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魔術塾対抗戦 vol.38

 俺は、息を切らしながら再びパーティー会場に向かい、元のテーブル席へと戻った。

 だが、そこにはルーナの姿はなく、クレアとセバスが静かに座っていた。


「ルーナは?」


 俺の問いかけに、絶対答えないと言わんばかりにセバスは俺の方とは真逆を向いていた。

 先程の怒りがまだ治まっていないようだ。

 一方のクレアは、テーブルに視線を落とし、言いづらそうな様子であった。


 俺は、クレアに詰め寄り、もう一度問いかけた。

 すると、彼女は俯いていた顔をゆっくりとこちらに向かせた。


 その表情に、俺は絶句してしまった。

 彼女の目は、今にも涙がこぼれ落ちそうな程潤んでいたのだ。

 そのまま彼女は、声を震わせて俺の問いかけに答えた。


「分からないんです……」


 彼女の答えに、俺の額からは嫌な汗が流れ始める。

 彼女は続けてこう答えた。


「翔太さんがここから出ていったすぐ後、ルーナちゃんも何も言わずどこかに行ってしまったんです。私達も追いかけたのですが、ルーナちゃんがスピード付与の魔術を発動させて追いつけなくなってしまって」


 クレアの話を聞いた瞬間、俺は、無言のままその場から立ち去ろうとした。


「どこに行くんですか?」


 俺の背中にクレアが問いかける。


「探しにいくよ、ルーナを」

「でも、翔太さん、まだラグーンの街の事あまり分かってないんじゃ」

「それでも探すよ。責任は俺にあるから。それに伝えたいこともあるから……」


 俺は、そう言い残し、再び会場を後にした。


 魔術都市ラグーンの街は俺にとってまだ未知な場所が多い。

 俺は、とにかくルーナが行きそうな場所をしらみつぶしにあたってみた。


 魔術塾の教室と中庭、ルーナの家、魔術塾の寮。

 しかし、ルーナの姿を見ることは無かった。

 俺は、当てもなくラグーンの街を駆けまわった。

 途中で、メインストリートに赴き、肉串グルム屋のガデムにも聞いてみたが。ルーナの姿は見ていないという。


 俺は、ガックリとうなだれながら、ラグーンの街を彷徨っていた。

 しばらく彷徨っていると、どこからか水が噴き出すような音が耳に響き、俺は、音のする方へと顔を向けた。


 すると、そこには天使の像が真ん中に3つ建てられた噴水が見えた。

 そう、俺がこのラグーンに連れて来られた時、初めて目にしたラグーンの光景であった。


 俺の異世界生活始まりの場所。

 それがこの噴水広場。


 俺の足は自然と噴水広場の方へと進んでいた。

 何故かは分からない。

 だが、3人の天使達が俺を導いているような気がしたからだ。


 一歩一歩、噴水の方へと近づくと、誰かがいる気配を感じ取った。

 しかし、その正体は、夜の暗さではっきりとは分からない。

 俺は、恐る恐るその者の方へと歩み寄る。


 そして、その者の目の前に着いた途端、曇り切った空の間から月がこちらを覗いてきたのだ。

 月の光が、真っ直ぐにこちらに照らされ、その者の正体が俺の目にはっきりと写る。


 毛先がふんわりとパーマがかったダークブラウンの髪の毛に、紺色のドレス姿。


 そう、紛れもなくルーナであった。


 やっとの思いでルーナを見つける事ができた。

 きっと、天使の導きはこの事を意味していたのだろうと自分の心に言い聞かせる。


 ルーナは、噴水の淵に腰掛け、顔をうずくめ、自分自身を抱きしめていた。

 俺からはルーナの表情が全く分からない。


「ルーナ」


 俺は、そっとルーナに声を掛けた。

 すると、ピクッと一瞬ルーナの体は反応したが、そのままの姿勢を維持していた。


 それでも、俺はルーナに伝えなきゃいけない。

 あの事実も、そして、今の俺の気持ちも。


「ルーナ、さっきは……ごめん。俺も色々と動揺しちまって」


 しかし、ルーナからの反応は何も返ってこなかった。

 それでも俺は、話を続ける。


「紗良は、俺の恋人だったんだ。お互いが就職する前に色々あって別れたんだよ。もう半年以上前の事だから、未練は残ってない。でも、いきなり目の前に、前の恋人が現れてどうしていいのか分かんなくなっちまって。それにその場でこの事実を言ってしまうと、俺とルーナの関係が壊れていきそうな気がして……それが俺には怖くて、耐えきれなくて」


 そう言った時、クスッと小さな笑い声が俺の目の前から聞こえた。

 そして、その笑い声はだんだんと大きくなっていき、ついにルーナは俺の方を向いて笑い出したのだ。


 目の前の光景に俺は、苛立ちを覚える。


「何よそれ!そんな事であたしと翔太の関係が崩れるって……どんだけビビりなのよ」

「何だよ、その反応!そりゃ、一応婚約者なんだから、そんぐらい配慮するだろうが」

「あー、そうなの、ありがと、ありがと」

「感謝の言葉が適当過ぎんだろ。心配した意味ねぇじゃねぇかよ」


 俺は、大きくため息をついて、ルーナの横に腰かける。

 緊迫していた心の糸が切れ、俺もようやくホッとする事ができた。


「でもさ」


 さっきまで笑い声をあげていたルーナの笑い声が突如止む。

 どうしたものかと、俺はルーナの方に顔を向ける。


「迎えに来てくれてありがと」


 その言葉と共に、ルーナは優しい笑みを俺に向けた。

 その微笑みに俺は、一瞬にして瞳を奪われる。


 そして、俺もこのタイミングで言う事を決心した。

 そう、ルーナへの思いを。


「あのさ、ルーナ」


 そう言葉を発した途端、緊張と恥ずかしさでルーナの顔が見れず、そのまま地面に顔を背けてしまった。


 ルーナからは、何の相槌も返ってこない。

 どうやら、次の言葉を待っているようだ。


 伝えたい気持ちはもう口の中に収まっているのに、緊張が邪魔をして、口から発する事が出来ない。

 何度も何度も深呼吸をして、緊張した心を落ち着かせる。


 20度目でようやく自分の気持ちが落ち着いた。

 そして、意を決して俺はルーナに思いを告げる。


「俺、ルーナの事……ってえっ?」


 思いを告げようとルーナの方を向いた瞬間、その姿に絶句してしまった。


 ルーナは、首を少し下に傾けたまま、スヤスヤと寝入ってしまっていたのだ。


「どんなタイミングで寝てたんだよ!普通、この雰囲気なら分かるだろうが!」


 俺は、思わずツッコミを入れてしまったが、ルーナはそんな事には全く気づかず気持ち良さそうに眠っている。


 そんなルーナの姿に、ますます愛しさが湧き上がってくる。


「ごめんな、困らせて」


 そう呟くと、俺は、自然とルーナの額にそっとキスをして、自分の肩に優しく引き寄せたのだった。


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