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4話 ネクロマンサーの日常~捨てる神あれば拾う神あり~

 学園任務は、校内のクエストセンターで受注する。

 任務を達成した後は、そこに報告を行うことで報酬――グレードポイントだけでなく、学園の手数料が差し引かれた後の依頼料も生徒は与えられる――が支払われクエストの一連の流れが完結する。


 早速、カタン村関係の任務の報告手続きをセンターで行った。


「はい、完了です。今回もお疲れさまでした――その」

「ん?」

「差し出がましいようですが、こちらにいらっしゃる時間を変えられたほうが良いのでは?」


 絵に書いたような営業スマイルで受付の女性に言われた。


 その理由は明らかだ。

 昼時のセンターは学生でいっぱいになる。

 現在、彼らの注意の多くは、ある1点に向けて払われている。

 耳をすませば、こんな声が聞こえてくる。


『えー、あの人が【ネクロマンサー】?』『そうそう、クランの先輩から聞いたー』

『夜な夜な墓地で死体漁りをしてるとか……』

『え、キッモ。そりゃどこのクランにも入れてもらえないでしょ。ウケる』


 【ネクロマンサー】とは、とある生徒が所有する神話級のレアクラスのことだ。所有者の生徒は、オルデン魔法学園に通う3年生で、所属クランはなし。趣味は金稼ぎと動物と触れ合うこと。

 ――要は、俺がその【ネクロマンサー】の所有者だ。


 ちなみに、スキルに使うことから死体の収集しているのは事実だが、とあるルートから金で買っているので墓地漁りはしていない。


 俺が高等部の一年生として入学してから、2年間ずっと変わらない景色。他人のことを<ハグレモノ>と蔑み、飽きもせず嘲る。


 最初は彼らを見返してやろうと努力した。無謀な討伐任務をねじ込み死にかけたこともあった。


 だが、今は違う。

 周りを変えるよりも自分を変える方がずっと楽だということに気づいた。

 

 執拗に続く嘲笑も自分が慣れてしまえば、そこには何もないのと同義だ。


(いつもご丁寧にどうも、っと)


 踵を返し出口へ向かう。

 途端に噂話は小さくなっていく。消えたわけではない。ただ、直接俺に言ってくるやつがいないだけだ。これも俺にとっては日常の景色。


 しかし、今日は違った。


『何考えてるかわかんないよね、マジこわーい』『あん? じゃあ俺が聞いてきてやるよ』


 面倒ごとの予兆を感じ、歩速を早める。が、遅かった。


 右肩にガツンとした衝撃が走る。


「どうもーあんたがネクロマンサー先輩っすよね?」


 軽薄な声。後ろから肩に置かれた手に力が込められていく。

 さて、どうしたもんかね。


「……せっかくハグレモノに声かけてやってンだから、こっち向いて喋りましょうよ」


 グイと強引に振り向かされる。

 視界に現れたのは、声から想像した容姿と寸分違わぬ軽薄な男。ガタイは良いが、幼さが残る風貌は新入生か。


 恐れ知らずで妙にイキる新入生。この学園でそういう生徒が発生する理由は一つしかない。


「おい、無視すんなって。ちょっと聞きたいことがあるだけなんだからさ。これ、見えないんすか?」


 さり気なく出口と俺の間に立ち回る。こういうところは気がつくらしい。


 自慢気に指さされた先には、クラン章をペンダントにしたアクセサリが光っている。

 ――上位クラン<サウザンド・ナイト>の所属か。


 上位クランに所属しているという事実が周りに与える影響は大きい。たとえそれが、末端の構成員の一人だったとしても。

 上位クランの庇護下にあるという事実は、彼を手厚く護ってくれる。


「……サウザンド・ナイトの質も落ちたもんだな」

「ハグレモノに言われても響かないっすわ」


 自分が何かを成し遂げたわけではない。にもかかわらず、周囲を自然に見下すこういう輩は気に入らない。


「おーこわ、睨んでくるとか……っぱちげえわ――殺しやってる人ってのは」

「……あ?」

「殺し、やったって聞いたんすけど、マジなんスカ? ってそうに決まってるか! じゃないとありえないっすもんねこの学園でクラン入らないとか」


 男の言葉に、平静を保とうとしていた理性がぐらつく。

 殺し……2年前のあの事件のことか? 落ち着け。目の前の男は何も知らない。話に尾ひれがついていっただけだ。

 小さく息を吐く。


「……お前には関係がない話だ、じゃあな」


 歩き始めた俺の前にドンと足が差し出される。


「関係あるんだよ。学園に人殺しがいるとか、あいつら怖がってるんで……もうあんたさ、ここらへん出歩くのやめてくれねえかな」


 男の後ろには取り巻きと思しき数人の女生徒たちが居る。

 俺にはニヤニヤと底意地悪く笑っているように見えるが……本当に怖がってんのかね。


 揉め事の空気を感じて周囲は野次馬も増えてきた。


『なに、ケンカ?』『うわ、ハグレモノじゃん……さっさと退学になればいいのに』『どうせあいつが何かやったんだろ』


 ……俺への非難一色って感じだ。

 ここまで味方が居ないってのは、流石に少し応える。それに、状況を変える打開策も思いつかない。


 どうしたものかと焦り始めたその時だった。


「――あー、そういうのはよくありません!」


 淀んだ空気を吹き飛ばすように、晴れやかでよく通る声が響いた。

 この声は聞き覚えがある。


 声の主は出口の方からやってきた。

 あれは――さっきの銀髪の少女だ。

 何しに来たんだ? 首を突っ込む気満々に見えるけど、ややこしい自体にならなきゃ良いが……。


「ここでもクラン制度による争いが起きるとは悲しいですね……みなさん、見てください。新入生が上位のクランに所属してるのを良いことに、礼儀もわきまえずイキリちらしていく。これこそまさに、クラン制度があるからこそ起きる諍いなのです」


 はいはいそうなりますよね。ややこしくなりますよね。


「てめぇ、何のつもりだ」

「あ、今忙しいんで」


 少女はキレる軽薄男を片手で制した。


「――同じ学園の生徒たちが争う、こんな悲しい世の中にしてはいけません。皆さんでこの学園を変えようじゃありませんか!!」


 あーもうメチャクチャだよ。


『え、なに急に?』『どういうこと? 怖いんだけど……』


 ギャラリーも戸惑っている。俺も同感だ。


 あっけに取られている俺達を尻目に、彼女は朗々と演説を続けていく。

 なんだなんだとさっきよりも更に注目が集まっていく。


 やがて、雑踏の中からこんな声が聞こえてきた。


『最近噂になってるクランを批判してる人じゃない? ――もしかして、あの人達も関係者?」


 その声を聞いて、やばいと思ったのだろう。


「ッ!? ……クソが。もう行くぞお前ら」


 悪態をつき、難癖男は取り巻きを連れてそそくさと去っていった。


「ご清聴ありがとうございましたー」


 銀髪の少女は男に手を振り演説を終え、こちらに向き直ろうとする。


 厄介事に巻き込まれるのは避けたい。関係者と思われるのは勘弁である。

となれば、やることは一つ。気付かれないように俺も逃げよう。


 俺はそそくさと逃亡体制を取った。

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