第16話 黒妖精と対決?! ゾルジ大活躍! 悔しくなんかないっ!
ゾルジが好きです。
第3音楽室に辿り着くと、クローディアは目を開放する。
「ゾルジ用意はできて?」
<うむ>
声をかけると、ゾルジはサブバックからクローディアの肩へと移動した。
「では、行きますわよ」
この前と同様に鍵を開けて、第3音楽室へと足を踏み入れる。
<まあ! また間抜けな人間が入って来たわ!>
浅黒い肌に緋色の瞳。薄い灰色の髪。昨日視た黒妖精である。
やはりいた。きっとずっとここにいるのだろう。
<栗色の髪に緑の目。平凡すぎる顔ね! どうせならもっと整った顔が視たいわ! 美しい方がまだましよ!>
聞こえないと思って言いたい放題である。それも本人が自覚している事をずばずばと。思わずキッと睨んでしまう。
<な、なによ。私が視えるの? そんな事ないわよね! まったく紛らわしい目をしないで欲しいわ!>
クローディアの頭の上を飛び回りつつ、文句を言いまくっている。
そんな妖精にぐっと我慢しつつ、足を進めて、問題の肖像画の前に立つ。入口の横。大きな黒板の上に並んだ、5つの絵画の真ん中だ。
昨日と同じように黒板の真正面少し離れた位置に立つ。
<ほお。なるほど>
「え、何? もう何かわかったの?」
<うむ。あの絵には封じの妖精がついている」
「封じの妖精?」
<ああ。その名のごとく、人をあるいはモノを封じる妖精だ。クローディアにも視える筈だ。目を凝らし集中してみろ>
「わかった」
目を凝らして、肖像画をじっと視つめる。
そうして視ても、昨日と同じだ。目が動いているのしか確認できない。
<封じの妖精が隠匿の術で隠しているからな。よく視ないと視えないだろう。腹の中央にある力の源から目に力をおくれ。目に力をこめろ>
その声に従い、クローディアは再度試みる。
お腹の中央。力の源。
お腹が温い。それを上へと持ち上げる。
目に力を集中、集中。
視える視える視える視える。視えろ!
「視えましたわ!!」
それは昨日は視えなかった肖像画の周りに絡まる蔓草。
まるで檻のように絵に絡みついている。
<視えたか>
「はい!」
<そこまで視えれば、その先も視える筈じゃ>
「その先?」
<先にも言ったろう。封じの妖精は、人をモノを封じる妖精。蔓で何を封じておるか>
促されて視てみるも、それ以上クローディアには視えなかった。
<うむ。まだ力が足りぬか。仕方ない、援助しよう>
ゾルジはクローディアの肩から頭の上に移動すると、長い前足をクローディアのこめかみにあてる。
<よし。クローディアよ。もう一度視てみろ>
その言葉に従い、肖像画をじっと凝視する。
「あ!」
すると先程まで視えなかったものが視えた。
<視えたか>
「はい! 絵の中に、小さな羽の生えたおそらく妖精が蹲っているわ。寝ているのかしら? 影のように黒くて輪郭しかわからないけど。ああ、なるほど」
<なんだ?>
「うん。肖像画の目がゆっくりと規則正しく動いていたのは、あの閉じ込められた妖精の呼吸に合わせて動いていたのね」
<そのようだな。しかし封じの妖精が封じきれなかったから、力が漏れたか? それほど力がある妖精には視えないがな>
ゾルジは新たな疑問に首を傾げる。
「ゾルジ! その疑問は置いておいて、あの封印を解くにはどうしたらいいの?」
<それはだな‥>
<待って! ちょっと待ちなさいよ!!>
そこでいきなり黒妖精がクローディアの目の前に飛んできた。
<ちょっと! まさか視えてるの?! そしてその紫の蜘蛛は何よ!!」
びっくりした。ゾルジとのやり取りに夢中で、すっかり存在を忘れていた。
あんなに騒いでいたのに、ずっと大人しかったから余計である。
「視えてるわよ。昨日からずっとね」
クローディアは妖精ときっちり目を合わせる。
<じゃあ、わかってて、ずっと視えないふりしてたの?>
「視えないふりしてたんじゃないわ。ただ黙っていただけよ」
<同じ事じゃない! ひどい! ひどい!>
「何がひどいのかしら? ひどいというのは昨日あなたが私たちに向けていた言葉の方がよっぽどひどかったのではないかしら?」
<うるさい! うるさい!! 私がどんな思いで、ずっとここにいたと思ってるのよぅ! ひどいぃぃ! どうして早く私が視えるって言ってくれなかったのよう! わあああああああん!!>
そこで妖精はくしゃりと顔を歪ませるとギャン泣きした。
<やっとやっと! 私が視える人間が出たあああああ!!>
まるで幽霊が出たような言い回しはやめて欲しい。
「ちょっと! まるで私が泣かしたみたいじゃない! 泣き止んでちょうだい!!」
<無理ぃぃぃ!!>
<クローディア、おぬしも罪なおなごだな>
「ちょっとゾルジ、人聞き悪い事言わないでよ」
<はは。悪かった。ついな。しかし、我の睨んだ通りだったな>
「そうね。この妖精は、人間に気づいて欲しかったのね。それはなぜ?」
<それはこやつに聞いてみないとわからんだろう>
「そうね。ほら、そんなに泣かないで。目が溶けてしまうわよ」
そう言いつつ、クローディアはハンカチを取り出し、妖精の目元を優しくぬぐってやる。
黒妖精はビッーと遠慮なくそのハンカチの端で鼻をかむと、少し落ち着いたようだった。
お気に入りのハンカチだが、まあいい。洗えば鼻水は落ちる。
クローディアはスカートのポケットにハンカチをしまうと、黒妖精に話しかけた。
「さてと、貴女は人間に気づいて欲しくて悪口を言っていた。そしてあの肖像画の動きもそうなのかしら?」
<そうよ。まあ、騒いで気づいて欲しかっただけだから、悪口である必要はないけどね! それは私の習性だから。絵の動きも封じの妖精が工夫してくれたのよ! すごいでしょ?>
なぜか自分の手柄のように胸をはる黒妖精。
つっこみどころがいっぱいだが、話を進める。
「なぜ人間に気づいて欲しかったのかしら?」
<決まってるじゃない! 妖精がいるって事を忘れて欲しくなかったからよ! 私たちは共存してるって事を思い出してほしかったの!!>
「それはなぜかしら? 貴女は人間が大嫌いなようだし、逆に人間に忘れてもらった方がいいのではないの?」
<そんなの言えないわ!!>
「どうして?」
<言えないったら言えないの! 知りたければ、自分で突き止めてよ!>
黒妖精はぷいっと横を向いてしまった。
今まさに突き止めようとしているではないか。
でもこの調子だと教えてくれそうにない。
どうするか?
<クローディア、妖精には人間に言ってはならない事がある。こやつが言えないのはそれにあたるのかもしれぬ。あまり突いてやるな>
ゾルジが黒妖精に助け舟を出す。
<その紫の蜘蛛はなに?>
黒妖精がゾルジに視線をやる。
<我はただの蜘蛛じゃ。名はゾルジと言う>
<ただの蜘蛛はしゃべらないし、そんなに大きくもないわ>
「ゾルジは元神様よ」
今度はクローディアがふんと胸を張る。
<まさか>
黒妖精はゾルジをじっと見つめた後、目を見開いた。
何か感じるものがあったのか、黒妖精は慌てて姿勢を正し、両手を交差して肩に手を当て、礼を取る。
<失礼致しました。私はマールズオースという妖精でございます。この王都で生じた妖精でございます。ゾルジ様に御目文字できた事、大変光栄に存じます>
ちょっと。クローディアに対する態度と随分違う。ぶうぶうと文句を言いたいが、時間がないので我慢をする。じっと成り行きを見守る。うむ。私、大人である。
<先も尋ねたが、おぬしがした行いの理由は我にも話せぬか>
<はい。申し訳ございませぬ>
<よい。それも人間に課すものなのだろうて>
それに付いては無言である。それが答えなのかもしれない。
<では質問を変える。人間におぬしの妖精の存在を気づかせた後、おぬしはなんとする?」
<はい。できるだけ、この人間に我々の存在を広めて欲しいと存じます>
<うむ。クローディアそれは約束できるな?>
「もちろんですわ! わたくしが、ここにいる理由もまさにそれが理由と言っても過言ではございませんもの」
<どういうこと?>
「わたくしがこの音楽室に来て、肖像画の目が動く怪異を解明しようとしたのは、部の発足の為なの。その部というのがまさに、貴女が望む神や妖精、精霊を研究する為の部なのよ。部というのは人間の、そうね、集会みたいなもので、つまりは多くの人を集めて研究するという事なの」
<ふーん。あんた、人間にしてはましな部類ね。>
この黒妖精、一度きゅっとしていいですか。
ゾルジとクローディアへの対応があまりに違いすぎる。
クローディアの頭から湯気が出ているのが視えたのか、ゾルジが取り持つように話を進める。
<では、おぬしの目標は達成できた訳だな。ならば、あの肖像画の妖精も解放してもらえるか?>
<はい! もちろんです! 私はずっとそれを望んでいたのです! あそこに閉じ込められているのは私の片割れの妖精なのです>
<おぬしたちはツインワンフェアリーだったか>
「ゾルジ、ツインワンフェアリーって何?」
初耳である。
<いつも行動を共にする妖精の事だ。同じ魂が二つに分かれたものでもある>
<ふん。もの知らず>
マールズオースが見下したように言い放つ。
「そうですわね。自分が視られている事にも気づかぬ間抜けと同じくらい、モノを知らないかもしれないわね>
<なんですって!>
「何かしら?」
クローディアも負けてない。売られた喧嘩は買う主義である。
<まったくお前たちは。喧嘩はやめろ。話が進まぬだろう>
<「申し訳ございません」>
そうだ。昼休みの時間が終わってしまう。
けれど、いつか、いつかこの妖精をぎゃふんと言わせてやる。
クローディアは固く誓った。
<さてマールズオースの妖精よ。封じを解く条件は、人間があの絵のからくりを見抜く事だったのか?>
<さようでございます。我々の存在を忘れ、自分達だけでこの世界を回していると思う人間が増えて、我々に気づく人間がおらず、随分と私の片割れは閉じ込めれたままになっておりました>
<では、すぐにでも封印を開封する事はできるか?>
<できますが、この空気の悪い中では彼女はすぐ弱ってしまわないか、心配です>
「でも、貴女は大丈夫じゃないの」
<ばかね。本当ばか。私は黒妖精だし耐性があるの。それにここの空気も急に悪くなった訳ではないわ。だから徐々に慣れていけたの。私の片割れは白妖精だし、いきなりこの中に解き放たれら、消滅まではいかないけど、弱ってしまうわ>
くっ! 勉強する! この課題がクリアできたら、更に妖精について猛勉強するぞ!
別に負けず嫌いではない。馬鹿にされるとカチンとくるだけだ。
<うむ。あいわかった。少しでもおぬしの相方がここに慣れるよう、この場の空気だけでも、清浄化する。それができたら、封印を解いてくれるか?>
<もちろんでございます!>
<わかった。よし、クローディア、今日帰ったら、特訓だぞ>
「え? ええ?! ゾルジ説明して? どうしてそうなるの? そして何を特訓するの?」
いやな予感がする。ものすごーくいやな予感が。
その時、丁度お昼休みを終了を告げる予鈴がなった。
「あ、時間切れだわ」
<うむ。なんとか、話はついたな。マールズオースの妖精よ。神々や妖精、精霊の認知度を高める為の部をこのクローディアが立ち上げようとしている。立ち上げる為には、クローディアの上にいる者にその部が有意義であると認めさせねばならぬのだ。おぬしの目的とも重なるであろう。ぜひ、協力をしてくれ>
<かしこまりましてございます>
ゾルジに対しては二つ返事か。助かるが納得できない。
<おぬしも片割れが囚われの身で辛かろうが、もう少し待て>
<はい>
<では、追って詳細を知らせる>
ゾルジはするするとサブバックの中に戻る。
<さ、話はついた。クローディア戻るぞ>
「うん。ありがとう、ゾルジ」
今日は殆どゾルジの独壇場だった。
結果、上手くまとまったので、文句はないが、もやもやする。
黒妖精に対しては文句が山とあるが、時間もない。
くっ。悔しくはない。部の発足の方が大事である。
しかし気になる事が一つ。
ゾルジ、特訓って何? まさか? 私が苦手とする奴では。
クローディアは急いで自分の教室へと向かいながら、嫌な予感にたらりと冷や汗をかいた。
いつもお読みいただき、ありがとうございますv
今回の回、好きな回かもですv




