水と雷
●登場人物
・ガイ…雷のANTIQUEに選ばれた軍人。お調子者なうえにあまり頭が良くないが、戦いにおいては非常に冷静な判断力を見せる。野生動物並みの直感力で相手の動きを先読みするのが得意。
・アクー…水のANTIQUEに選ばれた少年。体は小さく、一切の記憶を失っている。しかし常に冷静沈着に状況を読み素早く判断する知恵の者。腕力、体力は劣るものの、身体能力は高く弓矢の名手。
・ラプス…三種の魔族の一つであるフェズヴェティノス、その中でも最強を誇るオオグチ一族の首領。二足歩行をする巨大な狼の姿をし、残忍な性格だが統率力に優れ多くの部下を引き連れ襲い掛かる。
・ダキルダ…三種の魔族の一つ、竜の一族であるアテイルの斥候。瞬間移動を得意とし、アテイルの勝利の為暗躍する。ココロ達の旅の始まりからつき纏う厄介者。
前回までのあらすじ
イーダスタの森の中でオオグチの群れに襲われ戦闘に入ったガイとアクーであったが、ガイは既に満身創痍。そんなガイを助けようと必死に戦うアクーは、戦闘能力こそ高いものの、余りにも戦いの経験が浅かった。
そんな二人は徐々に群れで襲い来るオオグチ達の前に圧されて行った。得意の矢を射ち尽くし万策尽きたと諦めかけたアクーの頭の中に水のANTIQUEであるハルの声が響く。
ハルの導きに従い水の能力を発動したアクーは、その手の中に水でできた矢を生み出した。青く揺れる水の矢は尽きる事なく次々とアクーの手から現れた。
新たな武器を手にしたアクーは息を吹き返し、再びオオグチ達に挑み掛かるのだった。
二本目の矢を手にしたアクーは地を蹴ると手近な木の幹を駆け登った。そのまま空中へ飛び出す。頭上から青白く光る水の矢が何本も撃ち込まれた。
ガイは目の前で口を開けたまま宙を翔けるアクーの姿を見上げている敵を右手の剣で薙ぎ払った。切られた仲間の悲鳴に我に返ったオオグチ達が一斉にガイに襲い掛かる。
その攻撃を掻い潜り、剣と電撃を交互に振るいながらガイは転がる様に移動した。オオグチの一族にとってそんなガイを捕らえるのは燕が地を這う毛虫を追うよりも容易であった。
鋭い爪を光らせながら、闇夜に躍り掛かるオオグチの一団がガイの上に覆いかぶさる。大刀を振るい、接触する敵には容赦なく電撃を流した。手に負えない敵は上空から降り注ぐ水の矢が倒してくれた。
「何をしている!状況は変わらねぇ!三方から攻めろ!」
浮足立つ部下達にラプスの怒声が飛ぶ。彼の言う通り、状況は何一つ変わってはいない。いくらアクーが右手から無尽蔵に矢を生み出したところで、複数で襲ってくる敵を同時に倒す事はできない。だから、フェズヴェティノスは元の作戦通り、束になって自分達を襲えばいい。
(ラプス、奴は冷静だ)
体の強靭さ、瞬時の判断、冷静な分析と適格な指示。腕力だけが取り柄の飢えた獣の集団の中で、あの銀毛のラプスだけは別格であった。
(あいつを倒せばこの集団は規律を失う)
アクーはそう考えた。そうしている間にも数倍に膨れ上がった敵はアクーにも、ガイにも次々と襲い掛かってきた。
リーダーであるラプスを倒すどころか、迫りくるオオグチを躱すだけで精一杯であった。どこに移動しても常に見えている筈のラプスに近づく事すらできない。
動き続けるアクーに対し、状況を静観しているラプスはアクーやガイがたまに攻撃を仕掛けた所で、これを簡単に避けてしまう。埒が明かなかった。最早武器が尽きる事はない。その点はアクーにとって有利であった。
しかし、大集結を果たしたこのオオグチ達を全滅させるのに一体あと何本の矢を撃ち込めばよいと言うのだろうか?
そうしている間に複数で襲い掛かるオオグチの作戦が自分達を追い詰め、ついには倒されてしまうかもしれない。奴らが全員倒れるのが早いか、アクーとガイの体力が尽きるのが早いか、いずれにせよこの戦いは賭けであった。それも、ガイの様子を見る限り、それは相当不利な賭けである。
ガイの体力は限界だった。再び目がかすみ始め、意識が薄れてきていた。地に倒れ、枯葉まみれになりながら、それでも迫りくる敵を辛うじて躱していた。
そんなガイを助けたいと思うアクーだが、彼も彼で疲労の色が濃くなりつつあった。呼吸は早く、枝を蹴る足に力が入らなくなってきた。重量級のオオグチを一度に何匹も相手にするには、アクーは余りにも小さすぎた。
加えて先程の攻撃で受けた傷は想像以上に深手であったらしい。未だに新しい血が流れ落ちる感覚が止まらない。
(結局、ここまでか…)
敵があとどれだけ残っているのかはわからなかった。かなりの数を倒したのは間違いない。後からやってきた応援の部隊も含めて、アクーとガイの二人だけでもう半数は倒している筈だ。それでも森の中を駆けまわる敵の気配は圧倒的に多かった。
その絶望的な思いが、実際の疲労や痛み以上にアクーの心を折った。遂には太い枝の上で膝を折り、幹に背を預けるように蹲ってしまった。眼下では襲い掛かってくる敵を相手に、ガイがいよいよ追い詰められていた。
(絶対に、僕よりも疲れている筈なのに、何て男だ…)
必死に剣を振り回し走り続ける傷だらけのガイを見下ろしながら、ぼんやりとそんな事を考えた時だった。どんっ、と体に衝撃が伝わった。すぐ近くの枝に敵が降り立ったのだ。
それはわかった。アクーは右の手の平を上に向けた。一瞬の内に、水の矢が現れた。しかし、それを弓に番える力が、どうしても出なかった。
やがて繁る葉を割る様に、目の前に一匹のオオグチが降り立った。
「見つけた…。手こずらせやがって」
耳まで裂ける赤い口から生臭い息と共に言葉を発した獣は、長い爪を蓄えた右手をアクーの頭に向けて伸ばして来た。半分しか開いていないアクーの目が、ぼんやりと迫る黒い手を見つめている。
(アクー!)
突然頭の中で響いたハルの声に、アクーは驚いたように目を見開いた。その瞬間、目の前の手に気付き、慌てて弓を握った左手で振り払うと、体ごと相手にぶつかるようにして右手に持った水の矢を相手の左目に深く突き刺した。
この世のものとは思えない絶叫を上げて敵の体は地面に向かい落ちていく。身を乗り出してそれを見下ろしていたアクーの背中から、更に別の敵が襲い掛かってきた。
必死に体を捩り振りほどこうとしたアクーの体はバランスを失い、真っ逆さまに落ちて行った。落ちながらも遠く離れていく上空の枝に向かって矢を放った。
激しい水しぶきを巻き上げながら飛んだ矢が木の枝に取り付いた敵に命中する。落下の直前に体を丸めて衝撃を弱め、アクーはガイのすぐ近くに転がった。
今になって傷が痛む、慌てて次の矢を番え弓を構えるがその目はかすみ、手が震えて狙いが定まらない。
「ようやく止まったか」
ラプスがため息交じりに言う。
「ANTIQUEの能力者よ、何だって貴様らはそうしぶといのだ。その執念は何なのだ?そんなにも俺達が憎いか?」
ラプスの言葉を聞いた途端、アクーの顔が、怒りの形相に変わった。
「憎い!」
言うや否やアクーは目の前のラプスに向かい番えた矢を射た。その腹に矢が突き刺さろうかとする瞬間。力強く振り払われたラプスの腕に弾かれた水の矢は、小さな水滴となって消し飛んだ。
矢を放つ瞬間に立ち上がったアクーは、渾身の一撃が無残に散るのを見た刹那、がっくりとその場に膝をついた。
「俺の雷の力も限界だ…」
アクーの背中越しに、力ない声でガイが呟く。
「どうやら俺達の能力の強度は、その時の体力に比例するらしいな」
別に知りたくもない情報だった。どの途これで最期と言う事に変わりはない。最早、死にたくないと嘆く気力すら残っていなかった。
「なぜ、我らを憎む?」
既に勝利を確信したとばかりに再びラプスが話し掛けてくる。しかし、その沈んだような低い声に勝利の喜びは見られなかった。むしろ、深い悲しみすら感じた。
「我らはただ、この地上に生きたいだけだ。お前達と同じようにこの土の上に立ち、風を感じ、生命を育みたいだけだ。実態もなく、虚無の世界に漂うのはもうごめんだ。そう思う事の、何がいけないと言うのだ?」
「黙れ魔族が!この世界は僕達のものだ!この自然によって生み出された、僕達のものだ!根拠もなく生まれ落ちた命も持たない悪意なんかに、くれてやる訳に行くか!」
涙を浮かべ、食いしばった歯の間から血を吐くように絞り出されたアクーの言葉に、あれ程赤く燃え盛っていたラプスの目が光を消した。表情のない、静かな眼差しが両手を地につけたアクーを見下ろしていた。見つめられたアクーも、決して目を離す事無く下からラプスを睨み返していた。
アクーにもわからなかった。なぜこんなにもこいつらが憎いのだろう?この星に生きる者の本能なのか?それとも未だにわからない、アクーの失われた記憶が関係しているのか?何もわからなかったが、なぜだかアクーはフェズヴェティノスが憎かった。理由も根拠もなく、ただ、ただ憎かった。
なるほど、ラプスの言う事はわかる。ただ、この地上に生きたいだけだと言うその言葉の意味はわかる。しかし、アクーはそれを許せなかった。例え地上の生き物と魔族とが共生する事が可能になったとしても、魔族と仲良く暮らせる世界になったとしても、その他の魔族はともかく、このフェズヴェティノスとだけは絶対に同じ時を過ごす事はできないと思った。
アクー自身、なぜそこまでこの種族を憎んでいるのかその理由は全くわからなかった。
どの位そうしていただろうか?不意にラプスは興味を失ったようにアクーに背を向けると、ポツリと呟いた。
「殺せ」
その言葉が吐き出された途端、周りで唸っていたオオグチの一族が一斉にアクーとガイを取り囲む。牙を光らせ、長い舌を出しながら徐々にその輪を縮め始める。
「参ったな」
ガイが呟く。参った、確かにその通りだ。世界も守れず、自分の記憶を取り戻す事もなく、ポーラー一人さえ守り切れず、自分はこんな所で食い殺されるのか。あの死を預言された狩人達のように無残に引き裂かれて死んでいくのか。そんな理不尽な事実にアクーは怒りを覚えた。無念過ぎて、涙すら出なかった。
「よう、アクー」
ガイが軽い調子で声を掛けてくる。
「短い間に色々言ったが、俺はお前の事、嫌いじゃないぜ?」
「へえ、そうかい。生憎僕は君なんか好きじゃないけどね」
アクーが答えると、こんな時にも関わらずガイは噴き出した。
「ほんと、最後まで可愛くないねえ」
「…別に、嫌いでもないけどね」
追いかけるようにアクーが呟く。
「…可愛くねえ…」
完全に諦めたのか、血のこびり付いた頬に薄ら笑いを浮かべたガイは、静かに目を閉じた。
ラプスに対する怒りの為にわずかな気力を取り戻したアクーは、腰に付けた山刀を抜き放った。
(どうせ死ぬなら一匹でもいい、道連れにしてやる)
アクーがそう考えたその時だった。突然彼らの頭上から高らかな笑い声が響き渡った。ガイが何事かと一度閉じた目を開いた。アクーも後ろの木を振り仰ぐ。二人を取り囲んでいたオオグチ達も、背中を向けたラプスも、全員が後方の大木を見上げた。
「よぉ、獣族の長、やるじゃあないか!」
頭上からそんな言葉が降って来る。アクーは声の主を見つけようと目を凝らした。太く張り出した枝の上、幹に片手をついた人影が立っているのがわかった。
「まさかこんな所でANTIQUEの能力者を二人も屠るとは、これは大金星だ!」
フェズヴェティノスを称賛するような言葉を並べてはいるが、獣と言う呼ばれ方を彼らは非常に嫌った。
「誰だ!」
ラプスは、木の上の影に向かって怒号を放った。
「私か?私はアテイルだよ、アテイル!」
「アテイル、竜の一族か…」
ラプスが不機嫌な声で呟く。
「あいつは…、ダキルダ!」
アクーがハッとしたように声を出した。
「ダキルダ、だと?」
ガイが苦し気に身を起こす。その名前はココロ達四人から聞いていた。特に大地が大嫌いな奴だと言っていた敵だ。ガイ自身はダキルダと会うのはこれが初めてであった。
「そのアテイルがこんな所で何をしている?イーダスタは我らフェズヴェティノスが治めし土地。お前らに用などない筈!」
「私はアテイルの斥候だ。どこにでも現れるさ」
「それで?わざわざ我らを侮辱する為に現れたと言う訳か?」
「何だって?」
ダキルダが軽く身を乗り出すようにして聞き返したその瞬間、ダキルダのすぐ横に一匹のオオグチが現れ鋭い爪を振るった。硬い金属音が響き渡った。オオグチは音もなくダキルダのすぐ横にまで跳躍したらしい。
ラプスの近くに十センチ程の物体が落ちてきた。緑色をした、薄い鉄片であった。ラプスは静かにそれを指先でつまみ上げた。
「おいおい、ひどいなぁ。礼儀知らずにも程がある」
突然ラプスの背後から声が聞こえた。見れば、ずっと低い木の枝に寝そべるような恰好でダキルダが現れた。ガイは唖然とした。アクーも声もなく目を見開いている。
あのフェズヴェティノスの攻撃を躱し、一瞬にしてラプスの背後を捕ったと言うのか?アクーには戦闘員ではないと言っていたが、その底知れない身体能力にアクーは肌が粟立つ思いがした。
「まあいいや。君達の活躍に我が長クロノワール様もきっとお喜びになるに違いない。そのご褒美に、そんな飾り位くれてやるよ」
見ればダキルダの纏う鎧の右肩部分が綺麗に削ぎ落されていた。先程のオオグチの攻撃で、鋭い爪が掠めたのだろう。
「私の事など放っておいて、早く能力者の処刑を始めたまえよ。正直、それを見物したくて立ち寄った次第さ」
「あのガキ…!っつ、イテテ…」
ダキルダの人を小馬鹿にした言い方に腹を立てたガイが、ケガも忘れて起き上がろうとする。
そんなガイを見たダキルダがニヤリと笑う。
「しかし、ANTIQUEの能力者も口程にもないねぇ。火のANTIQUEと並び最強との聞こえも高い雷の能力者をしてこの様では、他の連中もたかが知れているだろうよ」
「何ぃ?やい、てめぇ!」
怒りの導火線に火のついたガイは、止めようとするアクーの肩に手を掛けると一気に立ち上がった。
「えぇ!?」
まさかガイにまだ立ち上がる力が残っているとは夢にも思わなかったアクーが驚きの声を上げる。
「それも最も相性のいい水のANTIQUEと共闘してもこの体たらくとはねえ」
やれやれ、とでも言いたげにダキルダは首を振った。次の瞬間、目にも留まらぬ速さでラプスがダキルダに迫った。
前のオオグチとは比較にならない。その巨体に似合わぬ速さだった。流石のダキルダもこれを躱しきれず、一瞬にして細い右手首をラプスの大きな手に捕らえられた。
異種族の争いが始まりそうな息詰まるような雰囲気の中、ガイだけが別の事を考えていた。
(最も、相性がいい?)
ガイの頭の中に、いつかの春の情景が思い浮かんだ。まだ、テリアンドスで山賊をしていた頃の記憶だ。
ユーリと、マルコがいた。エミオンが囃し立てる声が聞こえる。
(ああ、ハリスの姿もある…。俺達は、川にいた。何をしている?そうだ、俺達は晩飯にありつこうと魚を獲っていたんだ…。なるべくでかい魚を獲って、ねぐらで待つアリオスに調理してもらおうと張り切っていた。ハリスは…?)
何故この命の危機にあってこんな事を思い出しているのかガイ自身理解できなかった。それでも懐かしい春の情景は次々にガイの脳裏に浮かんでは消えて行った。
ハリスだけは自分達から離れて、川下で服を洗っている。そんな背中が思い出された。
(最初の内はおとなしく釣り糸を垂れていたんだ…、だけど、手を伸ばせば届きそうな所にたくさんの魚影が見えるにも関わらず、魚は一向に食いついてこない。いい加減イラついた俺は、俺は…)
再びエミオンの嬌声が響く。ユーリが川に飛び込んだ、ハリスが遠くから振り向いて笑っている。笑った顔は、死んだデスターにそっくりだ…。
そんな事をつらつらと考えていたガイは突然目を見開くと、アクーを振り返った。慌ててアクーの傍に駆け寄ろうとするが、出血多量の為か足が言う事を聞かない。
ガイはアクーの前に無様に転んだ。
「ガイ!」
アクーが手を差し伸べる。その手に掴まったガイは、そっとアクーに耳打ちをするように囁いた。
「水を、撒けるか?」
「は?」
「ここに、大量の水を撒けるか?こいつらの足下を全部 濡らしてしまう程の!」
「な、何を言ってるんだ、あんた?」
「撒けるのかどうか聞いているんだ!いや、撒け!今すぐだ!俺達が生き残る為だ!何が何でもやれ!そして、撒いたらすぐに木の上に逃げろ!」
「ガイ…」
元々 利口ではないガイがケガの痛みと出血多量でついに狂ったのではないかとアクーは思った。しかし、自分の腕を掴む腕は痛い程に力強い。そしてそれ以上に自分を見つめるガイの目は真剣そのものであった。
今、敵の目は全て一触即発のラプスとダキルダに注がれている。アクーはそっとガイから離れると、その両手を地面に置いた。置かれた手の辺りから土が変色していくのがわかる。
「でかい図体してよく動く事」
掴まれた手首の痛みに耐えながら、ダキルダが強がった声を出した。
「お前は何も言うな、戦場に立たないお前は、何も言うな。誰の事も侮辱するな。俺の事も、俺の種族の事も、そして、ANTIQUEの能力者の事もだ」
「離せよ、黙らなかったらどうする気だい?え?私の身に何かあったら、アテイルの一族が黙っちゃいないよ?」
ラプスが手に力を込めると、ついにダキルダの口元から笑みが消えた。その細い手首、今にも折れそうな圧を受けている。万力に絞められるような痛みにダキルダの顔が歪む。
「ばれなければ問題はない」
ラプスの口元に笑みが浮かぶ、垂れた舌から涎が伸び、消えていた炎の色を再びその眼差しに宿した。
「ばれなきゃね、けど、ばれたらどうする?」
「その時は仕方がない。挑んでくる相手は全力でこれを排除する。ANTIQUEであろうが、竜の一族であろうがだ」
「そ、それは残念だな、せっかくの共闘が台無しだ…」
「遅かれ早かれ同じ運命」
「まあね、それは私も、ど、同感だ…。ところで、そろそろその手を離してくれないか?私はまだ、死にたくはないのでね」
「そういう訳には…」
ラプスがそう言いかけるのを全て言わせずにダキルダが叫んだ。
「私の事などどうでもいい、後ろを見ろ!何か始めているぞ!」
ダキルダの必死の声にハッとしてラプスは後ろを振り返った。しかし、その左手はしっかりとダキルダの右の手首を握ったままであった。
「アクー、飛べ!」
ラプスが振り返った瞬間、雷のANTIQUEの能力者が叫ぶ声が聞こえた。水のANTIQUEの能力者が高々と跳躍し、最初にダキルダがいた木の幹を駆け登っていく。
慌ててそれを追おうと数匹のオオグチが飛び上がりかけたその時、力尽きて地にひれ伏していた雷の能力者が、目も眩むような光に包まれた左腕を地に叩きつけた。
いつの間に湧いて出たのか、足下は一面浅い水溜まりとなっていた。雷の能力者の左腕が地面を叩く、派手に水飛沫が上がるのが見えた。世界が一気に白一色に染まった。
アクーが出現させた水の中を、ガイの放った電撃が一気に駆け巡り、水の中にいた全てのオオグチの体を貫いた。
アクーを追ってわずかに宙に浮いていた連中の体にも、伸び上がる様に電流が襲い掛かる。目を開けていられない程の放電の中で、何十と言う魔族が声もなく闇へと帰って行った。




