第1話 クローディア13歳! いざ!憧れの学院へ!あら?あらら?
こんにちは、初めましての方もいらっしゃいますでしょうか?初めましての方はお目に留めてくださりありがとうございます。
菓子クロシリーズ第3弾です。最後までお付き合いいただけると嬉しいです(*^^*)
よろしくお願い致します!
「クローディアお嬢様、本当にここでよろしいので?」
「ええ、かまわないわ」
「でも、お嬢様に何かあったら、私が怒られます。どうか学院の入り口までお送らせてくださいませ」
御者兼護衛のテオが、馬車の扉を開けたまま、なんとか自分の主人を思いとどまらせようと説得してくる。
「もう! テオは心配性ね。大丈夫よ。今日は入学式があるから、馬車の出入りも激しいし、歩きの方がスムーズに入れるわ。それにこれから通う学院を外からじっくり見たいのよ」
「馬車の窓からも見えますよ」
「そうね! でもより近くでじっくりと見たいの! テオ、心配なら私が学院に入るまで、ここから見ていてくれていいわ」
「わかりました。本当気を付けてくださいよ」
そこでやっとテオが折れて、クローディアが馬車を降りる為に手を差し出す。
その手を借りながら、クローディアは馬車から地面へと降り立った。
真新しい制服のスカートを軽く払う。
ふわりと動いた空色にクローディアは満面の笑みを浮かべる。
次いで、後ろがスクエア、Vネックの大きな襟を飾るクリーム色のスカーフの形を整える。
「うん。この制服も可愛い」
栗色の髪にグリーンの瞳の平々凡々な自分にも無理なく着られるデザイン、素晴らしい。
クローディアはご機嫌に、革靴のつま先で軽く地面を蹴る。
「お嬢様、いってらしゃいませ」
テオが差し出した紺の学院指定の鞄を受け取る。
「行ってくるわ」
クローディアはひらりと手を振ると歩き出した。
歩く右手にはレンガ造りの高い壁が続いている。壁の中には学校の校舎があるはずだが、外からは何も見えない。
クローディアはその壁にそっと片手を添わせて歩く。
これが、今日から自分が通う学校。ハースライト学院である。
「ああ、来られてよかった!」
ハースライト学院は貴族が通う学校である。が、必ず通わなくてはならない訳ではない。
厳密にいえば、高位貴族は必ず通わなければならないが、下位貴族は通わなくても問題ないのである。家の事情にもよるが、裕福な平民が通うロイツ学園に行く下位貴族の子供もいる。
なぜなら、ロイツ学園の方が、成人して社会にでた時により具体的に役立つ知識や技術を身に着けられる事も多いのである。読み書き計算はもちろん、手に職をつけたい者、あるいは商売のノウハウなどである。
男爵や準貴族などの次男、三男は将来貴族として生活することが難しい者も多い。その為、剣術の才能が乏しい者は、こちらの学校に行くことも多い。
貴族女子の場合、成人したらほぼ嫁に出される事が多い為、ハースライト学院に通う女子が多い。それはもちろん嫁入り先を探す為である。
クローディアは、成人したら、即嫁に行くつもりはない。
国外のあちこちに手を広げ、商売をしているニコル叔父について大陸中を回りたい。
ならば、ロイス学園にとも考えたが、王都の1、2を争うほどの蔵書数を誇る学院の図書棟をぜひとも堪能したいとの気持ちが勝った。加え、大陸中を旅して回る為の知識を身に着け、学院を優秀な成績で卒業して、父に叔父の仕事を手伝う許可を得る。その為にこの学院に来たのである。
この学院に入学する13歳までの間、クローディアはお嫁に出すより、叔父の商会で働かせるほうが、よっぽどグレームズ男爵家にはメリットがありますよと父に一生懸命アピールしてきたつもりであった。
が、それは未だ報われていない。叔父の商会の商品開発の手助けをしたり、教会へと足しげく通い、男爵家をアピールしたりと、嫁に出すより、男爵家に残した方がいい実績を積み上げて来たのにも関わらず、父の目は年々厳しさを増している。
父よ。私の何がそんなに危険視されるのか。
うーむ。もしかしたら、アピールの方向性が間違っていたのか。
いや、そんな筈はない。これはもっと精進せよとの父の励ましかもしれない。
そうだ。きっと父はわざとそういった目をして、クローディアを鼓舞しているに違いない。
了解である。
この学院に通う3年間。更なる飛躍を遂げるべく、邁進することをここに誓おう。
「成人したら、即嫁入りなんて、絶対しませんから!」
クローディアはぐっと拳を握った。
「ここが正門ですわね!」
レンガの壁が途切れたところに、大きなアーチ形の鉄門扉があった。それが今は大きく開かれており、生徒たちが乗っているだろう馬車が次々と入って行く。
ああ、待ちに待った学院生活の第一歩である。
クローディアは大きく息を吸い込んだ。
と、次の瞬間、
「けほっ!けほっ!」
激しくむせた。
「なぜ!?」
清々しい学院の空気を吸い込んだ筈なのに、気分が悪くなった。
これはどうしたことか?
いやな予感がする。
いや、そんな。王都のそれも貴族の子女が通う学校が、まさかそんな。
クローディアはありえないと首を振ったが、全く気分が良くならない。
意識してしまうと息苦しさが増すような。
空は快晴、春うららかな爽やかな風が吹いており、まさに入学式日和である。
入学式には新入生の父兄も参加する為、若干馬車が多めではある。ちなみにクローディアの保護者は経費節約の為来ない。ま、それは置いておいて、この王都では馬車が往来を行き来するのは当たり前であり、それで息苦しさを感じる筈はない。
「まさかあっち系?」
クローディアはひくりと口をひきつらせた。
エルネストがいれば、答え合わせができるのであるが、一緒に来る事は断固拒否した。
エルネスト=パースフィールド。侯爵家の次男坊である。
6歳の頃、エルネストが突如、亡霊が視えるようになり、その恐怖で引きこもりになったところ、クローディアが友となり引きこもりを阻止した。それからの縁で、ずっとお付き合いが続いているのである。重ねていう、友達としてだ。
友達ならば、一緒に登校しても、と、思われるかもしれないが、それは自殺行為である。
高位貴族の優良物件であるエルネストと、下位も下位の男爵家の娘のクローディアが一緒に入学式に来たら、高位貴族のご令嬢たちに睨まれるのは目に見えている。
そんなことして学院生活を過ごしにくくするなど、もってのほかである。
エルネストは絶対一緒に行くと言い張ったが、何でもお願いを一つだけ聞くから今回ばかりは別々に、と、頼み込んだところ、何とか頷いてもらった。
そう約束した後の、エルネストの笑顔に早まったかと思ったが、背に腹は代えられない。
クローディアの3年間の学院生活がかかっているのだから。
エルネストのお願いなんだろう?不安になるが、それは一旦置いておく。
今は直面している問題に頭を切り替える。
「これは、能力を開放するしかないわね」
クローディアは小さく呟くと、静かに目を閉じた。
そして自分のうちの奥に意識を向ける。
クローディアは人には視えないものが視える目を持っている。
この目のお陰で、エルネストの問題を解決できた。そうエルネストと同じ、亡霊や妖精を視る事ができる目を持っているのである。
それは生活するうえで、時として妨げになる力だった。
幼少の時には、それをコントロールすることができなくて、様々なトラブルに巻き込まれたものである。その最たるものがエルネスト引きこもり事件だろう。
それでクローディアの人生は大いに変わった。
まあ、それは置いておいて、13歳になった今、クローディアは外出時には、力を封印している。そのほうが生活しやすいからである。ぶっちゃけトラブル防止の為でである。
ただ、目を封印していても、肌で感じるものは防ぎきれない。その場合は、直ちに原因を探る。放っておくとのちのち大変なことになるからだ。原因がわかっていれば、避けようもあるというものである。
「開眼」
そう呟くと、クローディアはそっと目を開いた。
瞬間、クローディアはうめいた。
うめきだけで済ませられたのをほめてもらいたい。
なぜなら。
能力を発動して視た学院は、どんよりと黒い邪気のようなもので覆われていたからである。
さっきまで見えていた快晴の空が、今は見る影もない。学院全体が淀んだ空気で覆われている。能力を閉じていた時とのギャップが激しすぎる。
「よくこれで、病人が出ないものですわ」
いや、出ているのではないか? 身体が弱い人ならば、ここで生活していたら、体調を崩しているに違いない。それにクローディアほどでなくともちょっと敏感な人なら、きっと不快感を感じているのではないだろうか。
「あーあ。なぜ学院がこんななんですの? 若者たちが、きゃっきゃきゃっきゃしている場所ですのに」
おじさん臭い愚痴をこぼす。
「前途洋々から一転暗雲立ちこめる学院生活の始まりなんて! とんでもないですわ!」
冗談交じりで呟いてみたが、真実になりそうで、怖くなった。
「いえ、わたくしはあきらめませんわよ。めざせ! 楽しい学院生活! ですわ!」
その掛け声とともに目の能力を封じ、気合を入れて門の中へと入る。
「エルネスト様、具合が悪くなっていないとよいのですけれど」
エルネストは自分よりも敏感である。
まあ、昔よりも遥かにメンタルは強くなっているので、心配はないかもしれない。
「これは学院では、気合を入れて過ごさなくてはなりませんわね」
ふんと気合を入れて、クローディアは歩き出した。
学院七不思議と銘打ってますが、怖くないです(*^^) どちらかというと不思議系です。
章が進むと亡霊なども出てきますが、第1章は大丈夫かと。