第6話 誓い
アリシアの顔を見せると門番はたっぷり5秒もフリーズしたがやがて再起動し、門を開けて俺たちを中へと案内した。
グランツは屋敷の奥の方にいるらしく、長い廊下を歩いていると、先程までとは180度真逆の態度で門番が話しかけてきた。
「ありがとう少年!まさかアリシア様を保護し、連れてきてくれるとは!グランツ様もお喜びになる!!」
「お、おう」
ここまで手のひら返しが激しいとこちらも対応に困ってしまう。
長年ぼっちやってるとこういう時にどもっちゃって困るよね。なんというか、我ながらキモい。
そこでふと違和感を覚える。
キョロキョロと周りを見てみるとすぐに理由がわかった。
後ろをついてきているアリシアが妙に静かなのだ。
俺の家からここに向かう道中では捜索隊が出されているのを忘れているのかというほどよく喋るし、辺りをうろちょろしては俺の元に走ってくるという落ち着きのない行動を繰り返していたのに。
「おい、アリシ…」
ア、と言い終わる前に俺の呼びかけは途切れた。
彼女が俺の服の裾をぎゅっと掴んだからだ。
俯いているから顔は金髪に隠れて見えないが、掴んでいる手は震えている。
ごめんな。
俺は内心で彼女に謝っていた。
怖くないわけがないんだ。
先日知り合ったばかりのよくわからない男しか頼るものがない状態で、ナイル家に戻ってきているのだから。
もしも俺が裏切ったら。
そうでなくとも、俺がヘマをこいて殺されたら。
彼女は今度こそこの屋敷から出られなくなり、残酷な願いを叶えることを強制される。
そんなことには絶対にしないし、させない。
後者はともかく、前者の不安くらいは払っといてやらないとな。
「アリシア」
「シオンさん……」
名前を呼ぶと、彼女は俯いていた顔を上げる。
まだ少し幼げだが整った顔を不安げに歪めている。
俺は裾を掴んでいた彼女の手を取り、跪きながら彼女の手にキスをし、言う。
「俺は絶対にお前を裏切らない。
お前が幸せを掴むのを見届けるまでは絶対に死なない。誓うよ」
この動作は遠い昔、俺がまだ人間で、賢者なんて呼ばれていた頃の主への誓いの印。
アリシアは少し驚いたような顔をしていたが、やがて笑った。
そして俺の手を両手で包み込みながら、
「はい。約束ですよ?」
と言った。
「ああ。約束だ」
俺も返す。
それで十分だった。
俺たちは少し前の門番に追いつくべく歩みを速めた。