第2話 アリシア
知らない人に声をかけるのって、本当に勇気がいる上に大抵は面倒事の入口だったりするから質が悪いよね。
相手が同年代や大人だったら変なこと言わないように気を遣うし、子供だったら子供だったで気は遣わないがこちらから声をかけてるってことは迷子とかの場合が多いだろう。
ほら、面倒事だ。
しかも子供の場合、周りの人間に不審者として通報されるリスクを負うので厳しい。よってその場に応じた適切なリスクマネジメントが求められることになる。周りの大人を警戒してキョロキョロしたりとかね。……通報待った無しだな。
つまり何が言いたいかというと、できる限り知らない人間には声をかけないで生きた方が楽だ、という事だ。
何故こんな話をするのか。
その理由は、今俺の家のベッドで寝ている金髪碧眼の少女にある。
俺に泣きながら助けを求めた少女は、言葉を発してすぐにまた気絶してしまった。
俺は厄介ごとに自ら首を突っ込んでしまったことに若干の後悔を覚えつつ、この子をグランドの街にある俺の家まで運んだ。
身につけている服は高級品。
それに絹のように柔らかい金髪。
パッと見ただけでも高貴な身分であるのがわかる。金髪は貴族にしか出ないからだ。
そして極め付けに碧眼ときやがった。
金髪が貴族の証であるならば碧眼は王族の証だ。
つまりこの子はーーーーーーーーーー……………。
予想以上の厄介ごとっぷりに胃がキリキリしてきた。
早く起きろ早く起きて早く起きてください。
心の中で必死に唱えていると、
「ん…………」
願いが通じたのか、少女が目を覚ました。
見間違いである可能性に賭けて俺は少女の目を覗き込む。
どうか俺の見間違いでありますように…………………………………うん、綺麗な碧眼!
泡吹きそうだ。
「ひゃっ!? あっ、あのっ」
「あ? あ、あぁ、すまん」
瞳を覗き込むのに顔を近づけすぎてしまっていた。第三者が見てたら通報されてブタ箱にぶち込まれるところだったぜ。危ない危ない。
「あの、ここは…?」
「グランドにある俺の家だよ」
「あなたが私をここまで…?」
「まぁね」
そこまで話したところで少女は頭が覚醒したのか、慌てたように自己紹介を始めた。
「申し遅れました、私はアリシア。アリシア・フォン・ゼッケンホルストと申します。
この度は助けていただき本当にありがとうございました!」
シャキッと姿勢を正してお辞儀までするアリシアと名乗った少女。なんていい子なのだろう。
見た感じまだ15歳といったところだろうに、礼節をしっかりと弁えている。100点だ。
王族でなければ。
「やっっっぱりかあぁぁ……」
ゼッケンホルストはこのエストリア王国の王族の姓だ。分かりきってたこととは言え、厄介ごとのにおいがすごい。
と、そこまで考えたところでめんどくさそうな態度が漏れたのか、
「やっぱりご迷惑をおかけしてしまいましたよね……。ごめんなさい、助けていただいたご恩はいつかお返ししますので……」
アリシアが申し訳なさそうな顔でベッドから立とうとした。だがふらっとよろめいてまたベッドに座ってしまう。そりゃそうだ。行き倒れてたのを連れてきて特別な措置なんてしてないんだからそりゃ立てねぇわ。
「っ、ごめんなさい。すぐに……」
「いや、いいよ。しばらくそこで寝てな」
アリシアが再び立ち上がろうとするのを言葉を遮りながら制す。
「で、でも」
「いいから。探知阻害の術式を貼ってあるから追っ手の心配はしなくていい」
「っ!? えっ……? ……本当だ、すごく強い結界…。それに初めてあなたを見た時も思いましたが、ものすごい魔力量…。あなたは一体…?」
へぇ、こんなちっちゃい子でも俺の魔力を正確に捉えられるのか。さすがは王族、ゼッケンホルスト家ってとこかね。
どうせもう乗りかかった船だし、ここでほったらかすのも後味悪いしな。
とことん首突っ込んでみるか。
「とりあえず飯の支度を、って思ったけど俺だけ名乗ってないのはフェアじゃないよな」
「俺はシオン。シオン=アルヴァレズ」
俺は名乗り、少し考えてから続けた。
「ちょっと魔法に詳しいだけの社会不適合者さ」