも行った事があるかもしれない。
聞きたい。外国のお話聞きたい。これはぜひ友達にならなくては。
密かに鼻息を荒くしていたクローディアの耳に、担任の声が響く
「よし。これで全員終わったな」
「っ!」
危うく悲鳴をあげるところ、何とか堪えた。
なんと。クローディアが少し考えに没頭している間に、残りの自己紹介が終わってしまったようである。
無念。
無情にも担任の話が続く。
「今日授業はない。このまま帰宅してもよし、学院を見て回るもよし、授業のカリキュラムを組む為の時間にあててもいい。午後は部や研究室といった授業外の活動の紹介が大講堂で行われる予定だ。こちらに参加するのも自由だ。部や研究室に入るか否か検討しているものは参考にしてして欲しい。3年後の自分がどうあるかを考えて、決めてくれ。では、私は職員室にいるから何か聞きたいことがあれば来てくれ」
それだけ告げると、担任のシルクキンバリーは教室を出ていった。
担任がいなくなると、ざわりと教室の雰囲気が変わった。
積極的に自分の隣の席に座っている子に話しかけたり、あるいはもらった資料をパラパラと開き目を通し始めたりと、様々である。
先の担任からの話からもわかる通り、ハースライト学院では生徒の自主性に重きを置いている。その為、必須科目以外の科目は生徒に選択させてカリキュラムを生徒に組ませる。
そうは言ってもまだ13歳。通常は教師や親と相談をしつつ、どれを取るかを決めていく。
ゆったりと3年間学ぶ者、できるだけ沢山の科目を選択する者、それぞれの生徒にまかされている。女子については圧倒的前者が多い。ここでは良き結婚相手を探しに重点を置く令嬢が多いからだ。淑女として最低限のマナー教養を身に着ければよしとし、後は将来の伴侶をゲットだぜと張り切る女子である。クローディアは少数派の後者だ。
いずれは結婚をとも思うが、今は色々事を学ぶ方が圧倒的に楽しい。
将来は叔父二コルについて大陸中を回るのが、クローディアの夢である。
それに、この持って生まれた目。この目を持ったおかげで色々な事件に巻き込まれる事が多い。それに対処できるよう、色々な知識を学院で身に着けたい。またせっかく人とは違う景色が視えるのだ。それを生かしたい。その為にはゆっくりしている暇はないのである。
できる限り、知識を。その為、クローディアは特に部活動に力を入れようと思っている。
部活。大きな部であれば、予算も豊富で色々な活動ができる。
部活も必須ではない。入りたいものだけが入る。
いったいどんな部があるのか? 午後の部の紹介、ぜひ見に行かなければ。
授業で学ぶほかに、クローディアには目的があった。学院には王城に次ぐと言われるほどに圧倒的な蔵書量を誇る図書棟がある。
学院のほぼ中央にあるその大きな図書棟は、3年間では読み切れないほどの本が詰まっているだろう。クローディアは部の活動として神々や妖精たちを研究し、今は忘れられた神事や儀式、祈りについて詳しく調べ、それらを復活させたいと思っていた。そしてその実績を学院の成績の一部にしたいとも考えていた。
それができれば、自分の楽しみと学業の成果と両方得られる。まさに一石二鳥になるからである。午後の部や研究会紹介が大変楽しみである。
いけない。つい気持ちが午後に飛んでしまったが、今はもう一つの目的に集中しなくては。
それはもちろん、友人作りである。最低でも今日一人はゲットしたい。
その為にはまず行動だ。力みすぎてはいけない。今日はすでに友人候補を二人も逃している。慎重にでも大胆にいかなくては。
そう思った矢先、
「あの、少しよろしいでしょうか?」
と左隣から声がかかった。
はっと視線を隣に向けると、そこにはクローディアが目をつけていたアイボリー色の少しヴェーブがかかった可愛らしい女の子が立っていた。
ふ。名前は要チェック済みである。
「もちろんでございます。マホニー様ですわね。初めまして、クローディア=グレームズです」
「まあ、覚えてくださっていたのですね。嬉しいです。改めまして、サーラ=マホニーと申します。サーラと呼んでいただけると嬉しいですわ」
「ありがとうございます。ではわたくしのこともクローディアと」
「うふふ。嬉しいです。これから1年間どうぞよろしくお願い致します」
「こちらこそよろしくお願い致します」
サーラ=マホニー。ふわりと笑う彼女はまるで妖精のように可愛らしい。さっき思い出した通りマホニー家は貿易中心に商売をしている。いわば、叔父の商会とはライバル同士。自分に話しかけて来たのは友達になる為だけなのか? そこが少しひっかかる。
「ああ、そんな目で見ないくださいませ。他意はないんですのよ。いえ、ありますわね」
そこでずいっとクローディアに顔を近づけてくる。
「珍しいもの、新しいもの、いえものではなくてもよいのです! 素敵な人にも、わたくしわくわくしてしまいますの! だから、クローディア様とはずっとお近づきになりたかったのですわ!」
そこでサーラは両手を祈るように合わせる。
「毛糸で作るお花や新しい繊維を作り出す発想! 素晴らしいですわ!」
確かに毛糸でお花を作ろうと思ったり、新しい糸を作ろうとしたのはクローディアである。親から聞いたのだろうか。
「クローディア様の鞄につけているその赤いお花! 花が幾重にも重なり合ってとても細かくてそれでいて可憐です! こちらは商会で販売しておりますか?!」
「いえ。これ一つです」
そう、これはどこまで細かく花びらを作れるかと挑戦した一品なのである。深い赤の毛糸、それも太さの異なる毛糸を何種類も使い、へたらないように花びらが豪華にそれでいて気品のあるように苦心した一点ものである。
「まあ!! 残念! わたくしもぜひ欲しいと思いましたのに!」
後に、よよよと泣き崩れそうなほどに、顔を歪めている。
うむ。最初の印象とまるで違う。
少し儚げな印象があったのに。口を開いたらまるで違う。
「もしやこれはクローディア様がお作りになったものですか?」
「え、ええ」
「まああああ!! やはり! とても素敵ですわ!! 流石クローディア様ですね。もしやこの他にもクローディア様がお作りになったものが他にもあるのでは? もしあるなら、ぜひとも見せていただければ! ああ、だめですわ! 興奮しすぎて頭が回りません!」
どうやら、好奇心旺盛のお嬢様らしい。頬を上気させ、はあはあと息を荒くするサーラにクローディアは内心ドン引きである。これは友達セレクトを間違えたかと不安になる。
「こら、少し押さえろ。グレームズ嬢が困っているぞ」
その言葉とともに歩み寄って来たのは、すらりとした、長い亜麻色の髪を高く一つに結わえた女子。入学式でクローディアの隣に座った女子である。
「ああ、ごめんなさい。少し興奮しすぎました」
サーラが胸を押さえ、大きく息をついた。
サーラが息を整えている間に、クローディアの前に立った少女が挨拶をしてきた。
「お初にお目にかかる。カレン=キックニーだ。サーラが迷惑をかけている」
カレン=キックニー。爵位は子爵、武で有名な家だ。なるほど、女子でもしかりである。
「いいえ。キックニー様。迷惑なんてそんな。わたくしもサーラ様とはお話したいと思っておりましたから」
それは本当である。サーラは自己紹介の時に歌が得意だと言っていた。それも歌の歴史にも興味があると。それで更にお近づきになりたいと思ったのだ。今は少しすこーし不安であるが。
「お2人はお知り合いですか?」
クローディアがサーラとカレンと二人を交互にみやると、カレンが説明してくれた。
「ああ、私たちは幼馴染だ。両親が仕事の関係で懇意にしてるのでな」
「そうなのですね」
キックニーは武門の流れをくむものだ。もしかしたら商会の警備関係で繋がりがあるのかもしれない。
「サーラ様からお声かけいただいて、本当に嬉しゅうございます。わたくし、学院でお友達ができるか心配でしたの。よろしければ、お2人ともお友達になってもらえますか?」
サーラの言動には驚いたが、やはり可愛いは正義である。カレンのかっこいいも正義である。ぜひにお近づきになりたい。
「まあ! 嬉しい! もちろんです!」
「こちらこそお願いする」
「よろしゅうございました。そうですわ。お近づきのしるしに、よろしければ、昼食を一緒にどうでしょうか?」
「それは名案ですわ! 色々お話をしたいですし」
「うん。いいね。ああ、わたしのことはカレンと呼んで欲しい」
「ではわたくしのこともクローディアとお呼びください。それでは、少し早いですが、食堂に移動しませんか。食べながら、色々お話をしましょう。そう例えば、選択科目や部活動はどうするか、お二人の考えをお聞きしたいですわ」
クローディアはそう提案しながら、席を立った。
そしてサーラとカレンと連れ立って教室を後にする。
ふふふ。2人友達ゲットできました! ボッチにはならずに済みましたわ!
2人の隣をすまして歩きながら、内心では小躍りしていた。
これで午後の大講堂で行われる部や研究会の紹介イベントも俄然楽しみになったクローディアだった。
クローディアは意気揚々と二人と食堂へ向かう。
幸先がよいですわ!!
まだ序盤なので、説明的なところが多いかもしれません。次話から徐々に、クローディアがはじけてくるかもです(笑)