第十五話 理由。そして錬金。
工房は熱気で溢れていた。四〇度弱といった所か。
「おいイズ、この世界は常に同じ温度なんじゃないのか?」
「何もしなければね!この温度は【魔法】によって上昇してるの!」
ヘイトスの【魔法】は素材を調合させるために凄い熱を出すんだー!と、イズは小さな手をうちわのようにパタパタさせながら言う。絶対その手で扇いでも意味ないぞ…なんて口が裂けても言えない。
「イズは無理やりここに居なくてもいいんだよ?暑いなら外で待っといたら?」
善意のつもりで行ったのだが、イズはまた顔を膨らませる。
「いいの!!私もここで見とく!」
そう言いながら顔を膨らましながらさらに手をパタパタ動かす。なんとも言えない可愛さである。
「武器はアルミニウムと銅、それとこの世界に二番目に硬度のある黒曜石を使うです。」
サフィアがそう言うと部屋の歯車が回転しだし、作業台の中から漆黒の石が出現。おそらくこの石が黒曜石だろう。ユウムはこの男のロマンが詰まった機械仕掛けに感動した。
「それと、冒険者が身につけている防具はただ重いだけなので最小限に抑えるです。大抵の装甲は護符魔導書と自動回復魔導書で補填するです。」
そう言うと、サフィアはスタスタと歩き、壁際の棚に陳列してある二冊の本を取り出す。
「魔導書って確か高価なものじゃないのか?」
目を輝かせながら作業を興味深く眺めていたユウムが不思議そうに言う。
「はいです。この魔導書はヘイトス様の【契約者】であった時に頂いた物です。」
「なるほど、それでこんなにたくさんあるのか。」
「はいです、【契約者】抜けてからは農家の道具ばかりで、装備関係は全く作ってなかったですから」
作業を黙々と進めるサフィアは机の上に置いたアルミニウムと銅、そして黒曜石に目を向ける。
「先に武器を作ります。ユウム様の【魔法】だと、重量のある武器は邪魔になる気がするです。軽量武器で遠距離系を考えたのですが、時空を作り出す能力であれば、カウンターや反射でうまくカバーできると思ったので、軽量近距離武器を製作するです。」
「でもあの重そうな石使って軽量武器とか作れるのか?」
「そのためにアルミニウムを使います。アルミの軽さと黒曜石の硬度。それに銅を調合することによって、カーボンよりも更に硬度な金属ができるです。」
黒曜石とカーボンなんて地球じゃ調合できなかったよな……さすが異世界。さすが魔法。それにしてもここまで武器についてこだわってるのに、どうして【契約者】を解消させられたんだ……?
「これがデザイン案です。なかなかいい案です。」
そう言うと鉛筆で描かれた一枚の設計図をユウムに見せる。
「……おいサフィア、これ渡す設計図間違えてないか?」
「……あってるです。」
その設計図に描かれていたのは、まるで百均に売ってる子供用の刀を超可愛くデコレーションしたようなものだった。
(……うん。おそらくこれだな、解消させられた理由。これだけ真面目に渡されたら『はい』しか言えないもんな。綿みたいなの付いてたりするし……ヘイトス様の気持ちがわかるぜ……)
だがここで引き下がるわけにはいかない。ヘイトス様のためにも、俺はこの状況を変える……!そう思ったユウムはその設計図の横に自分の持つ全てを思い浮かべて、最高の武器デザインを高速で描く。そしてそれを立ち尽くすサフィアに見せる。
「こんなのとかどうだ?」
長めの剣で柄には歯車を絡ませたデザインだ。
「……たしかにこれもいいかもですね……」
ユウムの描いた設計図を見てそう言うサフィア。横から“こっちの方が可愛くていいじゃん!”なんて耳打ちで言ってくる幼女は無視することにしよう。
「分かりました。ユウム様の案を使わせていただくです。確かにこれくらい攻めるのもありかと思うです。」
そう言うと、サフィアは壁に立てかけてあった農作業道具の型を机の上に持ってくる。そして【魔法】を発動させると、型の上に魔方陣が出現。みるみるうちに農作業道具の型がユウムのデザインした剣の型へと変形していく。
(これが錬金術……凄い……)
次にアルミと銅、黒曜石に魔法時を展開、サフィアが前に広げた手を握ると、三つの素材が液化。そしてその場で浮遊している液化した素材を机の横に置いてあった一つの瓶に流し込む。
「この瓶には耐熱魔法がかけられているから三千度くらいまでなら手で持っても平気なのです。」
火山岩が液化すると温度が千二百度弱だから、おそらく黒曜石の融点は二千度ほどだろう。魔法すげー、と、ユウムは改めて感激する。
サフィアは液化した素材が流し込まれた型に魔法陣を展開。みるみるうちに硬化し、一本の剣が完成した。
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