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ANTIQUE  作者: OOK&YOK
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国盗り

●登場人物

ANTIQUE

・ココロ…アスビティ公国公爵令嬢であり、わずか十四歳にして”始まりの存在”に選ばれたANTIQUEのリーダー。強力なテレパシストであり、予知能力を持つ。

・吉田大地…闇のANTIQUEにさらわわれた幼馴染、白石ましろを救出しようと次元を超えてやって来た地球人の少年。土のANTIQUEに選ばれた能力者。

・シルバー…アスビティ公国特別行動騎馬隊の元大隊長。自国の公爵令嬢であるココロに絶対の忠誠を誓う勇敢な戦士。鋼のANTIQUEに選ばれており、最も早くココロの前に現れた能力者。

・キイタ…アスビティ公国の隣国で大国であるンダライ王国の第二王女。両親の死の謎と敵の手に落ちたと思われる双子の姉、イリアを捜す為に仲間になった。火のANTIQUEに選ばれた能力者。

・ガイ…元はシルバーの部下であった軍人。剛腕怪力ごうわんかいりきの持ち主で戦闘能力は極めて高い。正確は明るく心根こころねは優しい正直者。すぐに調子に乗るのが難点。雷の能力者。

・アクー…三か月以上前の記憶を一切持たない不思議な少年。体は小さいが身体能力が異常に高く、また弓矢の名手。水のANTIQUEに選ばれた能力者。

フェズヴェティノス:オウオソ

真の闇の王と呼ばれるシュベルの下復活を果たした三種の魔族の一つであるフェズヴェティノス。その中で”オウオソの民”と呼ばれる戦闘集団。姿形は二本の妖怪である烏天狗にそっくり。

・ジンナイ…イーダスタの森でココロ達に襲い掛かった一団のリーダー格。積もった枯れ葉に身を隠しながら驚異的な早さで敵に襲い掛かる。オウオソ十一騎と呼ばれるエリート集団の一人。

・ハクザサ(イシキリ)…オウオソ十一騎の一人で、ただ一人全身を白い羽毛のような毛で覆われた亜種あしゅ。異名とされるイシキリは、手にした剣で石すらも切ってしまうことからきている。

・ウンリュウ…オウオソ十一騎の一人。体が大きく重量級。

・コウガ…オウオソ十一騎の一人。若く素早いオウオソ。

・ミドリマル…オウオソ十一騎の中では最年少のオウオソ。コウガと同じく飛ぶ速さは随一ずいいち

ヤック村

・ブラドの母親…ヤック村に入ったココロ達がであった優しい女性。

・ブラド…村の若者。オヤシロサマと言う新興宗教に心酔しんすいしている。



●前回までのあらすじ

 オヤシロサマはフェズヴェティノスなのではないか?その疑問の答えを求めヤック村を目指すココロ達能力者一行の前にオウオソの民と呼ばれる新たなフェズヴェティノスが襲い来る。ココロとキイタ、そして二人の護衛を務めるアクーの三人を無事森から脱出させる為、大地、シルバー、ガイの三人はオウオソとの戦闘に入る。

 ANTIQUEの能力を如何いかんなく発揮する大地とガイは次々とオウオソ達を倒していくが、シルバーだけはコクヤと名乗るオウオソとの一騎打ちに全神経を集中していた。

 ようやく敵を殲滅し、ココロ達の後を追おうとした三人の前に、ジンナイと言う名の敵が率いる新たなオウオソ五人が立ち塞がった。彼らはオウオソ十一騎と呼ばれるフェズヴェティノスの中でも特に戦闘能力に長けたエリート集団であった。

 数でも実力でもわずかに劣る大地達であったが、シルバーの機転により敵を一か所に集める事に成功した。それを見て土の能力を発揮した大地はオウオソ達の立つ地面を強烈に地盤沈下させ彼らの動きを封じ込めた。

 走れと叫ぶシルバーの号令に、大地とガイは走りだした。目指すは先にココロ達が潜入したであるヤック村であった。







 大地の起こした地盤沈下じばんちんかに飲まれた四人のオウオソが何とか穴からい出して来ると、既に三人の能力者は姿を消していた。

 コウガとミドリマルの二人がいち早く立ち上がり、能力者が向かったであろうヤック村へ続く小道へと走り出そうとした。

「待て!」

 そんな声に若い二人は足を止めた。大地の石礫いしつぶてを全身に喰らったハクザサと、傷ついたハクザサを支えるウンリュウもその声の方を見た。そこでは、痛そうに右手を庇いながら地に座り込んだジンナイがいた。

「ジンナイ…」

 ジンナイは顔をしかめながらゆっくりと立ち上がると言った。

「深追いは無用だ。オウオソ十一騎の一人コクヤを倒し、我ら五人の攻撃を潜り抜けた…。ANTIQUEの能力者、その力はうわさ以上…」

「確かに」

 ハクザサを支えていたウンリュウもつぶやく。

「オオグチの一族が倒されたと言うのもうなずける」

口惜くちおしいが、ここは一旦いったん大将達と合流し次の機会を待とう」

 ジンナイが反論を許さぬ口調で言った。まんまとANTIQUE一味を森から出してしまったオウオソの精鋭達せいえいたちは言葉もなく顔をせた。プロの戦闘集団である彼らがここまでプライドを傷つけられたことはかつてない事であった。



 一方、機転きてんかせた見事な連携れんけいプレーで危機を脱した大地達三人は、シルバーを先頭に立て、深いやぶに閉ざされた道なき道を進んでいた。

 シルバーは右手の剣で行く手をさえぎやぶち切りながら後ろに続く大地、ガイのために道を作りつつ突き進んでいた。

「シルバー、何だってでこんな所に入り込んじゃったのよ?」

 からみついてくる枝を不愉快そうに払いながら大地が先を行くシルバーの背中に抗議こうぎの声を掛ける。

「あそこに道は一本だけだった」

 シルバーが言葉少なに答える。

「だから?」

「素直に一本道を行っていたらあいつらがすぐに追いかけてきたかもしれないだろうが」

 更に続いた大地の問いに、代わって背後からガイが答える。

「あいつらは空を飛べる、その上スピードはあのオオグチと変わらねえ。追いかけられたら振り切るのは無理だ」

「なぁるほど」

 答えるガイの話しに、大地は深く納得した。

「けど、ここを通ってヤック村には着けるの?」

「方角的には間違っていないはずだ」

 シルバーが腕を振り下ろしながら返した。

「ココロ達には追いつけなくない?」

「目的の場所は同じ。結局、言葉卸ことばおろしの儀式までに会場に集まりゃいい話だ」

 再びガイが背後から答える。

「とにかく今は奴らを振り切り、この森を出てヤック村に辿たどり着く事だけを考えよう」

 シルバーが手を休めずに言う。そんな彼らの前方に光が見えてきた。その光に向けシルバーが剣を振るった先で、やぶは終わっていた。

 やぶを抜けた所は広い草原になっていた。青い午後の空をいただそびえる山々が眼前がんぜんに広がっていた。自分達の立つ場所から見下ろす先、山々に囲まれた盆地のような平野には村が広がっていた。

「これが…、ヤック村…」

 午後の日差しを受けた牧歌的ぼっかてきな、平和な景色を見下ろしながら大地がつぶやく。三人が立つ草原は、そのままゆる傾斜けいしゃを持つ丘になっていた。眼下がんかには背の低いやぶを挟んでそのまま村へと抜けられそうであった。

「ここは見晴らしが良すぎる、このまま村まで降りるぞ」

 言うが早いか、シルバーは斜面しゃめんを村に向かってけ下り始めた。すぐにガイが続く。自分達にとって見晴らしがいいと言う事は相手からもよく見えると言う事だ。

 シルバーの言う言葉の意味を理解した大地も慌てて二人を追った。斜度しゃどゆるいとは言え、戦闘を終えたばかりの大地の足は弱っていた。坂をけ下りるスピードについていけず、何度も地を転がりながら下って行った。



「ああ、お茶のおかわりを持ってくるね」

「あ、おかまいなく」

「若い人が気なんか使うもんじゃないよ」

 そう言いながら立ち上がった女は、愛想あいそうのいい笑顔をくずさぬままココロ達に背を向けた。

歓待かんたいだね」

 女の姿が台所に消えると、ココロにキイタがそっとささやいた。

「本当」

「旅人は大事にする事、今観光に力を入れているヤック村の決まりなんだろうね。ポーラーもえらく歓迎かんげいされたと言っていた」

 二人の後ろで窓辺に立ったまま茶を飲んでいたアクーが言った。

「まあそれもオヤシロサマの教えなのだとも言っていたけど」

「ふうん…、ってアクー、何でそんな所にいるの?こっち来て一緒に座ればいいじゃない」

 ココロが椅子の上で体をひねって言う。

「僕は二人にやとわれたガイドだよ?同じ席につくなんて不自然だ」

「………。」

「な、何?」

 言葉もなくじっと自分を見つめるココロに、アクーが戸惑とまどった声で聞いた。

「アクーあなた、そう言う常識を一体どこで習ったの?」

「え?……さあ?多分、ポーラーからだと思うけど…」

 この三か月と言うものポーラー以外の人間とはほとんど言葉を交わしていない。それ以前の記憶は失われ、ポーラーと出会った頃には服の脱ぎ方さえ忘れていたと言う。

「アクー、あなた…」

 記憶が戻り始めているのではないのか?そう言いかけたココロの言葉は、自分を呼ぶキイタの声にさえぎられた。振り向くと、湯気の立つポットを手にした女が戻って来るところであった。

「はい」

 女がニコニコしながら、二人のカップに茶をそそぎ足す。

「すみません」

 キイタが礼を言った。

「もうすぐ息子のブラドが戻るはずだよ。そうしたら儀式会場まで案内をさせようね」

「息子さん?」

 キイタがき返す。

「ああ、今、会場の準備にり出されていてね。儀式は村中みんなで手伝うようになっているんだよ。でも大丈夫、始まる前に一度帰って来るって話してたから」

 女がそう言った時、入り口のドアが勢いよく開かれ髪の長い屈強くっきょうな体つきの若者が家の中に飛び込んできた。

「お袋!」

 そう叫んだところを見ると、今話題となっていた女の息子、ブラドとは彼の事なのだろう。

そうぞう々しいね、扉は静かにお開けといつも言っているでしょう!」

 女が眉間みけんしわを寄せて声を荒げる。言われたブラドはテーブルにつくココロ達を見ると、少しばつの悪そうな顔をした。

「あ、客人だったか。これは申し訳ない」

 そう言って頭をくブラドに、ココロとキイタは無言で軽く頭を下げた。

「一体どうしたんだい?そんなに慌てて」

「あ、ああ、とにかく水を一杯くれ」

 そう言うとブラドは大きなため息と共に、ココロの横の空いた椅子へどっかりと腰を下ろした。女が再び台所へ姿を消すと、ブラドは長い髪を振りながらココロに若々しい笑顔を向けた。

「お袋の入れる茶はうまいでしょう?どこから来ました?」

「ンダライから」

 ココロより先にキイタがすぐに答えた。

「へえ、ンダライから?今日の儀式を見物に?」

「ええ」

 人懐ひとなつっこく話し掛けてくるブラドにココロも笑顔で答える。と、そこへ女が水の入った器を持って帰ってきた。

「ほら」

「おお、悪い悪い」

 大急ぎでそれを受け取ったブラドは、中に満たされた水を一気に飲み干すと再び大きなため息をついた。それからふと、何かを思いついたような顔をココロに向けた。

「あれ?でも、一体いつ着いたの?」

「つい今しがたよ」

 ココロが答える。

「今しがた?しかし、村の入り口は今朝早くから儀式の準備で村の連中がいたはずだが、旅人が来たなんて話しは聞いてないな」

「森を抜けてきたから」

 ココロが何気なく答えると、ブラドとその母親の顔がみるみる青ざめた。

「森を、抜けて来ただって?」

「ええ」

「よくもまあ無事で…」

 女が言うと、ブラドは食いつくようにココロへの質問を重ねた。

「一体どこから森に入ったんだ?ヤック村付近の森への立ち入りを禁止するようにれを出しているはずだが?」

「え?それは聞いてないけど…ガイドが案内してくれたから」

 ココロが言うと、ブラドは窓辺に立つ少年に目を向けた。

「君がガイド?立ち入り禁止の話しは聞いていない?」

「いや全然。ただ、森の中で出会ったポーラーと言う青年に森は危険だと言われ、この近くまで案内してもらった」

 アクーが答えると、ブラドは今度は驚きの余り腰を浮かした。

「ポーラーだって?で、彼は今どこに?」

「今朝がた街道の入り口で別れた。多分、故郷へ帰ったと思うけど…。彼を知っているの?」

「ポーラーは、もう、どの位になるかね?以前この村に逗留とうりゅうしていた旅人だったんだよ。それがある日突然いなくなっちまったもんだからみんなで心配してたんだ」

 ブラドに代わって女が答えた。

「しかし、そうか、よかった…。ポーラーは、無事だったんだ」

 そうつぶやくとブラドは力が抜けたように浮かした腰を椅子に下ろした。

「でも、森の中で危ない事なんかなかったよね?」

 そう言うキイタの顔を一瞬驚いたような顔で振り返ったココロは、キイタの自分を見つめる目を見るとすぐにうなずいた。

「え、ええ。全然」

「そいつはあんた達運が良かった」

「何があるの?」

 アクーが言葉少なにたずねると、ブラドは急に慌てたように言葉をにごし始めた。

「あ、いや、大した事じゃぁないんだ。ただ、ちょっと野生動物の被害が続いてね」

「ふうん」

 自分を見つめる三人の視線からから目をらすように空の器に口をつけるブラドを見ながら、アクーが答える。すると、再び顔を上げたブラドは話しを変えた。

「今着いたって事は、君達宿は?」

「いや、まだ何も…」

「よし、じゃあ俺がアンスの宿をとっておいてやろう」

 アクーが答えると、ブラドは立ち上がりながら言った。

「ちょっと、何だい行っちゃうのかい?この人達を会場まで案内してあげて欲しかったのに」

 女が不満げな声を出す。

「あ~、そうしたいのはやまやまなんだが、ちょっと今手が離せなくて…」

「何言ってんだい、見物客の案内だって大事な仕事だろ?」

「そうなんだけど、今日の儀式はちょっと特別なんだ」

「いいよ、場所を教えてもらえれば自分達で行ける」

 心底困ったような顔をしたブラドにアクーが助け舟を出した。

「申し訳ない」

 言うとブラドは、手近な紙切れにペンで殴り書きのような地図を書くと、アクーに手渡した。

「宿まではここから馬で十分程度だ。儀式の会場はすぐ目の前だから先に荷物と馬を預けて徒歩で会場に来るといい」

「僕は使用人部屋でいい、お代を…」

「支払いは後でいいさ」

「助かるよ」

「任せておいてくれ」

 そう言ってにっこりと笑うブラドに、アクーは無表情のまま聞き返した。

「今日の儀式が特別って言うのは?」

「あ…、いや、その…」

 ブラドは少し狼狽うろたえたように言いよどむと後ろを振り返った。質問の答えを期待するココロ、キイタ、そして自分の母親の目線が自分をじっと見つめているのに気が付く。

 意を決したようにブラドは、アクーの腕を取ると、ココロ達のいるテーブルのそばまで引っ張ってきた。

「な、何だ何だ?」

 連れて来られたアクーは慌てた声を出した。ブラドは突然腰をかがめると押し殺した声で話し始めた。

「これは絶対に秘密だから、ここだけの話しだよ?」

 その言い方にアクーは黙り、ココロやキイタも彼に顔を近づけた。

「実は、今日の儀式には自治国じちこく首長しゅちょう来る事になっている」

「首長?」

 キイタがつられてひそめた声で聞き返すと、ブラドはうなずきながら答えた。

おおやけの訪問(訪問)じゃあない、最近、近隣諸外国きんりんしょがいこくで話題になっている、オヤシロサマの言葉卸ことばおろしの儀を見物に来るって言う事だ」

「一体何だって…」

 ブラドの母親が不安そうな声を出す。

「表向きの理由はオヤシロサマが国民をまどわす危険思想集団きけんしそうしゅうだんでないかを検分けんぶんするためとなっている」

「表向きって、本当は違うの?」

 ココロがたずねる。

検分けんぶんために来るなら観光客にまぎれ込ませた使者で十分のはずだ。それが首長自ら来るって事は…」

「事は?」

 更にココロが聞いたが、ブラドは答えを言わない。彼はいきなり背を伸ばすと、元の元気な声で言った。

「話しはここまでだ。会場には早めに来ないと、いい場所はすぐに取られちまうぜ」

「え?ちょ…」

「じゃあな、もし会場で見かけたら声を掛けてくれ」

 そう言い残し、ブラドは現れた時と同じように力いっぱい扉を引き開けると、外へ飛び出して行ってしまった。

「何よ、中途半端なところで…」

 話の先が気になるココロが不満げな声を出す。

「僕ら観光客には関係のない事ですよ」

 澄まし顔で窓辺に戻ったアクーは、飲みかけの茶を手に取ると言った。

「アクーにはわかった?あの後ブラドが何を言おうとしたのか」

 キイタがそんなアクーを見て言った。しばらくの間、手の中の茶碗に残った飲み物を見下ろしていたアクーだったが、おもむろに口を開くと話し出した。

検分けんぶんの使者を出すだけではなく、首長自らが来ると言う事は多分、首長が個人的に占って欲しい事があるのでしょうよ。それも誰かにたくせるような内容ではない、っていう事だと思いますが?」

「例えばどんな?」

「いや、それはわかりません。わからないし、彼にとってもそれは別にどうでもいいんじゃないかな?」

「彼って、ブラドの事かい?」

 彼の母親が聞いてくる。

「うん、息子さんにとって大事なのは、今日ここに首長が儀式を観に来ると言う事」

 アクーがそう言うと、ココロ、キイタ、ブラドの母親の三人は一瞬目を見合わせ、その後でまたそろってアクーを見た。その視線に気が付いたアクーが言う。

「もし首長がオヤシロサマを認め、他の自治国首長じちこくしゅちょうにそれを伝えたとしたらどうなります?それを聞いた別の首長しゅちょうはまた隣の国の首長しゅちょうに…そうしてイーダスタ全土にオヤシロサマの存在が広く行き渡り、それが全てにおいて認められたとしたら…」

 そこで言葉を切ったアクーは、どう?と言う具合に三人の女性を見た。しかし、誰もそれに答えようとしない。

「どう、なるの?」

 かろうじてココロが聞く。アクーはその問いに静かな声で答えた。

国教こっきょうの変更」

「そっか、オヤシロサマが本物と首長(金)出発よう)に認めさせたくて張り切っていたんだ」

 キイタが納得したようにに言った。言うと、そっと女の方を振り返る。ココロも、アクーも女を見た。そんな三人の視線に気が付いた女は固い笑顔を作った。

「な、何だい、人の顔をそんなに見るもんじゃないよ」

「おばさん、いいの?」

 ココロが言う。

「え?いい?いいって、何がだい?」

国教こっきょうが変わってしまっても、いいの?」

「………。」

 目をせた女に向け、アクーが言った。

「オヤシロサマが国教こっきょうとなれば、その拠点きょてんはヤック村を離れ首都へ移されてしまうよ、きっと」

「何、どこへ行ったって信仰に変わりはないさ。ヤック村は、オヤシロサマ発祥はっしょうの地として永遠に語り継がれるだろうよ」

 らしたままの顔に変わらぬ笑みを張り付けたまま話す女をじっと見つめていたアクーが、再び口を開く。

「失礼だけど、あなた位の年齢だとイータンダティルの儀式の方が馴染なじみが深いのでは?星読み、風読み、白流しろながしの儀式…」

 アクーの言葉に女は目を大きく見開いた。

「こりゃ驚いた、あなた、よく勉強しているねえ」

「いや、詳しい事は僕にもわからない。だけどイーダスタが共和国となる以前からある、先祖代々語り継がれてきた神話が失われてしまうのは、悲しくはない?」

「何、そう言ったものは祭りとして形を残していくものさ」

形骸化けいがいかされた儀式は信仰しんこうではないよね?その本当の意味は、消えてしまうよ」

「だって、仕方ないじゃないか…」

 そう言うと女は、少しさみしそうな表情で顔を伏せた。部屋の中に、何となく気まずい沈黙が流れた。

「さて」

 どの位経った時であろうか、ココロが不意ふいに椅子を引いて立ち上がった。

「ブラドが早めに行った方がいいと言っていたわね?」

「行く?」

 キイタが立ち上がったココロを見上げながら聞く。

「そうね。おばさん、おいしいお茶をごちそうさまでした」

「あ、ああそうかい。もう行くかい?よかったらまたおいで。お茶はいつでも用意しておくよ」

「ありがとう」

 ココロがにっこりと微笑しんこうほほえ)むと、女はほっとしたように元の笑顔に戻った。

「ごちそうさま」

 キイタも笑顔で言うと立ち上がり、扉へと、向かった。二人とすれ違うように女のそばへ歩み寄ったアクーは、女の前に静かに中身を飲み干した茶碗を置いた。

 深い青色の瞳が、じっと女を見る。女は居心地いごこち悪そうに目を泳がした。

「アクー」

 家の外でココロが呼ぶ声がする。

「ただいま!」

 アクーは女の顔を見たまま大きな声で答えると、すっとその場から離れた。

「世話になりました」

 青い髪を揺らしてぴょこんと一つ頭を下げるときびすを返し、明るい陽射しの照らす庭へと出て行った。


 女は表の通りまで出てココロ達を見送ってくれた。馬上で振り返りながらココロが女に手を振ると、女も降り返して来る。彼女はいつまでも手を振っていた。

「もう、アクーは!」

 前を向いたココロがきびしい声を出す。

「あなたの知識や知恵は敬服けいふくするけど、もう少しデリカシーを持って話しができない?」

「何の事?」

「どうしてああやって人を追い詰めるような言い方しかできないのかって言ってんの」

「追い詰める?誰が?僕が?」

「無駄だよココロ、アクーに悪気はないんだから」

 キイタが困ったような顔で言うと、ココロはふーっと長いため息をついてから、顔を上げた。

「だったら、もう不用意ふよういしゃべらないで、お願いだから」

「何だよ、僕何か悪い事した?」

「だからそれがね、わからないのが問題なんだよ」

 キイタが苦笑しながらアクーに向かって言った。

「でも大丈夫、その内にそう言う事も段々に覚えていくから」

「えぇ?」

 自分が一体何を言われているのかさっぱりわからないアクーは、に落ちない表情でキイタを見た。

「それよりアクー、さっきの首長しゅちょうの話しだけど、本当のところ、首長のお悩みって予想がつかない?」

 話しをらそうとしてか、キイタが女の家で終わったはずの話しをし返してきた。

「う~ん、家族の事とか自分の健康の事みたいな、本当にそう言う個人的な悩みかもしれないし、あるいは…」

 そこでアクーは言葉を切った。怪訝けげんそうな顔でココロがたずねる。

あるいは?」

「え?あ、うん…。例えば、もっとこう、政治的な事かもしれない。イーダスタ共和国はいわゆる連合国だ、十四の小国の集まりで、各国に国民に選ばれた首長しゅちょうがいる。今のところ十四人の首長しゅちょう達の頂点に立つ者はいない」

「自分がイーダスタの覇者はしゃになれるかどうか…、あるいはその方法…」

 キイタがつぶやく。正にアクーが言おうとした事そのままであったが、しかしアクーは殊更ことさら軽い調子ちょうしでそれを否定ひていした。

「いや、あくまでも例えばだよ。今のところ十四の小国は均衡きんこうが保たれていて、首長しゅちょう同士の関係も良好りょうこう、イーダスタはいたって平和だ。そんな大それた事を考える人物がいるとはちょっと考えにくい。ただ…」

 山間の村にさんさん々と降りそそぐ秋の陽は暖かかった。長閑のどか田舎道いなかみちを踏み、馬のくつわを引いて歩くアクーは物思いにふけった表情で黙り込んだ。

「何?」

 ココロが先をうながす。

「え?」?あ、うん…。その首長しゅちょうがオヤシロサマの前に現れれば、本当の目的はともかく、うまく丸め込まれてしまうんじゃないかって思うんだ」

「そうね」

 とキイタ。

「もしもオヤシロサマがフェズヴェティノスならば、言葉 たくみに首長しゅちょうだまして、あやつってしまうかもしれない。アテイルがンダライにしたように」

自治国首長じちこくしゅちょうからまた別の首長しゅちょうへ…、オヤシロサマの評判は次々と広がり、やがてはこの連合国をしゅちょうたば)ねて裏で国をあやつる存在になっていく…。魔族の国盗りだ」

「その第一歩が、今夜の首長来訪しゅちょうらいほう…。でも、そんなにうまくいくものかしら?」

「ンダライはそれでほろびかけたわ」

 ココロの疑問にキイタがすかさず答えた。

「あ…」

 ココロは自分の迂闊うかつさに気づき口を閉ざした。

「既に村人達の心は捕らえられている」

 故郷ンダライの受けた傷を思い出し、キイタが暗い声で続ける。

「早くシルバー達と合流して、そんな儀式、つぶしてしまわないと」

 そうつぶやくアクーの声までキイタにつられたように重いものになっていた。その声を聞いたココロは慌てて二人に言った。

「だめよ、まず何よりもオヤシロサマとフェズヴェティノスの関係を調べてから。私達の行動を決めるのはその後よ」

 しかし、前を見つめるキイタもアクーも、ココロのそんな言葉に返事をしなかった。

 長閑のどかで平和に見えるヤック村が、あざやかな夕日色に染まり始めた。この夕日が沈む頃、言葉卸ことばおろしの儀が始まる。










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