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第九話 ピエロの紫

 俺は空中に浮かぶ八つの空き缶の飲み口を、漆黒の竜に向ける。

 その後ろで、カディアとリセは休憩している。


「アキカンが、宙に浮いてる?」


 リセが俺の空き缶を見て、ポツリとつぶやく。


 俺もこういうことができるとは、思わなかった。

 ただ、これらの空き缶は能力を通して、俺と魂でつながっている感覚があった。

 だから、空き缶の近くにいる間はこんなこともできるかと思い、やってみたが、思いの外うまくいった。


「へっ! そんな変な形のもんを、八つ出したとこで、俺様の竜は倒せやしねぇぜ」


 マルクスが竜の後ろからそう言う。


 ……そうか。こいつはさっき俺が空き缶から出したビームでゾンビ軍団を壊滅させたところを見てないのか。

 自分の能力については、べらべらと話すくせにそういうとこは見てないのか。

 色々と抜けたやつだな。

 なんて、思いながら俺は、空き缶に魔力を込める。


 八つの空き缶が竜の方を向く。


「ダークサイダー発射」


 八つの空き缶の飲み口から飛び出た暗黒の光線は、いとも簡単に竜を貫く。


「なに! お前えぇ!」


 今更ビビってももう遅い。

 暗黒エレメントで攻撃すれば、竜は再生できない。

 それに、俺の魔力コントロールも完璧だ。


 後ろのカディアのおかげで。


「全くもう、魔力を分けた後に人の魔力をコントロールするとか……あたしが天才美少女じゃないとできなかったところよね!」


 と、カディアは俺の背中に手を置きつつ、そう言う。


「ああ、お前は本当に……天才美少女だぜ」


 うん。今だけは心の底から認めよう。

 カディアは正真正銘の天才だ。


 魔法に特化したホムンクルスというのもあるとは思うが、それでもやはり凄い。

 恐らくこの世界でも、他人に魔力を分け与え、そいつの魔力をコントロールできるのはそうそういないと思う。


「ガアアアアアア!」


 竜は俺が暗黒エレメントを持っていると分かると、俺の死角から尻尾で攻撃しようとする。


 が。


 俺の背後から、青色の人影が回転しながら尻尾を切り飛ばす。


「甘いし、遅いわ」

「リセ、ありがとう」


 俺は礼を言いつつ、竜の尻尾が再生しないうちに、ダークサイダーで再び攻撃する。


 その瞬間ーー。


「うっ!」


 再び脱力感が俺を襲う。

 クソ、カディアに魔力コントロールしてもらっているとはいえ、やっぱりそう上手くはいかないか……。


 と思いつつ、後ろを見やると……。


 そこにカディアの姿はなかった。


「え? カーー」

「メガフレアー!」


 背後で、とてつもない熱気と爆音が聞こえた。

 恐る恐る振り返ると、ドロドロに溶けた竜の体と。


 竜の宝玉を右手に掲げるカディアの姿が目に写った。


「お、おまーー」

「いえい! 大勝利なのだ!」


 そう言いつつ、カディアは俺に竜の宝玉を投げ渡してくる。


 全く、お前は本当に大した奴だよ。


 俺は竜の宝玉を片手でキャッチしながらそう思う。


「な……そんな馬鹿な! 俺様の竜が……!」


 マルクスが俺たちを見て、絶句する。

 

「さぁ、後はお前だけだ」

「くっ……。クソォ! こうなったら……」


 絶望しながらも剣を抜くマルクス。

 だが、リセはその少し上を見て、驚きのあまり目を見開いていた。


「リセ、どうしたの?」

「竜。まだ動いてる」

「ん?」


 俺もつられてリセと同じ方向を見る。

 そこには、ドロドロの原型をとどめていない漆黒の竜がいた。

 

 そんな……嘘だろ。本体が竜の宝玉だからそれを抜けばいいって、さっき魔力を貰ってる時カディアが言ってたのに……。


 そして、マルクスはまだそのことに気づいていない。


「お、おい。あ、あれ……」

「おい! お前ら! よそ見してんじゃウヴァアアアア!」


 あ……踏み潰された。

 ヤバイ。

 生まれてはじめて人が死ぬところを見た。

 だが、不思議と吐き気は湧かない。

 これもホムンクルスになった影響だろうか。


 などと考えていると、ドロドロの竜はマルクスを踏み潰した片足を上げ、俺たちに向かってくる。


 ん? マルクスの遺体があるはずのところに血の一滴もない……。

 あるのは、白い霧だけだ。

 どういうことだ? この世界には死んだら霧になるルールとかあるのか?

 まぁ、今考えることではないか。


「ナイト何してるの! 逃げるわよ!」

「え、戦わないのか?」

「ナイトとカディアは今ので魔力がなくなったでしょ。これ以上私一人で戦うのも辛いから逃げるのっ!」

「了解」


 よし、そうと決まれば早速任務開始だ。

 俺たちは暴れる竜を背後に神殿の出口目掛けて走り出した。


「グォオオオオオオオオ!」

「ヤバイなぁ。この神殿を壊す気かよ」

「それは我とて不本意だな。止めてくれ」

「ん?」


 なんだ? 今明らかにおっさんの声が……。


「こっちだ。暗黒の力を持つ青年よ」

「あ、お前」


 声のする方向を見てみると、俺が手に持っていた竜の宝玉からだった。

 ヤベッ。お前とか言っちゃったよ。


「あれはどういうことなんですか?」

「ふむ。あれは我という意思が無くなったことにより、暴走した亡骸だな」

「ということは、意思である貴方様を突っ込めば全て丸く収まると?」

「……礼儀正しいかどうか分からぬ青年だな。まあいい、よく聞け」


 そうして会話しているうちにも、俺たちは神殿の出口を抜け、森を駆け抜ける。

 俺の両隣を走っているリセとカディアもこちらに耳を傾けている。


「あの体はもうボロボロだ。我が入ったとしても、数時間後に自然消滅するであろう。そうなれば中にいる我という竜の宝玉も消え、暗黒神様は困るだろう」

「じゃあ、どうしたら?」


 ぶっちゃけ、暗黒神が困ろうと知ったこっちゃないのだが、一応聞いておく。


「あの体を破壊するのだ。そして我を仮面の男の元に届けよ」

「え、なんでウルガヌスのこと……」

「今はどうでもよかろう。さぁ、早くやるのだ」


 後ろを振り返る。

 右腕のないドロドロの生命体が後数メートルという距離にまで迫ってきていた。


「倒すのはいいとしても、どうやって」

「我に秘められし、魔力を使うのだ。それしかあるまい」


 なるほど。

 それしかない……か。

 だったら!


「カディア、後もう一発だけフレアーは撃てる?」

「撃った後倒れちゃうけど、今ならメガフレアーでも撃てそうよ!」

「リセ、もう一度あの竜を切ることは?」

「余裕よ」

「よし、じゃあみんな! あの竜にできるだけダメージを与えて隙を作ってくれ」

「了解!」


 俺の頼みに二人は頷く。

 頷いてくれる。


「じゃあ、もう一回だけ任務開始だ」


 俺の言葉を合図に俺たち三人は別々の方向に散らばる。


 標的を見失い、その場で暴れる漆黒の竜。

 その竜に向かって、カディアが両手の指を突きつける。


「喰らいなさい! メガフレアー」


 真紅の炎が巨大な竜の体を包み込む。

 竜は炎の中であがき続けるが、ドロドロの体を更に溶かすだけで終わる。

 それを見て、カディアは腕を上空に向け、全身に魔力を込める。


「さぁらあにぃ……チャッカマー!」


 その瞬間、竜を包んでいた炎が一気に爆破し、辺りの森林もろとも吹き飛ばしていく。

 そして、木に燃え移った炎はカディアの意思で消えている。


「ガ! グラアアアア!」


 弱りきった竜は再生しながらも、カディアに左腕で襲いかかる。


 が。


「あら、また甘いし遅いわよ」


 宙を回転しながら飛び回るリセによって再び切られる。


「グゥルオオオオオオオオオオオオオオ!」


 竜は叫びながらも抵抗しようとする。

 が、今度は右足を切られ、左足を切られ、地面に崩れ落ちる。


 しかし、尋常ではない再生力に加え、その暴走の意思によって首を持ち上げ。

 

 リセに向けて、ブレスを放った。

 そのブレスは魔力を使い果たし、空中で身動きの取れなくなったリセを襲う……かのように見えた、が。


 それを一つの巨大な空き缶が盾となり防いでいた。


「これでお終いだ」


 俺は両手を突き出し、そこから巨大な空き缶を出す。

 もちろん、飲み口は竜の方を向いている。


「喰らえ! ダークサイダー!」


 巨大な空き缶から、暗黒の光線を放出する。

 宝玉の魔力だけでなく俺の残り少ない魔力も無くなりそうだ。

 だが、やめない。

 やめられない。

 俺は、勝つ。


「ガッ、ゴオォォォォォ……」

 

 そして、その一撃に耐えられず、竜は跡形もなく消滅した。


 俺は。

 俺たちは、勝ったんだ。





 それから、一ヶ月の時が流れた。

 俺はカディアの助けなく、暗黒エレメントをある程度コントロールできるようになった。

 強制転移されたウルガヌスは、何事もなかったかのように普通に隠れ家に、戻ってきた。

 そして、俺の活躍を聞くと。


「よくやったね。おめでとう、これで君は今日から正式に革命団の一員さ。改めて、よろしく頼むよ」


 と、竜の宝玉を大事そうになでながら、そう言ってくれた。


 あの日から、何も喋らなくなった竜の宝玉をなでながら……。


 他のみんなも口々にお祝いの言葉を述べてくれた。


「おめでとうナイト! とーっても、かっこよかったよぉ!」

「おめでとうナイト。これで、一緒に戦えるわね」

「ナイト! おめでとうなのじゃぁぁぁ!」


 やった……。

 やっと、人に認められたんだ、俺。


 感慨に浸りながら、仲間たちを見る。


 きっと、俺がこの革命団に入ることは、どのみち決まっていたことなのだろう。

 博士たちは、貴重な素材と大量の魔力を使って召喚したんだし、俺は俺で、この十年という短すぎる寿命を伸ばすためには、博士たちのもとにいるしかない。

 どうせ、この組織に入らなければならないのなら、楽しく行こうじゃないか。


 俺は、この個性的すぎる仲間たちとこれからこの世界を革命していくのだろう。

 だが、油断してはならない。

 前世で、元親友が俺を裏切りいじめたように、なにがあるかはまだわからない。

 もう、俺は前世のようにいじめられるわけにはいかないんだ。

 そう思いながら、俺は仲間たちとともに笑いあったのだった。

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