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猫との出会い

ネタが降ってきたので書いてみました。

尽きない限りは更新予定です。

冬の午後8時頃、すっかり日は暮れて薄暗い夜道を、ごく普通の会社員である樋口玲依(ひぐちれい)は肩をしゃくりあげながら歩いていた。

「うぐっ、ひっぐ、うぁ、うえぇ」

今朝方自慢の黒髪を不器用ながらも丁寧に結ったはずの三つ編みは既に解けかけており、その顔は涙と鼻水に塗れ、目を真っ赤に腫らしている。

まだ慣れていない高いヒールで靴擦れが起き、足を引き摺るように歩いているため、通りすがりの人は皆少なからずギョッとするであろう。

だが、彼女が歩く夜道には人影は無いため、彼女は心置き無く泣きながら歩くことが出来た。

事の発端はほんの1時間前、いや、数年前からと言っていいかもしれない。

彼女には高校生の頃から付き合ってきた彼氏がいた。

真面目な付き合いをし、結婚の約束もして、このままこの関係が続く、はずだった。

『お前はいつも人の言うことを聞いてくれない。俺のことなんかどうでもいいんだろ。俺ももう耐えきれない。他の都合のいいやつ探せよ』

実際に彼女は彼の言うことを軽視しがちな行動が多々あった。

それ故に、自業自得だと、己のせいだと、理解しているつもりだが、心の底では受け入れきれず、涙を止めようとしても流し続けてしまうという状況に陥ってしまったのだ。

人の心をあと少し汲めたなら。

優しさの心を持てたなら。

人の言うことを素直に聞けたなら。

もう遅いのだと、後悔しても意味は無いのだと頭の何処かで叫ぶ冷静な声が今の彼女には聞こえているだろうか。

彼女はほんの少しだけ、他の人より頭が良かった。

そして、大分、他人の心が分からなかった。

彼女が分かることは授業等で習う学問だけ。気持ちなど読み取れないし、考えていることなど分かるはずがない。

いや、唯一分かった時がある。

それは、まだ小学生だった頃、彼女の頭の良さに目をつけ、連続殺人犯が彼女を攫おうとした時である。

その頃の彼女は今より人の気持ちに敏く、気付けた彼女が大人に呼びかけ、無事事無きを得たのだが、それっきりだった。

そして、その事を気にせずに生きてきた代償が今日に回ってきたのである。

(分かってるんだ、私が悪いんだって。でも、私はじゃあ何を生き甲斐にしていけばいいの? もう何も私には残っていないのに)

そう心の中で愚痴り、涙を流しながら歩き慣れているはずの寂しい夜道を何故か悲しくなりながらも歩き続けた。


そして、涙も徐々に引いていき、あと5分程で自宅に着くというところで、彼女はいつも通る帰路に違和感を感じた。

(……あれ? こんなところに猫なんていたっけ?)

数メートル程離れた先にある電信柱の影から、子猫がチラリと顔を見せた。

だが、近所で猫を飼っている人がいるという情報は耳に入っていない。

(まさか、誰かが持ち込んだ? 最近の人無責任にアレ飼いたいコレ飼いたいとか言うからなぁ)

などと最近の人の1人が達観していると、彼女の後ろから、何やら足音が聞こえてきた。

しかし、彼女は子猫の可愛さに心を打たれ、気付いている様子はない。

そして、その足音の持ち主が彼女の3メートル程後ろに来て、やっと後ろを振り返った。

そこには、黒のキャップにマスク、紺のパーカー、黒のズボンというまるで不審者の例として挙げられるような男性がいた。

「……」

「……」

「……どちら様ですか」

「……」

問いかけるも、答えない。そして、

「……ねばいい」

「え?」

「皆死ねばいい! 死んじまえばいいんだ! そうすれば俺が今度こそ幸せになれるんだ!」

そう叫び、ポケットの中から取り出した物は、

「……ワァオ」

ナイフだった。先が鋭いが、あまり手入れされていないようで、所々錆びている。しかし殺傷能力は衰えてないどころか、錆びているおかげで破傷風になりそうである。

「あのー、落ち着いて下さい」

玲依は何故か自分でも驚く程に頭は冷えていた。

下手をすれば命を落とすかもしれないこの状況を、実際に体験している自分と、冷静に俯瞰で見ている自分がいる。

この様な事は玲依には前から度々あり、本人は特に気にしてはいない様子である。

「うるせぇ! 皆死んじまえばいいんだ! こんな、信じれば裏切られるクソみたいな世界なんて滅びちまえばいいんだ!」

その言葉に玲依は一瞬、先程別れた彼氏と目の前の男とが重なって見えた。

いつも優しく、玲依を心から愛してくれていたはずの愛しい人は、最後、この男と同じようなことを言って玲依を罵った。

『裏切り者、嘘吐き』

この言葉は今でも心の核を貫き通している。見ず知らずの人にそう言われても、心を深く抉る程の。

「おい、てめぇは見逃してやるよ。何かあったみてぇだし、とっとと失せろ」

どうやら目の前の男はこちらを殺す価値がないと判断したらしく、既にこちらに目を向けていない。

だが、男の目は子猫に向けられており、その顔には下卑た笑いが浮かんでいた。

「……すみませんけど、この猫ちゃんは私が引き取るんで。手出ししないでもらっていいですか?」

「……チッ、この偽善者が」

そう吐き捨てると、男は暗闇の中に溶けていった。

「ふぅ、大丈夫? 猫さんや」

理解している筈もないが、何気なく問いかけると、子猫は甘えた声を出しながらこちらに向かってくる。その様子はとても可愛らしく、玲依は心を撃ち抜かれた。

「さて、うちのマンションペットOKだったかなぁ。まぁ、緊急事態だと言えば大丈夫だろ。うちに来るかい?」

そう訊いてみると、まるで言葉が分かるかのようにニャン、と鳴いた。そして、足に身体を擦り付ける。

「うぐふっ、可愛い」

玲依はその様子にダメージを受けつつも、子猫を抱き抱え、少し寂しくない帰路を辿って行った。

描写って難しい……( ˙꒳˙ )

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