魔術塾対抗戦 vol.34
アリスは、お互いを見つめ合う俺と紗良を交互に見ると、不敵な笑みを浮かべて俺達に話しかけた。
「あらあら?翔太さん、もしや、紗良とお知り合い?というよりも何かただならぬ関係そうですわね。ふふふっ。」
アリスの言葉に何も反論できない俺。
ただならぬ関係とは語弊があるが、俺にとって、紗良の存在はとてつもなく大きなものであった。
透き通った声、艶やかな黒髪と優しく微笑みかける表情……そして、寂しそうに手を振る紗良……
何度記憶から消そうと思っても、紗良の容姿、表情、思い出は頭の片隅から消えることはなかった。
そして、今、紗良と会って、その記憶が頭の中を駆け巡っていく。
アリスは、呆然とした俺には触れることなく話を続けた。
「今回、我がソラレス魔術師教会も別世界から魔術師候補生を選ぶ制度が制定されましたの。それで、私が厳選して選出したのが彼女、東雲 紗良さんという訳ですの。まさか連れて来る世界まで同じだなんて、本当に泥棒猫ですわね、あなたは」
「うっさいわね!そっちが被せてきたんじゃないの!」
「ふふふっ。紗良さんは、非常に優秀ですから、そちらの出来損ないとは格が違いますわ」
「くーっ!ムカつくー!ちょっと、翔太、なんか言い返しなさいよ!」
ルーナに話しかけられて、呆然とした意識が現実に戻される。
だが、ルーナとアリスのやり取りなど俺には全く耳に入ってはおらず、何が起きているのか分からないでいた。
とにかく苦笑いを浮かべてその場をやり過ごそうとする俺。
すると、アリスはニヤリとしてルーナの方を見やる。
「あらまー、泥棒猫さん。どうやら翔太さんは紗良さんに夢中のようですわねー。婚約者なのに残念な事ですわ。おほほほほっ」
その言葉を聞いて、紗良はルーナの方に視線を向けていた。
ルーナを見つめる紗良の表情は、驚きと寂しさが入り混じったような何とも言えない表情であった。
俺もこの状況をどうしていいのかも分からない。
それに、ルーナと紗良を今の状態の俺には見ることができない。
俺は、ただ俯くことしかできなかった。
その後、アリスは何事もなかったかのように、ソラレス魔術教会の選抜メンバーを紹介していく。
双子の童顔姉妹、リリアとセレア、それに勇ましい顔つきの大男、ゴードン。
「以上が、私共の選抜メンバーですわ。どれも強者揃いですのよ。まあ、貴方達ぐらい簡単に倒せますわ」
「それはこっちのセリフよ、アリス」
「あらま。泥棒猫さん、男を取られたのにえらく強気ですわね」
「そんな事、勝負には関係ないわ」
「それもそうですわね。うふふふ」
俺と紗良以外のメンバー全員は、それぞれに向き合い闘志をむき出しにしている。
今にも魔術戦が始まりそうな勢いだ。
そんな時に、いきなり誰かが勢いよくこちらに走ってくきたら。そしてその男は、アリスの目の前に着くと、息を切らしながら姿勢良く立っていた。
「アリスお嬢様!今までどこにいらしたのですか。私、必死になって探しておりましたのに」
「あら、オーウェン。申し訳なかったわ。ただ、私は見つけたかったのよ、婚約者のレイス様を。そして、今、私の目の前に……」
アリスは、満面の笑みで俺に抱きつくレイスを指差す。
すると、オーウェンも満面の笑みを浮かべてレイスの手を取り、床に片膝をつく。
「レイス様。我が主人の婚約者様。再びお目にかかれるとは、執事としてこの上ない喜びでございます」
「オーウェンさん、僕はアリスの婚約者なんかじゃないよ」
「皆様の前でお恥ずかしいのは分かりますが、もう23歳です。もう堂々としてもよろしいのではないでしょうか?」
「いや、だから!そうじゃなくて……」
レイスはその後も何度も否定の言葉を浴びせたが、オーウェンには効かなかった。
もう嫌になったのか、再び俺のスーツに顔を埋めるレイス。
「それで、オーウェン。私に何か用なのかしら?」
「申し訳ございません、アリスお嬢様。実は、レグルス魔術師教会長がご挨拶をと」
「はあー。仕方ないわね。さあ、レイス様行きますわよ。夫婦としての挨拶回りの時間ですわー」
そう言うとアリスは、レイスの無理やり引っ張り、「御機嫌よう」と叫びながら、レイスと共にどこかへ走り去っていった。




