戦いの後で
●登場人物
・ガイ…雷の能力者。気合と根性だけで止まり掛けた心臓さえ復活させられるパワーファイター。その上情に熱く基本的にいい人。残念ながら余り頭はよろしくない。
・アクー…水の能力者。驚異の身体能力と百発百中の矢を武器に戦う少年。過去の記憶を失ってはいるが頭脳明晰、沈着冷静。ただし性格は余りよろしくない。
・シルバー…鋼の能力者。最も戦闘の経験が豊富なうえ、実力はチーム一。元は軍隊の大隊長を務めただけに能力者達の実質的なリーダー。頑固でプライドが高く、融通は利かない。
・キイタ…火の能力者。大国の第二王女でありANTIQUE最強と言われる火の能力を操る。優しく仲間想いな上最近は戦士としての腕も上げて来た。ただし自身への過小評価が半端なくネガティブ思考。
前回までのあらすじ
宿敵ダキルダの言葉から自身の能力の性質に気がついたガイはアクーの生み出す水に自分の雷の力を合わせる事でより強力に多くの敵を倒す起死回生の一手を打った。
それでも倒しきれないフェズヴェティノスの長ラプスを前に、遂にアクーはスタミナの全てを使い果たし意識を失ってしまう。
同じく体力のほとんど残っていないガイは再び敗北の危機に直面してしまう。そんな彼の前にようやくシルバーとキイタの二人が駆けつけた。
ボロボロに傷ついたガイとアクーの姿に怒りを感じたキイタは火の能力を発動させると、生き残ったオオグチ一族を次々と倒して行った。
傷つき動けないガイに襲い掛かるオオグチを相手にシルバーは鋼に変えた自らの体に雷の能力を流し込めとガイに命じる。訳のわからないまま言われた通りガイが電流を流すと、それはシルバーの体を通し、接触する敵に致命的なダメージを与えた。
呆気にとられるガイにシルバーが言った。「これこそ、性質の相乗効果だ」と。
大きな悲鳴にシルバーとガイが顔を上げると、差し出されたキイタの右手から伸びた炎が最後のオオグチを倒した所だった。キイタの攻撃に絶命した敵が地に倒れると、辺りは急に恐ろしい程の静寂に包まれた。
シュっと軽い音を立ててシルバーの右手が元の五指に戻る。キイタの体を包んでいた炎も静かに消えて行った。それでもキイタはまだ右手の先だけを燃やし続け、周囲を見回した。
「もう、いない?」
キイタが呟いた。その横に静かにアクーが近づく。アクーも油断なく周囲を伺っている。
突然背後の木が揺れた。キイタとアクーは素早く振り向いた。その時には既にキイタの右手には炎が燃え上がり、アクーは水の矢を番えた弓を構えていた。
そんな二人の目の先で、木の上を渡り逃げていく数匹の影が見えた。その姿が完全に消え、音が遠のいて行くと、キイタはようやく炎を消しアクーも手を下ろした。
二人は同時に大きなため息をついた。突然アクーは思い出したようにキイタに向かって言った。
「キイタ!冗談じゃないよ!僕は今後一切君が戦う度に消火活動をしなくちゃあならないのかい?」
キイタは驚いたようにアクーを見た。
「あ、ごめんなさい。だって、フェズヴェティノスががあんまりピョンピョン避けるもので…」
「ああ、そうかい!頼むからもうちょっとコントロールできるように練習してくれよ。それか二度と森の中で戦わないで!」
「ご、ごめんなさい」
「おいおいアクー、もうその辺でいいだろう。お蔭で敵は全ていなくなったんだ」
シルバーが執り成すように言った。
「だけど…」
まだ不満そうなアクーが言いかけたが、キイタはそれを無視してガイに駆け寄った。
「ガイ…かわいそうに、痛い?」
「痛い」
言葉とは裏腹にへらへら笑いながらガイが答える。
「シルバーおんぶ、ガイをおんぶして」
キイタがシルバーを見上げながら必死の顔で言う。
「かしこまりました」
呆たため息をつきながらシルバーが言う。シルバーは一度その場を離れると、戦場の真ん中に突き刺してきた自分の剣を回収に向かった。地面から剣を抜くシルバーを見つめながら、その背中にガイが話しかける。
「それでシルバー、さっきの話の続きなんすけど…、あの、なんだ?性質の、何とかって」
「性質の相乗効果」
シルバーは刃こぼれの具合を確認すると、ついた泥汚れを払い剣を鞘に戻した。
「そう、それ。それって、何すか?」
「思い出したのだ」
振り返ったシルバーはゆっくりと元の位置に戻りながら話した。
「テリアンドスの吊り橋でお前と戦った時、お前は雷の力を吊り橋の鉄線に流して、遠くにいる私を攻撃した」
「ああ」
「え?戦ったの?あの二人が?」
アクーがそっとキイタに聞く。聞かれたキイタは気まずそうに笑っただけだった。
言われたガイも何かを思い出すように目を泳がせた。自分達の思い込みからシルバーを殺したい程恨んでいた頃の自分を思い出し、少し恥ずかしい気分になった。
「あの鉄線は、つまり鋼でできたものだったのだよ」
シルバーはしゃがみ込んだままのガイに手を貸しながら話し続けた。
「お前の雷の能力をあの鉄線に流す事ができるのなら、同じ鋼に体を変化させれば、私の体を通してあの時と同様の攻撃ができるのではないかと、そう考えたのだ」
「なるほど…」
理屈はよくわからないが、自分の能力が鉄を通す性質がある事を経験上知っていたガイはシルバーの説明に納得した。
「大地の能力、ガイの能力、他に鋼には熱を伝導させる性質がある事もわかっている。ならばキイタ様との協力も考えられる。デュールの能力は攻撃よりも防御に適したものだ。それを何とか効果的な攻撃型のものにできないかと色々と考えた」
「つまり、仲間との共闘がその答えだと?」
アクーが呟くように訊ねる。ガイの大きな体を背に負ぶったシルバーが優しい笑みをアクーに向けた。
「その通りだ。私は一人では戦えない。しかし、みんなと力を合わせれば私の能力でも敵を倒す事ができる」
シルバーの言葉に、アクーとキイタはそっと目を見交わした。
「ダキルダが言っていた、相性ってやつか」
ガイがポツリと零した言葉にシルバーとキイタが同時に反応した。
「ダキルダ?」
「ダキルダって、あのダキルダ?アテイルの?」
シルバーの背に負ぶわれたままガイが答える。
「ああ、いたんだよ、ここに」
「ダキルダが…。しかし、アテイル一族の奴がなぜフェズヴェティノスの戦いに…」
「いや、戦いに参加したんじゃあない」
シルバーの疑問にガイが慌てて答えた。
「じゃあ、何をしに?」
「僕らの処刑を見物に来たって」
アクーが言う。
「言ってたな!まったく悪趣味な嫌な奴だぜ。大地が嫌いだってのもよぉくわかる!」
「わかったわかった、わかったから人の背中で暴れるな」
興奮して手を振り回すガイにシルバーが苦言を呈する。
「ああ、すんません。でも結局あの口の減らない生意気な超むかつくうざったいダキルダが口を滑らせたせいで俺達は逆転できたんだもんな、ざまぁねぇぜ」
「口を?何を言ったのだ」
「ええ、あのバカで口の悪い性格のねじ曲がった細っこいチビのダキルダはこう言ったんすよ」
「それはもういいから」
キイタが苦笑いをしながら言った。
「最も相性のいい二人が一緒にいても勝てないようじゃANTIQUEもたかが知れてる、みたいな。で、俺思い出したんす」
「思い出した?何を?」
「ええ、随分前、ユーリ達と川に入って魚を獲ってたんすよ。でも魚がすばしこくてなかなか捕まらない。それでイラついた俺は、電撃を流せば魚が気を失うんじゃないかってウナジュウの能力を使った訳です、水の中で」
「それで?」
シルバーはガイを負ぶったまま歩く事も忘れてその話に聞き入った。アクーとキイタも興味深く黙って聞いている。
「そしたら、ええ、魚は捕れたんですけど、一緒に川に入ったユーリとマルコもビリビリしちゃって。その上、遠くで一人で洗濯をしていたハリスまで一緒にビリビリしちゃって。みんな動けなくなっちゃったんですよ…。だからね」
ガイはそこで一度 唾を飲み込むとすぐにまた話し始めた。
「だから、水ってのは雷を良く通すんだなって、そう思った訳です」
ガイの話しが終わっても三人は次の言葉が見つからなかった。
「性質の、相乗効果か…」
沈黙を破ってアクーが言った。
「自然って不思議ね」
キイタも呟いた。
「その相性のいい相手がガイってところが今一つ釈然としないけどね」
「また、お前はそう言う可愛くない事を!あいててて…」
アクーの憎まれ口に手を振り回したガイがそこに走る激痛に顔をしかめた。
「だから暴れるなと言うのに」
シルバーは迷惑そうにそう言うと、アクーに目を向けた。
「アクー、君のけがは?」
「え?」
アクーが顔を上げると、シルバーが自分の腹に向けて指をさしていた。その先を見ると、流れ出た血で服がぐっしょりと濡れていた。
「きゃっ!」
たった今気が付いたらしく、キイタが大きな声を出す。
「いや、出血の割に傷はそれ程深くない。大丈夫、家までは自分で歩けるよ」
「本当に?肩を貸そうか?」
キイタが心配そうに言う。アクーは慌てたようにそれを断った。
「いや、大丈夫大丈夫。それより…」
「ん?」
話しを続ける素振りを見せたアクーに、シルバーが聞く。
「僕がガイの元に駆けつける前、あのダキルダと言うアテイルは、一人でいた僕の前に現れたんだ」
「え?」
「何?」
聞いていた三人が同時に驚いた声を出す。
「君の友達が一人で戦っているぞって、僕に教えに来たんだ」
「あ?それで、お前どうしたんだ?」
ダキルダの奇妙な行動にガイは変な顔をしてアクーに聞いた。
「え?ああ、友達なんかじゃないよって、答えた」
「だからお前何でそう可愛くねえんだよ!」
「暴れるな!」
抗議するガイにシルバーが厳しい声を出した。
「口の悪い者同士の会話だねぇ」
キイタが呆れたように笑って言う。
「お前ら口だけじゃなくて性格も悪いよな?な?」
「気にするな」
興奮しているガイにいたって冷静な声でアクーが言う。
「しかし、あいつはなぜそんな事を君に?」
シルバーのもっともな質問にアクーが顔を上げた。
「あいつは僕に、自分は戦闘員ではないと言った…。アテイルの使者だと」
「使者?」
「うん。それからその後、アテイルの斥候だ、とも言っていた」
「ああ、そりゃあ俺も聞いた」
ガイが口を挟む。
「ところでせっこうって、何だ?」
ガイの質問を眉根を寄せながら無視したアクーは、シルバーの顔を見ながら続けた。
「奴の真意は僕にはわからない。だけど、もしかすると僕達の戦いを見ようとしているんじゃないのかな?」
「我々の戦いを?」
「正確には僕らの能力をさ。それで、今後の自分達との闘いの参考にしようとしているんじゃないかって、そんな風に思ったんだ」
「なるほど」
シルバーが呟く。
「確かにそう考えれば、今までのあいつの行動にも説明が付く。自らは戦わず、常に我々の戦闘を一歩引いたところから見ていた理由がな」
「だけどあいつは決して弱い奴だとは思えないんだ」
アクーが更に言った。
「あのすばしっこいフェズヴェティノスの攻撃を躱したのを見た」
「おお、見た見た」
ガイも同調する。
「あいつは…」
突然今まで黙っていたキイタが口を開いた。三人の男は同時に彼女の顔を見る。キイタは少し青ざめたような顔を俯けていた。
「あいつは瞬間的に場所を移動する力を持っているの」
「え?」
アクーが驚いた声を上げる。しかしキイタはそれ以上何も言わなかった。彼女は自分自身がそのダキルダの能力によって一瞬にしてドルストの宿からンダライの塔の最上階まで連れ去られた時の事を思い出し、身を震わせた。最も、あの時キイタは気を失ってしまい移動中の記憶はなかったが。
「いずれ…」
キイタがそれ以上口を開かないと知ったシルバーが言った。
「いずれ奴とも直接戦う時が、来るのかもしれないな」
「しっかし、コソコソとこっちの戦いを覗き見して戦力を調べようなんて、きったないと言うか、こっすいと言うか、卑怯な奴だぜ」
ガイが口汚くダキルダを罵ると、すぐにアクーがそれを否定した。
「いや賢いよ。もしかしたらそれが戦いの最も基本なのかもしれない。僕達はANTIQUEから話を聞いているとは言え、余りにも敵を知らなすぎる…」
「け、けどよぉ」
ガイがアクーの言葉に反発しようと口を開いたが、それをすぐにシルバーが止めた。
「まあいい、全ては予想でしかない。今ここで色々話しても仕方がない。とにかく今日の所は急いで帰り、二人の傷を癒そう。後の事はそれからだ」
「そうだね、帰ろう」
キイタも賛同した。
「そう言えば俺、めっちゃ腹減ってんだよね」
ガイが思い出したように言う。
「そうだな、きっとココロ様達も食事もせずに我らの帰りを待っている筈だ」
そう言うとシルバーは自分よりも大きなガイの体を担ぎなおし、足を踏み出した。その途端、ガイが大きな声を上げた。
「あ――――――――っ!」
「今度は何だ?」
「シルバー、戻って、戻って!」
ガイは突然言いながらシルバーの背中で再び暴れだした。
「どうしたの、ガイ?」
キイタが宥めるように声を掛けると、ガイは後方を指さしながら喚き続けた。
「あっこ、あっこ!あっこの繁みの辺り!忘れた忘れた!アクー!」
「え?」
「ちょっとあっこの繁みの辺り見てきて、忘れ物した!」
「何だよ」
ブツブツ言いながらアクーが動こうとすると、すぐにキイタが言った。
「いいよいいよ、アクー疲れているんだから。私、行ってくる」
キイタは言うとすぐにガイが指さす辺りを目指して小走りに向かって行った。そうは言われたものの、繁みの中で何かを探すキイタの姿にアクーも何となく近寄っていく。
「あった?」
「ううん」
キイタは指先に灯した小さな火を松明代わりにして地面を探している。アクーも付き合って地面を眺める。繁みを掻き分けながらアクーはキイタに訊ねた。
「ねえキイタ?」
「なあに?」
探すのをやめないままキイタが答える。
「僕ら、何を探しているの?」
「さあ?」
アクーはため息をつくと体を起こし、遠くで待つガイに大声で聞いた。
「ねえガイ!一体こんな所に何を忘れたって…」
アクーが言いかけると、突然キイタが自分の服を引っ張っている事に気が付いた。
「何?」
聞きながら見ると、キイタがアクーの後ろを指差している。その方向に目を向けたアクーは、そこに横たわる物体を見つけた。
「きっとあれだよ」
キイタが愉快そうに言う。その横たわったものが何かわかった途端、アクーは今までで一番大きなため息をついた。
繁みを掻き分け近づくと、その物体を無造作に掴み上げ、ガイの方に向けた。
「これぇ?」
そう言いながら高く上げたアクーの手には、よく太った三羽の山鳥がいた。
「おお、それ!それですよ!どうよ?うまそうだろう?それをよ、大地に食わしてやるんだよ!腹いっぱいになるまでさぁ、大地に食わしてやるんだよ!持ってきてくれよ!」
そうだった。フェズヴェティノスの動きがどうしても気になり、今夜の狩りはガイに任せていたんだ。ガイはちゃんと獲物を獲った訳だ。病み上がりの大地に腹いっぱい食わせてやる為に。そこで、ラプス達に襲われたのだ。
アクーは自分の手の中にある鳥を見下ろしながら、なぜだか泣きたい気分になっている自分を感じていた。何も悲しくも、嬉しくもないのに何故か目から、いや、胸の奥から涙が溢れてきそうになった。
(お前の事、嫌いじゃないぜ)
戦いの中で死を覚悟した時、ガイが言った言葉が蘇る。
(覚えておけ、俺達ぁ最強のコンビだ!)
死にもの狂いで剣を振りながら地面を這うガイの姿。何度も何度も立ち上がろうとする血まみれのガイの姿。
ラプスに髪を掴まれ、今正に喉を掻き切られそうになっているガイを見つけた時、自分は今まで経験した事のない感情を覚えた。
それは怒り。いや、むしろ恐怖に近かったかもしれない。失う事の恐怖。失くしてはならないと言う必死な感情…。気が付けば何の策もなくガイの名前を叫びながらフェズヴェティノスの群れの中に飛び込んでいた。
「誤解を受けやすいんだけどね」
突然声を掛けられ、アクーはハッとして顔を上げた。自分でも理解できない感情に戸惑い、キイタが近くにいる事をすっかり忘れていた。
見れば、キイタは自分のすぐ横で優しい笑顔で立っていた。
「つまりぃ、あの人はその…。いい人、なのよ。うん、そう、物凄く、いい人なの」
アクーが奇妙な顔をして見ると、キイタはにっこりと笑った。その笑顔から遠くのガイに目を向ける。シルバーに負ぶわれ遠のいて行くガイは、体を捩じってこちらを見ながら何かを叫んでいる。
「お~い、早く来いよ~」
微かにそんな声が届く。アクーは、無表情のままそんなガイの姿を見ながら短く言った。
「認めるよ」
その答えにキイタは益々笑顔になるとアクーの手を取った。
「帰ろう」




