元の世界へ vol.9
玄関で倒される俺。ルーナの両脚の間にすっぽりと俺の顔が。
「あっ…パンツ…水色なんだな。」
「ちょっとどこ見てんのよ!この変態!」
思いっきりヒールで俺の額を踏みつける。
タックルの痛みとヒールで踏みつけられる痛みでもう訳が分からない状況。
「翔太!毎日言ってるだろうが!もっと筋肉をつけろと!何だこんなタックルごときでよろけやがって!」
親父からは完全に酒の匂い。
(はあ〜。今日もか〜。どんだけ飲むんだよ、このおっさんは。)
「酒臭えよ、親父!毎日毎日飲んでは酔って俺にタックルする習慣!いい加減にしろよな〜!」
「いいじゃねーか!親子のスキンシップってやつだ!ありがたく思え!おい、翔太!それよりもそこのお嬢さんは?」
親父がルーナの方を見る。
「あっ!そうだ、忘れてたな。こちら…ル…いや、同僚の佐藤 瑠奈さん。」
「おーめちゃめちゃ綺麗な女性じゃないか!お前の彼女か?」
「違う違う。今日うちの会社に入社したんだよ。」
親父はそう聞いた瞬間ニヤリとした。
「瑠奈さん。私は、翔太の父親、佐藤 零士と申します。こんな綺麗な女性と巡り会えたのは何かの運命。以後よろしくお願いします、瑠奈さん。」
すると、親父は貴公子のようにひざまずいて、ルーナの手を取り、軽くキスをした。
明らかに反応に困っているルーナ。
「おい!エロ親父!何やってんだよ!困ってるだろうが!」
「良いじゃないか!お前の彼女じゃないなら、俺にもチャンスがあるってことじゃねえか!」
自分の親父がこんなんだとは今までから分かってはいたが、改めて呆れてため息が出る。
「ところで、翔太。何で瑠奈さんが俺たちの家に来ることになったんだ。」
「いや、それは、その…」
「零士さん。それは、翔太さんが自転車とぶつかってけがをしていたので看病をして、そのままご実家までお連れしたんです。」
ルーナは親父に優しく微笑んだ。
(こいつ…また外ヅラ良くしやがって…まあ何とか理由づけにはなったか。バカな親父だから…)
「おー何て良い子なんだ!それにしても、お前は自転車にぶつかってそんなケガするなんて我が息子ながら恥ずかしい!さあ、瑠奈さん!こんな所で話すのも何ですから、あがってあがって!今夜は宴といこうじゃないか!翔太!お前も今日は飲め飲め!」
この展開。予想はしていたが、やはり気分は最悪だ。
ダイニングに1人の男性が缶ビール片手に座っている。
「あっ!白井さん!いらっしゃってたんですか!」
「翔太君、おじゃましてます。」
「いつもすいません、うちの親父の酒に付き合ってもらって。」
「いえいえ、楽しいからいいんですよ。」
白井 健斗さん。親父の会社の部下で最もかわいがっている。もちろん白井さんも親父をしたっている。
俺が子供の時から、よく白井さんは家に来て俺の面倒をみてくださっていた優しい方だ。
「今日は、パーっと飲むぞ!おめぇらぁーーー!!」
親父が日本酒の瓶を持ちながら叫ぶ。
そこからの記憶はほとんどない。とにかく酒を飲んで、しょうもない事ばっかり話していたのだろう。
目を覚ますと、ルーナと白井さんはスヤスヤと眠っていた。
「うっ、頭いてぇ。久しぶりだなこの感覚。」
俺は、ズキズキと痛む頭を抑えながら、ベランダに向かった。
そこには、先に親父がタバコを吸っていた。
俺も何も言わずにタバコに火をつける。
「なあ、翔太。お前、俺に何か隠してるだろ。」
「いっ、いや何も隠してねぇよ。」
俺が異世界で魔術師候補生をしているなんて、恥ずかしくて言えない。たぶん信じないし、大笑いするだろう、親父は。
「そうか。まあ、何かあるんなら言えよ。俺はお前の親父なんだからな。」
親父は俺に優しい笑顔をむけた。
「わかったよ。何かあった時はちゃんと言うから。」
俺と親父。何気ない朝の一幕であった。




