第三話 異世界。そして高揚。
目が覚めると、俺は澄み渡る川の辺で仰向けになっていた。辺りは綺麗な草花が川に沿って咲いている。
痛みなどの違和感は全くない。
「おかしい……」
目覚めて秒で結論がでる。
そう、とても悲しい事なのだが、引きこもりを極め、限定版のゲームが出た時しか外に出ない俺が、こんな綺麗な川の辺で横になっているわけがないのだ。
空がいつもより近くに見える。普段外に出ないからだろうか……いや、明らかに近い!
いつもと違い過ぎる空間に電光石火の如く立ち上がり、鬼のような形相で辺りを見渡した。雰囲気に似つかわしくない動きをした悠夢は冷ややかな視線が送られる。
……しかし、俺はそんな視線を気にする暇も無かった。
「……じゅ、獣人?!」
栗色で可愛げのある耳と尾…紛れもなく異世界の大御所種族、獣人。恥ずかしい出来事が唐突な出会いに上書きされる。
獣人だけじゃない。ドワーフ リザードマン ジャイアント そしてエルフ……。
今までラノベや異世界アニメでしか見たことのないような種族が沢山こちらを見ている。
俺はバカではあるが状況の読み込みと運に関しては昔から長けていた。
「ーー俺は異世界に“転移”したんだ……!」
異世界に転移したいと心から願っていた俺に、焦りなどのマイナス感情は一切無かった。感動、興奮、期待、高揚、希望、未来などの超プラス感情。
「よっっっしゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
ドラゴンの咆哮にも負けない凄まじい声を上げながら、周りの視線など全く気にせず彼は街のある方へ走り出した。
◇
コンクリートのようなものでできた大きな門から街の中に入って行くと、そこは沢山の種族で賑わっていた。
「うわぁ!すっげぇ!」
地球で言うサナア旧市街の様に、赤と白レンガで構成された街並みの中央に巨大樹がそびえ立つ。街は巨大樹を守るように連なり、冒険者は街を守る為に武器を背負っている。担がれた武器やガタイのいい男の手に握られた回復しそうな小瓶は異世界感を更に彷彿とさせる。
「げっ、 ハイ・ポーションで五〇〇Fって高すぎだろ。さっき見た店三〇〇フォ……」
足が止まる。
「……まて、何故字が読める」
頭に入りすぎて全く気づかなかった。なぜ、ロクに英語も読めない俺が、見たことのない詠唱の様な文字を違和感無くスラスラ読めるのか……
「やはり、異世界ストーリーの醍醐味、“チート級の能力を元々持っている”と言う定義は本当なんだ!」
こう考えると、話がしっかりまとまる。
世界の危機とかで、何か超強い才能のあるこのニートを転移させ、超かわいい美女戦士達と協力しながら魔王か何かをぶっ倒す。そして待っているのは世界の誰もが羨むであろうスーパーハーレムハッピーエンド。だから転移特典的なものでこの世界の言語を完璧に読める。つまり【超最速言語読解】と名付けよう。
うん。我ながら素晴らしい仮説を立てれたと思う。
「……と、なると__グフフ」
俺は不気味な笑い声とともに、賑わう街を後にするのであった。