魔術塾対抗戦 vol.20
ルーナの呼びかけにより、クラス全員がエスタディオの向かう時だった。誰かの悲鳴がエスタディオ中に響き渡る。俺も思わず声の聞こえた方を振り向く。すると、おぞましい光景が広がっていた。
1人の生徒が首筋から大量の血を流して倒れていた。その傍らには1人の女生徒。そして、その2人の目線の先には使い魔の狼が赤く血に染まった鋭い牙を剥き出しにしていた。
ゆっくりと狼は女生徒使い魔に近づいていく。
「やめて!こないで!!」
女生徒は自らの魔銃を狼に向ける。しかし、あまりの恐怖と動揺で魔術を発動できる状態ではなさそうだ。魔銃を持つ手が震えている。
「グルルルッ」
狼が唸り声を上げる。そして、女生徒の目の前についた瞬間、赤く染まった牙を持つ口を大きく開き女生徒の噛み付こうとしたのだ。
「ギャーーーーーッ!!」
エスタディオ中に悲鳴があがる。俺も恐怖のあまり目を背けた。そして、ゆっくりと視線を戻し、女生徒を確認した。すると、女生徒の姿は見当たらなかった。俺は視線を動かしていくと、狼のいる20メートル後方に誰かにお姫様抱っこされて気を失っている女生徒の姿を確認できた。その誰かとは、澄ました顔をしたセバスであった。どうやらセバスが魔術によってスピード付与をして、間一髪女生徒を救ったようだ。しかし、これだけでは終わらなかった。
クラスの何人かの使い魔達がエスタディオ中で暴走し始めた。クラス全員に襲いかかってくる。
「みんな!速く出口に向かって!私が何とか食い止めるから!」
すると、ルーナは魔銃の銃口使い魔達の方に向ける。数秒目を瞑った後、パッと目を見開くルーナ。
「術式を構築。術式解放!アクエリア・ムーロ」
ルーナが魔術を発動する。大きな津波がエスタディオの地面より発生し、水の壁を形成した。どうやらこれで足止めをしているすきに逃げる作戦のようだ。だが、不測の事態が起こってしまう。
「おい!出口が開かねーぞ!!」
「どうなってんのよ!!ちゃんと力入れたの!」
「やってるつーの!とにかく開けねーと!」
先に出口に到着していた生徒の何人かが顔をひきつらせながら、必死に出口を開けようとしている。魔術を駆使しても開かないようだ。
「誰かが魔術結界を張っているようだ。」
セバスが冷静な口調で閉じ込められた原因を分析する。そして、近くにいたレイスやクレアも分かっていたようで小さく頷いていた。俺は、3人の反応が気になり、レイスに問いかける。
「おい、レイス!どうなってんだよ!魔術結界って何だよ!」
「魔術結界ってゆーのは、魔法陣を全体を覆うように張り巡らせた後に、脳内イメージを働かせて発動される魔術で、結界を張ることで外の世界との遮断を可能にできるんだ。つまり、僕たちは今閉じ込められてるってことだよ。」
「嘘だろ!!どうすりゃいいんだよ!」
「魔術結界を破壊するには、張り巡らされた魔法陣を破壊するしか方法はないんだ。けど…」
レイスは言葉を噤みうつむく。すると、セバスが冷静な口調で俺に言い放った。
「出口の扉は上部に魔法陣が描かれている。だが、この魔法陣は今までに見た事のないタイプの魔法陣だ。魔法陣を破壊するイメージが全く掴めない。つまり、対処のしようがないって事だ。」
「じゃあ、なす術なしって事かよ…」
俺もレイスと同様にガックリとうなだれる。すると、クレアが俺達は3人を真っ直ぐに見つめる。
「いや、方法はあると思います。」
「方法って?」
半ば諦め気味の声で俺はクレアに問いかける。
「エスタディオに入った時は、この魔法陣は現界していませんでした。しかし、何名かの使い魔が暴れ出した瞬間に、この魔法陣が限界しエスタディオ中を魔術結界で覆った可能性があります。つまり、使い魔と魔法陣が同調している可能性があるということです。」
「それって、つまり…」
俺の頭に嫌な予感が浮かぶ。
「そうです。あの使い魔を倒すしか方法はありません。」
すると、うつむいていたレイスが顔を上げニヤリとする。セバスの口角も少し上がっていた。どうやらやる気満々のようだ。
「やるしかないね!みんなの様子を見ると、動けそうなのはこの4人しかいなさそうだし!魔術塾対抗戦の良い予行演習になりそー!!」
「おい待て!4人って…」
「そうだよー!僕とセバスとクレアと翔太だよ!」
俺が抱いていた嫌な予感は見事に的中してしまった。
頭を抱える俺に、セバスが嘲笑を浮かべてこちらを見ていた。
「ふん!せえぜえ、生き延びろよ。凡人。俺はお前を援護するつもりはねーからな。」
「セバスさん、いくらなんでも…」
「良いんだよ、こんな奴。こいつ死んでも、代わりの選抜者はクラスにいくらでもいるからな。」
セバスの偉く上からの物言いに俺はなぜか悔しさが湧いてくる。それと同時に見返してやる気持ちがどんどんと大きくなってくる。
「やってやるよ!セバス!凡人の実力なめんなよ!」
睨み合う俺とセバス。その姿を心配そうに見つめるクレアとニヤニヤして楽しそうに見つめるレイス。
「そろそろ、ルーナの足止めも限界がきそうだし、さっさと倒しに行きますか!お二人さん!」
レイスが俺とセバスの肩にポンと手を置き、ニヤニヤしながら俺達を交互に見る。
「せえぜえ生き延びろよ、凡人。」
「お前こそ余裕ぶっこいてると痛い目みんぞ。」
そうして、俺達は凶暴化した使い魔討伐に向かっていった。




