第9話 信頼
「あぁっ!!」
「声が情けない。次」
「セイッ!」
「気合いが足りない。次」
「ずあぁっ!!」
「決死の覚悟っぽい雰囲気は出ているが実力が足りん。次」
「す、すごい……」
まだ戦闘が開始して3分といったところだが、ウジャウジャ集まっていた衛兵どもは残すところ半分くらいになっていた。
いかんせん弱過ぎるのだ。
暇すぎて相手の剣を叩き折る前にコメントを残してしまうくらい余裕があった。
連携もなければ単騎で戦える実力もない。
正直拍子抜けだ。
あと半分もいんのかよとうんざりしつつ残りに目を向けると1人だけ、目に止まる奴がいた。
部屋に入った時にグランツとステインの他に1人だけいた、あの衛兵だ。
他は今までのと変わらない雑魚だがこいつは違う。
さっきから戦闘に参加しているように見えるこいつは、実際のところ全く戦闘に参加してはいない。
剣を振りはするが俺に当たらない位置を切るし、かと言って俺の攻撃範囲内には絶対に入ってこない。
俺は相手の魔力を一目見ただけで把握できる。
こいつには魔力がない。
だというのに、さっきから隙という隙がないのだ。
魔法を撃ち込んでも当たる気がしない。
不気味だな。
飛び込んできた雑魚衛兵を蹴り飛ばしつつどうするか考えた末、
「アリシア、俺に捕まって歯食いしばってろ」
「えっ、なんですか殴るんですかシオンさんの人でなしっ!」
「いいから。-----《爆裂球》」
爆破魔法で天井を崩し、その間に俺たちは空中へ飛び上がる。
「っ!すごいすごいシオンさん!
飛んでる、私飛んでます!」
「おー本当だ俺すげー。
あ、手離すなよ? 落ちたらクシャってなっちゃうからな」
飛行魔法ではなく正確には重力操作を細かくやっているのだが、ちゃんと飛べているなら問題ない………………………………………………………………
「あの……シオンさん?」
「言うなわかってるから」
「落ちてきてません?」
「落ちてきてません」
言うなっていうのに。
こういうのは落ちたと自覚した瞬間に初めて落ち始めるのだから。ソースはあの有名なネズミとネコのアニメ。
「久しぶりにやるから制御が微妙なんだよ……………っと、これで平気だろ」
もう一度重力を弄って安定させるとアリシアはすごいすごーいとはしゃいでいる。
そういえば手荒いことはするなと言っていたような気もするが、これはこいつ的にはセーフなのか?
グレーゾーンどころか真っ黒なのではと思い王女様の顔見ると、彼女は察したのか言葉を紡いだ。
「よくよく考えたら、私を利用する人たちに容赦する方がおかしかったことに気づいたのです!
さっきシオンさんが戦ってるときだって、やっつけちゃえって思ってました」
「でも人が死ぬのは嫌なんだろ?」
「はい。でも心配はいらないのです!
シオンさんが人を殺したりするわけないじゃないですか!!」
元気のいい宣言に面食らってしまう。
随分と買い被られたものだと思う。俺はそんな出来た人間じゃないのに。
でもまぁ、そうだな。
今回に関しては、彼女のそれが買い被りでなくなるようにする努力はすると決めている。
「うぅ……」
「くっ……!」
下に築かれた瓦礫の山を見下ろすと、目論見通り、死んだ奴はいなさそうだった。
天井を爆破した衝撃で体制を崩し、そこに重力を弄って少し軽くなっている瓦礫を振り掛けると見事に衛兵どもは動けなくなった。
殺してはいないと言っても足の1本や2本折れてる奴はいるかもしれないが、それくらいはご愛嬌ってことで勘弁してほしい。ジジイに労災保険でも下ろしてもらえ。
あれ、そういやそのジジイはどこいった?
アホ王子は大人しく衛兵どもと一緒に埋まってるのに見当たらない。
さっきまでいたような気がするんだが………。
その時だった。
「我、願望器に願う!その男、シオン=アルヴァレズに死を!!」