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第二話 ヤバイ博士と仮面の男

 目覚めると、白髪の厳つい顔をした老人が俺の隣で奇声を上げながら踊っていた。


 えぇ……何この人……。


 さらにその隣には、一面真っ黒で、目と口の部分だけが銀色の奇妙な仮面をつけた黒髪の男が、その光景を見て満足そうに頷いていた。


「ふおぉぉぉお! 目が覚めたかね?」


 先程まで奇声を上げながら踊っていた白髪の男が、俺が目が覚めたことに気がつきそう言った。


 いや、こわっ。


「え、えぇ」


 返事をして気づいた。


 声が、俺の声じゃない。

 違いは僅かだが、これは確かに俺の声ではない。

 一体どうして?


「ふむ。何が何だか分からないという顔をしておるな。さて何から説明したものか……」

「あ、あの……」

「なんじゃ?」

「こ、これは、どういう状況ですか?」


 自分が不審者に殺されかけたことははっきりと覚えている。

 そしてその後、起きたら奇声を上げるジジイと仮面の男が、俺の隣にいるという意味不明すぎる状況。


 一体、何が起きているのか知りたいので、俺は勇気を振り絞って質問を投げかけてみた。


 するとさっきまで唸っていた博士っぽい爺さんが満面の笑みを浮かべ口を開く。


「ふむ。よーくーぞ! きいてくれた。わしは、正義の革命家セブラー博士じゃあぁぁぁぁああ!」

「え、えぇ……」

「なぁにを困惑しておる! お前もこれから、我が革命団に入るのなら、このくらいで、ボサッとするでない!」

「か、革命団……?」


 俺が、博士の行動に困惑していると、仮面の男が声をかけてくれた。


「困惑させてしまって、すまないね。私の名前は、ウルガヌス・オーエンという。気軽にウルガヌスと呼んでくれて構わないよ」


 こっちの人は、落ち着いた雰囲気で話してくれるようだ。


 変な仮面つけてるけど。


「さて、いきなりで悪いが、この世界と我々のことについて、説明させてもらおう」

「この世界?」

「そうだ。ここは、君のいた世界とは別の世界だ。君は向こうの世界で死んで、こちらの世界でホムンクルスとして、新たに生を受けた」

「え……あ! い、異世界転生……?」


 嘘だろ……そんなファンタジーなことが……。

 いや、でも俺を一瞬で殺したあの自称暗黒神の存在のことを考えると、これは現実……なのか?


「その通りだ。そして、我々はこの世界を平和にしようとする者たち……つまり革命団だ。君も私たちに作られたからには、我々とともに、この世界を平和な方向に革命していこうじゃないか」


 仮面の男ウルガヌスは、俺にそう説明した。

 セブラー博士も揃えて口を開く。


「わしら革命団は、他国の反乱軍などから傭兵として雇われ、実績を残したこともあるのじゃああ! すごいじゃろ!」


 正直、いきなりすぎて、まだ転生したっていう実感がないな。


 それも、よりにもよってホムンクルスに転生するとは……。


 しかも、革命団って、結構危ない組織なのではなかろうか。


 もうちょっとよく考えさせて……。


 などと俺が思考の深海にスキューバダイビングしている最中にもジジイと仮面のインストラクターは話しかけてくる。


「……それで。もちろん――我らの(わしらの)革命団に入ってくれるだろ(じゃろ)?」

「あ、はい」



 ……って、しまったぁぁあああ!


 ノリで二つ返事しちまった。

 じじいと優男の謎の圧の前に屈してしまった。


 今すぐ取り消して考え直す時間を……。


 いや、待てよ。

 異世界転生、革命団、ホムンクルス。

 これ、無双系主人公になれるチャンスなのでは!?


 そうだよ。

 前世で、いじめられていたダメダメ系主人公が、異世界で無双する……素晴らしい筋書きだ……。


 この、さっきから奇声を上げながら踊っている博士と、デザインが意味不明すぎる仮面をつけたこの男の部下、というのが、まぁ……残念だが。


 いや、しかし実績のある革命団ということは、名を売りやすいということか。


 よし、今度こそ。

 この世界で、俺は人気者になるんだ。

 決して、いじめられることのない人生を、歩むんだ。


 そう思えば革命団も悪くないかもな、と俺が考えていると、仮面の男がいかにも嬉しそうな様子で俺の肩に手を置いてきた。


「よかったよ。もし君が入団を断っていれば……、フフッ」


 いや、こわっ! 俺、断ってたらどうなってたの!?

 このウルガヌスという男、最初は優しそうな人物だと思ったが、はためで狂喜乱舞している要介護者同様実は相当ヤバいんじゃないか!?


 ……まあ、仮面をつけてる時点でヤバそうなんだけどね。


「ああ、ちなみにホムンクルスの性能だがね。博士の能力を用いて、生まれつき高い知能、身体能力を有している。

 そしてその肉体には複数の魔法陣が内蔵されているんだ。君が既に我々の言語を解しているのもその魔法陣のひとつの効果だよ。さらには戦闘技術に関してもその魔法陣の中にある。

 大丈夫、ホムンクルスの適応能力を活かせば一ヶ月で使い物になるはずだ」


 す、素晴らしい! ……のだが、喜ぶ前にどうしても一つ聞いておきたいことがあった。


「あの、どうやって俺をこの異世界につれてきて、ホムンクルスにしたんですか?」

「おっと、そうだったね。我々は君の最初の質問に答えていなかったね」


 そう言うなり仮面の男ウルガヌスは、いつの間にか卒倒し地面に伸びている博士を指さした。


 やけに静かだなと思ったよ。


「ホムンクルスは、基本的に博士の能力で作る。しかし、君のような異世界人の場合は、まずこの私が莫大な魔力を用いて異世界の死者の魂をランダムに呼び寄せることになる」


 ふんふん。俺は一度死に魂だけの存在になったタイミングで、ちょうどその魔法が発動し、たまたまこの世界に引き寄せられたということか。


「と、いうことは俺以外にも異世界人のホムンクルスがいるんですか?」

「いや、いない。ここには君の他に三人のホムンクルスがいるが、彼らはもとからこの世界の住人さ」

「じゃあ、なんでわざわざ異世界人を連れてきて、ホムンクルスにしようだなんて考えたんですか?」

「なに、一つの実験だよ。異世界人のホムンクルスと現地人のホムンクルス、どっちが強いかの、ね」


 ……俺は、前世で俺を殺した暗黒神とこいつらが、グルなんじゃないかと疑っていたが、そこまでちゃんとした理由を、スラスラと言えるということは……まぁ、今は信用してもいいだろう。


 俺とウルガヌスが知的なセッションを繰り広げている中、知らん間に目を覚ましていた博士が地面の上で平泳ぎをしているのを見て「あ、やっぱ信用できないわ」と少しだけ思った。


 ていうか、待てよ。

 転生したってことは、見た目も変わっているのか?


 前世の俺はお世辞にも顔立ちが整ってるとは言い難かった。もし俺が原宿でスカウトされるようなゴリゴリのイケメンだったらクラスの奴らの態度も違っただろうと何度も妄想した。


 異世界転生系のラノベ小説において転生したキャラの容姿が超美形になっているというのは定番中の定番だ。


 ワンチャン、俺もイケメンボーイになってるかもしれん……。


 と思い、早速聞いてみた。


「あの、すみません。鏡……ありますか?」

「鏡かい? ならばこれを使いたまえ」


 仮面の男ウルガヌスはそう言うと、「ミラー」と呟いた。

 すると空中に魔法の鏡が作り出され、俺の顔の前で静止する。


 ごくりと唾を呑み、おそるおそるその鏡版を覗きこむ。

 そこに映し出された俺の姿はーー。


「い、イケメンボーイ……!?」

「急にどうしたのかね?」


 どうしたもこうしたもないだろう。

 この紫の髪の毛、そして艶々の肌。


 イケメンボーイ!


「これで、異世界の超絶美人にモテモテだ……」

「心の声が漏れているようだが大丈夫かね?」


 異世界転生特典のチート能力で、無双してみんなの人気者になる……その光景を想像しただけで、前世でいじめられていた俺からすれば、救われるような気持ちだった。


 本当に……全く見慣れないイケメンなのにも関わらず不思議と懐かしいとさえ感じるほどしっくりくるイケメン具合だ。


 俺が、これからのことを妄想していると、さっきまでしゃかりきに地面でスイミングを行っていたセブラー博士がむくりと起き上がり、俺に向かって話し始めた。


「当然じゃろう。どうやらわしの能力は数千年後の技術に相当するものじゃからのう。姿かたちも自由自在ということじゃ。どうじゃ? わしのセンスに満足してくれたかね?」

「はい、すごっく!」


 俺はいままでこの爺さんのことを勘違いしていたのかもしれない。この爺さんはきっと聖人か何かなのだろう。この爺さんはただの変態狂人ボケヤバ老人じゃなかったんだ!


 そんなふうに俺がゼブラー博士のことを見直していると、博士は先ほどとは別人のように威厳ある面持ちで話しだす。


「さて、ではそろそろ本題にいくかのう……。実はホムンクルスになった者は、能力に目覚めるのじゃ」

「の、能力ぅぅぅぅ!」


 博士ぇ! あんたすごいよ! きっと博士は神なんだ! きっとそうだ!


「そうじゃぁぁぁぁ! ホムンクルスになる前に乗り越えた瀕死の経験が、そのときの記憶を元に特別な能力を生み出させるのじゃ!」


 マジでラノベあるあるを綺麗に踏んでいくな!

 そんなすごい能力が俺にあるのなら俺、英雄にでもなれるのでは!


 いや待てよ。


 俺が瀕死のときに思ったのって……。


「ふぉっふぉっふぉ! お前は瀕死どころか、死んで転生しておるのだからな! 他の三人のホムンクルスよりも強い能力を持っておるに違いない! それになんといっても、お前は異世界人じゃ。 ほれ、早速使ってみよ! さぁ!」


 俺は、セブラー博士の説明を受けて、早速能力を使ってみた。


 全身がかっと熱くなる。

 まるで発熱したみたいな感覚だ。無意識のうちに身体中の熱が右手に集まっていく。


 すると、手からーー。


(これが俺の能力!)


 空き缶が出てきた……。


「な、なんじゃこの物体は? 新種の爆弾か!」

「違います。どんだけ爆弾好きなんですか」


 俺は、うんざりしながらセブラー博士に返事した。


 嘘だろ。異世界転生恒例の転生特典の能力が……空き缶を作るだけ、だと……?

 死ぬ間際に、空き缶だらけのゴミ箱に入っていたから?

 死ぬ瞬間に空き缶のことをちらっとでも考えたから?


 そんなので、俺の能力がこんなクソザコになるのか……。


 そこから俺は二人に、空き缶がどういう物体なのかを説明した。

 そのときの二人の落ち込みようは半端なかった。


 セブラー博士に至っては、いきなり白目を向いて、絶叫し始めたくらいだ。


「なぜじゃ! お前頭おかしいんか! 普通そんなことを思いながら死ぬ奴はおらんぞ!」


 セブラー博士にめちゃくちゃ怒られた。


 だが、それよりも気になったのは、ウルガヌスの方だった。

 仮面越しでも分かるくらい悲しそうな様子で。


「そんなに……自分の死に対して興味がなかったのか……君は、そこまで……」

「……」


 そこまで、悲しそうな様子で言われると、なんだかすごく泣きそうになってくる。

 しばらくの沈黙の後、最初に言葉を紡いだのは、仮面の男ウルガヌスだった。


「はぁ……困ったな。君には、どうしても前線で戦って欲しかったのに」

「あのー、その、本当にすみません。召喚してくださったのに……」

「いや、我々のことよりも、君のことだ」

「へ?」


 その予想外な答えに俺は、間抜けな声を上げる。


「君たちホムンクルスは、基本的に短期間で強くなれる。それに、生まれつき驚異的な再生力もある。だが、そのデメリットとしてだな……。博士の魔力がなければ、寿命が10年しかない」

「は、はあぁぁぁぁ?」


 なんだよ、それ。

 やっと、不幸な俺にも、運が回ってきたと思ったのに……。


「……ということで、だ。こうしよう」


 ウルガヌスが人差し指を立てる。


「君には、二ヶ月の時間をあげよう。その間に、我々が期待していたほど強くなれなければ……」

「……なれなければ?」

「我々が、君のために使う魔力は最低限のものとなるだろう」

「な……!」

「もちろん私や博士、それに他の三人のホムンクルスも、この二ヶ月の間は、精一杯協力させてもらう。だから、君も一生懸命頑張ってほしい」


 マジかよ……。


 博士がいなければ寿命10年。

 能力は空き缶を作るだけ。

 おまけに、二ヶ月の間で強くならないといけない……。


 だが、これだけハードな環境で勝ち抜いていけば、自然と人気者になれるだろう。


 最初から、無双系主人公は無理だったけど、成り上がり系主人公には、なれるんじゃないか?

 よし、それでいこう。


 俺は、俺が幸せになれるその瞬間まで諦めない。

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