C53の壊し方
島くんの詳細はカットや。
かくして出来上がったC53型旅客用蒸気機関車であるが、国産初の3シリンダーであるため、かなりの苦労が付きまとった。
まず堺勇次郎が担当するボイラーであるが、
「ボイラーの底が中央駆動系に干渉せぬよう、高い位置にボイラーを据え付けねばならぬため、ボイラーを細くすべきだ」
と堺の部下が主張した。
しかし堺は、
「C53が幹線用急行旅客型機関車として設計される以上、スジ屋が引くであろう現場完全無視のダイヤに対応できるようにするには蒸気のあがりがよくないといけない」としてボイラーは最大限太くすると決めて図面を引きはじめた。
しばらくして図面が出来上がった。
「なるほど、ボイラー取り付け位置が高くなるぶん蒸気ドームや砂箱、煙突を小さくすれば車両限界は越えないということか。」
「煙管を太くすれば排気の抵抗が減るから蒸気の上がりがよくなりますね、しかし、煙管を詰め込みすぎではないですか?」
堺が設計したボイラーには煙管がところ狭しとズラリズラリと配置されている。しかし、ある古参技師は
「本数は問題ない。煙管の位置からして急勾配での急制動での缶水の移動で煙管が缶水から大きく飛び出すことはない。」
「ではどこにも問題はないと?」
「あるにはある。大煙管直径150mm、小煙管直径65mmというのは大きすぎだ。」
古参技師の言葉に堺が反論する。
「どこに問題が?排気の抵抗を減らして煙管を通る煙の量を増やせばその分火室への吸気もよくなり不完全燃焼が減る、発生する熱量も多くなり熱効率が上がるはずだ。」
「それはそうだ。」
「ならどうして」
「お前は蒸気機関車の排煙の仕組みを知っているか?」
「…煙室の煙はベルヌーイの定理を利用し、吐き出し管から吹き出す蒸気の粘性により煙突へ排出される。それにより煙室の気圧が下がるため火室から排気が引っ張り出される。…あっ」
「そうだ。この機関車は3シリンダーだ。吐き出し管からの排出蒸気は多い。だからここまで太くしなくても排気する力は十分あるんだよ。」
堺は気づいた。排気速度ばかり重視していて伝熱面積を考えていなかったことに。
「だから煙管の直径はここまで大きくしなくていい。本数を増やして伝熱面積を大きく取ろう。」
「はい。わかりました。では大煙管直径145mm、小煙管直径60mmで再設計します。」
堺は再設計に取りかかった。
「あと、砂箱はランボードに下ろせ。あんなもん砂が撒けりゃどこだっていい。」
その古参技師はそのあと更なる意見がないか周りに聞いた。そしてその後二時間の討論の後に再設計が始まった。
中央シリンダの駆動系との干渉を回避するため、動輪上に火室を置く動輪上広火室を採用、また理想的な容積の燃焼室を確保するため缶水容量の減少を偲んで火室の容積を大きくとることに成功した。火室と燃焼室に関しては堺は妥協しようと考えていたのだが、小山という部下が堺が図面を引くのに集中しているとところにやって来て図面を見るなりこれを主張して一歩も引かなかったためにこれを採用した。小山いわく
「蒸気の上がりがよくなれば釜焚きの負担が減る。よって煤煙による殉職者も減る。石炭の消費量も減る。」らしい。小山がしつこいのでなぜこんなに主張してくるのか考えていたら小山の父が隧道内での煤煙によって窒息して殉職していたのを思い出した。国鉄技術研究所の怪しい研究班が煙突につけて煤煙による被害を防止することができる機械を開発していると風の噂で聞いたので『取り付けたら車両限界を越えました』なんてことがないように煙突の長さを少し削っておくことにした。
しばらく若手の部下たちとボイラーの設計案をいじくり倒していると「ここまで巨大なボイラーとなるといくら伝熱面積を大きくしてももとの熱量が不足する。」と古参の秋山技師が発言した。それに便乗して古参の技師からヤジが飛んでくる。「こんなでかい釜を日本人が焚けるわけがない」「もう少し小さくすべきだ」ect
フッ。毎日帰るのが遅くなり冷えた五右衛門風呂の水をもう一度沸かすのを面倒に思い、子供の時、五右衛門風呂や長州風呂より沸かしやすい風呂はないものかと試行錯誤を重ねて今ごろになって出来上がった余熱装置を見せてやる。
「ええい!静まれ!…福田技師、昨日完成した模型を持ってきてくれ。」
「はい。わかりました。『あれ』ですね。」
しばらくすると福田技師は管がいっぱい絡まったようなものを持ってきた。
「ボイラーが大きすぎることの対策として、煙室で捨てている熱を回収するというのはいかがでしょうか?」
部屋がざわつく。捨てる蒸気の熱は回収することはあっても排煙の熱を回収するという考えは日本人にはないようなものだった。
「それとその管の固まりとどういう関係があるのだ?」
「まさかそのへんな管に煙を通してのなかにいれようというのではあるまいな?」
…なんか阿呆な言葉が飛び出してきたが気にするな。
「私はこのような管の固まりにインゼクタからの給水を流し、煙室の排煙の熱を回収することで給水を余熱する方法で熱回収率を上げて、焚きやすい釜にしようと考えています。」
…これでどうだ?
「なるほど、インゼクタでの給水を冷水から温水にするというのか。」
「確かにそうすれば常時温水が給水されるから焚きやすい釜になるな。」
こうしてボイラーの設計は着々と進んでいくはずだったのだかが、また秋山技師が文句をつける。
「ここまで効率のいいボイラーなのだから思いきって缶圧を上げてみないか?」
…彼らは本当に日本国有鉄道の機関車技師なのだろうか。日本国鉄で使用する機関車を設計しているはずなのに、設計変更をする度にどんどんボイラーの重量がかさんでいく。
一方その頃島秀雄はというと、C52の弁装置、グレズリー式弁装置の模型とにらめっこして、その仕組みを理解しようとしていた。
「んーーー、わからん。」
「島さんあきらめんなや。つばめ牽く機関車作るんやで。パワーのためには3シリンダの仕組みを理解せんことには何も始まらん。」
「ダメだ。このグレズリー式弁装置で中央シリンダの給排気を操作することにひとつも利点を感じられない」
「確かに吸気のタイミングもずれるし整備もめんどくさそうだし」
「うちの鉄路で使うんだから軽量化も考えんとな…」
島と部下たちが悩んで、悩んで、模型をにらんでいると、堺たちが設計するボイラーの様子をみてきた若手の技師がやって来た。
「ボイラーの重量がすんごいかさんでるので軽量化なんてできっこないですよ。そんなことしたら台枠つぶれますって。」
この発言で島は確信した。
「わからんもんを使うのはやめよう!俺は中央シリンダもワルシャート式弁装置で設計する!グレズリー式なんて知るか!」
「島さん落ち着いて…」
「軽量化くそ食らえ!どうせ東海道や山陽の線路ガチガチのところで使うんだろ!重くなったって知らねえ。俺は頑丈な機関車を作ってやる。」
島秀雄はここに崩壊した。私たちの知っている後の新幹線産みの親、島秀雄はここに盛大に崩壊した。
そして完成したC53であるが、軸重がものすごいことになっている以外は称賛に値する機関車になった。
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