第2話 王家、高位貴族は美形揃い。悔しくなんかない!
説明が多いかもしれません。さらっとお読みいただければと思います。
「入学式は大講堂で行われます。矢印に従って進んでください。」
門を通り抜けると、在校生が新入生を誘導している。
新入生が迷わないように、矢印板が要所要所に配置されている。
クローディアも他の新入生とともに、それに沿って進む。
ここ、ハースライト学院には校舎の他に、大講堂、図書棟、美術棟、音楽棟、鍛錬場、研究棟、などなど様々施設がある。
この3年間の学校生活で、学生が最大限能力を引き出せるような施設を揃っている。
ぜひとも、ひとつひとつじっくりと見て回りたいものである。
興味は尽きないが、今は大講堂に向かわねばならない。
クローディアは少し意識してゆっくり歩く。
思ったよりも息苦しさは感じない。
学院に入る前、むせるほどの空気の悪さは感じない。
これなら、学院生活を送るうえで、支障はそれほどなさそうである。
しかし、なぜこんな淀んだ空気の場所へ学院を立てたのだろう?
「あーそうですわね、きっと」
クローディアはしばし考え、行きついた答えに頷いた。
学校を建てるには大きな敷地が必要である。
けれど、学校という公共の施設は、すぐに利益を生む事はない。
学生から支払われる授業料や入学金などは、学校の維持費にあてられると考えれば、施設にかかる費用はできるだけ抑えたいと思うだろう。
となると、できるだけコストを抑えられかつ広い敷地をとなると、屋敷を立てられないいわくつきの土地を使用したのではないだろうか。なぜかその土地に住むと病気になったり、事故が起きたりする土地である。
「なるほどですわ」
ならば、仕方がない。これは自分に災いが降りかからなければ、多少の空気の悪さは我慢しなければ。
学生であれば、貴重な本も無料で借りられるのだ。全くありがたいことである。
学院万歳!である。
そんなことをつらつら考え歩いていたら、目的の大講堂の前に到着した。
大講堂の入り口のすぐ横には掲示板があり、そこに人だかりができている。
近づいてみると、どうやらそこで、クラス分けが発表されているようである。
「さて、わたくしは何組でしょう?」
クローディアは少しつま先立ちで、掲示板を見上げた。
決してクローディアの背が低いからではない。人が沢山いて見にくかったから、背伸びしただけである。
このハースライト学院は身分関係なく平等という謳い文句はない。
きっちり高位貴族下位貴族に分けた組分けがなされている。
高位貴族は貴族としての範たるようこの3年間で学ぶ。下位貴族は自分たちが従うべき主に使える心構え、および知識技術を学ぶ。要は効率よく、それぞれの領域で最大限力を発揮できるように学ぶ為、高位貴族下位貴族を組み分けているのである。
ただし下位貴族の中でも優秀なものは高位貴族の授業の一部を受けられることもできる。また交流の場として高位下位貴族共通の授業も組み込まれている。
カルギニア王国では下位から高位貴族への陞爵は滅多に行われない。
余程の功績をあげないとまずない。
結構きっちりかっちりな貴族社会なのである。
ちなみに下位貴族は浮き沈みが割とある。なので、油断はできない。
話が少しずれたが、このように組み分けがされているのは、差別ではない。あくまで3年間という長いようで短い学院生活で効率よく知識を深めるためと学院の校則で謳っている。そう謳いながらも、高位か下位貴族であるか、また学年は何年か、すぐに見分けがつくよう制服にエンブレムを付ける。
高位か下位の見分けは、制服のエンブレムでわかる。男子は水色のジェストコートの右上腕部にあるエンブレムで、女子は胸に飾るスカーフ留めに刺繍されるエンブレムで一目で爵位がわかるようになっている。 また学年の見分けは男子はクラバット、女子はスカーフの色で見分けられるようになっている。
ここまできっちりしていると、学院がいかに差別ではないとは言っても、まだ精神が未成熟な学生も多々おり、実際には下位貴族にたいして高位貴族が不遜な態度をとる事があるのではないだろうか。気を付けるに越した事はないだろう。
また話がすれたが、その為、高位貴族のエルネストとはもちろん組が違ってくる。
エルネストは大いに不満そうであったが、学校の制度に異議を唱える事はできない。
クローディアとしても少し残念ではあるが、それ以上にエルネストと少しでもお近づきになりたと考えているご令嬢たちから睨まれるのは勘弁願いたいので、組が分かれるのはやぶさかではない。
こうして少しづつエルネストとは道が分かれて行くのだろう。
エルネスト様! 離れてもお互いに学生生活を大いに楽しもう!
うむうむと腕を組み一人頷いていたら、隣にいた新入生に引かれた。
話しかける前に、足早に大講堂に入って行ってしまった。
友達候補一人失った。
いかん。思考が流れる。入学式で浮かれているのかもしれない。
気を引き締めなければ。
改めて掲示板を見ると、クローディアは3組のようである。
大講堂の席も組ごとに座るようになっているようだ。
友達候補に逃げられた事は忘れる。
仕切り直しである。
「よい友達ができますように! そしてどうかどうか平穏無事に過ごせますように!」
クローディアはそう呟くと、大講堂の中へと入った。
大講堂はその名の通り2階席まである大きなホールだった。
入学式は新入生とその保護者だけという事もあり、一階席だけが使用して行われるようだ。
1組から5組まで席次がプラカードで示されており、在校生による誘導が行われ、新入生が戸惑うことなくスムーズに席についている。
教員がしっかり管理しているのか、あるいは生徒会が優秀なのか。
そういえば、一学年上に、第2王子が在籍しているのを思い出した。
王家が学院に在籍している場合、自動的に3年間生徒会会長になる。
入学して早々生徒会長をしなくてはならないとはご苦労なことである。
在校生に誘導され、示された席に着く。席はどうやら来たもの順らしい。
それはそうだ。ここで男女別に分けたところで意味はない。
ちらりと横の席を見ると、長い亜麻色の髪を高く一つに結わえた女子で、ピンと背筋を伸ばし前を真っすぐに向いている。こういった場所での無駄話は嫌いそうな感じがする。
話しかける雰囲気はない。誠に残念である。学院内友人第1号になるかと思ったのに。
クローディアは諦めて前を向いた。
まもなくして、式の開始が告げられた。
入学式は、司会の会式の宣言から学院長の式辞、来賓などの祝辞と、滞りなく進んでいく。
「次に在学生より歓迎の言葉、ユーリ・シルフィン・カルギニア」
司会者の進行の声に合わせ、金髪碧眼のまるで絵に描いたような美少年が壇上に上がっていく。
ユーリ・シルフィン・カルギニア。この国の第2王子である。
大講堂にいるご令嬢たちからほうっとため息が漏れる。
うむ。わかる、わかるよ。その気持ち。
あまり高位貴族との接触のないクローディアであったが、それでも会う方々すべてが整った顔立ちをしている。
しかし、王家ともなると、段ちである。まるで教会に飾られている神々が描かれた絵画と引けをとらないくらいに美形である。
ユーリ第2王子は学年1つ上の14歳でまだ幼さが残るものの、間違いなく10人の令嬢が全員見惚れるほどの青年になるだろうことが今の段階から約束されている。
「新入生諸君、入学おめでとう」
ユーリ第2王子は物怖せず、挨拶を始めた。
なんと。声までいい。
全く天は一人に大盤振る舞いし過ぎである。
この世の中の理不尽さを感じるクローディアである。
いかん。ネガティブな考えにとらわれてはいけない。
相手は王子だ。雲の上の人である。同じ人間だと考えてはいけない。
どうせ接触する機会などないだろう。ならば、目の保養と割り切って眺めている方がよい。
そう思うとすっと溜飲が下がる。
ふう。やれやれである。
うむ。人間身の程を弁えれば、困難なしである。
「次に新入生代表挨拶、エルネスト=パースフィールド」
その声とともに、壇上に上がったのは、エルネスト=パースフィールド。我が幼馴染である。
少し紫がかった銀髪に、濃い藍色の瞳。幼少時の甘さが抜けて来たその端正な横顔は第2王子にも引けを取らない。周りからはため息の第2弾である。
わかる、わかるとも、淑女諸君。ぽうっとなってしまうのは仕方がない。
エルネスト様、かっこいいもんね。
「本日は、私たち新入生の為に、盛大な式を開催していだだき、ありがとうございます」
壇上でどうどうと言葉を述べるエルネストの姿を見て、うんうんと頷く。
初めて会った時には、今にも気絶しそうでふらふらしていたのに。すっかり立派になった。
エルネスト様! どうか幸せになってください!
遠くから見守っていますから!
なるたけ学院では話しかけないでね。私の平和の為に。
保身第一のクローディアであった。




