第4話 願望器
願いを叶える力だって……?」
俺は思わぬ告白に面食らい、アリシアに聞き返した。
「はい…。他人の願いを叶える…いえ、叶えてしまう能力です。それも、願いの善悪を問わず」
「そりゃまたとんでもねぇな…」
赤ん坊が生まれつき通常の魔法とは違う、『絶対能力』と呼ばれる特異な能力を持って生まれてくる場合がある。
そしてそれは魔法の素質、つまり魔力因子が多ければ多いほど、可能性は高くなり、より強い能力になる。
ただ大抵は炎を纏えたりとか身体を硬質化できたりといった程度だ。せいぜいケンカで有利になるくらいだろう。
アリシアは王族だから絶対能力を持っていること自体はおかしくないが、よりにもよって『願望器』とはね。
しかも対象が全方向に向いている。
悪用しようとすればいくらでも出来てしまうってことだ。
あぁ、なるほどな。
「ナイル家はお前を利用しようとしたのか」
「……初めは大したことのない願いだったんです。交渉が上手くいくようにとか、それくらいで。でも、どんどん悪い方向に向いていって……」
そう語るアリシアはとても辛そうで、まだ幼さの残る顔を悲しげに歪めている。
「ナイル家を脅かす可能性のある人間を手当たり次第に怪我させるように願ったりして…。
もちろん私はそんなことを願うのはやめるようにと何度も懇願しました!
でも聞き入れてはもらえず、ついには屋敷から出られないようにされてしまいました…」
思わずテーブルの下の拳に力が入る。
聞けば聞くほど胸糞悪い話だ。
「私、いつお父様を、家族を殺せって願われてしまうのか、怖くて怖くて仕方なくて……!!
それで……っ」
そこまで話したアリシアはついに堪え切れなくなったのか、大粒の涙を零し、俺に抱きついてきた。
俺もそれを拒むようなことはせず、受け止めてやる。
「…辛かったな」
「…っ……」
返事はなく、アリシアの嗚咽だけが部屋に響く。
顔があつい。
ああくそ。
柄にもなく頭にきてるらしい。
こいつの周りにはたくさんの人間がいただろうに
どうして誰も、
こいつの幸せってやつを願ってやらなかったんだ。
「これからお前はどうするつもりなんだ?」
意識して声のトーンを抑え聞くと、アリシアは俺にすがりついたまま顔だけ上げた。
「家族と……お父様やお母様たちと一緒に暮らしたい!
でも、どうしたらいいんですか!?
私がここで逃げ帰ったら、ナイル家との関係は修復出来ないものになってしまいます!
そんなの、許されるわけが……」
「許されないわけがないだろうが!」
「っ!?」
声に驚いたのか、アリシアの肩がビクッと跳ねるが気にせず続ける。
「なんで知り合いでも何でもない他人の願いを叶えてきたお前が、自分の願いを叶えちゃいけないんだよ!!
そんなのおかしいだろ!!」
「なら!どうすればいいんですかっ!?」
アリシアの問いに俺は答える。
「決まってる」
投げ出したがっていたさっきまでの自分の意思を組み伏せるべく。
「その婚姻、なかったことにしてやるのさ」