魔術塾対抗戦 vol.36
「紗良……」
「何よ、その無気力な顔つき。感情が顔に出るところは、相変わらずね」
紗良は、そういうと俺の肩をポンポンと軽く叩いて、俺の横に腰かけた。
「なんでここに……?」
「なんでって……だって、あんなにみんなに注目されてさ、血相変えて出ていく翔くんの姿見たら、ほっとけないでしょ」
「そっか。ありがとな」
俺は、タバコの煙を夜の闇に吹かせた。
白灰色の煙と黒紫色の夜の景色が綺麗なコントラストを描く。
そして、その白灰色の煙は、煌びやかなパーティー会場から漏れる光に吸い込まれていった。
変わらぬ紗良のおせっかい。一人になりたくて、抱え込もうとするといつも彼女は現れた。
彼女は、怪訝な表情を一切せず俺のやりきれない思いを聞いてくれた。優しい微笑みと共に。
それは、俺にとって、嫌なおせっかいではなかった。良いおせっかい、いや、それが優しさというものなのだろう。
自分の気持ちを理解してくれる彼女。だからこそ、過去の人生で一番、彼女の事を好きになったのかもしれない。
「ちょっと、翔くん!何ボーッとしてるの」
紗良はムッとした表情でこちらを見ていた。
無意識のうちに、昔の彼女の優しさを心の記憶の中から思い出していたようだ。
「ごめん……ちょっと思い出してて」
「ふーん。何を思い出してたの?」
「付き合ってた時の紗良の事。こういう俺がしょぼくれてる時は、だいたい紗良が側にいたなって思ってな」
「なっ!ちょっと、いきなり何言ってんのよ!」
紗良は、いきなりの言葉に、一瞬顔を赤らめたが、すぐさまその赤みは引いていった。
そして、遠くを見つめるようにパーティー会場の方を見つめ、口を開いた。
「でも、あたし達、もう終わったんだよ……。今更、思い返しても……」
その後の言葉は聞き取れないほど小さなものであった。
しかし、その次に続く言葉を俺は聞き直そうとはしなかった。
きっと、それを聞いても……。
数十センチの距離に座っているのに、その距離は遠く感じる。
二人の間に冷たい風が吹き抜けていく。
「さむっ」
紗良が、両腕で自分の体を抱え込んだ。
まだ、秋口に入り暖かさは残るとはいえ、ノースリーブのパーティードレス姿では寒く感じてしまう。
俺は、慌てて自らのビジネススーツの上着を紗良の肩にかけた。
「あっ、ありがとう」
「おっ、おう。どういたしまして」
紗良も俺も気恥ずかしくなり、そのまま目を逸らす。
俺は自然とタバコをふかすペースが速くなっていた。
「相変わらず、翔くんは優しいね。ずるいよ」
「えっ?何か言った?」
「何も言ってないわよ!」
聞き取れなかった紗良の言葉を聞き直しただけなのに、紗良は思いっきり俺の背中を叩いた。
叩かれた背中の部分がジーンと痛む。
俺は、痛む部分を優しく擦りながら、顔を引きつらせた。
「痛いよ、紗良。いきなり何だよ」
「ふん!叩きたくなっただけよ」
「理不尽すぎるだろ……」
「そんな事はいいから、早く話してよ。っとその前に……」
そう言うと紗良は、手持ちのハンドバックから何かを取り出した。
取り出したものは、ボールペンぐらいのサイズの焦げ茶色の木の棒であった。
持ち手から先端にかけて細長い円錐のようになっている。
「それは?」
俺は、不思議に思い、紗良に問いかけた。
「これはね、小型の魔法の杖なの。何が起こるか分からないから一応持ち歩いてるの。サイズも手頃だし重宝しいているの」
「そうなのか。って事は、紗良は魔法使いのなのか?」
「いや、私は魔銃師よ。せっかくのパーティーに魔銃なんて物騒なもの持っていける訳ないじゃない。それに周りは、ラグーン魔術師教会所属の魔術師達で厳重に警備されてるから問題ないしね」
「そ、そうなのか」
俺は、紗良が魔銃師だという事実に自らを情けなく感じていた。
紗良は、俺と同じ別世界からの魔術師候補生だ。
魔術の知識なんて一つもないはずなのに……。
とことん俺には才能がという事なのだろう。
俺は、両膝に両肘をつけ、ガックリとうなだれてしまった。
「ちょっと、今度はどうしたわけ?もう、訳分かんないよ」
「すまん。気にしないで」
「あっそ。とにかく、人に話を聞いてもらうんだから、タバコは止めないとね」
そう言うと、紗良は持っていた杖の先端をタバコの火に向けた。
そして、数秒目を閉じた後、詠唱を始める。
「術式を構築。術式解放。風よ火を吹き払え」
すると、杖の先端からそよ風が吹き、赤橙色のタバコの火が消え、タバコの先端が黒くなっていた。
そよ風と共に灰が少し吹き飛んでいく。
「よし!これで喋れるようになったね」
紗良は、ニッコリと俺に笑いかける。
その笑顔は、懐かしくて、俺の凍った心を溶かしていくようであった。
俺は、お尻のポケットに忍ばせていた携帯灰皿にタバコをしまい、先程のルーナとの事を話した。




