3話 銀髪美少女との邂逅、そして逃亡
長い目抜き通りを抜け、ようやくオルデン魔法学園の校門が見えてきた。そこに隣接しているのは、電車が乗り入れる集約ターミナルだ。
学園の間近に駅があるというのは、学園の存在が何よりも優先されるこの街だからこその光景だろう。
ちょうど、王都からの便が到着したらしく、ターミナルから続々と人々が降りてくる。
中には学園の制服を着た生徒たちもたくさん居た。
春はどの季節よりも、列車から降りてくる生徒たちのバリエーションが豊かだ。
まず目につくのは、疲れ果てているやつ。
慣れない任務をこなしたからなのか、任務で張り切りすぎたのか――俺はどっちの経験もあるが、お疲れさんといったところだ。
次に、声高に任務で経験したことを話してるやつ。実力のないやつの証明である。
最後は、澄まし顔なやつ。このパターンは色々いて、本当に実力があって余裕でいるやつもいれば、ただ表面を取り繕っているだけのやつも居る。
いずれにしても、この学園ではグレード制度により自分の実力はすぐにバレてしまうから、肩に力が入りすぎるのは最初だけだ。
夏にもなれば、流れ作業のように学園と駅を往復するだけになり、表情は乏しくなっていく。
全く、楽しい任務だけを受けたいもんだね。
ちなみに番外編として、年がら年中これから楽しいことでもあるかのようなテンションの高いやつらもいる。いわゆるアオハル勢だ。
こういう奴らは眩しすぎて目が潰れるので視界に入れないようにしている。太陽は空に一つあれだけでいい。
と、そんな例年の春の風物詩を眺めていると、校門の方から来た生徒たちが何やらヒソヒソと訝しむような声が聞こえた。
始めは俺に向けられたものかと思ったが、そうでもないらしい。
校門の前につくと、噂の発信源を発見した。
そこには、例年では見かけないような奇抜な少女がいた。
昼時の強い日差しを浴びて鮮やかに光輝く絹の如き銀髪。一流の人形師が手掛けたかのような端正に整った顔立ち。
黙って過ごしていれば、その美貌だけで何不自由なく暮らしていけるであろう美少女だ。
だが、彼女は黙っていられなかった。
端的に言えば、やばいくらいうるさい。
自分で持ってきたと思われる箱の上に仁王立ち。それだけで目立つことこの上ない。
長い銀髪を鞭のように振り回し、整った顔立ちを台無しにするほどエモーショナルに、彼女は通行人に語りかけていた。
『任務からお帰りのみなさま、お疲れ様です! どうか、少しでいいのでわたしにお時間をくださいませんか!』
これは、あれだ。
時折街なかで、人気が陰ってきた政治家がやっているやつ。
演説だ。美少女が演説をしている。
ちょっと見たことがない光景に戸惑う。
ただ、ここで疑問に思った。
あれだけの美少女が喋っているなら少しは足を止めそうな人間もいそうなものだが、特に男子生徒。しかし現実は誰一人として足を止めようとしない、何故か。
そんな疑問は、彼女の演説の内容を聞いてすぐに氷解した。
『下位クランに所属の皆さん! あなた方は不当に搾取されています! いつまでも上位クランに搾取されるだけの存在で居てはいけません! 理不尽は正さなければならない! 今こそ立ち上がりましょう! この学園を改革するのは今を生きる我々しかいないのです!!」
あ、やべえやつだこの人。
この学校で制度批判はご法度だ。ましてや<クラン制度>に言及するなんて正気じゃない。
1000人いれば1000人があいつのことを関わらないほうがいい人種と判断するだろう。
もちろん俺もだ。
<クラン制度>。
<グレード制度>と対をなすこの学園の根幹にある制度だ。
グレードを上げるために必要となるのは学園任務の達成である。任務は高難易度のものや特殊なものをクリアすればするほど、多くのポイントを稼げる。
しかし、そういう任務を独力でクリアするのは困難だ。
そこで生徒たちは、任務を共にクリアする仲間を求めた。
そうして出来上がったのが、生徒たちが効率的な任務達成のために集まる集合体――クランだ。
クランがない頃の学園は、任務の達成率や生徒たちの生還率が低かったらしい。それが改善できるクランは学園にとっても都合がいい。
こうして、生徒と学園の利害が一致し、クランは制度化された。
しかし現在はある問題が出ている。
任務の達成率を優先するあまりクランに評価付けがされ、実力があると証明されている上位のクランにばかり優先的にポイントの高い任務が割り当てられるようになった。
結果、上位クランに所属できた者はどんどんグレードが上がり、そうでないものはグレードが上がりにくくなるという二極化が起きてしまったのだ。
上位クランにはありがたい話だが、下位クランからすればたまったもんじゃない。
これを糾弾する声も一時期は上がっていたそうだが、そういう声を発する者はいつのまにか学園から自主退学やら何やらで居なくなってしまうのが通例となっていた。
クラン制度が出来てから30年。
上位クランの所属者やその関係者は今や、学園だけでなく王国中の要職に就いている。
クラン制度を批判するということは、現在の王国の体制を批判することと同義なのだ。
俺だって体制に問題があるのは分かってる。だが、それと対峙するくらいなら、自分が体制にあわせてしまった方がずっと楽だ。
世界を変えるよりも自分が変わるほうがずっと楽。
それが学園で周りを敵に回しながら2年を過ごして得た自分の信条だ。
ただ、隣の芝は青くみえるというか。
どこまで分かってるかは知らんが、ああもバカ正直に世の中と戦おうとするあの少女の姿勢だけは凄いなと思う。それは俺がとっくに失ってしまったものだから。
などと考えていると、視線を気取られたらしい。
「あ、ちょっとそこのあなた! 学園の改革に興味が――」
高い壺を売りつけてきそうな満面の笑顔で、少女が手を振り叫んできた。
……凄いとは思うが、関わりたいとは言っていない。
俺はすっと目をそらし、足早にその場を立ち去った。




