第13話=駆け抜ける閃狼2
「なんですか」
「いや、眉間にシワ寄ってんぞ」
「…」
もういろいろと駄目な人だよな…。怒りを通り越し、呆れに変わった感情。私はため息をついて、再びジュースを飲んだ。
男はククッと喉で笑い、またマスターに水割りを頼んだ。
「…シュイ」
「?」
「名前。俺の」
「……シュイ」
「そ。お前は?」
「日矢野 臨」
「ヒヤノ、リンか…。…本当なんだな」
男、いや、シュイの意味深な言葉に怪訝に思って顔を見つめた。
「勇者が現れて、そいつが女だって事」
「え!?」
周りを気にしてシュイは私の耳元で言ってくれたのに、私は驚いて大声を出してしまった。馬鹿、とニヤニヤ笑いながら言うシュイにまたまた腹がたつ。プイッとそっぽを向くとシュイが声を出して笑ったのがわかる。いちいちムカつくヤツだな…。
「…俺も行こうかな」
「何がよ」
「魔王討伐」
「はぁ?!何よ、そんな軽いノリでやめてよ!そんな、…そんな軽々しい事じゃないっ」
「軽々しいだろ、どう考えても」
「…なっ、なんで」
いやに冷静なシュイの声に反論が鈍ってしまった。さっきまであんな、へらへら笑ってたのに、いきなり真面目になられるとこっちの調子が狂う。
「女二人で魔王退治なんて出来る訳ねーだろ。しかもそのうちの一人は自分の属性すら知らない。…状況は最悪。一発で即死だな」
「…」
「仲間、必要だろ?」
またニヤリと笑って、耳元で低い声で言われると、全身の肌がぞわりと鳥肌がたった。シュイの肩を押し返し、むっと睨む。私よりも背が高いシュイは、なんだか不思議な色の目を持っている。キラッと光る、その瞳は果てしなく暗い濃紺というか、墨色というか、濡羽色というか…。黒だけど決して黒じゃない。そんな不思議な色を帯びている。
じっと目を見つめる私の視線に堪えられなくなったのか、シュイはまた正面を向いた。