第四話 ナルシストの緑
「さぁて、ナイトの訓練に付き合ってあげる!」
と言いつつ、決めポーズを取ったのは、この革命団の四人のホムンクルスのうちの一人。
カディア・ミーディル。
「こぉらあぁ! カディアァ! あれほど扉を壊すなと言ったじゃろうがあぁ!」
セブラー博士が、カディアを叱りつける。
「ごめんなさあぁぁい! 私の可愛さに免じて許してっ。キラッ」
「許しまああああああああす!」
いや、なんでだよ。そこで甘やかすから、言うことを聞かなくなるんだろうに。
「まぁとりあえず、早く訓練を始めようよ」
と俺が言うと、カディアはポニーテールに結ばれた緑色の髪の毛をブンブンと振り回しながら、輝くような笑顔でこう言った。
「まぁでもぉ、その前にぃ、聞きたいことがあるのぉ……」
「……なに?」
「ねぇナイトぉ、今日もぉ、あたしは可愛いのだー! って思うでしょ?」
「…………」
……そう、こやつ重度のナルシストである。
初対面のときから、ずっとこの調子なのだ。
これには、初対面の不審者に対して、遠慮なく突っ込む俺でも流石に引いた。
なので、俺はーー。
「ソー! ソー! やっぱ、カディア可愛いのぉぉぉぉおお!」
「さっすがー! ナイトわかってるぅー!」
俺もノリノリで返す。
それも、踊りながら。
いや、本心では全然乗り気ではない。
ただ、こういうノリに乗らないと、嫌われるかもしれない……。また前世のように嫌われるかもしれないという思いから、乗ってやっているだけなのだ。
まぁ、そうは言っても実際可愛いのは確かだと思う。
大きな瞳に、緑色のポニーテール。
そして、何気にでかい胸。
それが、革命団の真っ黒の衣装とマッチしていて、とてつもない可愛らしさを生んでいる。
そんなふうに俺とカディアが遊んでいるとーー。
「あんたたち、訓練するんじゃなかったのかしら?」
おっと、リセさんに睨まれてしまった。
ていうか、リセが睨むとどうしてもジト目で見られてるような感じがして、すごく萌えるというか、なんというか……。
いやいや、こういうことを考えるのはやめよう。
今は訓練に集中だ。
と、俺がイケメンオーラを放っていると、ナルシストのカディアが口を開いた。
「じゃあぁ、早速、能力見せてよぉ」
「ああ、分かったよ」
この俺の、空き缶を作る能力がどれだけ役に立つのか分からないが、一応試してみる価値はありそうだ。
俺は早速、手に力を込め念じた。
すると案の定、手のひらに空き缶が出現した。
それを見て、リセがクールに言う。
「そのアキカンっていうの、黒色なのね」
そうなのだ。
今リセが言ったように俺が作った空き缶は全て、真っ黒なのだ。
それはまるで、暗黒を象徴しているかのように……。
まぁ、それは今気にしても仕方ないとして。
問題はこの空き缶の使い道だ。
俺が考えていると、青色の髪をかきあげながら、リセが歩み寄ってきた。
「ちょっと、いいかしら」
リセはそういうなり、剣を構えた。
「え、なにをーー!」
金属と金属がぶつかり合う音が響いた。
その音を響かせたのは、リセの剣と俺の空き缶だった。
「ちょ、いきなり何するんだ。危なーー」
「見て。このアキカン、私が斬ろうとしたのに、へこんだだけだわ」
言われて気がついた。
この空き缶、俺が思っていた以上に硬い。
魔力を込めて作ったから、こんなに硬くなったのだろうか。
俺が考えていると、緑髪のカディアが地面に落ちた空き缶を見ながら、俺に質問を投げかけてきた。
「ねぇねぇ、ナイトぉ、アキカンってその大きさでしか出せないの?」
「それができたら使い道も増えるわね」
「え、それはどういう……」
巨乳女子二人が何か思いついたみたいだが、俺には全く分からない。
「例えば、アキカンを巨大化させたものを作って、それを壁にしたら、敵の攻撃を防げるんじゃないかってこと」
なるほど、頭いいなこいつら。
要は、でかい空き缶を俺の足元に作れば、敵の魔法なんかも防げるかもしれないってことか。
「つまり、こういうことかな?」
二人に向かってそう言いながら、俺は巨大な空き缶を足元から出現させた。
「あら、できるじゃない」
「さっすがー!」
うん、できるにはできるみたいだが、普通に作るときよりも魔力を多く消費するようだ。
「じゃあぁ、このアキカンがどのくらい耐久力があるのか、あたしの魔法で確かめてあげるね!」
なるほど、カディアの魔法でこの空き缶の耐久力を測るのは良い手かもしれない。
俺が頼むと、カディアは快く引き受けてくれた。
そして、緑色の髪をバサリと舞い上がらせ、両手の指を俺の巨大空き缶に向けた。
「いっくよー! メガフレーー」
「待つんだカディア」
さっきから黙って見ていた仮面の男ウルガヌスが、カディアの腕を掴む。
「何よぉ、ウルガヌス?」
「今全力で魔法を撃とうとしただろ? そんなことをしたら、アキカンだけじゃなく、この隠れ家までも巻き込むから、やめてくれたまえ」
「むう、分かったわよぅ」
カディアは、ウルガヌスの腕を振り払うと、もう一度両手の人差し指を空き缶に向けた。
「じゃあ、今度こそいっくよー! フレアー」
カディアが、魔法を唱えたその瞬間。
溢れ出る熱気と、地獄の底まで轟くような轟音が響いた。
見ると、俺の空き缶が真紅の炎に、包まれている。
だが俺たちにはなんの被害もなく、カディアが魔法を空き缶一点に集中して撃ったことがはっきりと分かった。
「俺の空き缶、黒焦げだな……」
「ええ、でも……ただ黒焦げになっただけね」
そう、俺の空き缶はカディアの高火力のフレアーを食らっても黒焦げになるだけで、穴の一つも空いていない。
「ま、まぁあ? あたしが全力を出せばこんなアキカンなんて木っ端微塵なんだけどぉ?」」
カディアさん、それは強がりというものじゃありませんかね……。
「まぁどうやら、この世界一かわいいカディアちゃんの前には、アキカンなんて、たいしたことなかったようね!」
「おーん」
「な! なによぉ、もっとチヤホヤしてよぉ!」
カディアが、緑色のポニーテールを腕に巻き付けながら、お願いしてくる。
ふむ、可愛いではないか。
「かわいい! かわいい! カディアかわいいのぉぉぉおー!」
「嬉しい! 嬉しい! チヤホヤされるの気持ちいいのぉぉぉぉおー!」
「……あんたたち、ちょっと怖いからやめてくれるかしら」
はっ! リセさんが白い目で見ている。
いや、違うんだリセさん!
これは、みんなに嫌われてボッチにならないために、やっているのであって本心は違うんだああああああ!
まあ、そんなことはおいておいて。
俺の作った空き缶は自分の意思で消せるので、このボコボコにされた巨大空き缶を片付けるとしよう。
俺は、二人に笑いかけながら巨大空き缶を消した。
それを見て、仮面の男ウルガヌスは言う。
「ふむ。もしかしたら、ナイトは能力を使ったら、うまく魔法が使えるかもしれないね」
「それは、どういうことですか?」
「ホムンクルスが使う能力は、魂と直接結びついている。そして、魔法は魂の回復可能なエネルギー……つまり魔力を消費して、打ち出される。だから能力の扱いが上手い人は、その能力を介して魔法を使いやすくすることができるのさ。例えば、『魔力の回復量が二倍になる能力』であるカディアが、そのいい例だね」
なるほど。ウルがヌスは物知りなんだな。
と、俺がウルガヌスに感心していると。
「さぁ、やってみるんだ。今すぐ」
とウルガヌスは言い、俺の心臓に手を当てた。
その瞬間ーー。
「あ……」
「ふむ、どうやら思いだしたみたいだね」
ウルガヌスに手を触れられた瞬間、空き缶を使って、魔法を使う方法が頭の中に濁流のように流れ込んできた。
この借り物めいた記憶によると、この世界の魔法は呪文や詠唱よりも、魔力を操る力の方を重視するようだ。
しかし、魔力を操るには、長年の努力と才能が必要らしい。
だが、このホムンクルスの体は、寿命と引き換えにそれらを必要とはせず、少しの努力で魔力を扱えるようになるようだ。
「今のは、ホムンクルスとして眠っていた戦闘知識を呼び起こしただけさ。何も気にすることはない。
さぁ、今すぐ能力を通して、魔法を使ってみるんだ」
本当にすごい。
確かに今ので、多くの戦闘知識が理解できた。
よし、やってみるか。
俺は手から、黒色に染まった空き缶を出現させた。
そして、近くの木に狙いを定める。
「フレイムサイダー」
その瞬間、空き缶の飲み口から、炎の光線が飛び出してきた。
が、しかしその炎は俺の狙いとは大きく逸れ、セブラー博士に命中すると一気に発火しーー。
「アチャチャチャチャチャアアアアアアアアア! 何やっとんじゃあああああああ!」
「す、すみませぇん! すみませぇん!」
俺は、ひたすら謝りながら、再び空き缶を構える。
「ジェットサイダー」
空き缶から飛び出した水は今度は狙いを外さず、博士に命中し火を消した。
「し、死ぬかと思ったんじゃが……」
「すみませんでした……」
俺が再び謝ると、セブラー博士は「まぁ、いいわい」と許してくれた。
「しかしナイト。今のはなかなか良かったんじゃないかね?」
ウルガヌスが疲れ切った俺にそう話しかけてきた。
「え、何がです?」
「今のジェットサイダーさ。あれは狙いを外さずに撃てたじゃないか」
確かに。
あの時は必死で、何も考えてなかったが、確かにうまくいった感はあった。
それにしても二回目で狙い通りにいくとは。
これは、ホムンクルスの高性能な学習能力のおかげだろうか。
それとも単に俺に才能があったのだろうか。
「やったじゃないか。これで、一歩前にすすめたね」
「ええ、本当に……。ありがとうございます」
やった、できた。
なにはともあれ、俺の中で、攻撃方法と防御手段の二つが確立した。
これで、戦える。
俺が、喜びに震えていると、ウルガヌスが嬉しそうに言葉を紡ぐ。
「よし、これができるのならば、ナイトにはさらに次のステップに進んでもらおう」
「次のステップ?」
「ああ、そうだとも。期待しているよ」
誰かに期待される。
それだけで、前世で不遇だった俺は頑張れる。
俺が、感動に打ち震えていると、リセがウルガヌスに質問を投げかけていた。
「ウルガヌス、そういえば、ロビタは今日はどうしたの?」
「ロビタには、昨日の夜から人間の国の調査を頼んだから、今はいないよ」
ロビタとは、革命団の三人目のホムンクルスのことだ。
いつも無表情で、棒読みでしか喋らないし、何を考えているのかよくわからない奴だ。
戦闘力で言ったら、ホムンクルスの中ではぶっちぎりで最強なのだが、今回は別の任務で外しているらしい。
「ま、そんなことよりも。さぁ、ナイト。分かったら準備に取りかかりたまえ」
仮面の男ウルガヌスの言葉に、俺は頷いた。
あのウルガヌスが、俺に期待してくれてる……。
いいじゃないか。
うん。
素直に嬉しい。
興奮しつつも、俺は準備にとりかかった。
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登場人物が増えてきたので整理しておきます。
革命団の六人
ホムンクルス:ナイト(紫髪の主人公)、リセ(青髪のクールビューティー)、カディア(緑髪のナルシスト)、ロビタ(まだ登場してないが念のため)
人:ウルガヌス(仮面の男)、セブラー博士(イカれた奴)