開幕
●登場人物
ANTIQUE
・ココロ…”始まりの存在”ゲンムに選ばれた少女。強力なテレパシーと予知能力を持つ。
・吉田大地…土のANTIQUEテテメコに選ばれた地球の少年。土や石などを自在に操る。
・シルバー…鋼のANTIQUEデュールに選ばれた軍人。自らの体を鋼鉄に変える事ができる。
・キイタ…炎のANTIQUEフェルディに選ばれた幼い王女。右手から灼熱の炎を生み出す。
・ガイ…雷のANTIQUEウナジュウに選ばれた軍人。義手である左手から強烈な電撃を放つ。
・アクー…水のANTIQUEハルに選ばれた少年。水を操り、また右手から水の矢を出現させる。
フェズヴェティノス
・ハナ…シキと呼ばれるオヤシロサマに仕える三人の巫女で構成された舞手のリーダーで桃色の巫女。元気で明るい眼鏡っ娘。
・ヒカル…シキの一人で黄色の巫女。グラマラスなスタイルで非常に美しい顔をしている。
・タマ…シキの一人で白色の巫女白い肌に黒いショートカットの巫女で妹キャラ。
●前回までのあらすじ
一足先に森を抜け、ヤック村へと辿り着いたココロ、キイタ、アクーの三人は現状を調査しようと一軒の家を訪ねる。そこで出会った優しい女とその息子ブラドの話しを聞いた三人はいよいよ「言葉卸の儀」に乗り込むべく村の中心を目指し歩き始めた。
一方、ココロ達を村へ向かわせる為森へと残りオウオソとの戦闘に入っていた大地、シルバー、ガイの三人も強敵オウオソ十一騎からの攻撃を何とか躱し、藪の深い道なき道を突き進んで行った。
藪を抜け、小高い丘の上へと飛び出した三人の眼下には、秋の日差しを受ける長閑な村の様子が見えた。能力者達はそれぞれの道を通ってヤック村へと集まった。
「どうやら、あそこみたいだよ」
そう言いながら大地が指さす先には粗末な木枠で設けられた入り口あった。夕暮れを迎え、今その入り口へ人が次々と飲み込まれていくのが見える。
山を駆け下り、何とか隠密に村へ入った大地、シルバー、ガイの三人であったが、村の地理に詳しい訳ではない。取り敢えず中心部と思われる方に進み、そこで人々の動きをひっそりと見張っていたのだった。
儀式の時間が近づけば多くの人が繰り出す。その流れに乗って行けば自ずと会場に辿り着ける筈、そう主張したのは大地であった。
「どぉれ、オヤシロサマの言葉卸の儀、どれ程のもんかとくと拝見してやろうぜ」
舌なめずりをするように言いながら会場と思しき方向へ進もうとしたガイを、シルバーの冷静な声が引き止めた。
「ガイ」
呼ばれて振り返ると、自分を呼んだシルバーは上着の前をしっかりと閉じたうえに、その上着についたフードですっぽりと頭を覆っていた。その横で大地も同じように顔を隠している。
「私達は…」
とシルバーが言いかけると、ガイは思い出したように頷いた。
「そうそう、偉くも珍しくもないただの旅人、でしたね?」
「そう言う事だ」
言われたガイは、自分もたっぷりとした上着の前を閉じた。自慢の大刀がその中にひっそりと姿を隠す。
「特にガイは目立つからね」
「そうか?」
ガイは顔を隠す大きなフードを被りながら、大地の言葉に訊き返した。
「一際大きな体に長い金髪。加えて傷だらけの顔」
「まあ、否定はしねえ。どうだ?」
軽く手を広げたガイは二人に正面を向けて見せた。大地とシルバーはそっと目を見交わした。
「ま、まあ…。そんなもんかな?」
苦笑を浮かべながら大地が言う。
「でかい体は隠しようもないな。十分異様な風体だが仕方があるまい」
シルバーは冷たい声で言うと会場の入り口へ向かい足を進めた。
「まだ目立つか?」
「まあ、金髪と顔の傷が隠れてれば何とか…。体がでかく見えないように、ちょっと肩をすぼめてみたら?」
「おう」
軍人として長年 鍛えられてきたガイはただでさえ姿勢がいい。大地に言われ、不器用に背を丸めて見せる。
「自然にしてれば大丈夫だよ。行こ」
シルバーを追って歩き出した大地の後からぎこちなくガイもついていく。二人が向かってくる姿をチラリと見定めたシルバーは、一番に会場の中へと入っていく。すぐに追いついた大地とガイも続いた。
「こりゃぁ…」
会場に入るなり、ガイがぽかんと口を開けて頭上を見上げる。その視線の先には眩しい光を投げかけているいくつもの球が浮いていた。
いや、実際に浮いているのではない。その一つ一つは長い一本の黒い線に括り付けられているようだ。いくつもの光の球を付けたその黒い線が会場の上を縦横無尽に走っていた。
「アクーの言っていた光の洪水とは、この事か…」
炎を閉じ込めたように美しいオレンジ色に光る無数の球を見上げたシルバーも、まるで魂を捕らわれたように呟いた。
「白熱球だ…」
「え?」
大地の声に二人は彼の顔を見た。
「大地、この光の正体を知っているのか?」
平成の地球から来た大地は当然それが何だか知っていた。トーマス・エジソンが開発した、最もポピュラーな電球だ。それを見上げたまま大地は頷いた。
未だ電気の活用が確立されていないプレアーガに暮らすシルバーとガイにとってこの状況は、まるで魔女の仕業と見える事だろう。アクーの話しを聞いた時から、大地には会場に電気が使われていることは想像がついていた。
電灯、マイク、スピーカー…。時空を自由に行き来できる魔族ならば揃えるのは容易い。実際、テリアンドスの荒野で戦ったエクスヒャニク達は大地のよく知る電化製品を改造した奴らばかりだった。
しかし、そんな大地もこれ程の規模とは思いもしなかった。今、頭上に広がる光の源は一体どこにあるのか?よく見る四〇ワットの電球に見える。それをこれだけの数、一斉に点けるとすれば裏で誰かが自転車をこいでいる程度の電力で賄える訳がない。
「一体、これはどう言う仕組みなんだ?」
シルバーがまだ茫然とした顔で大地に訊ねる。
「簡単に言えばガイの持っている雷の力を閉じ込めて灯りとして使う技術で、魔法でも魔術でもない。俺の住んでいた世界では当たり前にあった。いずれ、プレアーガにも普及されるだろう。ただしそれは百年後か、二百年後の時代になる筈だ」
「未来の技、と言う事か?」
「そう。だから、驚いただろうけどこれ自体は俺達の脅威になるような事ではないから心配しないで。それよりもこんな技術を持ち込めるのは時空を飛び越す力を持っている魔族だけだ、って事の方が余程重大だ」
「つまり…」
「うん、こんなものを使っているオヤシロサマの背後には絶対に魔族が絡んでいるって事だよ」
「なるほど」
それまで大地とシルバーの会話を黙って聞いていたガイが言った。
「それだけわかりゃ十分だ」
その時、会場を照らす電球の半分程が突然消え、辺りは急に暗くなった。次の瞬間、前方の舞台が一気に会場の数倍も明るい光で満たされた。会場にいた大勢の村人の目が一斉にそちらへ向く。
「みんなー!お待たせぇ―――っ!」
耳を劈くような高い女の声が会場中に響き渡ったかと思うと、集まった人々の歓声が巨大な地響きのように周囲の空気を震わせた。言葉卸の儀式が始まったのだ。
突然始まった人々の雄叫びの中で、ココロとキイタは戸惑っていた。ブラドの忠告に従い早めに会場入りしたお陰でかなり前方の場所を確保する事ができた。
会場中を照らす眩しい光、こんな小さな村のどこにいたのかと思われる程の人々、そして、今突然始まった煌びやかな女達の舞い…。
その声と同時に始まった聞いた事もないテンポの速い音楽の余りの音量に、金縛りにあったように体が動かなくなってしまった。
宿に馬と荷物を置きに行ったアクーは今 傍にいない。突然の大音量と周囲の人々の反応に、軽い恐怖すら感じたココロは思わず隣に立つキイタの手を握ってしまった。
怯えたように身を寄せ合って立っていた二人であったが、舞台の上で舞い、歌う三人の娘を見ている内にその美しさと躍動感に胸が躍り始めた。肩の力が抜け、気持ちが高揚していく。
「すごい…」
一言そう発した途端、周囲の人々と同じように体が勝手に動き出すのがわかった。知らず知らずに表情は笑顔になり、舞台に釘付けになった目を逸らす事ができない。
宮殿で行われる舞踏会では得られない興奮が、ココロの体中を駆け巡る。舞台 狭しと踊り狂う桃色、黄色、白色の華やかな衣装を身に纏った三人の娘達に瞬く間に魅せられて行った。
気が付けば周囲の村人達と一緒に両手を頭の上に翳しながら音楽に合わせて体を動かしていた。ココロのような興奮は見せないもののキイタもまたそこに展開されるパフォーマンスに我を忘れかけているようだ。
その時、唐突に音楽が止み、舞台が暗くなる。と、思う間もなく先程以上に早く激しい音楽が流れ始め、再び溢れた光の中に三人の踊り手が浮かび上がった。
まだ終わりではない、と思った瞬間、ココロとキイタの中に抑えられない喜びが沸き上がっていた。
「なんじゃこれは?」
シキと呼ばれる三人の巫女の舞いを見た大地は思わず呟いた。とても神事には見えない。いや、見えないどころか、まんま大地のよく知るジャパニーズアイドルのコンサートそのままだ。
ふと気が付くと、すぐ隣でガイの体が小さく揺れている。音楽にノってきているらしい。その右手を大地が強めに引く。それに気が付いたガイが大地に何か言うが、大音響の中で何を言っているのか聞き取れない。
「あーっ?」
大地が大袈裟に耳に手を当てて聞こえない、とアピールするとガイが口を近づけてきた。
「楽しいな、これ!」
「うわぁ…」
叫んだガイの顔を見て、大地は少し身を退いた。その顔は、ウキウキ感 満載の笑顔でいっぱいだった。
ガイとの会話を諦めた大地はシルバーの方を向く。シルバーは身じろぎもせず、黙って立ち尽くしている。
そっとフードの中の顔を覗くと、口を真一文字に結び、眉間に深い皺が刻まれていた。どうやら彼はあの巫女達の歌に引き込まれてはいないようだった。
大地はシルバーの手を引くと、壁沿いに来た道を戻り始めた。木枠の入り口を潜り通りに出る。暗がりまでシルバーを導くと大地はフードを取り、一つため息をついた。シルバーもそれに倣う。
「この服は季節的にまだ少し早いね」
言いながら大地は胸元をパタパタと仰いだ。
「大地…」
「え?」
「あれは、神事、なのか?」
「う~ん、と言うよりはただの歌謡曲?音楽にしか聴こえないけどね」
そう言うとシルバーは壁越しに会場に向けていた顔を無表情のまま大地に向け、再び訊いてきた。
「あれは、音楽、なのか?」
「おじさんにはちょっと難しいかな?」
「…」
てっきりおじさんじゃない、とムキになって反論してくるかと思ったが、シルバーは難しい顔をしたまま黙り込んでしまった。
「そ、そんな事より」
えらく深刻そうな顔で俯くシルバーに慌てて大地が声を掛ける。
「このままあのライブ、じゃねーや奉納の舞いか。あれ見ててもしょうがないし、ちょっと周りを探ってみない?この儀式の運営にフェズヴェティノスが関わっている現場を押さえられるかもしれない」
「そう、だな。このままあの音を聴いていると、なんだかこう、頭がおかしくなってきそうだ」
まんま若者文化を理解しないお父さんのようなセリフを吐きながら、シルバーは頭を振った。
「じゃあ、ちょっとここで休憩していなよ。俺、ガイを呼んでくるから」
「ああ、すまん」
「いいって」
そう言いながら大地はその場にシルバーを残し再び熱狂する会場へと入っていった。
「わああ、あのおバカ…」
会場に入ってガイの姿を探していた大地は思わず呟いた。すっかりフードを脱ぎ去ったガイが、美しい金髪を振り乱しながら必死に背伸びをして人々の背中越しに舞台を覗き込んでいる。
慌てて駆け寄った大地はガイの腕を強く引くと、その耳を自分の口元に寄せ早口で言った。
「出るよ、周囲を探りに行く」
そう言うとガイはあからさまに不満の表情を見せた。
「えー、俺はいいよぉ」
「何だいいよって!」
「俺これもっと見てたいわぁ」
「あのなぁ、先生…」
「みんな――――!今日も、私達シキの“言葉卸し”に参加してくれて、ありがとぉ――――――――!」
ガイの思わぬ夢中さ加減に大地がイラついた声を出したその時、それを掻き消す程の大きさで舌足らずな女の声が響き渡った。
その途端、会場中が今まで以上の叫びのうねりに飲み込まれた。それと同時にガイも立ち上がり、舞台に向かって雄叫び上げ始めた。
舞台の上では桃色の服を着たメガネの娘が軽く息を弾ませながら笑顔で話しているが、背の小さな大地にその姿はまるで見えない。
「儀式はまだまだ続くけどぉ、ここで僭越ながらぁ、毎度おなじみメンバー紹介しちゃって、いいかなー?」
再び会場が熱気に包まれる。
「ありがとー、それじゃあ行くよ?まずは白の巫女ぉ、タマちゃ―――ん!」」
「はいは―――い。みんな、今夜もありがとねー。衣装もハートも真っ白しろすけ、あなたの色で染めて育てて、皆の妹、タマちゃんでぇ――――っす!」
タマが叫ぶように言うと、会場は更なる歓声で包まれた。
「なんてアキバ系なんだ…」
会場中の観客がペンライトを持っていないのがむしろ不自然に思える程、それはアイドルのコンサート会場に酷似していた。
もちろん、埼玉の片田舎に暮らす大地はそんなコンサートに参加した事などないので感覚でしかわかりえないのではあるが。
「男性 諸君気を付けて!今夜も大胆セクシー姉さん、ヒカルちゃーん!」
「見つめ過ぎたら目が眩むよぉ!皆を明るく照らす黄色の巫女!ヒカルだよぉ―――ん」
ガイが甲高い悲鳴のような歓声をあげた。
「ひょ―――っ!ヒカルちゃん、かわいいっ!」
「おい、あんた!オヤシロサマの巫女様に向かって失礼だぞ!」
突然横にいた男がガイを叱りつけた。
「そうなのか?」
ガイがキョトンとした顔で聞き返すと、男は突然 満面の笑顔向けて言った。
「ま、俺もそう思うけどな!」
「何だよ、お前もかよー」
ガイが笑って言うと、他の男が割り込んで来た。
「俺はやっぱりハナちゃんだな!」
するとまた別の男が言う。
「俺は断然タマちゃん派だ!」
「俺は全員かわいいと思う!」
「何だよ、ずりぃなぁ!」
するとガイと周りの男達は何故か突然肩を組み、横揺れしながら巫女達の名を叫び始めた。
「ヒカルちゃーん!」
「ハナちゃーん!」
「タマちゃーん!」
「だ、だめだこりゃ…」
大地はため息をつくとそっと立ち上がり、その場を離れた。
「さぁぁ、お待たせぇ!最後は私!元気いっぱい、笑顔は満開!笑顔の花を咲かせまくるぞ!桃色の巫女、ハナちゃんどぇ~~~~~っす!」
ハナの自己紹介に地を揺るがすような大歓声が沸き起こるのを壁越しに聞きながら、大地は小走りに暗がりで待つシルバーのもとに駆け寄ってきた。
「お待たせ」
「ああ。ん?ガイは?」
「ああ、ガイは、何だかあの神事をもう少し見張りたいって…」
「そうか…」
どうやらガイが監視の為敢えてその場に残るのだと勘違いしたシルバーは、納得したように何度も頷いた。
それを見た大地も敢えてそれを否定しなかった。実はガイはあの巫女達に夢中で…、などと言ってわざわざシルバー怒らせる事もない。こんなところで人目を引く騒ぎを起こす訳にもいかないのだから。
「それでは、我々だけで行くか」
「うん」
大地とシルバーの二人は、周囲を窺うと、そっと会場入り口から遠ざかり、闇の中に向かって歩き始めた。




