表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
2/87

トキメキとピンチの通勤ラッシュ

 

 この日もいつも通りの朝を迎え、ホームで電車を待っていた。

 そして、白色で正三角とその下に1と書かれたいつもの乗車印から電車に乗り込み、つり革を掴み流れていく車窓の景色をぼんやりと見つめながら立っていた。


 イヤホンから流れてくるお気に入りのバンドの曲を聴き、変わりばえのない生活に飽き飽きしている自分を鼓舞していたものの、結局は何もなく1日が過ぎていくんだろうなとネガティヴな思考が頭と心の中を満たしていった。


 いつもならこのまま立ったまま目的の駅まで向かうのだが、今日は違っていた。途中の駅で、ちょうど俺の目の前に座っていたサラリーマンが降りていき、空席となったのだ。


 久しぶりに座れる事に、今日一日はついてる日だなと単純な思いに駆られる。


 普段、何も変化の無い生活を送っているせいか、こんな小さな事でも幸せに感じてしまう俺。


 スマホを取り出すと、SNSのタイムラインを流し見して、目的の駅に着くまで時間をつぶしていた。

 そして、目的の駅の1つ前の駅に着くと俺の右隣の席が空き、誰かがまた座った。


「すいません」


 透き通った小さな声で周囲の人に会釈をしながら座った人物をチラッと目をやった瞬間、俺の体に稲妻のような衝撃が走っていった。


 俺の右隣に座ったのは、誰からも「美しい!」認められるような色白の美しい女性であった。


 髪の長さは肩に毛先がつくくらいのミディアムで、ダークブラウンの落ち着いた色合いにふわっとしたゆるいパーマがかかっている。

 目鼻立ちがくっきりしていて、黒のロングスカートに少し肩が見える白のTシャツというシンプルだが上品にみえる大人のコーディネートであった。


 俺は、しばらく美しい彼女の姿に瞳を奪われていた。


 座れただけで感じていた幸せとは比べものにならないほど大きな幸せが、俺の心の中のネガティブな思考を優しく包み込んでいく。


 しかし、ふと冷静に考えた時、包み込んでいった大きな幸せは徐々に剝がれていき、再びネガティブな思考が顔7を出し始める。


 目的の駅の1つ前で彼女は座った。俺は次の駅で降りる。次の駅までの距離は近いので2分ぐらいで到着してしまう。

 つまり、この段階で座った彼女が、次の駅で降りる可能性はかなり低い。


 つまり、この幸せは、たった2分しか感じる事ができない……。


 虚しさを抱きながら、車窓から見えるオフィスビルやショピングビルなどが建ち並ぶ都会の景色を眺めていた。


 そして、車のスピードが徐々に遅くなり、目的の駅に電車が滑り込んでいく。


 俺は、完全に停車したのが確認できた後、ゆっくりと席から立ち上がろうとした瞬間!


 俺の目に衝撃の光景が映る。


 右隣に座っていた彼女もほぼ同じタイミングで席から立ち上がったのだ。

 つまり同じ駅で降りるということ。

 俺の予想は良い意味で裏切られた。


 嘘だろ、こんな事……

 もしかして地下鉄でも一緒になるかもしれない。


 こんなベタな事で運命じゃないかと思ってしまう俺。

 思わず口角が緩んでしまう。

 淡い期待に心躍らせ、俺は彼女のすぐ後に電車を降りていった。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ