5話 接近と別れと恐怖の呼び出し
俺は銀髪少女からの逃亡体制を取った。
「あ、こら待てー!」
しかし回り込まれてしまった!
チッ、気づいたか……。
「ふふん、助かったでしょ? ……ってちょちょちょ! なんで無視すんの」
少女はタタタっと子犬のようにこちらへ駆け寄ってきて、足早に立ち去ろうとする俺の隣に並んできた。
ツーサイドアップに縛られた髪が尻尾のように揺れる。
「……(足を早める)」
「ねえ、無視すんなー! 無視反対ー!」
「……(更に足を早める)」
「――みなさん、見てください! これもまたクランと言う制度が」
「おいやめろそれ」
なんなの? 1分おきに演説しなきゃ死ぬ病気にでもかかってんの?
「あ、やっと返事してくれた」
「何か用か? 俺はあんたに用はない。それじゃ、さよなら」
「流れるような自己完結!?」
「……」
『無視反対!相手をしろー!』っとぶつくさ言いながら一向に離れる様子はない。
走って巻いてしまうか?でもそれも面倒か。
仕方がないので、視線で話せと伝える。
「さっきのお礼をまだ言ってもらってないなーと思って。一触即発、って感じでヤバげだったね」
「助けてくれと頼んだ覚えはないが?」
「ふふん、頼まれてなくても、困っていそうな人がいたら手を貸すのです」
「……頼むから今すぐここを立ち去ってくれ」
「♪(口笛を吹く)」
桜色の唇を可愛らしくすぼませる。ちなみに口笛はかなり下手だ。
黙っていれば儚げな美少女で通じそうなものだが、中身は熊みたいな図太さをしている。
「はぁ……礼の代わりに教えてやる」
「ん?」
「この学園で制度を批判する意味、あんたは分かってるのか?」
「…………?」
目をパチパチとさせて困惑と言った表情。
ダメだこの子、無邪気だ。
「分かってないんだな……忠告だ、クラン制度を批判するのはやめとけ」
「え、なんで? 絶対良くないよここの制度。だって――」
「――ここであんたと議論をするつもりはない。それに、迎えが来たみたいだぞ」
「え、迎え?」
遠くから、学園の職員が向かってきている。
数人の生徒に囲まれている辺り、誰かが銀髪少女の行いをチクったのだろう。
「――こっちです、この人がさっきまで学園を批判する演説をしていて」
「……また君か。先日も注意したはずだが? そんなに話したいなら指導室でゆっくり話を聞いてやるからこっちへこい!」
ああ、指導室の常連となっていたのか。
うんざりとした顔の職員に睨みつけられ、少女は引きつった顔でこちらを見てきた。
そんな顔で見られても困る。
「ひいっ!?(助けを求める視線)」
「……(笑顔で手をふる)」
そのまま少女は、泣きながら引きずられていった。
……何だったんだ、あいつ。
「今日は厄日だな」
呟いたその時だ。
開け放たれた廊下の窓から不思議な何かが飛び込んできた。幾筋もの、蒼く輝く光の線。それが複雑に絡み合い鳥の形をとっている。
これは、俺のよく知る学園の教師――ミラ先生による使い魔の術式だ。
先生から俺への伝言を持ってきたのだろう。なら、やることは一つ。
――全力ダッシュで逃げる!
『逃げたらお前の借金の返済日を明日に変更する』
鳥の口から先生の声が聞こえた。
ピタッと足を止める。クソ、流石に読まれてるか。
『本日の14時、私の執務室まで来てくれ。美味しいお茶菓子を用意して待っているぞ♪以上』
経験上、先生がこのような言い方をするときのパターンは2つ。
極端に機嫌が良いか、何かろくでもない依頼をする時か。
これは、ぶっちという選択肢もあり得るか……?
『なお、来なかった場合は借金の利子を2倍にする』
「……今日は厄日だな」




