オウオソ十一騎
●登場人物
ANTIQUEの能力者
・吉田 大地…六年前闇のANTIQUEに攫われた幼馴染のましろを連れ戻すべく魔族との戦いに参加した地球の高校生。相棒は土のANTIQUE、テテメコ。
・シルバー…惑星プレアーガの西の公国アスビティを守る公軍隊士。公女ココロの供をして魔族との戦いに身を投じる。剣士としての腕は公軍一と評判。相棒は鋼のANTIQUE、デュール。
・ガイ…元はシルバーの部下でアスビティ公国軍では分隊長を務めていた。四年前の戦いで左腕を失い、山賊に身を落としていたがココロの優しさに触れ仲間になった。相棒は雷のANTIQUE、ウナジュウ。
フェズヴェティノス
・ジンナイ…オウオソの民の主力、オウオソ十一騎の一人。冷静に状況を判断するリーダー的存在。
・ハクザサ…オウオソ十一騎の一人。石をも切り裂く剣の名手である事から”イシキリ”の異名を持つ。
・ウンリュウ…オウオソ十一騎の一人。体が大きく怪力の持ち主。無口だが仲間からの信頼は厚い。
・コウガ…オウオソ十一騎の一人。若いが実力は高い。
・ミドリマル…オウオソ十一騎の一人。十一騎の中では最年少のオウオソ。
・コウガ…オウオソ十一騎の一人。剣の達人。
●前回までのあらすじ
シルバー達に散々に痛めつけられたフェズヴェティノス、オオグチの長ラプス。彼の口からANTIQUEの隠れ家を聞いたオオグチと双璧を成すフェズヴェティノス、オウオソの長であるモリガノは仲間を引き連れANTIQUE討伐の為イーダスタの森を駆ける。
漸く見つけ出した隠れ家は既にもぬけの空であった。ANTIQUEとの戦いを諦めきれないモリガノは、自信の知恵袋である老齢の部下テンの他複数の部下を連れ森の更に奥まで捜索に向かった。
一方、オウオソの民と言う新たな敵の存在を知る筈もないココロ達一行は一路ヤック村を目指し森の中を走っていた。そんなANTIQUEの能力者達の前に、モリガノの命令で森の各所に張り込んでいたオウオソの民が襲い掛かる。
ココロとキイタを森の外へと逃がす為敵の前に立ちはだかる大地、シルバー、ガイの三人。アクーはココロとキイタを守る為、後ろ髪を引かれる思いで森の外へと向かう。
大地達三人の活躍により無事にヤック村へと到着したココロ、キイタ、アクーの三人は、オヤシロサマの「言葉卸の儀」について情報を得ようと、一件の家に立ち寄る。家の者らしい女を信用させるため、アクーが次々と口にするでまかせにキイタは感心するのだった。
ココロ達をヤック村へ向かわせるべく森に残ったシルバー、大地、ガイの三人はフェズヴェティノス、オウオソの民との戦闘に入っていた。
オウオソの民は今までに戦った魔族の中でも群を抜いて戦闘に慣れていた。振るう剣筋は光のように早く、短い剣で敵を貫こうと恐れる事なく懐へ飛び込んでくる。その動きもまた素早く、鋭い。
尚且つ、過去の敵に比べ圧倒的に戦い方が知的だ。臨機応変に陣形を作り、次々と襲い掛かってくる。チームで戦う事に秀でたプロの戦闘集団であった。
とは言え、アテイル、エクスヒャニク、そして彼らと同じフェズヴェティノスであるオオグチの一族との死闘を潜り抜けている三人にとって、十人程度のオウオソとの闘いは然程苦しいものではなかった。
オウオソ達が如何に緻密な作戦を用いたとしても、肉弾戦においてANTIQUEの能力に太刀打ちできるものではない。
彼らの鍛え抜かれた剣をもってしても、岩石に守られた大地の右腕を切り落とす事はできなかったし、ガイの鋼鉄の左腕を貫く事もできなかった。
素早く切り込んだところで、ガイの体に手が触れた瞬間その体内を強烈な電流が走る。或いは距離を取ったとしても、その稲妻は虚空を走り追いかけてくる。
大地の操る石礫も、まるで弾丸のように彼らの被服を容赦なく破り、肉を裂いた。
オウオソがどれだけ素早く走り、宙へ舞ったとしてもANTIQUEの能力を存分に使いこなす彼らの敵ではなかった。
「大方片付いたか?」
軽く息を弾ませながらガイが呟く。
「そう、みたい」
大地はガイの倍以上の疲労を見せ、途切れ途切れに答えた。見回せばそこかしこにオウオソ達が倒れている。数人はまだ蠢いていたが、再び襲い掛かってくる心配はなさそうであった。
そんな二人の耳に鋭く打ち当たる鋼の音が聞こえて来る。見れば、最も戦闘経験が豊富な筈のシルバーだけが、一人苦戦している。
彼は見た事もないオウオソの剣技に魅せられ、デュールの能力を発動する事も忘れて一剣士として戦いを挑んでしまっているのだ。
ただの高校生である大地は論外としても、ガイであってさえ、このオウオソを相手にたった一本の剣を頼りにして挑めば敵う筈もない事はわかった。あくまでもANTIQUEの能力があってこその優勢なのだ。
「おい、シルバー。いつまで遊んでるんだ?さっさとココロ様達に追いつくぞ」
ガイが呆れた声を出した。敵と鍔迫り合いを演じていたシルバーは力任せに相手を押し返し、強引に剣を横薙ぎに払った。しかし、相手は背中の翼を大きく広げると、シルバーの剣を躱し後方へと飛び退く。
鋭い眼光で相手を睨みつけるシルバーは既に肩で息をしていた。一方のオウオソにも相当な疲労の様子が見られた。
と、オウオソは突然背を伸ばすとシルバーに話し掛けてきた。
「オウオソの民、コクヤ。貴公、名をお聞かせいただきたい」
「アスビティ公国公女直下隊士、シルバー!」
息を乱し、剣を肩に背負いながら叫ぶようにシルバーが答えた。
「シルバー…。見事な腕前」
「お前もな」
睨みあった二人の剣士はどちらともなくニヤリと笑うと、次の瞬間、一気に間合いを詰めた。
懐深くに入り込んでくると踏んだシルバーは、それを防ごうと剣先を胸下に下ろし、攻防中間の構えを取った。
しかしコクヤと名乗ったオウオソは急ブレーキを掛けるように立ち止まると、シルバーの右手に小手を見舞った。
手甲を嵌めていたシルバーの手は無傷であったが、その強烈な一撃は彼の指先を痺れさせた。
「ぐっ!」
余りの衝撃にシルバーは剣を取り落とした。間髪入れずにコクヤの剣はシルバーの腕の上を走り、一気にその首元へ辿り着くとそのまま真っ直ぐに切り抜いた。
首を掻き切られ、シルバーの血飛沫が噴水の如く吹き上がる、筈であった。
しかし、鮮血の代わりにその時飛び散ったものは一瞬目を眩ませる程の強烈な火花であった。
鍛え抜かれたコクヤの剣と瞬時に鋼に変わったシルバーの体が擦れ合い、その摩擦によって生み出された火花であった。
剣を振りぬいたコクヤは目にも止まらぬ速さで振り返ると、そのまま上段から愛刀を真っ直ぐにシルバーの頭上に振り下ろした。甲高い音が響き、コクヤの剣が真っ二つに折れる。
「うっ!」
コクヤの口をついて驚きの声が上がる。シルバーは真正面に見えるコクヤの腹に剣に姿を変えた自分の右腕を深々と突き刺していた。
「不覚…」
シルバーが腕を引き抜くと、目を虚ろに開いたままコクヤはその場に崩れ落ちた。
「まったく…」
ガイがため息交じりに言う。
「初めからそうしてりゃもっと早くケリがついたのに」
「そうだよ、俺らばっかに任せてさ。シルバーがそいつ一人にかかずらっている間にこっちは何人倒したと思ってるのさ」
ガイと大地が口々に文句を言うのにシルバーは一言も答えず立ち上がり、足元に転がったコクヤを見下ろした。
「私は、弱い…」
シルバーは苦し気にポツリと呟くと振り返り、地に落とした剣を拾い鞘に納めた。そのまま二人を見もせず、ココロ達の去った方角に向かって歩き始めた。
「めんどくせ」
悲し気な背中を見せ先を行くシルバーを見つめながら大地が言う。
「まあそう言ってやるな。剣士としてのプライドだろ」
にやけた顔でそう言うとガイもシルバーを追って歩き始めた。
「ガイにはそう言うのないの?」
「あほか、戦いは勝ってなんぼだ」
背中から飛んできた大地の問いにガイは即座に答えた。
「賛成だね」
大地もすぐにそう言うと歩き始めた。
「今の俺達に形振りかまってる余裕なんかねえ。俺達ゃ今、自分より強い相手が現れた位で死んでる場合じゃねえんだ。違うか?」
そう言いながら大地を振り向いたガイの顔が氷つく。
「違わないさ…」
微笑みながら答える大地の背後、上空から物凄い速さで迫る敵の影をガイは大地の頭越しに見た。
「大地危ねえ!!」
ガイの叫びが終わるよりも早く、振り返った大地の右腕は瞬間的に周囲の石を引き寄せ頑強な鎧を形成していた。
その右腕に衝撃が走る。大地に攻撃を仕掛けた敵はその背後にいたガイの右肩を踏み台にして蹴り上げると、ガイと距離を取って静かに地に降り立った。
「痛っ!」
走る小さな痛みに大地は声を上げながら自分の右手を見た。驚いた事にその手を固め守っていた岩石の鎧が綺麗に切り取られ、中に生身の右手が見えていた。
鎧が切られた時に敵の武器が掠めたらしい指先は、皮一枚が剥かれ薄く血が滲んでいた。
慌てて傍に駆け寄ったガイと一緒に背後の敵を振り返ると、そこには大きな翼を持った背中があった。そいつはゆっくりと振り返ると、大地とガイを見て聞き心地の良い声で言った。
「我が名はハクザサ…。だが、仲間達は俺をの事を別名イシキリと呼ぶ」
ハクザサと名乗った敵は姿形は間違いなくオウオソであった。しかし、今しがた剣を交えたオウオソ達とは決定的に違う点が一つあった。そいつの背に広がる翼はもとより、全身を覆うその毛は全て真っ白だったのだ。
「ガイ!大地!」
ガイの叫びを聞きつけ先に行ったシルバーが勢いよく駆け戻ってきた。ハクザサの姿を見たシルバーは立ち止まり素早く剣を抜いた。
「新手か!?」
顔を半分後方に向け、肩越しにシルバーを見たハクザサは静かな声で言った。
「ANTIQUEの能力者。お前達の戦い、とくと見させてもらった。残念だがこの森から出す訳にはいかん」
その時、シルバーは前方から地を這って迫りくる物体に気が付いた。枯葉をまき散らしながら進む、黒く大きな翼だ。
まるで海面に突き出た鮫の背鰭のように地に屹立しながら走る翼は、真っ直ぐにシルバーめがけて突っ込んで来た。
地を走る翼は強烈な一撃でシルバーの足を払うとそのまま通り過ぎていった。シルバーの体は宙に浮きあがり、背中から地面に落ちた。すぐに顔を上げ走り去った翼を探す。
その瞬間、起き上がりかけたシルバーの背後で猛烈な勢いで枯葉が巻き上がり、そこから一人のオウオソが飛び出してきた。
飛び出したオウオソの手には逆手に握られた剣が光っている。切っ先を真下に向けた剣は振り返ったシルバーの胸へと真っ直ぐに迫った。
「デュール!!」
叫んだ瞬間にシルバーの体が変色した。その胸めがけて振り下ろされたオウオソの剣は折れ砕かれた。
シルバーは両足を振り上げ、自分に覆い被さるようにいる敵の顔面を蹴り上げた。相手の体が後方へと吹き飛ぶ。
敵を蹴った勢いを利用してシルバーは後転すると身を起こした。振り返った先にも黒い敵。先ほど地中を進みシルバーの足を取った奴だろう。
目の前に立つ白いオウオソを睨みつけていたガイは、背後に殺気を感じて振り返った。上空から二つの黒い影が同時に襲い掛かってくる。
咄嗟に指先から稲妻を放つも、虚空の敵は不自然な動きで左右に素早く別れ、ガイの攻撃を躱した。
急降下した二つの影は着地と同時に地を蹴ると、今度は低空飛行で左右からガイに襲い掛かって来た。右手に持った剣と鋼鉄の左腕で、不格好ながらも何とかこれを受け止めたガイが全身から電流を放った時には、既に敵は両者ともガイから離れ、その攻撃から逃れていた。
「我が異名に賭けて土のANTIQUE、お前は俺が倒す」
切っ先を大地に向け、ハクザサが宣言する。
(マジかい)
右手が露わになった鎧の切り口を茫然と見つめていた大地は、そう心の中で呟いた。次の瞬間、ハクザサは白い翼を広げ一気に大地に迫った。
「テテメコ!」
大地の叫びに周囲に転がる拳大の石が宙を舞い、その右腕に分厚く強固なプロテクターを形成する。
銀色の光を撒き散らしながら振り下ろされたハクザサの第一刀は、その頑丈な石の鎧をチーズのようにスッと切り裂いた。
返す勢いですぐに第二刀が繰り出される。ガキっと言う嫌な音と共に、これは何とか防ぐ事ができた。
その後も次々と襲い来るハクザサの剣は目にも止まらぬ速さで大地の右手を叩き続けた。
大地はその全てを石で固めた右手で受けている。大地の動きは剣術の心得がない者とはとても思えない程見事であった。恐らく大地ではなく、その右腕に宿ったテテメコが大地の身を守ろうと発揮している力だと思われた。
しかし攻撃に転回する事ができない。繰り出されるハクザサの剣は三回に一回程度の割合で大地のプロテクターを切り裂き、削ぎ落していった。
切られた箇所はすぐに修復するものの、それも段々と追いつかなくなってくる。このまま防戦を続けていてもいつかは右腕を切り落とされてしまう。
息をもつかせぬ攻撃の連続に大地は汗だくになっていた。切り裂かれては直し、削られてはまた直し…。大地の意識はハクザサの素早い剣に抗う自らの右手に集中していた。
その時、次の攻撃を防ごうと前に振った大地の右手が空を切った。がら空きになった大地の首元をめがけて、ハクザサの剣が突き出される。
(しまった!)
大地は目を大きく見開き、後悔した。右手を意識し過ぎる余り、いつしか敵の攻撃は自分の右腕のみに襲い掛かってくるものと錯覚していた。本来身を守る為の頑丈な右腕それ自体が、いつからか守るべき対象となってしまっていたのだ。
右腕を守ろうとし過ぎる余り大きな隙を作っていた。まんまとハクザサの術中に嵌まってしまったと気付いた時には遅過ぎた。
ハクザサの突き出した切っ先が真っ直ぐに大地の喉元に迫ったその時、右腕を守っていた石の集団が一瞬の内に大地の腕を這いあがり、彼の胸から首、右頬を守るように位置を変えた。
再び鈍く嫌な音が響くと、ハクザサの剣は切っ先を潰して欠けた。剥き出しになった大地の腕が黄色く光る。足元の石が幾十となく浮き上がり、ハクザサに襲い掛かる。
後方に飛び退いたハクザサを追って次々と地面が爆発するように盛り上がっていった。バック転を繰り返し、ハクザサはこれを全て躱しながら遠のいていく。
やがて大木の根元に辿り着いたハクザサは、その太い幹を蹴ると上空高く舞い上がった。
大地は、小石の群れを機関銃のように放ちながら、頭上を越えていくハクザサを追って振り向いた。敵は信じられない身体能力で空中で体を捻ねると、この礫の弾丸を全て躱し地に降り立った。
降りた先に落ちていた倒された仲間の剣を掴むと、すぐにまた大地めがけて間合いを詰めてくる。抜き放ったハクザサの剣は、大地の胸を深く切り裂いた。
今や大地は顔から腹にかけて右半身を全て石の鎧で守っていた。にもかかわらず、その胸には一文字の傷が入り、そこからボロボロと石が崩れるように落ちる。
(こいつやべぇ)
大地は焦った。ハクザサの持つ武器が特殊な訳ではないのだ、仲間の剣を取って切りつけてきても同じように石を切り裂いた。これは間違いなく、ハクザサのもつ能力なのだ。“イシキリ”と言う異名は伊達ではないようだ。
「大地!」
茫然と立ち尽くす大地のすぐ傍に、転がるようにシルバーが近づいてきた。息を切らしたガイも駆け寄って来る。三人の前に大地を追い詰めたイシキリことハクザサを中心に五人のオウオソが並んで立っている。
「どうやら、主力らしいな」
シルバーが片膝のまま言う。
「ああ、今までの奴らとは格が違う」
ガイも肩で息をしながら答える。
「我らオウオソ十一 騎が一人、コクヤを倒した事、お見事であった」
ハクザサのすぐ左隣に立つオウオソが落ち着いた声を出した。地中を走り、シルバーを転ばせたオウオソだった。
コクヤ、確かに相手は今そう言った。シルバーはチラリと、先程激烈な一騎打ちの末に打ち倒したオウオソの死体に目をやった。
「オウオソ、十一 騎…?」
大地が呟く。
「如何にも、十一 騎が一、ジンナイ」
そいつが名乗ると、続いてハクザサの右隣のオウオソが続いた。
「同じく、ウンリュウ」
更に両端の二人も名乗る。
「同じく、コウガ」
「同じく、ミドリマル」
「ANTIQUEの能力者諸君、お相手いただこう」
ジンナイが言うなり、五人のオウオソは一斉に剣を構えた。
「やれやれ…」
ガイがため息をつく。ジンナイと言うオウオソの話しを聞く限り、今目の前に立ち塞がるこの五人の一人ひとりがシルバーと対等に渡り合ったコクヤと同程度の実力を持っていると言う事になる。これはもうため息しか出ない状況だった。
シルバーは勢いよく立ち上がると、大地の肩に手を置いて言った。
「奴らは群れをなして戦う。個々に挑んでも駄目だ。取り合えずできる限り散開せずに迎え撃とう」
その言葉の最中にも、大地の肩に置いたシルバーの左手が銀色の光を放ち始めている。美しく揺れ動くその光は大地の体に流れ込むように入っていく。
醜悪にも見える大地の石の鎧が、ギシギシと音を立てながら黄色味を増していくのがわかる。イーダスタの土が鋼と融合し、より硬度の高い別の物質に変化し始めているのだ。
「参る!」
ジンナイの声を合図に五人のオウオソは地と虚空の上下に分かれ襲い掛かってきた。
「白いのは任せろ!」
大地の耳元で早口で言うと、シルバーは剣を肩に担ぎ、迫り来るハクザサへと一直線に向かっていった。
絶叫と共にガイが腕を振り回し、宙へ舞ったオウオソを撃ち落とそうと電撃を放つ。ありえないスピードで空中で身を翻す敵に、これは命中しない。
激しい音と共にシルバーとハクザサの剣が打ち当たる。大地は体の周りに小石のバリケードを張り、シルバーの横をすり抜けてきたジンナイを迎え撃つ。
「鋼は切れないらしいな!」
シルバーが挑発するようにハクザサに向かって叫ぶ。
「どうかな?」
シルバーを押し返し、下から一閃切り上げたハクザサの切っ先が掠めると、シルバーの刀身が薄く削れていく。
シルバーが慌てて身を退くと、ハクザサは余裕のある顔を見せながら言った。
「元来切れる筈のないものを切る、理屈は同じ事」
ハクザサが無表情に呟く。
「コクヤの仇、取らせていただく」
シルバーは深く腰を落とすと、下から睨みあげるようにハクザサを見た。周りでは大地とガイが敵と戦う音や怒声が響いている。そんな中、シルバーとハクザサだけが時を止めたように睨みあっている。
ざざっと、ハクザサがすり足で一歩を踏み出した瞬間、大きな一声を上げたシルバーは突如ハクザサに背を向けて走り出した。
オウオソの中でも精鋭の一人に数えられたコクヤと渡り合った剣士が、よもやこの期に及んで背中を見せるとは思わなかったハクザサは、シルバーの突然の行動に一瞬 呆気に取られた。
「逃げるか!」
すぐに我を取り戻したハクザサは、遠のいていくシルバーの背に向かい猛烈な速さで追いすがった。スピードは段違いだ、あっという間にその間合いを詰める。
後ろへなびく鋼の能力者の長い銀髪に手が届こうかと言う時、突然相手は右手に向かい横っ飛びに飛んだ。
「大地!」
横へ飛びながらシルバーが叫ぶ。真っ直ぐにシルバーの背を追っていたハクザサの視界から、その姿が消えたかと思えた瞬間、目の前には無数の宙に浮いた小石に囲まれた土の能力者が現れた。
「…っ!」
能力者の作戦にまんまと嵌まった事に気付いたハクザサは急制動を掛けた。しかし、完全にスピードの乗った体は止まらない。短く息を吸い込むと咄嗟に剣を顔の前に立て、身をのけ反らせるのが精いっぱいであった。
「はっ!」
大地が鋭い声を上げた途端、彼の周りに浮遊していた小石達が一つの塊のように寄り集まり、そのままハクザサめがけて一気に撃ち出された。
鋭く固い百を数える石礫は容赦なくハクザサの顔面を叩いた。その余りの衝撃にハクザサの体が後方へと吹き飛ばされる。
「イシキリ!」
他のオウオソ達が声を上げる。ガイの電撃を躱しつつ徐々に間合いを詰めつつあったウンリュウ、コウガ、ミドリマルの三人が第二の攻撃からハクザサを守ろうとその傍に着地する。
大地の固いガードに攻めあぐね、一度木の上に退避したジンナイは大地から離れた事を激しく後悔しながらも瞬時に攻撃に転じた。ハクザサに攻撃を仕掛けた土の能力者のサイドはがら空きだった。
強固な石の鎧、その隙間から覗く柔らかい大地の肉に狙いを定め、切っ先を向けて上空から襲い掛かる。
立ち上がろうとするハクザサから目を逸らせない大地はこれに気が付いていないのか、動かなかった。このままでは、ジンナイの鋭い刃が大地の体を深々と貫くのは間違いないと思われた。
その時、思いもよらぬ方向から飛んできた何かが大地に迫るジンナイの体に当たり、その軌道を逸らした。バランスを崩したジンナイは、そのまま地に叩きつけられた。
そこでようやく身に迫った危険に気が付いた大地は地面を転がるようにその場を離れると距離を取った。
何事が起きたのかと狼狽えながらも素早く立ち上がったジンナイは、右手に感じる不自然な重さに目を向けた。剣を握る右手に、重々しい鋼鉄の鎖が絡みついていた。
驚いた顔をその鎖の元へと向ける。その先には鋼の能力者。体全体を暗い鋼色に変えたその右手から、自分に向かって真っ直ぐに長い鎖が伸びている。
(いや…)
ジンナイは瞬時に自身の考えを否定した。鋼の能力者は鎖を持ってなどいない。奴の右手それ自体が冷たい鎖となって伸びているのだ。
「ガイ!」
「おう!」
シルバーの呼びかけにすぐに応じたガイがその肩に手をかける。次の瞬間、二人の体は目も眩む程の光に包まれた。ガイが雷の能力を発動し、シルバーの体に電流を流し込んだのだ。
シルバーとジンナイを結ぶ真っ直ぐに伸びた鎖に凄まじいスピードで電流が流れていく。
走る電流がジンナイの右手に達した瞬間、甲高い音と共に白煙が上がり、その手から剣が弾け飛んだ。
鎖はジンナイの手を離れ、ジンナイは右手から白煙を撒き散らせながら剣と反対方向に吹き飛ばされた。
「ジンナイ!」
ハクザサを助け起こそうとしていたオウオソ達が一斉にそちらに目を向けた。四人のオウオソの目は今一点に集中している。大地はその瞬間を逃さなかった。
「うおお!」
大地は短く叫ぶと、黄色く輝き膨れ上がった右手を思い切り地面に叩きつけた。
一か所に固まっていた四人のオウオソ達の足元が地盤沈下を起こすように崩れていく。身の沈む感覚に全員が悲鳴を上げた。激しく立ち上がった土煙が視界を遮る。
「走れ!」
濛々と立ち込める土煙の中、シルバーの声が響いた。




