第7話 忠告
グランツの部屋にたどり着くまでもう少しといったところで薄々疑問に思ってたことを消化することにした。
もちろん門番に聞こえないように小声でだが。
「なあアリシア?」
「なんですか?シオンさん!」
やけにテンション高いな。
さっき不安でガチガチだと思ったらいつのまにかこんなんだ。こいつはホントよくわからない。
「お前の力って、いつから使えたんだ?」
そう。これだけ強烈な力だから当然絶対能力だと思っていたのだが、よく考えると生まれつきそんな力を持っていたならゼッケンホルスト家が手放すわけがないのだ。
となると後天的、それもナイル家に嫁いでからということになるが、そこがわからない。
魔法以外の能力は絶対能力か、神話由来の魔道具くらいのもので、彼女はそんなもの使っている様子はない。
いや。
他にもあるにはある。
1つだけ。
でもそれは、それだけはダメだ。
それがあるということはつまりあいつらが絡んでいるということだから。
俺は軽い口調とは裏腹に内心では祈るような気持ちでアリシアに聞いてみる。
すると、悪い方の予感が当たったようで、
「ナイル家に嫁いでからだから……。
1年くらい前かな?
どうしてそんなことを?」
「いや、大した意味はないよ。雑談だ雑談」
「なんですかそれ?変なシオンさん」
彼女はコロコロ笑って俺に纏わりついてくるが、俺はそれどころではなかった。
絶対能力でもない。
神話の魔法具でもない。
それが意味するのはただ1つ。
それは--------------------…………………。
ふうと息を吐き、認識を改める。
気は抜かないようにしないとだな。
覚悟を新たにして王女様にもう一つ質問を飛ばす。
「お前は、もし仮にその能力を失うことになったらどうする?」
彼女はんーと人差し指を顎に当て考え、やがて言った。
「本当はこの力で皆を幸せにしたかったんですけど……。こんな力無い方が良かったのかな、なんて思っちゃいます。無くなっても後悔はしません」
こいつらしい、優しい願い。
それを踏みにじったナイル家に対する怒りを再認識した。
そしてそれと同時に、「無くなってもいい」という言葉が聞けて良かった。
そういうことならきっと大丈夫だ。
俺が上手くやれば、おそらくは。
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「ここがグランツ様の部屋だ」
「おう。案内ご苦労さん」
もう行っていいぞという意味を込めたつもりで言ったのだが、何を思ったのか門番は動かずにこちらをじっと見ている。
男に見つめられてもなぁ……。
「なんだよ?」
妙な気分に耐えきれず、俺は口を開いた。
「……そういえば、お前の名を聞いていないと思ってな」
「あー……」
別に聞く必要も答える必要も無いように思ったが、聞かれて答えないっつうのもあれだしな。
「シオンだ。お前さんは?」
「ガイだ。……迷ったんだが、お前は悪いやつじゃなさそうだから一応言っておく。
これは忠告だ。
グランツ様の機嫌はアリシア様を見ればすぐに直るだろう。
だから、絶対にそのあと機嫌を損ねるようなことはしないことだ。死にたくなければな」
「なんだそりゃ? どういう意味だ?」
「俺に言えるのはこれだけだ」
よくわからん。
アリシアなら知ってるかと思い彼女に目を向けるがブンブンと首を横に振るだけだった。
まあ、わざわざ忠告してくれてるわけだから素直に聞いとくかね。できる限りはだけど。
「肝に銘じとくよ」
「ああ」
そういうとガイは踵を返し来た道を戻っていく。
「ガイ」
「なんだ?」
「お前はアリシアの能力がなんだか知っているのか?」
後ろでアリシアがはっと息を飲む気配を感じる。
ガイは歩みを止めこちらを振り返り答えた。
「いや。アリシア様とは今日初めてお会いしたが……。グランツ様が目の色を変えて捜索を急いでいたのに関係があるのか?」
「知らないならいいんだ。変なこと聞いて悪かったな」
言外にそれ以上は聞くなという意味を含ませて言うと門番は察したのか、
「話せないのであれば何も聞くまい」
そう言ってガイは今度こそ去っていった。
よかった。
何も知らないということはアリシアに願いを叶えてもらったこともないってことだ。
それならばあいつは死なないで済むだろう。
「シオンさん、最後のはどういう……?」
「なんでもねぇよ。さ、とっとと済ましちまおうぜ」
俺は不思議そうなアリシアの肩を押し、グランツの部屋をノックした。