第二話 最強ニート。そして転移。
◇
ユウムが転移される数時間前。とある空間。
「……こんなに才能あるのにもったいないなー……」
パステルカラーで埋め尽くされたメルヘンルームの机に置かれた透明な結晶体。そこから地球の様子を見ていた少女神イズモの顔が微かに映り込む。
少女神と言われるだけあって見た目も思考も幼いが、空色の長い髪と瞳、そしてその整った顔つきは誰が見ても『か、かわいい……!』と思ってしまう程だ。
「こんなに才能持った人たちが沢山いるのにー……あっ!いい事思いつーいたっ!」
イズモはその場で立ち上がり、小さな両手を結晶体に向ける。少女の口から出ているとは思えない言葉が詠唱されていく。
そのとき。
「待って!」
後ろの棚に置かれていた二匹のうさぎが小さな背中に飛びかかる。イズモが体制を崩し、詠唱が中断されてしまった。
イズモの顔が結晶体にぶつかる。
「いたーい!アメ!ユキ!何をするのよ!」
鼻と額を真っ赤にしながらイズモは小さな手を激しく振り回す。アメ、ユキと言われたうさぎ達は素早く距離を取った。
「それはこっちのセリフ!」
「イズ! 今の【魔法】で何しようとしたの!」
浮遊している二匹のうさぎ人形、アメとユキはイズモに問いかける。イズモが生まれた時から面倒を見ていた二匹は、イズモからしたら親のような存在だ。
「……い、いやぁ、地球って星の様子を見てたんだけどね、才能があるのにそれを地球で生かせなくなってる人がいるなら、その人たちみーんな異世界に転生させたらいいかなあぁぁって……テヘペロっ」
もう一度言っておくがイズモは神だ。だが考えがまだ幼い。
アメとユキは呆れた目で少女神を見る。
「考えなしにそんなことしないのっ!」
「そんなことをしたら地球で大パニックが起きちゃう!」
「そもそも!どこの異世界にこれだけ沢山の人を転送させるの!」
「行動する前にしっかり考えて!」
アメとユキは半泣きになっているイズモに叱りつける。
「……ぐすっ、 ご、ごめんにゃしゃい……」
彼女のこういう素直な所は褒めるべきである。
「……だけど、イズの思ってることは分からなくもないよ!」
「少し工夫して実験すればもしかしたらできるかも!」
「ほんと……?うれしい!ありがと!」
イズモはそれを聞いて満面の笑みを浮かべる。
彼女の笑みは全ての人を幸せにできるかわいさである。
「よーし!そうとなればその工夫と実験に参加してくれる候補者を探さないと!」
一気にやる気を取り戻したイズは早速本題に取り掛かろうとする。
「そのことなんだけどね!私たちに任せて欲しいの!」
「いい考えがあるから!」
アメとユキは自信満々にイズに言う。
「そっか!わかった!じゃあアメとユキに任せるね!」
イズはそういうとぴょんぴょん飛び跳ねながら部屋を後にした。
これが少女神イズモと、一人の少年佐藤悠夢の出逢いのきっかけ。そして【天空都市】アカデメイアを中心に数々の歴史が大きく変わっていくことになるのである。