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ANTIQUE  作者: OOK&YOK
98/440

儀式の後で

●登場人物

・オヤシロサマ…フェズヴェティノスの長。

・ガウビ…フェズヴェティノスイーダスタ共和国占領作戦参謀。

・導師…イーダスタに古くから伝わる宗教であるイータンダティルの指導者。

・ブラド…ヤック村の若者


●前回までのあらすじ

 遂に下されたオヤシロサマの預言により、ガイとアクーはヤック村の人々から悪魔と誤解されてしまう。しかし、大地とアクーの咄嗟の機転によりフェズヴェティノスこそ本当の敵である事を証明する事ができた。

 戸惑う人々の中、シキの三人をフェズヴェティノスに利用されているただの少女であると判断したココロはハナの手を取り儀式会場からの脱出を試みる。

 それに気が付いたキイタ、シルバー、ガイ、大地の四人もまた会場を後にする。それを上空から見ていたオウオソの一団は仲間の仇であるシルバー達を追い町へと飛び出して行く。

 一方オオグチの長であるラプスとの一騎打ちに入ったアクーは、ラプスの中に宿る戦士の誇りに訴えかけ、無力な村人がいない場所で戦おうと会場の外へと走る。アクーの気持ちを汲んだラプスは生き残った部下を連れ、アクーを追う事を決意する。ハナを追ったシキのヒカルとタマ。アクーに正体を暴かれたクウダンもまたANTIQUEを追い会場の外へと飛び出して行く。

 こうしてアクーの水の能力で破壊され尽くした儀式会場には、非力な人間達と、フェズヴェティノスの参謀であるガウビだけが残されたのだった。







 ガイに続いて大地は会場の外に飛び出した。

「今度こそ逃がすな!ここでANTIQUEをめっする!続け、オウオソの民よ!」

 背中の刀を抜き放ちゲンシキが叫ぶと、雄叫おたけびで答えたオウオソの一団が一気に降下を始めた。

 驚くべきスピードで大地の後を追うオウオソ達は、頭を抱え恐怖に崩れる群衆の上をかすめ低空飛行のまま会場の出入り口に殺到さっとうした。

 壁や柱を粉々に吹き飛ばして飛び去って行くオウオソの勢いに、自治国首長じちこくしゅちょうを乗せた馬車が横倒しになる。御者ぎょしゃが慌てて扉を開けると、年老いた首長を助け出した。

「い、痛い痛い…な、何て所だ…」

 御者ぎょしゃに手を取られた首長が泣きそうな声を出しながら倒れた馬車からい出て来る。けた額から薄く血がにじんでいた。ようやい出た首長の目の前に、地響きを立てながらクウダンが迫ってきた

「ひ~~~~~っ!」

「首長様ぁ!」

 泣きながら逃げる首長と御者ぎょしゃ二人の背後で、クウダンの体当たりを食らった馬車がこれも粉々に砕け散る。いましめを解かれた引馬ひきうまが二頭とも、恐怖にられていななきながら逃げ出した。

 真っ直ぐにけ抜けたクウダンは急制動きゅうせいどうかけると体を右に向け、大通りを走り去っていった。



「こんなに派手にやらかしちゃっていい訳?」

 目の前に立つラプスに向かい、アクーは強がったな笑顔を見せながら言った。

「密かに人間共の世界に浸透しんとうし、裏から人知れず国を動かす。知性ある生命体の治める世界での作戦だった」

「ちっとも密かじゃないねぇ。君達の存在はこの村を中心に近隣各国へ語り継がれるだろう」

「早いか遅いかの問題だ。結局、人間は全て我ら虚無の住人によって殲滅せんめつされる運命なのだから。それが、真の闇の王、シュベル様の意思なのだからな」

「シュベル?」

「ここで倒されるお前は知らなくていい事だ」

 アクーは静かに微笑むとラプスに向かって言った。

「何でかなぁ?何故僕はこんなにも君達の事が嫌いなんだろう?その謎が解けるまで僕は死ぬ訳にはいかないんだ。これからココロや大地達とそれを探す旅に出るんだよ」

 アクーは弓を降ろした。矢を腰のゆぎに戻す。弓も背に背負ってしまった。

「旅の途中で君達とはまた戦うだろう。大きな犠牲を払うかもしれない。でも、今僕はここで、この村人達を見捨てて旅立つ事はできないんだ」

「何が言いたい?」

「場所を変えよう。君が追ってくる限り僕は君達を殺し続ける、何度でも、何度でも…」

 口を閉ざしたラプスがじっと小さなアクーを見つめる。その背後に黄色い目を輝かせたオオグチが集まり始める。

「僕は君達が嫌いだ、大嫌いだ…。だけど、君の中に戦士のほこりを見た。それは認める」

 ラプスは両手を下げ、ただ黙って話し続けるアクーを見つめている。

「人々を守りながら君達と戦うのは難しい。そして、戦う術を持たない人々を盾にするような卑怯ひきょうな事を君達はしない…。とことんやろうじゃないか」

 真っ赤に輝くラプスの目と、深い海のように青いアクーの目が見つめあう。

「お前は…」

 ラプスがようやく口を開いた瞬間、アクーは急にしゃがみ込むと地に手を突いた。いつの間にかその右手は美しい青色に光り輝いていた。

「ハル!」

 アクーが叫ぶやいなや、不気味な地響きが鳴り始める。

「な、何だ何だ?」

 壁の上で安定をなくしたガウビが不安げな声を上げる。地響きは益々大きくなり、地震のように舞台を揺らした。

「僕は…何?」

 アクーは地に手をつけたままラプスを見上げる。ニヤリと口元をゆがめたラプスがつぶいた。

「我らと同じ匂いがする」

「願い下げだね」

 一瞬不愉快そうに眉間みけんしわを寄せたアクーは突然飛び上がると、ラプスの肩を蹴り、高く宙に舞った。

 きょを突かれたラプスが慌てて振り向いたその時、彼らの立つステージの床があちこちから裂けはじめた。その裂け目から勢いよく水柱が何本も吹き上がる。

 ハルの能力に刺激された地下水脈が舞台の真下から噴き出たのだ。止まる事を知らない水の勢いは舞台の破壊と共に勢いを増し、その崩壊に拍車はくしゃをかけて行った。

「うわ、うわ、うわ~」

 ガウビの立つ壁が足元から崩れ始め、やがて観衆の頭の上に覆いかぶさるように倒れ始めた。

 会場にいた人々は、ゆっくりと迫りくる巨大な壁に恐怖の悲鳴を上げ、逃げ惑った。やがて盛大せいだいな土煙を上げて壁は完全に倒れた。

 村の人々はともかく、そんな壁にみすみす押しつぶされるオオグチではない。いち早く四方をめぐ壁の上に全員が移動していた。

「ラプス様…」

 村人達のパニックの声など気にもめぬまま、一匹のオオグチがラプスに話し掛ける。

「これから、我らは?」

「知れた事、とことんやるのみだ。奴らを追うぞ!」

「はっ!」

 当初に比べ各段に数は減ってはしまったが、ANTIQUE打倒の思いを以前にも増して強くしたオオグチの一族は壁を蹴ると、ANTIQUE達が消えた大通りを目にも止まらぬ早さでけ抜けて行った。



 崩れた壁の下敷したじきなるのを辛うじて回避した村人達は、汚れきった顔を上げた。皆 呆然ぼうぜんとした顔のまま瓦礫がれきの山と化した舞台に目を向けた。

 崩れ去った壁の向こう側には白く輝く大きな建物があった。オヤシロサマの一団が村へ来るなり建立こんりゅうした本殿だ。

 その白い建物を背に元通り人の姿に戻ったガウビが一人、静かにたたずんでいた。ふと、会場に目を向ける。そこにいる全員の目が自分を見つめていた。その視線に気が付いたガウビは、この上なく優し気な笑顔を作った。

「皆さん、お怪我はございませんか?」

 そらぞら々しく、その場に余りにもそぐわない言い草に、村人達の中に怒りがいてきた。

「これはどういう事だ!」

「あんた達は俺達の味方なのか?敵なのか?」

「はっきり答えろ!オヤシロサマは俺達をだます為のペテンだったのか?」

 ひょうひょう々とした態度を崩さないガウビに人々の怒声どせいが飛ぶ。笑顔のまま両手を広げたガウビは大声で言った。

「おやおや皆さん、どうしました?もしかして、何か怒っていらっしゃいますか?」

「その通り、怒っているのだ」

 ガウビの背後から声が聞こえた。振り向くと、瓦礫を払いのけ、あちこちから血を流したイータンダティルの導師が、信者に肩を借りて立ち上がってきた。

「まやかしの言葉で自分達を扇動せんどうしてきた君達に、皆怒っている」

 ガウビは優雅に見える仕草しぐさで再び観衆へと向き直ると、自分を見つめる人々にたずねた。

「そうなのですか?皆さん怒っていらっしゃる?もうオヤシロサマの言葉は信用できないと、そんな風に考えていらっしゃる?」

 そう聞かれた村の人々の表情は動かない。その顔には不信の色がありありと浮かんでいた。そんな人々の気持ちを読み取ったガウビは、ふっと息を吐くように笑うと服についたほこりを音を立てて払った。

「そうですか…。皆さんはもう、オヤシロサマをお信じにはならないのですね?」

 そうつぶやいたガウビの肩が小さくれ始めた。うつむいたままのガウビは、最初泣いているようにも見えた。しかし違った、彼は泣いているのではなく、笑っているのだ。

「何がおかしい!」

「本当の事を言え!」

 そんなガウビに更なる怒りの声が飛んだが、ガウビは構う事なく笑い続けた。

「うるさいなぁ」

 ガウビがポツリとらす。

「ああ、うるさい、うるさい、うるさい。自分達だけじゃ何も決められないおバカさん達が…。だから私達が導いてあげようとしたのに…」

 言いながらガウビの項垂うなだれた胸元から、豊かに輝く金色の毛が盛り上がるようにあふれ出てきた。

「あなた達はいっつもそうだ…。いつだって、ちょっとばかし知恵がついた事で自分達がえらくなったと勘違かんちがいをして…」

 下にらした両手の袖口そでぐちからも毛があふれ出す。頭の上に鋭く尖った耳が立ち上がった。

「そうやっていつの時も私達を忘れ!時のひずみへと追いやっていくのですよぉ!」

 そう叫んで上げられたガウビの顔には、黒々とした幾筋もの文様もんようが浮かび上がり、その背中に美しい九本の太い尾が翼のように広がった。

「うわぁ!」

「化け物だ!」

 ガウビの変化に村人達が悲鳴を上げる。

「可愛い娘が狸になれば神の奇跡で、疑わしい男が姿を変えれば化け物ですか…。相変わらず勝手な生き物だ。それが神か化け物か、それはあなた達のおろかな眼が見るものを、あなた達の救いようもなくおろかな頭がどうとらえるかである事に今もって気づけていないとは…」

 ガウビはゆっくりと導師を振り返った。その顔はすでに人間の名残なごりを残さず、完全に獣のそれに変わっていた。

「あなた達のそのあわれなほど未熟で小さな知恵は一体誰にさずけられた思っているのだ?この世の王にでもなったつもりか?か弱き者達よ。あなた達を導き育てたのは他でもない、我らフェズヴェティノスである事を覚えてはいないか!!」

 聞いている人々に、ガウビが口にする言葉は何一つ理解できなかった。しかし、ガウビの放つあまりにも強い怒りのオーラに誰一人それに言い返せる者はいなかった。

「まあいいでしょう。私達の作戦はどうやら失敗に終わったようです。残念です、本当に残念です…。私達は再びここで、あなた方と共に歩んでいく事を望んでいたと言うのに…」

 と、突然ガウビが可愛らしい仕草で聴衆に向かって叫び始めた。

「みんな――――、今日見た事、聞いた事、全部内緒にしておいてね―――!」

 若い娘のような声色で叫ばれた言葉に、場内は静まり返る。服を着たしゃべる動物の底抜けのテンションに村人達は異様な恐怖を感じ、縮み上がった。

「何てね…そんなの無理か」

 ガウビは天をあおぎ、大きく一つため息をついた。

「よし!やるか!あなた達は我らの正体を知った、そしてその事を黙っている事はあなた達にはできない!よって、我らの秘密を守る為、ここにいる全員、私が今ここで殺します」

 一瞬の静寂が訪れた。ガウビの言葉の意味を理解するのに、皆時間が掛かった。

「あ、あの…ガウビさん…今のは、どお言う?」

 目の前に立つしゃべる獣に向かい、それでもまだブラドはしたっていた時の名で呼びかけ、訊ねた。

「ん?どういう意味かって?勿論もちろんそのままの意味ですよ」

 わずかに残った舞台の上から近づいたガウビはブラドの顔をのぞき込みながら言ったかと思うと、そののどを片手でつかみ、体ごと持ち上げた。

「うわ!うわぁ~~~~~~!」

 空中で足をばたつかせながらブラドが悲痛な叫びを上げる。それを見た周りの人々が悲鳴を上げて逃げまどう。

 目の前に迫る死に恐怖の色で満たされたブラドの顔を見つめるガウビの金色の目が恍惚こうこつの光を宿し始める。

「怖いですか?すぐに終わります。ああ、いい顔だ…。やはり私も、フェズヴェティノスなのですねえ」

 そう言いながら狙いを定めるガウビの左手に、鋭い短剣のような爪が光る。

「や、やめて…」

 ブラドの目に恐怖の涙が(にじ)んだ。

「そのまま、私達を受け入れていればよかったものを…」

 ブラドが左手に力を込めようとした、その時であった。

「ガウビ」

 重々しい老人の声が響き渡った。その声に動きを止めたガウビがゆっくりと振り向く。その声は背後の本殿から聞こえてきた。

「オヤシロサマ…」

「もうよい、やめよガウビ」

「そうはいきませぬ、この者達は我らのたくらみを知った!生かしておく訳にはいきませぬ!」

 会場中の人々の口から驚きのどよめきがれた。

「オヤシロサマ?」

「オヤシロサマと言ったか?」

「これは、オヤシロサマの声なのか?」

 今やオヤシロサマなどはガウビ達が自分達をだます為に作り上げたまやかしだと疑わなかった人々は、突然のオヤシロサマの登場に動揺どうようした。

だまされるな!オヤシロサマなどいるはずがない!」

 信者の手を振りほどきガウビに立ち向かおうとした導師に向かい、ガウビは片手一本でブラドの体を投げつけた。

「導師!」

 信者達が悲鳴に似た叫びを上げながら見る目の前で、導師とブラドは重なり合うように倒れた。ガウビは群衆に背を向け、本殿に向かい叫んでいた。

「ここで人間共の息の根を止めておかなければ後のくわだてに支障が…」

「それは我らのたくらみではない、シュベルのたくらみだ」

「で、ですからそれはすなわち我らの…」

「お前は誰の部下なのだ?いつから誰かの部下になったのだ?」

 オヤシロサマの静かな声にハッとした様子を見せたガウビが黙り込む。

「誰かのたくらみの為に、お前は人間をあやめようと言うのか?村を一つ消そうと言うのか?幼子おさなごまでも、その手にかけると言うのか?」

「しかし…、それではオヤシロサマは、シュベル様を裏切るとおっしゃる気ですか?」

「そもそもシュベルに儀があるか?我らは奴に頭をれ、どうか配下にしてくださいと願い出て今、ここにいるのか?」

 ガウビは目を大きく見開き、鋭い牙の光る口を何度もパクパクと動かした。しかし、忙しく動くその口からは何一つ反論は出てこなかった。そんなガウビにオヤシロサマの更なる言葉が浴びせられる。

「我らは誇り高きフェズヴェティノスぞ!」

 その言葉はとどめのようにガウビの胸に突き刺さった。ガウビはうつむくと静かな声で答えた。

「わかりました、人間を殺すのはやめます。しかし、これからどうする気ですか?最早もはやここに我らの居場所はありません」

「ハナが連れ去られた」

「え?」

 ガウビが慌てて周囲を見回す。よく見れば、シキの三人も、クウダンも、ラプスひきいいるオオグチの一族も、空を舞っていたオウオソ達もいなかった。

「連れ去ったは、始まりの存在…」

「な、なんと…」

「後を追う」

 その言葉が聞こえた途端とたん、白い本殿は目もくらむ程の光に包まれ始めた。大きくふくらんだその光はやがて一つの玉となり、静かに浮き上がった。

「オヤシロサマ!」

 天へと昇っていく光の玉を見上げながらガウビが叫ぶ。

「あれは…、箒星ほうきぼし…」

 地上を離れ、去っていく光の玉に目を細めながら導師がつぶやく。彼の言う通り、まぶしい光の玉は彗星すいせいのような尾を引いて、やがて闇の彼方へと消えて行った。

 まばゆい光が消え、恐怖にひれ伏していた人々が顔を上げると、さっきまでそこに建っていたオヤシロサマの本殿は幻のように消え失せていた。

「オヤシロサマ…」

 空を見上げつぶいたガウビは、ハッと我に返った。

「ち、ちょっとぉ?オヤシロサマ!お、置いていかないでくださいよぉ―!」

 そう叫んだガウビは大きく地を蹴ると、一気に壁の上まで飛び上がり、すぐにもう一度空高く舞った。暗い道へ飛び降りると、後ろも振り向かず光の玉となったオヤシロサマを追って走り去っていった。

 後には、散々に破壊された儀式会場とボロボロに汚れた大勢の村人達だけが取り残された。













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