第5話 ナイル家へ
「あの建物がナイル家の屋敷です」
「これはまた立派ですこと」
俺たちはナイル家の屋敷を遠巻きに見ていた。
無論、ナイル家の当主にやつの息子とアリシアの
婚姻をなかったことにしてもらうために来ている。
そう、あくまで平和的に、話し合いで解決しようと思っていたのだがーーーーーーーーーーーー
「アリシアは見つかったのか!!」
「まだです!!」
「ぬうぅ……あの小娘、戻ってきたらただでは済まさぬ!もうやめてと懇願したくような願いを叶えさせるとするか。そうしたらあの憎たらしい目障りな王家も終わりよな。ククク……」
「こりゃあ無理そうかね」
「?シオンさん、何か聴こえたんですか?」
「気にしなくていいよ」
魔法で姿を隠してついでに聴覚を強化し情報を収集、状況の把握に努めていたのだが、アリシアに強化をかけなくて本当によかった。
こんな会話聞かせるわけにはいかないもんな。
「しっかし、どうしたもんかね」
正直、アリシアに対するあまりの扱いの酷さにブチ切れかけていた俺はナイル家を徹底的に叩き潰すつもりで家を飛び出そうとしたのだが当のアリシアに、
「ひどいことはしないでくださいね…?」
と頼まれてしまったのでとりあえずは平和的にいこうというスタンスを取っているというのが今の状況だ。
この子は少し優しすぎるのではないだろうか?
自分を道具としてしか見ていない奴らのことなど気にすることないだろうに、と言ってはみたものの、アリシアは頑なに受け入れはしなかった。
このクソみたいな世界でよくもまあここまで真っ直ぐに育ったもんだよ。俺と足して2で割りゃちょうど良くなるかな?俺マイナスすぎるな。
「とりあえず話をしてみないことにはな」
「はい。でも私はともかく、シオンさんと一緒にというのは少し難しいと思います。屋敷は結界が張ってあって、部外者は弾かれちゃう…」
「いやぁ、簡単だろ」
「え?」
頭の上にわかりやすくハテナが浮かんでいるアリシア。
俺はそのハテナを取り払うように言った。
「部外者じゃなけりゃいいのさ」
ドヤ顔で王女様の方を見れば、
「???」
ハテナ増えてんじゃねぇか。
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「すみません。ナイル家の当主様に謁見させて頂きたいのですが……」
「何者だ貴様は。グランツ様は今ご多忙であられる。どこの者とも知れぬ貴様などに割いている時間などない!」
門番に話しかけてみたのだが-------------------
ピリピリしてんなぁ。
まあ当然と言えば当然だな。
何せそのグランツ様とやらがイライラしてその皺寄せがこいつらに来てるんだろうし、同情しないこともない。
俺は気にせず続ける。
「ご多忙というのは、第3王女アリシア様の捜索のことですか?」
「!? 貴様、どこでそれを」
「風の噂ってやつですかね」
「チッ。どいつもこいつも使えない……」
情報が漏れていたことに対してイライラしているらしい。
実際は漏れてないんだけどね。アリシア本人にエンカウントしちゃったからね。仕方ないね。
まあでも何の恨みもないけどこいつには意味もなくイライラしてもらうとしよう。
「知っているなら尚の事だ!早く去れ!!」
「いいんですか?俺がここで帰ったらアンタの首吹っ飛ぶんじゃないですかね?」
「……? それはどういう……」
鈍い奴だな。
後ろについてきていた王女様のフードを外しつつ言う。
「そのアリシアをわざわざ連れてきてやったっつってんだよ分かったらさっさと門開けろボケ」