黒狼族の少女
村が崩落していた。
建物が燃えていた。
同族が殺されていた。
黒兵が剣を振りかざしていた。
目の前で父が、母が、弟が、友逹が....その剣で殺されていた。
まるで他人事のようだ。僕の頭がその様にしか記憶してくれないんだ。
自身の身を守ることだけで精一杯だ。親に守られ、逃げることしか出来ないんだ。
僕は恨む。皆を殺してまわる黒兵を。立ち向かえない臆病な自分を。逃げることしかできない自分を。恨むことしかできない自分を....恨む。
だけど、逃げることしかできない僕は、やっぱり逃げきらなければならない。
走る。走る。走る。走る。そして転ける。
転けた僕の目の前には、紅蓮の炎を纏う大男。
その炎が僕を襲い....
そこで僕は目が覚めた。
ここは....どこだろう。
僕は柔らかいベッドの上で寝ていた。そこは誰かの部屋らしく書棚には本がぎっしり詰まっていて、可愛らしい装飾や部屋主の趣味なのか手作り感溢れる動物の人形が飾ってある。
ええ....と、僕は確か追い付いてきた黒兵に襲われて、戦って、でも負けそうで....そうしたら....
突然部屋の扉が開いた。そこから強気そうな目の少女と幼い顔をした金眼の少女が入ってくる。
彼女らは私に気がつくき安心させるように、笑顔を向けてくる。
「気がついたか、狼耳っ娘。食欲はあるか?」
「気がついたか、狼耳っ娘。食欲はあるか?」
俺は目が覚めた少女にそう聞いた。
....いや、うん。生前は気絶した少女なんかにあったことないしね。
一応シミュレートしたこともあるけど、まさか初対面同然の、しかも気がついたばかりの女の子に対して放つ最初の言葉が「食欲はあるか?」って....おかしいだろ。でもとっさの言葉がこれしか出なかったんだよ。
だから隣で呆れた目で俺を見るのを止めてくれませんかね、エレンさんや。
エレンは俺を視線から離すと少女に話しかけた。
「起きたばかりでごめんなさいね。あなた、私達の前で気絶したのよ。覚えてる?」
そうエレンが尋ねると少女は首を縦に少しだけ動かした。
「そう。私達は倒れたあなたをここまで運んできたの。大分疲れが溜まってた見たいね、まる一日眠っていたのよ」
エレンは彼女のそばにより、しゃがんで視線を合わせる。
「あのバカの言うことじゃないけどお腹空いてる? 何かアイツに作らせるけど」
俺が作るのかい。
彼女は首を横に振る。が、その直後に彼女のお腹からぐぅぅぅぅぅぅと元気な音がなった。
彼女は自分にも自覚がなかったのか呆然とするがすぐに顔を赤くしてお腹を押さえる。
「え、あの。これはその」
ぼそぼそと彼女が言い訳する声が聞こえてくる。
俺はそれをみて笑みを浮かべる。
「よし、ちょっと待っててくれ。美味しい料理を作ってくるからな」
俺がそう言うと彼女はおずおずと首を縦に動かした。
俺は風魔法を応用して作った挽肉を焼きながら先ほどの少女について聞くことにした。
「なぁエレン。彼女の種族はなんだ? 頭に動物の耳を生やしてたけど」
俺達が助けた少女には狼を連想させるピンッとしたふさふさの獣耳と尻尾が生えていた。
彼女の顔立ちもそう言えば美少女だった。真っ黒な髪で整った顔立ち。大人しそうな印象を与える少女だ。
「まぁ間違いなく私達と同じ魔物、その中の獣人の一種でしょう。で、多分あの耳と尻尾、そして真っ黒な髪からしてワーウルフ、その中でも戦闘力が高く進化した黒狼族....ライカンスロープでしょうね」
エレンは食器を洗いながら答える。
「ライカンスロープ? て、あの月の光を浴びて狼男に変身するやつ?」
俺は焼き終えたハンバーグを皿に並べ、自作のタレを垂らしながら自分の知ってる知識が会ってるか尋ねる。
「変身はしないけど、月の光を浴びる夜は力が増すみたいね。種族のランクはB。弱い者でもCランク以上の実力をもっている戦闘種族よ」
ふーん。前世に出てくる狼男とは違うのか。まぁもう耳も尻尾も生えてるしなぁ。違ったのは少し残念だな、狼男みてみたかった。
「彼女からは話を聞かないといけないわね。結局黒兵を捕える事もできなかったのだから」
そうだ。あの晩、倒した黒兵から話を聞き出そうと鎧を剥ぐと、そこには灰が残るだけで誰もいなかったのだ。もしくは、いなくなったのか....。普通のことじゃないことだけはわかるんだがな。
まぁ、彼女から話を聞くうちに色々分かってくるだろう。これでも食べさせながら話をゆっくりときこうかな。
俺は皿にできたハンバーグをお盆にのせて彼女の元へ運びながら考えた。
「お、おいおい。もう少し落ち着いて食べたらどうだ?」
その黒狼族の少女はハンバーグをガツガツと凄い勢いで食らいついていた。
他に用意されたスープなどの存在に忘れてるのではないか。
「そんなにがっつかなくても食べ物は逃げないぞ?」
それでも彼女はペースを落とさずにその口のなかに突っ込んでいく。
一度お腹に食べ物を入れたことで空腹感が頂点に達したのだろう。
気持ちは察するがこれは流石になぁ....あっ、むせた。
「げほっごほっ、あむっはむ。うんぐっ」
幾分か落ち着いたがそれでも口を休めずになお食べ続ける。
「す、凄い食いっぷりね。食べ終わるまで待ちましょうか」
「そうだな‥‥」
それから数分後。準備していた俺達の分含めて十数個を僅かな時間で完食した獣耳少女は俺達に顔を赤くしながら礼を言ってきた。
「その、御馳走様でした。美味しいお肉、ありがとうございます」
黒髪の彼女はベッドの横に座り頭を下げる。
「いやいや、喜んでくれればそれでいいよ。美味しかった?」
「はい、とても美味しかったです。お見苦しい姿を見せてしまってすみません....」
「気にしないよ。そうか....なら後で作り方教えるよ」
俺がそういうと少女は途端に顔を暗くして俯いてしまった。
「後で....」
「えっ? 今がいいのか?」
彼女はそれに答えずに俯いて黙ったままだ。
どうしたものか。....取りあえずは口を聞いてくれるみたいだし事情を聞こうかな、聞いていくうちに分かるだろう。
「取り合えず自己紹介をするよ。俺の名前はクレイン=サウザンドで、こっちのエルフがエレンミアだ。気軽にクレインって呼んでくれ」
「私もエレンでいいからね」
俺とエレンが互いに自己紹介すると少女は僅かに顔を上げる。
「僕の名前はステーデ....です。好きに呼んでください」
おお、天然の僕っ娘だ。本当に存在したのか!!
「おけ。それでステーデさん、昨日の夜の事だけど何があったの?」
「昨日の夜....」
黒狼族の少女、ステーデは再び顔をうつむかせ、語り始めた。
「僕は黒狼族と呼ばれる種族です。僕等ライカンスロープは戦闘力に特化した種族で他の種族のほとんどと交流せず自分達だけの力で暮らしてきました。僕は他の種族も好きでしたがあの生活もすきでした」
エレンの言う通り黒狼族らしい。
ステーデは俯かせた顔を更に暗くした。
「ある日、僕らの村に一人の男が来たんです。見たところ種族はオーガでしょう。頭に一本の大きな角を生やした大男でした。
その男は多くの黒兵を連れて私達の村に無断で踏み入り、私達に魔王の傘下に入れと言ったのです。....入らなければ村を滅ぼすとも」
「魔王軍か....。それで?」
「私達黒狼族は良くも悪くも誇り高い種族です。それが悪い所で現れて....」
「傘下に入るのを、断ったのね」
エレンがそういうと、首を縦に動かした。
「はい。私達が断ると黒兵達が襲いかかってきたんです。ですが私達黒狼族は戦闘を主とした種族。黒兵何て敵じゃなかったです。そう、あのオーガの男が居なければ....あの大男は魔王軍の幹部格だったのです」
「魔王軍の幹部?」
魔王軍には幹部なんて居るのか。
「はい、魔王軍には数人の幹部がいるのです。私達を襲った大男の二つ名は『炎帝』、高温の炎を操るスキルを持つ化け物でした。」
ステーデは顔をぐしゃぐしゃにしてボロボロ泣き出した。
「僕はっ、何も出来なかったっ。悔しいんだッ、皆と同じ黒狼族なのに臆病で出来損ないの僕が....ッ!! 恨めしいんだ、なにも出来ず逃げることしかできずにいる僕もッ、僕の家族や友人を殺したあいつ等もッ!! 殺してやる!! 絶対に殺してやるんだ!!」
げほっ、ごほっ!! と、気持ちが急に高ぶったのか叫びだし、再びむせる。
「お、おいおい。落ち着けよ。ほ、ほら水飲め、水ッ」
ステーデは水を受け取りそれをゴクゴク飲む。
幾分か落ち着き、ステーデは俯いていていた顔をあげ、俺達の顔をみた。
「す、すみません。あの夜の事を思い出していたら....」
「あ、ああ。別にいいよ。友人を守れず、目の前失う悲しさはお俺にも....分かるからさ」
俺もステーデの話を聞きながら、飛鳥の事を思い出す。
彼女は昔の俺に似てるのかもしれない。飛鳥を失ってすぐは俺も....こんな感じだったからな......。
エレンが俺に何か聞きたそうとしていたが今は無視する。こいつにはまだ俺の前世について話したことがない。後で軽く説明しておいとこう。
「....嫌なこと思い出させてゴメンな。また、様子見に来るからここで休んでろ」
「ちょっと私はどこで寝るのよ!!」
そういえばここ、こいつの部屋だったな。
「ステーデの側に誰かいた方がいいだろ? ならエレンの部屋で寝かせておけば一緒にお前も入れるし良いだろ。俺は男だし無....理......?」
「なに言ってるのよ? あなた、今は女の子でしょ?」
エレンがもっとな事をを言い、ステーデが軽く首を傾げる。
......さてステーデはこれからどう接していこうか。別に現実逃避何かじゃないぞ。
俺、美少女になることに憧れていた頃もあったし? 別に性転換したことを忘れてなんかいない。
うーん....そうだ、彼女の事を知るのにいいのがあるじゃん。
「なぁ、ステーデ。確か黒狼族って戦闘種族だよな?」
「はい? そうですけど」
「ならさ、落ち着いたら一緒に狩りにでも行かないか?」




