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ANTIQUE  作者: OOK&YOK
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無尽の水矢

登場人物

・ガイ…雷のANTIQUEに選ばれた元アスビティ公国特別行動騎馬隊の隊士。かつて第四分隊を率いて戦場を駆けた戦士であり剣術と馬術に秀でた怪力の持ち主。その上気の好い男であるがお調子者でがさつな性格から女性や常識的な人間からは余り好かれない。

・アクー…水のANTIQUEに選ばれた少年。イーダスタ共和国の森を流れる川の中で意識を失っているところを旅人であるポーラーに救われ一緒に暮らしていた。以前の記憶が全くない。頭がよく、常に冷静でガイとは真逆な性格。随一の身体能力と弓矢の扱いに秀でている。無神経さと口の悪さが玉に傷。

・ラプス…三種の魔族の一つであるフェズヴェティノス。その中でも最強と言われる戦闘集団である”オオグチ一族”を率いる長。二歩足の狼のような姿をしているがその体は巨大で性格は残忍。




●前回までのあらすじ

大地の意識が戻りANTIQUEの仲間達の間に明るい空気が戻って来た。そんな中アクーは森に入り込んで来るフェズヴェティノスからポーラーを守る為一人森の中を見回っていた。一方、ガイもまた仲間達の食糧を狩る為、一人で森の中へと消えて行った。大きな猪を狩ろうと繁みに隠れていたガイの前に、ラプス率いるオオグチの一族が現われる。そうとは知らず、言葉卸の儀の支度に精を出すヤック村の人々を陰から見つめていたアクーの前に現れたのはアテイルの斥候、ダキルダであった。ダキルダからガイが一人で戦っている事を聞いたアクーは、急ぎ彼の元へと向かう。また、戦闘開始直前にガイが空へと放った光の狼煙を見たシルバーとキイタは彼を救うべく夜の森へと飛び込んで行った。善戦したガイであったが、無数に襲い掛かって来るオオグチの前に遂に力尽き、ラプスに捕らえられてしまう。絶体絶命のガイ、彼を救おうと森を走るシルバー、キイタ、アクーは果たして間に合うのだろうか?







 静かだった。死を覚悟かくごし、目を閉じたガイにはもう何も聞こえていなかった。

 そんな彼の耳に、空気を切り裂く鋭い音が響いた。次の瞬間、苦し気なうめき声が聞こえ、自分の髪をつかむ力がゆるんだ。

「ガイ!」

 自分を呼ぶ声に再び開かれたガイの目は、矢を打ち込みながら走り寄って来るアクーの姿をらえた。

「アクー…」

 つぶやいた瞬間、遠のいていた意識が急激に戻って来た。ガイが上を見上げると、アクーの方を振り向いたラプスの後ろ肩には、一本の矢が深々と突き刺さっているのが見えた。

 ガイは体中を走る激痛にえながら横っ飛びに転がり、ラプスの前から離れた。起き上がりざまに剣をかまえ、左手に電撃をむ。

 ガイの動きに数匹のオオグチがハッとしたように顔をめぐらせる。地を蹴ったアクーは木の幹をけ登ると空中に飛び上がり、その高みから自分を見上げる敵目がけて数本の矢を打ち込んだ。

 そのまま宙で体をひねりながら、ガイの目の前に降り立った。ガイをかばうように仁王立ちをしたアクーは矢を油断なく敵に向けて引きしぼっている。

「遅かったじゃねえかよぉ」

 ガイが情けない声を出す。

「これでも全力で助けに来たんだ、ありがたく思ってくれ」

 そう言うとアクーは一瞬後方のガイに目を向けた。

派手はでにやられたな」

「何言ってやがる、こんなのかすり傷だぜ。これから俺一人でこいつらを全員ぶっ倒すところだったんだ」

 たった今あげた情けない声も忘れてガイが言い返す。

「強がりはいいから、いい?こいつらは僕が片付ける。君の命を守っている余裕はないから、逃げるなり、かくれるなり、自分の身は自分で守ってくれ!」

貴様きさま…またしても」

 怒りに燃えた目を闇夜に光らせたラプスが、牙を剥き出して近づいてくる。アクーは冷静な表情のまま、引きしぼったげんを開放した。

 ひょうっと空気を切り裂く甲高かんだかい音を立てながら、矢が二本同時に飛び出した。どうやら一度に二本の矢をつがえていたらしい。

 放たれた矢はそれぞれの軌道きどうを描き、ラプスの両脇をすり抜けるとその後ろに立つ敵二匹を同時に射倒いたおした。

 背後であがった仲間の悲鳴に振り返り、再びアクーに戻されたラプスの目は、怒りのために増々赤く燃え上がっていた。

 敵の動向どうこうを確認する事もなく、アクーは次々と矢を射た。アクーの手から矢が放たれる度、光を失くした森のそこここで敵の悲鳴が上がった。

 ようやく事態を察したオオグチの一族は次々に地を蹴ると暗闇の虚空こくうへと散った。地面に足をつけたまま、アクーは上空へ向けて弓を構えた。

 耳も、目も、肌に触れる風の動きも、五感の全てをぎ澄ませ、アクーは敵の動きを追った。

 空を飛びうオオグチと、それを射落いおとそうと闇夜を切り裂くように走るアクーの放つ矢。そしてその矢にたれた仲間の悲鳴が響き渡る阿鼻叫喚あびきょうかんの中程で、そのおさであるラプスは微動びどうだにせずたたずんでいた。

 その静かにも見える瞳を持たない赤い目が見つめる先では、苦し気なうめき声を発しながら雷の能力者が立ち上がろうとしていた。

 地に突き立てた震える剣に体を預けながら、腰にえられた左手には、再び電撃の光がまばゆい光を放っていた。

 自らの血飛沫ちしぶきに固まった黄金色の長い髪の向こうから、息を吹き返した力強い眼差まなざしが自分をにらみつけていた。

(なぜだ?)

 ガイの、むしろ戦意を増した瞳を見返しながらラプスは思った。

(この男はなぜ、まだ立ち上がる事ができるのだ?)

 相当量の血が流されたはずであった。体中のあちこちで口を開ける傷は、えがたい激痛を生み出している筈であった。

 それなのに、なぜこの男はまだ立ち上がる事ができるのだ。どうして一度死んだはずの目が今、あんなにも輝きを放って自分を見つめているのか?ラプスには理解できなかった。

 次の瞬間、ガイが渾身こんしんの力を込めて突き出した左手から強烈な稲妻いなずまがラプス目がけて闇を溶かし走り抜けた。ラプスは、体中の毛を逆立てながら横っ飛びにこれをかわす。

 飛んだラプスの後ろに控えていた一匹のオオグチがその電撃をまともに喰らい、声もなく地に倒れた。髪の毛を焼くような嫌な臭いが周囲に漂う。

 白い煙を上げる肉のかたまりとなった同胞どうほうの姿を見たラプスの目は、すぐにガイに向き直った。ガイは既に体の角度を変え、再びラプスを正面からとらえている。

 血の通わぬいつわりの左手には、早くもラプスの命を狙う次の電撃が輝いていた。

 次の瞬間、ラプスは木々の間からのぞく美しい星空にその鼻先を向けるなり、高らかに声を上げた。その声は、このイーダスタ全土に届くかと思われる程に、高く、大きく、響き渡った。

 やがて、長く尾を引きながら、ラプスの上げた遠吠えは余韻よいんを残し、夜空に溶けるように消えて行った。

 ラプスの突然の行動に、仲間のオオグチ達ですらその動きを止めた。アクーとガイも、唖然あぜんとした表情のまま、何もかもを忘れてラプスを見つめた。

 オオグチがかたい幹を蹴る音も、アクーの矢が起こす風を切る音も、その矢に討たれたオオグチの悲鳴も、全ての音がラプスの高らかな声の前に消え失せた。

 その静寂の中、アクーとガイの耳に一つの音が聞こえてきた。森をおお葉陰はかげり、近づいてくる無数の音。その音は段々と大きく、そして多くなっていった。

 四方八方から迫りくる姿なき葉を散らす音に、アクーとガイは不安気に周囲を見回した。やがて、無数にも思えるその音に動物の息遣いきづかいが混ざり始める。

 ラプスは応援を呼んだのだ。その声にこたえ集まったオオグチは一体どれだけいるのか?今、アクーとガイを取り囲むように頭上をグルグルと回っているのがわかる。

 アクーの矢もガイの電撃も、一直線上に立つ相手に対しては確実に打ち倒す力を持っていたが、多方面から一度に襲われれば、それを全て攻撃する事は難しかった。その性質を見抜いたラプスは、仲間を呼び数で対抗しようとしているのだ。

(あいつ、ラプスとか言ったな…)

 獣とあなどった相手の思わぬ判断力にアクーはあせりを覚え、咄嗟とっさにガイを見た。立っている。彼の能力も、そして彼の眼差あ(まなざ)しもまだまだ戦える事を示していた。その時、そんなガイの背後から襲い掛かる一匹のオオグチがアクーの目に映った。

「ガイ!」

 叫ぶなりアクーは、ガイの背後に迫る敵に向かって矢を射る。それと同時にガイがアクーに向かって電撃を放ってきた。

 ガイの肩越しに顔面に矢を受けたオオグチが吹き飛ぶ。アクーの後ろでも、同じようにガイの稲妻いなずまを受けたオオグチが仰向あおむけに転がった。

 アクーはガイに背中を当てるように近くに寄った。周囲の敵は今にも二人に飛びかかろうと、力をたくわえている。

 森の上に昇った大きな月の光を浴びたラプスが一歩二人に近づく。アクーは矢を、ガイは左手を慌てて相手に向ける。

 燃えるような赤い目がそんな二人をとらえていた。肩から流れ落ちる血にれた銀色の体毛が風になびいた。

(今、自分がここから走り出したら、奴らは全員ついてくるだろうか?ガイから引き離す事ができるだろうか?)

 アクーは狙いを定めたまま考えていた。初めてココロとガイに出会った時はうまくいった。二人を狙っていたオオグチ達は、倒せるはずだったココロとガイを放って自分を追った。

 しかし、今度はあの時とは状況が違いすぎる。相手は自分達が宿敵であるANTIQUEの能力者だと知っており、数も圧倒的に多い。引き付けられたとしてもせいぜい半分。アクーが走った瞬間、残った半数は動けないままのガイに一斉いっせいに襲い掛かるだろう。

 闇雲やみくもに走らず、素直にココロ達と合流すべきか?シルバーや大地、キイタの力を借りられればこれだけの数のフェズヴェティノスが相手でも負ける事はないだろう。しかし、いずれにしてもそれはガイを見殺しにする事になる。

 とは言え、このままここに残りガイと共闘したとしてもすぐに残り少ない矢を射ち尽くしてしまう。その後は…、腰に一本の山刀さんとう、足首に小さなナイフがあるきりだ。どう考えても矢を失った自分と、ろくに身動きも取れないガイとでは勝つ見込みは万に一つもない。抵抗空しく、この場で二人同時に殺されてしまうのは目に見えている。

 戦士であれば選ぶ道は決まっている。しかし、アクーは戦士でも軍人でもなかった。戦場に立った事もない少年であるアクーは、その場を立ち去る決心がつかないまま、ただ目の前に立つラプスに狙いをつけた体勢のまま動けずにいた。

 このおよんでなお、アクーは自分もガイも助かったうえで、ここにいるフェズヴェティノスを殲滅せんめつできるそんな都合のよい道がないものかと考えをめぐらせていたのだ。しかし、そんな道が存在しない事などとっくにわかっていた。

「アクー!」

 突然ガイが呼んだ。

「何!?」

 自分を呼んだガイの方は見ないまま、アクーが苛立いらだった声で答える。

「ここは俺が引き受ける、お前はすぐにシルバーを呼んできてくれ!」

 ガイはアクーがどうしてもみ出せなかった道を選んだようであった。決して二人が同時に倒れる事があってはならない。一人はこの場を離れ応援を呼ぶ。

 さっき考えた通り、この窮地きゅうちだっし敵を倒す為には、それこそが最適な選択であった。

 しかし、二人の内一人が生き残るその道は、同時に一人が確実に死ぬ道でもある。ガイはアクーにその道へ入れと背中を押しているのだ。

 頭が悪くても、粗野そやでがさつであっても、いつでもふざけた態度をとっていたとしてもやはりガイは軍人なのだ。彼はここを己の死地と覚悟かくごを決めたらしい。

「アクー!」

 それでもアクーは動けずにいた。海のように青い目が左右に激しく動く。

「アクー!行け!」

「うるさいな!今考えているんだ!黙ってろよ!」

 うそであった。次々と浮かんだ考えは、同じように次々と消え失せ、今やアクーの頭の中は真っ白なもやが掛かったように何も見えなかった。

 どう考えた所で、ガイを置き去りにして一人でここを脱出する、それ以外に最良の作戦などなかった。

 その道しかないと言う事実をどうしても認める事ができないアクーは、けわしい顔のまま全く動かなかった。

 月明りの中、黒い影となったラプスが一つ小さなため息をつくのが聞こえた。それはなぜか、少し残念そうな、悲し気な吐息といきであった。

 しかし、次の瞬間ラプスは躊躇ためらう事なく頭上に集まった仲間に片手を上げて見せた。

 四方の木が激しくれた。はじかれたように空へ飛び出した数えきれないオオグチが、一斉いっせいにアクーとガイに飛びかかった。

 ガイが電撃を放つ、一瞬森が真昼のように照らし出される。ラプスの大きな体が一瞬にして消え去る。アクーはそこに見える敵の姿目がけて矢を放った。射た瞬間にはもう次の矢をつがえた。常人の目には見えない程のスピードで、次々と新たな矢をつがえては射る。

 襲い掛かる敵をくぐり、地に転がった。起き上がりざまにガイを見る。ガイに襲い掛かる敵を射倒いたおす。すぐに目にもまらぬ速さで次の矢を腰につけたゆぎから引き抜く。その時、ほんの一瞬、アクーに動揺どうようが走った。               次の瞬間、アクーはわき腹に強い衝撃しょうげきを受け、宙を舞った。横から襲い掛かる敵の攻撃に、アクーの小さな体は軽々と吹き飛ばされた。枯葉をまき散らしながら地面を激しく転がった。

 回転が止まると、アクーはすぐに片膝かたひざをついて弓を構えた。衝撃を受けた左のわき腹から太ももにかけて、ドロリと熱い液体が流れ落ちるの感じる。負傷したらしい。

 アクーの呼吸が目に見えて乱れ始めた。肩が大きく上下に波打ち、右手で引きしぼる矢は狙いを定めず激しくれ動いた。アクー自身が、止めようもない程に震えていたのだ。

 アクーのこの変化は、ケガのためではなかった。今アクーの感じている恐怖に比べれば、傷から受ける痛みなど何も感じないに等しかった。

 今、アクーの目の前でおどる様に揺れる矢は、空しく闇をさ迷うこの矢は、今夜アクーが持ってきた最後の一本であった。

 その矢を抜き取った瞬間にそれを悟ったアクーは、一瞬にして恐怖に飲み込まれた。体の震えが伝わった空のゆぎが、彼の腰でカタカタとかわいた音を立てる。

 最早もはや逃げる事すらできない。この最後の一本を放った瞬間、アクーは腰に付けたブッシュを払うための山刀さんとうを抜き放ち、この狂暴な魔族に立ち向かわなければならないのである。

 アクーの全身で血が逆流し始めた。呼吸は益々乱れ、心臓が早鐘はやがねを打つ。体中燃えるように熱かったが、そこを流れる汗は冷たかった。

 その冷たい汗が目に入る。食いしばった歯が、意志に反してガチガチと硬い音を立てるのを止める事ができなかった。

(終わった…、もう、なすすべはない…)

 仮に今から走り出したとしても、矢を失ったアクーに追って来るフェズヴェティノスに対抗する手段は残されていない。

 恐怖に固まった右手は、最後の尾羽おばつかんだまま、まるで石にでもなってしまったかのように動かない。

 時々、目線の先でまばゆい光がまたたく。ガイはまだ戦っているのだ。だが、全ては遅すぎた。すでに二人に助かる道は残っていないのだ。

 そう考えた瞬間、足の力が抜けた。アクーは、弓をかまえたままひざくずし、地に尻をついた。それでも、矢を引きしぼる腕だけはまっすぐに闇に向けられていた。

 その時だった。

(いつまでそうしているつもりだい?)

 突然アクーの頭の中に声が響き渡った。男とも、女ともつかぬ不思議な声。

(ハル!?)

 アクーは頭の中で声の主に呼びかけた。その途端とたん、アクーの体が深く、い青色の輝きに包まれ始めた。

(武器を失くすのが、そんなに怖いかい?)

 みをふくんだようなハルの声が聞こえてくる。アクーは怒鳴どなる様にそれに答えた。

(当たり前だろう!これが最後の一本だ!これを射てしまったら僕は丸腰なんだぞ!)

(そんな事はないさ)

 ゆったりと、余裕のあるハルの声が言う。静かな波間に揺蕩たゆたうような、穏やかな声だった。

(アクー、お前は水のANTIQUEの能力者、私の力を使うがいい)

(ハルの能力ちから?だけど、ここには水がない!)

 そう、ゆるやかな流れすら濁流だくりゅうに変え、オオグチの一族を一度に押し流してしまう程の能力ちからをアクーは持っていたが、ここにはその激流げきりゅうとなる川が流れていなかった。それどころか、水たまりの一つすらない。この状況でどうやって水の能力を発動させろと言うのか?しかし、あくまでもおだやかな声で、ハルは答えた。

(忘れるなアクー、ここはイーダスタの森。いにしえより続く神秘の土地。お前の踏む土の中にも、そこに生きる木の幹、繁る草葉の一枚一枚にも、生けとし生けるもの全ての中に私は常に存在する)

(ここは、イーダスタの森、生けとし生ける全てのものの中に、ハルは、いる…)

 ハルの言葉を頭の中でり返しながら、アクーの呼吸はみるみる落ち着きを取り戻していった。

 闇の中で影が動いた。アクーは迷う事なくその手に残された最後の矢を射放いはなった。暗闇で敵の悲鳴が上がる。

 最後の武器を失ったアクーはその場に立ち上がると、空いた右手と弓を持つ左手とを広げた。心持こころもち顔を上げ、静かに長い睫毛まつげおおわれたまぶたを閉じる。

 アクーの体を包んでいた青い光がそのさを増していく。それに合わせるように森の中の空気が動き始めた。ゆるやかな水の流れのようにアクーに吸い寄せられていく。

 アクーの体を空気の流れが包み込んでいくと同時に、彼の服がはためき始めた。やがてその青い髪がうねる波のようにれだす。

 軽く息を吸い込んだアクーが再び目を開くと、その光はさらまばゆく森の中を水底みなぞこ色に染め抜いていく。

 何事かと、その場にいる全員の目がアクーに釘付くぎづけになった。再び片膝かたひざをついていたガイも、驚いた顔でアクーの変化を見つめた。

 と、突然アクーの右手が一際ひときわ明るい青に包まれたかと思うと、その光は一瞬にして細長い棒のような形に変化し、そのままアクーの右手ににぎられた。

 ゆらゆらとれる水のようでありながら、その光は決して形をくずさぬままその手の中にあった。

 アクーはその水でできた細長い何かを弓につがえると、ゆっくりとした動作で引きしぼり始めた。張りつめた弦がギシギシときしんだ音を立てる。

「そんな…」

 アクーの動作を逐一ちくいち見つめながら、ラプスがつぶやく。

「そんなバカな!」

 ラプスが叫んだ瞬間、アクーは右手を開いた。強い衝撃しょうげきに左手の弓が反転する。アクーの右手から解放された青白い水の矢は、空気を切り裂く高い音を立てながら闇を走った。

 渦巻く水のようにれながらも、アクーの右手から生み出された水の矢は真っ直ぐに青い光のしずくをまき散らしながら飛んで行くと、呆然ぼうぜんと立ち尽くすラプスの左腕をかすめた。

 黒い毛が宙に散る。そのままラプスの後ろに立っていた一匹のオオグチの厚い胸板に水の矢が突き刺さった。

 苦し気なうめき声をあげ、射られた敵が地に倒れる。刺さった矢はなおしばらくの間、そこで美しい青い光を放っていたが、やがてきりのように散り、き消えた。

 余りの衝撃しょうげきに声もなくアクーを見つめるラプスの目の前で、二度目の奇跡きせきが起こり始めていた。何もない虚空こくうに差し出されたアクーの右手に、再び水の矢が生まれていたのだ。








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