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ANTIQUE  作者: OOK&YOK
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取り戻された信仰

●登場人物

・吉田大地…土の能力者。戦闘力は低いがチームの知恵袋として戦いを有利に運ぶ。

・シルバー…鋼の能力者。公軍騎馬隊の大隊長を務めた軍人。馬の扱いは見事の一言につきる。

・キイタ…火の能力者。戦闘は苦手であったが、ココロを守る戦士としての自覚が徐々に芽生えて来た。

・ガイ…雷の能力者。元はシルバーの部下であった男。同じく馬の扱いに長けている。


・導師…フェズヴェティノスにより追いやられていた古代宗教であるイータンダティルの指導者。

・ブラド…ヤック村の若者。イータンダティルを捨て、流行りのオヤシロサマ信仰に鞍替くらがえしてしまった。

・ブラドの母親…深い考えもなくオヤシロサマを信仰していたが、ココロとアクーに言われ再びイータンダティルの信仰に目覚めた。



●前回までのあらすじ

 能力者達の活躍により言葉卸の儀を滅茶苦茶めちゃくちゃにされたガウビは遂にその本性を現し、人間を知恵ある者に導いたのは自分達フェズヴェティノスなのだと叫ぶ。

 そんな自分を恐れる人間を皆殺しにしようと牙をいたガウビを止めたのは姿なきオヤシロサマの声であった。巨大な光の玉となったオヤシロサマはココロに連れ去られたハナを追い会場から飛び立つ。それを見たガウビも慌ててその後を追い会場を出て行ってしまった。

 逃げるココロを追う能力者達、更にそれを追うフェズヴェティノス。会場にはボロボロになった人間達だけが取り残された。







 ココロとハナを追って儀式会場の外に飛び出したキイタは、迷わずブラドにすすめられた宿へと向かった。宿の前にはここまで共に旅をしてきた二頭の馬がつながれている。

 キイタはアスビティの体の小さな馬を選び馬止めにわえられた手綱たづなを解きにかかる。

「キイタ様!」

 そこへ抜き身の大刀を手にしたシルバーがけつけてきた。

「シルバー、急いで!」

「承知!」

 シルバーも続いて体の大きな黒毛の馬に取りつくと、同じように手綱たづなゆるめた。先に馬のいましめを解いたキイタは、そのまま馬体によじ登ると、シルバーを待つ事なくココロ達が走り去った方へその顔を向けた。

 キイタに遅れる事数十秒後、飛ぶように馬にまたがったシルバーは馬の腹を思い切り蹴った。

「うお!置いて行かれた!」

 続けて会場から飛び出してきたガイは、暗い道を走り去るキイタとシルバーの後ろ姿を見て叫んだ。

「やむを得ん、走るぞ大地!」

「嘘だろ!追いつく訳ないじゃん!」

「それでも走るんだ!さっさとしろ!」

 ガイがそう叫んだ時、二人の後ろで悲鳴が上がり、続いて何かを破壊する轟音ごうおんが鳴り響いた。

 振り向きながら咄嗟とっさに闇に身をひそませた大地とガイは、数えきれないオウオソの集団が会場入り口を破壊しながら文字通り飛び出してくるのを見た。

 オウオソ達は群れをなして飛び、空中で大きく旋回せんかいすると、大通りを大地達に気が付かないまま飛び去って行った。

「絶対追いつけないって」

 大地が力なくつぶやくのにガイが言い返そうとした時、再び大きな破壊音が夜闇に響き渡った。

 何事かと見れば、オウオソ達に倒された馬車を破壊したクウダンが砂煙を上げ、地響きを立てながら二人の目の前を走り去っていった。

「急がねえと」

「待って!」

 クウダンを追いかけて走り出そうとするガイを大地が押しとどめる。

「ガイ、あれを見て!」

「あ?」

 大地が指さす方へ顔を向けたガイは、クウダンに破壊された馬車を引いていた二頭の馬が恐怖にいななきながら走ってくるのを見た。

 一瞬大地と目を合わせたガイは、それ以上悩む事なく単身大通りへと飛び出した。真正面から突っ込んでくる二頭の馬の前に立ちふさがったガイは、大きく両手を広げてそれを待ち構えた。

 自分の両脇を馬がすり抜けようとしたその瞬間、ガイは両手にそのくつわをしっかりとつかんだ。その衝撃に体が回転するのに逆らう事なく馬をなだめにかかる。

 すぐに飛び出した大地も一頭の馬を引き受け、落ち着かせようと声を上げる。やがて馬は興奮を収め始めた。そのタイミングを見誤る事なくガイは大地の襟首えりくびつかむと、そのまま馬体の上へと放り上げた。

 見事馬の背に飛び乗った大地はそのまま手綱たづなを取ると一気にけ出した。ガイも華麗かれいに馬にまたがるとすぐ後に続いた。二人の上げる砂埃が闇夜に白く巻き上がった。



 一方、竜巻が通り過ぎた後のように破壊された儀式会場では、取り残された人々が未だ呆然ぼうぜんと黙り込んでいた。

「う、う~~~ん」

 静まり返った会場に苦し気なうめき声が響く。ガウビに放り投げられたブラドが意識を取り戻したらしい。周りの人々はその声にようやく我に返った。

「ブラド!」

「ど、導師!」

 ブラドの仲間の若者達と、導師について会場に乗り込んできたイータンダティルの信者達が同時に動き出す。

 彼らの助けを借りて導師はようやく立ち上がった。目に涙を浮かべ、苦しそうにガウビにつかまれたのどおさえていたブラドは、まだ立ち上がる事もできないまま目の前の導師を見つめた。

「ど、導師…」

 ブラドの痛めつけられたのどからかすれた声がこぼれた。呼ばれた導師とその周りにいた信者達がブラドを見る。

「…やっぱり俺達は…だまされていたのでしょうか?」

 ブラドの質問を受けた導師よりも早くイータンダティルの信者達が口々に答えた。

「当たり前だろう!」

今更いまさら何を言ってる!」

「あんなの、まやかしに決まっているではないか!」

「まあ、待ちなさい」

 いきり立つ信者達を導師は静かな声でいさめると、彼らの手を押し返し一人で立った。

「ブラド…、さぞ辛いだろうね?信じていたものに裏切られると言うのは…。君だけではない、ここにいる大半の人々が今、どのような気持ちでいるか私にはよくわかるよ…」

 導師はゆっくりと周囲の人々を見回した。イータンダティルを捨て、オヤシロサマの言葉卸ことばおろしの儀に夢中になっていた人々は、今になって自らの愚かさに気づき気まずそうに眼を伏せた。

「しかし、無理もない…」

 額から血を流しながら、導師は再び口を開いた。

「我らの神々は、あのオヤシロサマのように明確に我らを導いてはくれない」

 ブラドは他の者と同じように伏せていた目を再び上げ、導師を見つめた。

「もし、あのままだまされ続けていたとしたら、もしかするとこの村は急激に大きな発展を遂げていたかもしれない…」

「導師っ」

 オヤシロサマやそれを信じた人々を擁護ようごするような導師の言葉に、信者達が非難めいた声を出す。導師はやんわりとそんな彼らを手で制すると続けた。

「だが、果たしてそれが私達の本当の幸せであったかはわからない。ブラド、私達はそんなに先を急がなくともよいのではないだろうか?何かのたくらみがあったのかもしれないが、オヤシロサマが君達に残したものは決して悪いものばかりではなかったと私も思う」

 導師は自分を見上げる若者の顔を見つめにっこりと微笑ほほえんだ。

「もう一度、一から始めてみようじゃないか。新しい何かを手に入れた君達が、もう一度イータンダティルの信仰の下に生きる事で、この村は次の階段を一歩上る事になるのかもしれない」

 全てを許そうとする導師の笑顔にブラドは再び顔を伏せた。弱々しい声がその口かられる。

「けど…けど俺達は、一度はイータンダティルを捨てた…。そんな俺達が、再び信仰を取り戻す事などできるのでしょうか?」

勿論もちろんできるとも」

 間髪かんはつ入れずに導師は即答した。ふいに歩き始めた導師はさっきまでガウビが立っていた場所まで来ると振り返り、村人達を見つめた。

「信仰は自由だ。我らの神は決して我らを待つ事などしない、期待もしない。しかし、すがるものを見捨て、こばむ事もしない。今度の事で我らは一つ賢くなった。やり直す事などいつでもできる、何度でもできる。イーダスタの神々はあまりにも冷たく、あまりにも寛大かんだいにいつだってそこにいてくださるのだから」

 いつしか会場中の人々全員が目を上げ、導師を見つめていた。イーダスタを捨てた人々に対し怒りの表情を見せていた信者達も、今は静かにたたずむばかりだ。

 そんな彼らの背後から大きく手をたたく音がした。振り向くと、会場の入り口付近に見慣れない初老の男が立ち、彼らに向かって一心に拍手を送っていた。

「あなたは?」

 男の拍手が止むと導師がたずねた。

「私はイーダスタ共和国第三 自治国首長じちこくしゅちょうだ」

「しゅ、首長…?」

 額を負傷した頭髪の薄い小柄な男の言葉に、その場にいた全員が驚きのあまり言葉を失った。

「この村にイータンダティルに勝る素晴らしい信仰が広まりつつあるとのうわさを聞きつけ、一つその内情を見てやろうとけつけたが…。いやはやとんだところに居合わせてしまった」

 首長はその立場に似合わぬ人懐ひとなつっこい笑顔で照れたように言った。

「しかし、これで確信できた。やはり我らイーダスタの国民に必要なのは、先祖から受け継がれしイータンダティルの信仰なのだと言う事がな」

 首長の言葉を聞いたブラドは再び項垂うなだれるように首を折った。

「そんな当たり前で、そんな大事な事を、何だって俺は忘れっちまったんだ…」

 後悔してもしきれない胸の内をつぶやきながら、究極なまでに落ち込んだ声を出すブラドに歩み寄ったのはイータンダティルの信者達であった。

「それが当たり前で、大事な事だと気が付く為に、今度の事は必要だったんだよ」

「しかし…」

 優しく手を差し伸べる信者に、それでもブラドは素直に答える事ができなかった。その時、会場入り口から大きな女の声が響いてきた。

「何をいつまでもグチグチと言ってるんだい!」

「お、お袋!」

 ブラドがその体格に似合わない甲高かんだかい声を出した。そこにはココロ達に茶を振舞ってくれたブラドの母親が立っていた。彼女は驚いた顔で自分を見る息子を無視して、足早に導師のそばけ寄ってきた。

「導師様、私は今日の儀式には参加しませんでした。今日、家に来た旅人に言われたのです。本当にイータンダティルの信仰を忘れてしまっていいのか?と」

 突然現れた女の言葉に、そこにいる全員が黙って耳をかたむけた。

「言われた私はハッとしましたよ。子供の頃からずっと信じてきた信仰を忘れ、それが消えていくのを見るのは、ただ単純に嫌だ、と思いました。虫のいい話だとは思いますけどね、私はやっぱりイータンダティルが好きなんだって気が付かされました。それは、いけない事でしょうか?」

 一気にまくし立てる女の言葉を驚いた様子ようすで聞いていた導師だったが、女が黙ると再びにっこりと笑顔を作って言った。

「何も…。何もいけない事などありはしません。それは勇気のいる事かもしれませんが、あなたはそれに気が付けたのです。誰にも恥じる事なくもう一度、一緒に感謝をささげましょう、我らの神へ」

「導師…、ありがとうございます」

 女は感激の表情を浮かべて頭を下げた。母親の行動をポカンとした顔で見ていたブラドの前に手が差し伸べられる。それに気が付いたブラドが顔を上げると、そばにいたイータンダティルの信者が一人、笑顔で立っていた。

 少し照れたようにブラドはその手を取ると、ゆっくりと立ち上がった。

「いや、万事大団円ばんじだいだんえん!めでたいめでたい!」

 自治国首長じちこくしゅちょうは笑顔で言うと額の傷を思い出したらしく、その痛みに顔をしかめる。付きっていた御者ぎょしゃが慌てて布をその傷にあてた。

「それにしても…」

 信者の手を借りて立ち上がったブラドがつぶやく。

「結局、あの旅人達は一体何だったんだろう?」

 その言葉に導師が答える。

「さあな。彼らもさる事ながら、今日、私をこの会場に向かわせたのはあのポーラー君だったよ」

「え!」

 導師の言葉に会場にどよめきが走った。

「ポーラー?」

「ポーラーって、あのポーラー?」

「無事だったんだ…」

「森に入ったきりだったのに、信じられない!」

 会場のあちこちから驚きの言葉があふれる。

「そう言えば…」

 そんな驚きの中、再びブラドが口を開く。皆何事かと彼の顔を見る。

「あの青い髪の少年も、森を抜けてきたと言っていた…」

 森の中には恐ろしい化け物がいたはずだ。オヤシロサマは偽物にせものだったかもしれないが、その事実だけはくつがえる事はない。そんな中で過ごしていたポーラーと、そんな森を抜けてきたと言う旅人達…。人々は一体どう言う事かといぶかしげにお互いの顔を見合った。

「もしかすると…」

 戸惑とまどいの色を隠せない村人達の中で、導師がポツリとつぶやいた。

「彼らこそが、我らの神が唯一使わせた救いの主であったのかもしれないなあ」

「救いの主?」

 ブラドの母親が眉根まゆねを寄せて聞き返した。彼女の顔を見ながら導師がうなずく。

「結局、ポーラーをはじめあの旅人達のお陰で、私達は再びイータンダティルの下一つになる事ができたのだから…」

 そう言うと導師は静かに後ろを振り返った。そこには散々に破壊し尽くされた儀式会場があった。

(ここからだ)

 声もなく胸の内で一言呟つぶやくと導師は再び村人達の方を振り向いて力強く言った。

「もう一度ここからやり直そうではないか。古きものを守り、伝えていく事は言う程簡単な所業しょぎょうではない。私達が一つにならねば果たせぬ大事業だ」

 導師の言葉を聞いた人々の顔に笑顔が広がる。それは未来への確信をつかんだ希望に満ちた笑顔だった。










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