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ANTIQUE  作者: OOK&YOK
83/440

性質の相乗効果

●登場人物

・ガイ…雷の能力者。典型的な脳筋タイプの戦士だが、的確な戦いを展開させるが、そのほとんどが根拠がなく、野生の勘である。

・アクー…水の能力者。小さな体と体力のなさをずば抜けた身体能力と百発百中の弓矢の腕でカバーする。性格は少々難あり。

・シルバー…鋼の能力者。剣の腕は所属していた公軍の中でも随一と謳われていた。生真面目に過ぎるところと独善的な性格が玉にキズ。

・キイタ…火の能力者。ANTIQUE最強と言われる火の能力を身に着けた少女。ようやく能力を使いこなし、戦いに慣れて来た。極度の人見知りとネガティブ思考がその成長を妨げている。

・ラプス…オオグチ一族の首領。残忍かつ凶暴な性格。しかし部下達に対しては男気溢れる一面も見せる。



前回までのあらすじ

 ガイとアクーが挑むオオグチ一族との戦いに突如割り込んで来たダキルダ。その言動に苛立ったラプスは既に生気を失ったANTIQUEの能力者を放ってダキルダに襲い掛かる。

 フェズヴェティノスとアテイルの幹部同士の激突が始まりそうな息詰まる雰囲気の中、ガイはそのダキルダが零した、「最も相性のいい雷と水の能力」と言う言葉に水は電気を通す性質がある事に思い至る。

 アクーの水の能力に自身の雷の能力を合わせる事で状況を一変させようと起死回生の一撃を放つ。








 

 ハッとしたラプスは、いつの間にか高みから仲間の体がちていく地獄のような光景を見下ろしていた。

「何だよ、着いてきちゃったのかよ!」

 どうやらガイの作戦に気が付いたダキルダは、寸での所で得意の瞬間移動で避難ひなんしたらしかった。しかし、その体に触れていたラプスも一緒に移動させてしまったようだった。

 呆然ぼうぜんとしているラプスにダキルダの罵声ばせいが飛ぶ。力のゆるんだいましめから自分の手を振りほどいたダキルダは、かぶとに隠れた目でラプスをにらみつけると言った。

「覚えておくがいいオオグチのおさよ。今日のお前の行動は全てアテイル一族がおさ、クロノワール様に報告する!」

 言うが早いかダキルダは再び黒い球体に我が身を包み込むと、一瞬でその姿を消した。

 しかしラプスはダキルダの事など既に気にも留めてはいなかった。ただ黙ってじっと前を見つめていた。その目線の先、同じ高さの木の枝にアクーの姿があった。

「やってくれたな、ANTIQUEの、能力者…」

 足下に広がる今までに見た事もないガイの能力ちから威力いりょくに言葉を失くしていたアクーは、ラプスの呟きを耳にするとにハッと顔を上げた。すぐに右手から水の矢を生み出しラプスに狙いを定めた。

「やってみろ、水のANTQUE…やってみろぉぉ!」

 体中を振るわすような大音声だいおんじょうさけんだラプスは、驚異きょうい跳躍力ちょうやくりょくを見せアクーのいる木まで飛んだ。

 咄嗟とっさに放ったアクーの矢は、空中にいるラプスの太ももに突き刺さった。しかし、怒りのあまり痛みすら感じないのか、ラプスは態勢を変える事なくそのままアクーに飛び掛かった。

 アクーはこれをかわそうとせまい木の上で必死に身をよじった。ラプスの鋭い爪は、アクーの左肩をおおう肩当を切り裂くと、そのまま地面へと落ちて行った。

 しかし、肩に強い衝撃を受け完全にバランスを失ったアクーもまた、夜の空中へと投げ出された。

 頭上に響く悲鳴に上を見上げたガイは、真っ逆さまに落ちてくるラプスとアクーの姿を見た。

「まずい!」

 ガイは立ち上がると、アクーの落下地点に向かって走った。痛みは感じなかったが体は思うようには動かない。前のめりになりながら走ったガイは、アクーの体がいまだに電流をびた水の中へ落ちる寸前に体当たりをした。

 ガイの大きな体にはじき飛ばされたアクーは、水のふちわずか十五センチ程の土の上に落下した。ガイはそのまま頭から地面に突っ込む。背後で大きな音がする。

 電流の残る水の中にまともに落ちたラプスの体が白く発光している。アクーのそばい寄ったガイは、その小さな体をかばうように抱きしめながら、体を痙攣けいれんさせるラプスを見た。

 ついに電流が流れ切ったのか、突然あっけなくその光は消え失せた。戻って来た闇の中で、体から煙をき出したラプスが、倒れる事なく立ち尽くしていた。

「ラプス様!」

 ラプスの向こう側で、かろうじて電流の攻撃を受けずに済んだ十匹程のオオグチがけ寄ってきた。

 部下の叫びを聞くと、今までピクリとも動かなかったラプスの口からまるで空気のれるような音が聞こえ始めた。

 しばらくの間ガスが抜けていくような音をらし続けていたラプスであったが、やがてその鋭い爪をたくわえた指先がゆっくりと動き出す。

「生きて、いやがるのか?」

 すでに放電が終わりかけていたからであろうか、ラプスは死んではいなかった。突然大きく開けられたラプスの口から咆哮ほうこうが放たれた。

 次の瞬間、ラプスは後ろに向け大きく飛び上がると、バック宙をするように水の中から飛び出し、そのまま水の外へ着地した。

 着地の瞬間、ももに食らった傷から血がき出した。流石さすがのラプスも苦痛にうめいてひざを着く。

「奴は弱っている、たたくなら今だ!」

 ガイがアクーに向かってさけんだ。

「矢を出せ、アクー!」

「え?」

「早く出せ、あいつを射るんだ!」

 言われるままにアクーは水の矢を生み出すと弓につがえ、引きしぼった。

「覚えておけアクー。俺達は最強のコンビだぜ」

「な、何?」

 こんな時に何を言い出すのかと、アクーは戸惑とまどった声を出した。

「雷ってのは、水の中で強くなるんだよ」

 言うとガイは目の前でラプスの額に狙いをつけた矢の先を左手でつかんだ。そっと手を開く。アクーは驚いて声も出なかった。ラプスを狙う水の矢の先に、丸い光の球が生まれた。

 その球はまぶしく発光し、明滅めいめつし、小さな稲妻いなずまを放ちながら、アクーの前で輝いていた。

「これで、お前の矢は数倍の威力いりょくを手に入れた」

 雷の力を宿した水の矢。これは確かに最強の能力かもしれない。納得なっとくしたアクーは、キッと目を上げると改めてラプスに向かって弓を引いた。張りつめたげんが鳴る。

 ラプスは片膝かたひざをついたまま動かない。アクーの深い深い青色の目が、その標的を完全に捕らえた。

「撃て!」

 ガイがさけんだ瞬間、アクーの手から放たれた矢が金色の光の帯を引きながら夜の闇の中をつらぬいた。

 矢は寸分すんぶんの狂いもなくしゃがみ込んだラプスの額を目がけて飛んだ。

 ついに、ついにフェズヴェティノスの一画いっかくを打ちくずせる!アクーもガイもそう確信したその時、け寄ったオオグチが三匹、ラプスの前に立ちふさがった。光の矢は三匹の体に突き刺さって止まった。

 矢に討たれた三匹のオオグチは矢を受けた瞬間、体を小刻こきざみに痙攣けいれんさせながら、やがて地面の上にそろって倒れた。

「お前ら…」

 ラプスは自分をかばって命を失った仲間の体を見つめ、それ以上何も言えなかった。

「もう一度だアクー!」

「おう!」

 すぐにアクーは次の矢を生み出すと、弓につがえた。その時、闇の中から更に複数の声が迫ってきた。

「ラプス様!」

「ラプス様!」

「お引きくださいラプス様!」

「ここは我らが!」

 口々に叫びながら闇の中からオオグチが現れ、アクー達に向かって突進してきた。

「だめだ!」

 攻めて来る敵の数を確認したアクーはそう言うと、せっかく生み出した水の矢を投げ捨てた。それと同時に立ち上がり、ガイに向かって叫んだ。

「ガイ!」

「あ!?」

「一気に倒すぞ!もう一度僕の水流に雷を乗せて!」

 言いながらアクーは目の前で両手を交差させ、それを回すようにゆっくりと開いていった。その小さな体が深い青色に光る。その後ろで膝立ひざだちに控えるガイの体も、黄金色こんじきいろまぶしい光を放ち始めた。

「ハル…」

「ウナジュウ!」

 二人が同時に口にした瞬間、アクーの両手から大量の水がほとばしった。それを追うようにガイの左手から発せられた電撃が走る。ガイの放つ稲妻いなずまは、先をを行くアクーの水流にからみついた。

 白く白く輝く太い水流は、アクーの腕の動きに合わせ森の中を縦横無尽じゅうおうむじんに動きまわった。それはのたうつ光り輝く大蛇のように、わずかに残ったオオグチ達の体を焼き尽くした。

 しかし、アクーの体力は限界を超えていた。一瞬にしてアクーの目の前が暗転する。

「おい、アクー!?」

 突然倒れかかってきたアクーの体を必死で抱きとめながらガイがさけぶ。見ればまだ、ほんの数体、動ける敵が残っている。ガイは慌てて次の電撃を生み出す。

 自分の能力も自分が思う以上に力が落ちているはずだ。倒せるのか?俺一人で…。

 動かないアクーの体を支えながらガイの胸に黒い不安が渦巻いたその時、ガイの背後から繁みを割って何かが飛び出した。

 闇夜に輝く銀色の影は、ガイとアクーの体を軽々と飛び越すと二人の前に迫っていた敵目がけて飛んで行った。

「あ…」

 ガイの目が開かれる。

「シルバーぁ!」

 ようやくけつけたシルバーは一瞬で状況を判断するや、上空から襲いかかり一匹のオオグチの胸に深々と鋼の剣を突き立てた。着地と同時に長い髪を振り乱し、ガイを振り返る。

「待たせたな、ガイ!」

 そう叫んだシルバーは襲い掛かるオオグチへ剣を振るう。シルバーにとって初めての相手だった。聞いていた以上のスピードだ。

「デュール!」

 シルバーが叫んだ瞬間、その体は突如とつじょ鋼色に染まり、襲い掛かるオオグチの鋭い爪をはじき返した。

「ぐ!」

 しかし、竜のうろこでできたアテイルの剣と同じく、フェズヴェティノスの爪もまた地上の鋼よりも強いようだ。致命傷ちめいしょうにはいたらないものの、完全には防ぎ切れていない。

「だめだ…」

 シルバーの戦いを見ていたガイがつぶやく。その時、ガイの後ろからもう一つの影が近づいてきた。

「ガイ!」

 見ればキイタだった。血まみれのガイを見て今にも泣きそうな顔をしている。

「キイタ!何でこんな所に!」

「呼んだでしょう?私達を呼んだでしょう?助けに来た!」

 キイタの強い目を唖然あぜんとした顔でガイは見つめた。

「う…ん…」

 ほんの短い間意識を失っていたアクーが目を覚ます。すぐに目の前で展開しているシルバーとオオグチの戦いに目を奪われた。それに気が付いたキイタがアクーの肩に触れる。

「もう戦わないでいいから。ここからは、私達に任せて!」

 言うとキイタはシルバーに襲い掛かる敵に目を向け、すっくと立ち上がった。ゆっくりとした足取りで歩きだす。歩きながら軽く振った右手に真っ赤な炎が燃え上がった。

「キ、キイタ…」

 アクーが苦し気に体を動かそうとするのをガイが力強く押しとどめた。

「見てろ、アクー。あれが、ANTIQUEの能力者、最強戦士の戦いだ」

「ANTIQUE、最強の、戦士?」

 キイタの、アクーよりも更に小さな体が一瞬にして激しい紅色くれないいろに包まれる。真っ赤に燃える赤い髪が強風にあおられたように逆巻さかまく。

 新たな能力者の出現に気が付いた数匹のオオグチがキイタに襲い掛かる。棒立ぼうだちのキイタにこれをかわす事はできそうもない。

「あ、危ない…!」

 アクーがつぶやいた瞬間、キイタの体そのものが周囲を照らし出すまばゆい炎に変化した。

「ぎゃあぁぁ!」

 悲鳴が響き渡る。一匹のオオグチが全身を紅蓮ぐれんの炎に包まれ、その熱さに暴れまわっていた。

 オオグチ達がどれ程のスピードでキイタに襲い掛かろうとも、その体に手を触れる事すらできなかった。

 キイタが右手を優雅ゆうがにも見える仕草で動かすと、まるで生き物のようにうねる炎が渦を巻いて敵に襲い掛かった。キイタが相手では、オオグチ達はそのスピードを生かし炎から逃げまどう以外にできる事がなかった。

 キイタが鋭く右手を振り下ろすと、太いむちのようにしなる炎の帯は、真っ直ぐに敵目がけて伸びて行った。キイタの炎がかすめた大木が見る間に火に巻かれていく。その様子ようすを見ていたアクーが慌てた声を出して立ち上がる。

「ちょ、ちょ、ちょっと!」

 痛みにえながら急いで走り出したアクーは、燃える大木にけ寄ると体中から水を出現させてその火を消し止めた。

「キイタ!森が燃えちゃうよ!」

 その声に、真っ赤な炎のかたまりとなったキイタがゆっくりと振り向く。

「あら」

 困ったような、戸惑とまどったような声を出す。

「ごめんなさい…。じゃあ、その、消火しててくれる?」

 そう言うと、キイタは再びアクーに背を向け敵に向かっていった。ごめんなさい、と言いながらやめる気は全くないようだ。

「本当かよ…」

 絶望的な声を出したアクーは、あちこちで燃え上がる森の木々達を守ろうと必死でけ回った。

 倒される者、逃げまどう者。残されたオオグチはわずかであった。余裕を取り戻したガイは激痛に顔をしかめながらゆっくりと地面にしりを置き、大きなため息をついた。

 キイタの生み出す炎の明かりを頼りに周囲を見回す。あの一際でかい敵の姿はどこにも見えなかった。ダキルダとか言うアテイルも消えている。どうやら二人とも戦線を離脱りだつし、逃げ出したようだった。

(倒せなかったか…)

 ガイは自嘲じちょうするような笑みを浮かべ、顔を伏せた。疲れていた。全身が泥のように重たい。顔を上げておく事すらできそうになかった。

(眠てえ…、それに、腹が減ったなぁ…)

 そんな事を考えていたガイの耳にシルバーの叫びが届いた。

「上だ!」

 ハッとして顔を上げる。木の上から自分目がけて鋭い牙を光らせながら落ちて来る敵が映った。息を飲んだ。攻撃も、回避かいひも間に合いそうになかった。咄嗟とっさに目をつぶる。

 頭上で金属同士が強く打ち当たるような音がした。恐る恐る目を開けると、自分のすぐ近くにシルバーが立っていた。

 彼のにぎる剣の切っ先をオオグチがくわえている。いや、よく見るとその剣はにぎられたものではなく、シルバーの手それ自体であった。

「ぬおお…っ!」

 シルバーが力任せに押し返している。完全に地に降り立ったオオグチが、シルバーの剣をくわえたままこれに対抗し、力比べになっている。

 と、突然シルバーの体が色を変えた。変わると同時にシルバーはガイの名を呼んだ。

「ガイ!」

「は、はい!」

「左手を貸せ!」

 そう言いながらシルバー自身、自分の左手を後方のガイに向けて伸ばしている。顔と体は真っ直ぐに正面の敵に向かい、手だけを伸ばしていた。

「え?」

「早く私の手を取れ!急ぐんだ!」

 戸惑とまどっているガイを怒鳴どなりつけるようにシルバーが指示を飛ばす。訳がわからなかった。わからなかったが、軍人にとって上官の命令は絶対だ。ガイは慌てて体を起こすと、差し伸ばされたシルバーの手を左手で握った。

「今だ!雷を流せ!」

「ええ!?」

「いちいち驚くな!命令に従え!」

「はい!」

 ガイは深く考える事なく、思い切り雷の能力を発動させた。激しくスパークした電流が容赦ようしゃなくシルバーの体に流れ込む。

 鋼となったシルバーの体を流れた電流は、そのままその先にいる敵に強烈なダメージを加えた。

 シルバーの剣先を、いや、指先か?とにかくそれをくわえたまま敵はガクガクと壊れた人形のように激しく体をらし、やがてゆっくりと地に倒れて行った。

「ふう」

 電撃が収まり光が消えると、シルバーが一つ息を着いた。ふと気が付いたようにガイを振り返る。

「もういいぞ」

「は?」

「もう離していいぞ」

「あ…」

 ガイは自分がまだシルバーの手をしっかりとにぎっていた事に気が付き、慌ててその手を離した。改めてシルバーに尋ねる。

「い、今のは?」

「ん?」

 一度戦場に向けなおした目を再びガイに落とすと、シルバーは事も無げに言った。

「性質の、相乗効果そうじょうこうかさ」

「せ、性質の…そう…え?」

「つまりな…」

 シルバーが説明しようとしたその時、前方から一際大きな悲鳴が起きた。シルバーもガイもその声につられるように話しをやめ、目をそちらに向けた。










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