魔術塾対抗戦 vol.29
寮の門をくぐると、ラグーンの街並みは信じられないほどの人で埋め尽くされていた。中には、見たことのない民族衣装を着ている人もいて、どうやら他の魔術都市からもラグーンに遊びに来ているらしい。
俺達5人は、人混みの中を進みメインストリートへと向かった。途中で、なぜか俺達5人がピエロのような仮装をした大道芸人にアシスタントを任されたり、道行く人々に花飾りや食べ物を大量に渡されながら、ようやくメインストリートに到着した。
メインストリートもやはり多くの人々で賑わっていた。前日祭限定のメニューを出しているレストランや、派手な魔術の演出で客の目を引いている屋台などが軒を並べている。そして、ここでもなぜか、道行く人々に大量の食べ物を手渡された。
俺は、何が起きているのか分からず、両手に渡された物を抱えながら他の4人の様子を見た。しかし、4人は満更でもない様子で、手渡してきた人々に笑顔で応対しているのであった。俺は、不思議に思い、首を傾げて歩みを進めた。すると、聞き覚えのある威勢の良い野太い声が俺を呼びかけてきた。
「おーい!そこの兄ちゃん!久しぶりだなっー!」
俺は、声の方に視線を向けると、ガタイが良く気前も良いおじさんが、白い歯を見せて俺に笑いかけていた。
「もしかして、ガデムか?久しぶりだなー」
「おっ!覚えてたか!元気そうじゃねえか、兄ちゃん」
「おかげさまで!」
ガデムの屋台からは、肉の香ばしい香りと香辛料のスパイシーな香りが鼻の奥を刺激し、俺の食欲をそそらせる。
”ググゥー”
思わず俺の腹の虫が鳴り響き、俺は恥ずかしさで顔を赤らめる。
「腹鳴ってんじゃねーか!ほら、たらふく肉食ってけ!そこの4人も一緒にな」
「サンキュー!おーい、みんなこっちこっち!」
俺は、道行く人達のお土産対応をしている4人に大きく手招きをして、こちらに来るように呼びかけた。4人は、笑顔で人々に手を振りながらこちらへと駆け寄ってきた。
ガデムの屋台に着くや否や、4人はとても疲れきった表情を浮かべ、うなだれていた。
「みんな、大丈夫か?」
俺が声をかけると、セバスが鬼の形相で俺の胸ぐらを掴んできた。
「てめぇ、何1人で違うとこ行ってんだよ!おかげで対応するのどんだけ苦労したと思ってだ、あぁっ!」
「すまんすまん。この店主と顔馴染みだったからついつい……てか、何でこんなに食べ物やら何やら渡されるんだ、俺達」
すると、ゼェゼェと息を切らしていたクレアが、呼吸が整ったのか、俺の疑問に答えた。
「魔術師対抗戦に出場する選手は、毎年、前日祭の始まる直前に、各魔術師教会から選抜メンバーの発表がされるんです。今年の開催は、ラグーンなので、たくさんのラグーンの方々が私達の応援も含めてこうやって食べ物だったりを下さるというわけです。」
俺は、クレアの話にこまめに頷きながら、事の理由を理解した。すると、後ろにいたガデムが俺の肩に力強い大きな手を勢いよく置いた。
「イテッ!何だよ、ガデム」
「兄ちゃん、そんな事も知らなかったのか!うわははははっ!」
「うっせーよ」
「まあ、お前ら食え!今日は、極上の肉を手に入れたからな!俺からお前らへのエールだ!」
ガデムは、屋台のテーブルに置かれたお皿いっぱいの肉串を俺達に指し示した。俺は、大量の肉に目を輝かせた。うなだれていた他の4人も、大量の肉に目の色が変わり、俺達5人は勢い良く肉串にがっついた。
一口食べると、柔らかな肉から溢れ出すジューシーな肉汁が口いっぱいに広がり、スパイスのブラックペッパーがパンチの効いた味で、肉の美味しさを引き立たせていた。
「やっぱうめーな、ここの肉!さすが、ガデム」
「おうよ!俺の肉への愛は誰にも負けねぇからなー!
そこの嬢ちゃん達もうまいか?」
お肉を頬張るルーナとクレアも、満面の笑みでガデムの問いかけに答えた。どうやら2人とも満足の様子だ。
一方のレイスとセバスは、2人で仲良く肉の取り合いを繰り広げていた。そんな様子を見たガデムが嬉しそうな笑みを浮かべて、大きな声で笑い出した。俺達もガデムにつられて、自然と笑みがこぼれる。
そんな和気藹々とした雰囲気に突如として、聞き覚えのない甲高い女の子の声が遠くから聞こえた。どうやら誰かを呼んでいるようだ。その声がどんどんと近くに感じられるようになって来る。
他の4人に目をやると、ルーナとクレアとセバスは何かを悟ったのかレイスからどんどんと遠ざかって行く。そして、レイスはこの世の終わりかのように恐怖に満ちた様子で顔を強張らせ、立ち尽くしたままでいた。
「翔太。今すぐレイスから5メートル遠ざかりなさい」
「何でだよ、ルーナ。何があっ……!!」
ルーナに話そうとした瞬間、こちらに猛スピードで駆け寄ってきた何者かに俺は押し倒された。地面に強打した頭をさすりながら、レイスに視線を向けると、そこには衝撃的な光景が映っていた。
「レイス様〜!会いたかったですわ〜っ!大好きですよ!チュッ」
見知らぬ女の子がレイスに抱きつき、レイスの頬にキスし始めたのだった。そして、「大好き」と叫びながら何度もレイスの頬にキスをする。レイスは完全に意気消沈しているようで、彼女のキスにも無反応であった。
俺は、ポカーンと口を開けたまま、ただその目前の光景を呆然と眺めていた。




