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11話 腹黒英雄との密談

「こうやって二人で話すのは久しぶりだね」

「そうだったか?」

「君が僕のことを避けていたからな。日数にすると254日ぶりの邂逅だよ」

「え、怖い。そのカウントの仕方は怖い」

「はは、適当な数字に決まってるじゃないか」


 と言ってるが、恐らくこの数字は正しい。こいつはそういうやつだ。


「君に避けられていること、気づかないと思っていたのかい?」


 俺とて、いたずらに避けていたわけではない。ちゃんとした理由がある。


「……よく言う。俺と一緒に居る状況を作りたくない、先にそう判断して距離を置いたのはお前だろ」

「やはりバレていたか。2年前のあの時、僕は君から距離をとった。学園での立場を築かなきゃいけない当時の状況で、君と関わるのはリスクが大きすぎたからね」

「そうかい」


 悪びれた様子はない。ただ事実を淡々と話しているだけといった風な口調。実際、こいつにとってはそうなんだろう。目的のために情を挟まず常に最適解でゴールへとたどり着く。

 昔からそうだった。


「だが、今はそうじゃない。既に足場は築いた」

「【ハルモニア】のサブマスター様、か。4年生を差し置いてのご就任、おめでとさん」

「はは、後はいつマスターを押しのけるかだな。っと、忘れてくれ、今のは失言だった」


 こいつ、マジか。

 メディア系のクランに話を持っていけば一躍トップニュースになりそうな発言だが、あいにく俺はぼっちだ。

 俺に伝手がないのを言いことに本音の捌け口にしようとしてないか?


「で、向上心豊かなアルウェンさんは今更になって俺に声をかけてきたと? 現金なことだな」

「それが最適だと判断したまでさ。君の能力にはそうするだけの価値がある。それに、僕の個人的な感情としても君と距離を開けたままにはしておきたくない」


 ここまで当たり前のことのように言われると、怒りを通り越して呆れてしまう。


「相変わらず傲慢な物言いだな。友達できないぞ」

「ははっ、そうだね。普段は気をつけているつもりだけど、君にもそうしたほうが良かったかい?」

「ははは――お前、そのうち刺されるからな」

「その時は君に守ってもらうさ」


 ったく、付き合いきれないな。どこまで本気で言ってんだかわからん。


「……で、さっきの言いぶりだとそろそろ始めるのか」

「ああ。この学園のシステムは悪くはないけれど、無駄が多すぎる。僕の望む最適な学園への改革、それが僕が【ハルモニア】に属している理由だからね」


 おそらく、学園の中で俺しか知らないであろうアルウェンの野心。

 こいつもまた、学園を変えたいと望む側の人間だ。

 何故俺が知っているかと言えば、それは――。


「昔から君は言っていたね。学園を変えたいと。すべての生徒が平等に挑戦できる場所であるべき。それが君の口癖だった」

「……」

「僕が今こうしてここに居るのは君の言葉がきっかけだ」


 ――最初に学園のことを話したのも、学園を変えたいと願ったのも。俺が最初に始めたことだからだ。


「だからこそ、君に頼みがある――【ハルモニア】へ加入し僕を支えてもらえないだろうか」


 心のどこかでは予感していて、ひょっとしたら期待していたのかもしれない。

 だから、驚きはなかった。


 アルウェンの誘いは魅力的だ。

 学園の最上位クランへ加入すれば、Bグレードへの昇格は間違いないし、Aグレード、更にはSグレードへの到達だって夢じゃない。

 心の底で燻ぶらせていた夢――平等に挑戦ができる学園にしたい。それだって叶えられるかもしれない。


 だが、何故だろう。

 その言葉を聞いたとき、最初に脳裏によぎったのはそのどれでもなく、あの演説女の面影だった。


「……考えさせてくれ」

「分かった。なあ、アイン」

「あ?」

「一つだけ本心を伝えておこう。僕はこの誘いへの答えはどちらでも良いんだ」

「……」

「一つだけ、僕が君に望むのは――君にはもう一度、先に進んでほしい。立ち止まっているのは似合わない」


 底のよめない学園の実力者としてではない。

 幼馴染としての真摯な表情。


「あの時、手を差し伸べなかった僕が言うのは都合がいいというのは分かってる。だとしても僕は、それを望んでいるんだ。信じてほしい」


 2年前。

 俺とアルウェンは共通の大切な人を失った。


 俺にとっては親友であり、アルウェンにとっては妹であった人物。

 シエラ・ローレル。


 彼女は、俺の腕の中で、俺に命を託し死んだ。


 妹の死について、アルウェンが俺を責めることは一切なかった。ただ、黙って俺から距離を置いた。

 今だって、シエラのことについては何も言わず、あまつさえ俺のために言葉をかけてくれた。


 アルウェン・ローレルは決して間違えない。

 だとしたら、彼にとって『最適』な世界の中で俺の立ち位置はどこにあるのか。


 アルウェンの言葉が嬉しかったのは事実だ。

 でも俺は、盤上の駒にはなりたくない。

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