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魔術塾対抗戦 vol.26


「起きて」


女の人の透き通った声が俺に呼びかけている。誰の声かは分からない。しかし、何度も聞こえてくる。


俺は、ゆっくりと目を開けた。俺の視線には、木目調の天井に、扇風機のような焦げ茶色のプロペラであった。オシャレなカフェやレストランについている様なプロペラだ。


「ここは……どこだ?」


ゆっくりと体を起こす。いつも運ばれる救護室とは様相が違っていた。部屋の広さは、俺の寮と同じぐらいの広さであった。


すると、真横からどこかで聞き覚えのある声が俺の耳に響いた。


「起きたのか、青年」


声の視線に目を向けると、長い白髭を蓄えた老人が、眉尻をシワくちゃにして優しく微笑んでいた。


(この老人、どっかで見たことあるんだよなー)


俺は、老人の顔をジーっと見つめ、自分の記憶をまさぐっていた。しかし、思い出すことができない。思わず首を傾げる。すると、老人は表情を崩さず、また俺に話しかけてきた。


「久しぶりじゃのー、君と会うのは。あの時のコーヒー以来か。ちゃんと杖は使ってあるかね」


老人の発言で、俺は老人との出会いをハッと思い出した。そう、”血の契約を交わす杖”を俺に授けてくれた老人であった。俺は、驚きのあまり左手で口を覆い、目を大きく見開き、右手の人差し指で老人を指差していた。


「あの時の!カフェのおじいさん!」

「これこれ、目上の人に指差しをするでない」

「あっ、すいません」

「ほれ、これでも飲みなさい」


俺は、指差しを慌ててやめ、老人が差し出したコップいっぱいの水で渇いた喉を潤した。勢いよく水を飲み干した後、俺は老人にある疑問を投げかけた。


「何で、あなたがここにおられるのですか」

「おお、伝え忘れておった。血だらけで意識を失った君を助けたのはこのワシなんじゃよ」

「えっ?ちょっと待ってください。俺を助けたのはジャック塾長では」

「あのダンディな男か。あやつは結界を破って君を助けただけで治療はしとらん。ここまで君を運んで、治療したのはこのワシというわけじゃ」


俺は、どういう状況か全く理解できないでいた。この老人はいったい何者だろうか。とにかく、浮かんだ疑問を投げ続ける。


「あなたは、医者なのですか?」

「んー、医者といえば医者かもしれんな」

「……ということは医者ではないのですね?」

「はて、どうじゃろうか」


言っている意味が分からず、さらに混乱する。相変わらず、老人は優しい笑顔をしたままだ。少しおちょくられてる様にも見えてきた。


(医師免許をもたない医者なのか。いや、ここは異世界。医師免許などはないのか。)


俺は腕を組み、眉間にシワを寄せてさらに悩んでいると、老人はいきなり席を立った。そして、部屋のクローゼットに行き、何かを探していた。


「おーあったあった」


老人が手に持っていたのは1本の箒であった。箒の毛束は綺麗に整えられていて、毛色と持ち手は光沢感のブラウン色。高級感のある箒に思われた。


老人は再び席に戻ると、俺にその箒を手渡した。俺は訳も分からないまま、箒を受け取り、老人に問いかける。


「あのー、これはいったい?」

「君にワシの箒を授けようと思ってのー」

「ちょっと待ってください!何でまた俺なんですか?俺なんか魔術の才能なんてこれっぽっちもない凡人ですよ」


すると、老人はクスッと軽く笑った後、優しく俺に語りかけてきた。


「前にも言ったじゃろ。君は若い時のワシに似ておると。それにこれも何かの縁じゃしな。老人の優しさを無下にしてはならんぞ」

「でも……こんな大切なもの……」

「いいんじゃ、いいんじゃ。さっ、もう元気になったじゃろ。さっさと皆の元へ帰りなさい」


俺は、言われるがままベッドから降りた。そして、老人に寮までの地図を渡され、玄関へと案内された。玄関のドアを開き、俺は老人と向かい合った。


「あの、ありがとうございます」

「なーに、気にするでない」


俺は、その場を後にしようとした時、ある事を聞き忘れていたのを思い出した。そう、俺が目覚める時に聞こえた”あの声”だ。俺は、老人の方を振り返る。


「あの、最後に質問いいですか」

「まだあるのか。最後じゃぞ」

「俺が目覚める前、誰か俺に語りかけてませんでしたか」

「目覚める前のー。そりゃあ、お前のお見舞いに友人がたくさん来ておったからのー。なんせ、君は10日近くも眠ったままじゃったからのー」

「えっ……えーーーーっ!!」


俺の叫び声に老人はクスクスと笑いながら、玄関のドアを閉めた。


俺は驚きの表情を隠せないまま、地図を見ながら寮へと戻っていった。もう一方の手に、老人から授かった箒を握りしめたまま。



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