魔術塾対抗戦 vol.25
「何だよ、この空間」
俺は、冷んやりとした空気と恐怖で鳥肌が立つ。俺の肩に乗っているフラムは、ガッチリと俺の肩を掴んで体を震わせていた。どうやら、フラムも同じ気持ちのようだ。
すると、前方に黒い妖気が出現し、その中から黒いローブを着た男が現れた。その男はゆっくりとこちらへと近づいてきた。
「誰だよ、てめぇ!俺達とやんのか」
震えた声でフラムが男に言い放った。勇気を振り絞って言ったのだろう。だが、男は聞く耳を持たずこちらに歩みを進める。
とうとう男は、俺達の目前に到達した。到達した瞬間、男はフラムの頭を鷲掴みにした。苦しそうな表情を浮かべ、男の腕に爪を立てるフラム。しかし、男は痛がる様子もなく、フラムを俺から引き離した。そして、鷲掴みにされて宙吊り状態のフラムを、思いっきり地面に叩きつけた。
俺は、思わず絶句してしまう。フラムの方を見やると、叩きつけられた衝撃で意識をなくしていた。俺は、この状況に理解ができないのと同時に、怒りが一気に湧き上がってきた。
俺は、とっさに右手に握りしめていた杖を男の方に向けた。そして、俺はその男に向けて魔術を発動させる。
「術式を構築!術式解放!ヴェント!」
俺は、クレアに教わった風属性魔術を発動させた。強烈な風が直撃した。しかし、その男は少しもよろける事なく、ただ目の前に立っていた。
(何も効いていない……)
俺は、目の前の光景に唖然としてしまう。すると、男は俺の胸ぐらを掴み、空間の壁に叩きつけた。俺は、叩きつけられた衝撃で吐血する。さらに、男は俺の両手と両足にナイフを突き刺し、壁に張り付ける。俺は、強烈な痛みに絶叫する。両手と両足からは大量の血が流れ落ちていた。
男は、張り付けられた俺に歩み寄ってくる。そして、俺の目の前に到達した瞬間、黒いローブのフードを脱ぎ、顔をあらわにした。その正体に俺は、驚きのあまり大きく目を見開いた。
「久しぶりだな、凡人」
黒髪に黒縁メガネをかけた優等生風の男。そう、まぎれもなくユークリッドであった。彼は、不敵な笑みを浮かべながら、俺の髪の毛を鷲掴みにした。
「お前、ちょっとは成長したようだな。見ていたぞ、狼との戦い」
「どっ……どういうつもりだ……ユークリッド……」
「ん?ただの余興だよ」
「余興……だと。てめぇ、クラスの奴らを危険な目に巻き込みやがって!」
俺は、ユークリッドを睨みつけた。その姿に、ユークリッドは高らかに笑い出す。そして、数秒すると笑い声は止み、俺の髪の毛をさらに強く引っ張り、鋭い眼光で俺を見つめる。
「どうでもいいんだよ、クラスの奴らなんてよ!俺は、目的のためなら周りなんてどうでもいい」
「目的?」
「そう、お前の生き血をいただくことだ」
ユークリッドは、不敵な笑みを再び浮かべながら、ローブのポケットに手を突っ込んだ。取り出したのは、小さな小瓶であった。ユークリッドは、俺の顔の前で小瓶をちらつかせる。
「この小瓶は、これからお前の血でいっぱいになるんだぞ〜」
「てめぇの……思い……通りには……させねぇ」
「なになにー?よく聞こえなかったなー?」
ユークリッドは、俺の左手に刺さったナイフを強くねじ込んだ。左手に感じる激痛が、全身に伝わり悲鳴をあげ続ける俺。そんなユークリッドは、笑みを浮かべていながらも、その目は狂気に満ちていた。
「そうだよそうだよ。もっと悶え苦しめよ!ほらもっと!!」
ユークリッドはさらに力を強める。俺の左手からは大量の血が流れ落ちていく。そして、俺の意識はどんどんと遠ざかっていき、声すら出なくなっていた。
「いいよいいよ、その表情。それじゃあ、お前の血をいただくとするか」
ユークリッドは、俺の左手から流れ落ちる血を小瓶に収めようとした、その瞬間だった。
”バリバリ……”
何かが割れるような音が聞こえ、音の鳴る方へ視線を向ける。すると、俺が張り付けられている壁の反対側の壁にひびが入っていた。
「チッ!来やがった。血はお預けかよ。次は覚悟しとけよ」
ユークリッドは、そう言い残すと、小瓶をその場に置いたまま、黒い妖気の中へと消えていった。
ユークリッドが消えた数秒後、ひびの入った壁が崩壊していった。意識が薄くなっている俺は、ぼんやりとかすんだ視線で崩壊した壁を見つめていた。そして、そこから見えたのは、何かの魔術媒体を持ったジャック塾長であった。
ジャック塾長は、必死の形相で俺の元へと駆け寄って来た。
「大丈夫か、翔太君!」
「大……丈夫……で……」
俺は、ジャック塾長の呼びかけに応える途中で、そのまま意識を失った。




