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ANTIQUE  作者: OOK&YOK
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孤軍奮闘

●登場人物

・ココロ…アスビティ公国公爵の娘。ANTIQUEのリーダーとして他の能力者を探す旅に出た。強力なテレパシストであると同時に予知的ヴィジョンを見る事ができる。

・吉田大地…地球の高校二年生。右手に宿した土の能力で、石でも煉瓦でも元が土でできたものであればどんな物も意のままい操る事ができる。

・シルバー…アスビティ公国の軍人。鋼の能力で体を鋼鉄に変え敵の攻撃を防ぐ事ができる。また、体の一部を鋼の剣や盾などの武器に変えて戦う。

・キイタ…ンダライ王国の第二王女。ANTIQUE最強と呼ばれる火の能力で激しい火炎と熱風を生み出し敵ごと破壊する。

・ガイ…義手である左手に雷の能力を溜め込み、電撃を生み出す。また、雷雲を発生させ、自分を避雷針として落雷させた後、そのエネルギーを敵に叩き込みその体を破壊する。

・アクー…イーダスタの森の中で暮らす少年。水の能力を使い森を流れる静かな清流を激流に変化させ敵の体を押し流す。


・ポーラー…三か月前、意識を失って倒れていたアクーを助けた人物。暗い過去を持ち、その罪滅ぼしの為アクーと森で生活を共にしてきた。


・オオグチの一族…フェズヴェティノスの一種。狼のような外見をしており、強靭な肉体と鋭い牙や爪を駆使し、群れで攻撃を仕掛ける。

・ラプス…オオグチの一族の長。最も体の大きなオオグチ。性格は残忍で攻撃的。



●前回までのあらすじ

フェズヴェティノスに襲われた村の狩人を見捨ててしまった。そんな過去の自分を恥じ深く後悔しているポーラーに、その時逃げて生き延びてくれたからこそ自分達はアクーと巡り合う事ができたのだと語る。恥ずべき行動と思っていた自分の行いに対し、生きていてくれてありがとうと言うキイタの言葉に呆然とするポーラー。しかしその一方でようやく表れたアクーの本当の仲間に彼の身を預け、ひっそりと姿を消そうとする彼に、ココロはアクーを馬鹿にするなと叱りつける。アクーの小さな胸に傷を残さない為に、二人は話し合い、最低限の別れを迎えなくてはならないと諭す大地にポーラーは真剣な表情を見せる。

その頃、森の中でアクーと別れ、一人仲間の為に狩りをしていたガイの前にラプス率いるオオグチの一族が現われた。強がった声を出すものの、一度戦った経験から群れを成して襲い掛かって来るオオグチに一人で立ち向かったところで決して敵わない事を悟ったガイは、何とか仲間に自分の窮地を報せようと巨大な稲妻の柱を天高く打ち上げた。

一方、森の出口付近まで来ていたアクーは一人、次の儀式の準備を進めるヤック村の様子を木の上から眺めていた。そんな彼に背後から声を掛けたのはアテイルの参謀、ダキルダであった。ダキルダはどのような魂胆からか、アクーの対しガイが一人オオグチの一族と戦っている事を知らせる。ガイの放った光の柱を見つけたアクーは彼を救出する為、夜の森へと消えて行った。







 黒い雲が渦巻うずまいていた。一点のみに集中したその厚い雲の真下に、高々と左腕を突き上げたガイが立っている。彼の美しい金色の髪が、吹き付ける強い風になびき顔にまとわりついている。

 ガイの真上だけにき出した黒雲から、ゴロゴロと雷の音が不気味に響いている。一瞬周囲を真昼のように照らし出したガイの電撃に、おびえたように動きを止めていたオオグチの一族は、しかしガイの次の攻撃がないとわかるとすぐに身を低くかまえ、攻撃の体制に入った。

 今、一つ天空に向かい巨大な光の柱を上げたのは敵への攻撃ではなかった。ガイとしては、狼煙のろしのつもりであったのだ。

 ココロに救援を頼んだ。アクーでも、他の誰でもいい。今の天に伸びた雷の柱が仲間の誰かの目にまり、この場所を知らせる事さえできれば、この窮地きゅうちだっする事できるかもしれない。ガイはそう考えたのであった。

 実際ガイの作戦はこうそうし、その狼煙のろしを目にしたアクーが今まさにけつけようとしていた。が、未だその姿はない。

 例え誰かがけつけてくれるとしても、それまでこの血にえたオオグチ達が黙って待ってくれるとは思えない。やはり、とりあえずは自分一人で戦うしかなかった。

 そう考えたガイは覚悟を決めた。そう長い時間ではないはずだ。少しだけ、ほんの少しだけここをしのぐ事ができれば誰かが来てくれる。ガイはそう信じてこれからの戦いを頭の中で組み立てた。

(こいつらのスピードについていくのは無理だ。奴らが地に足を付けている今の内に一気に決めるしかない。その後の攻撃をわずかでもにぶらせる為には最初の一撃で一匹でも多く倒しておかなくては…。チャンスは、一度)

 そう考えながらガイは、冷静に自分の周りで輪を縮めてくる敵の数を数えた。十二、いや、十三…。そこまで数えた時、ガイはおもむろに両手を天に向かって突き上げた。オオグチ達がビクリと身構みがまえる。

「気を付けろ!」

「何か仕掛しかけてくるぞ!」

 闇の中で敵が口々に警戒する言葉を交わしている。ガイは一番体の大きなラプスの燃える目を見つめ、ニヤリと不敵な笑みを作った。

 一度に多くの敵を倒すには、テリアンドスの荒野で、エクスヒャニクを相手に放った技が有効だと考えていた。

 しかし、フェズヴェティノスはエクスヒャニクに比べはるかに素早すばやく、その動きも予測不能だ。

 加えてエクスヒャニクには面白いようにいたガイの技がオオグチにはどこまで通用するのか、それも不明だった。

 この技が不発に終われば、自分は一気におそい掛かって来るこいつらにあっという間に食いちぎられてしまう。

 いや、例え成功したとしても、ここにいる全員をその一撃で仕留しとめる事は不可能だろう。ガイは少なからず自分が傷つく事を覚悟しながら敵との間合いをはかっていた。

 息苦しい程の沈黙ちんもくが続く。

(いくぜ、ウナジュウ)

 ガイの後方でカサリと枯葉の音がした瞬間、ガイは頭上に突き上げた両腕を素早く振り下ろした。途端とたんに頭上に渦巻うずまく黒雲から幾筋いくすじもの稲妻いなずまがガイの周りを取り囲む敵に向かって降りそそいだ。

 方々で雷撃らいげきに打たれたオオグチの上げる悲鳴が響いた。その効果を確かめる間もなく、ガイは左腕を腰にためるようにして次の攻撃に備えた。

 体に引き付けられたガイの左手が、小さくスパークしながら電撃をむ。当然、今の一撃をかわした数匹の敵が襲い掛かって来るのはわかっていた。

 自分に食らいついてくる奴がいれば躊躇ちゅうちょなくその体に必殺の電流をぶち込んでやるつもりであった。

 しかし、一度ガイと戦っているオオグチ達はその性質を学んだのか、鋭い牙でかじり付いてくる事はしなかった。

 まず跳躍ちょうやくした一匹のオオグチは、飛び越しざまにガイの右肩を足の爪で蹴った。ガイの背中に近い部分の肉がごっそりとえぐられる。

 その衝撃に態勢たいせいくずしたガイの右わき腹をねらい、低い位置から襲い掛かった敵の爪が突き刺さる。

 居合切いあいぎりの要領ようりょうで腹をかれたガイは、その激痛に悲鳴を上げながら体を回転させた。夜の森に、ガイの鮮血せんけつはげしく飛び散った。

 わずか二回の攻撃で、ガイは致命的ちめいてきとも言える傷を負い足からくずれた。しかしオオグチ達の攻撃の手はゆるまなかった。すぐさま第三、第四の攻撃がガイを襲う。

 最初の攻撃をかいくぐるようにけたガイは必死に立ち上がり移動を試みたが、次の鋭い爪がその背中を切り裂くのはかわしきれなかった。ガイの服をざっくりと裂く四本の傷口から、更に大量の血飛沫ちしぶきが舞った。

「ぐわぁっ!」

 悲痛な叫びをあげて大木の根元に転がる。振り向き様に右手で腰の剣を抜き放ち、ぎ払う。剣と剣が当たるような甲高かんだかい音が夜闇を照らす火花と共に響き渡る。

 ガイが打ち払ったのは敵の大きな爪だったはずだ。敵の爪はガイの手にする剣と同じ位に鋭くかたいのだろう。

 右手一本で持った剣の切っ先を敵に向け、ガイは苦痛にえて立ち上がった。足が震える、まるで千里せんりけたように呼吸が乱れていた。

 闇の中でいくつも光る敵の金色の目が、右に左にれながらガイに近づいてくる。ガイは、追い込まれながらも最低限の冷静さをもって状況を判断した。

 このまま大木の幹を背にしている限り、背後から攻撃される事はない。敵は足を止める事なく、ガイとの接触せっしょくを最低限に抑えようとしている。密着する時間が長引けば、電流を流される事がわかっているからだ。

 ガイは更にイメージを高め続ける。自分の攻撃、敵の攻撃、そしてその果てにある結末。

 何かを見切ったのか、ガイは突然目を見開くと左手の五指の先から細い電流を前方に向けて放った。そのまま左右に腕を振る。放たれた電流はガイの腕の動きに合わせ、左右上下に青白い光を放ちながら乱れ飛んだ。

 敵の陣形じんけいが乱れる。そのすきをついてガイがその中心へ走りむ。一瞬走った閃光せんこうの中で見えた最も近い敵の体に自慢の剣を突き立てた。

 肉をつらぬく確かな手応てごたえを感じた瞬間、目の前の相手を足で蹴り倒し剣を抜くとそのまま上段に振り上げつつ後ろを振り向く。

 そこに敵の姿を確認する事もなく、力いっぱい振り下ろした。大きな悲鳴が響き渡る。かたい岩に打ち当たるような手応てごたえに、切っ先が敵の頭骨ずこつくだいたのだと知る。

 ガイは休む事なくすぐに剣を闇雲やみくもに振り払いながら体を回転させる。真後ろにその体が向いた時、ガイの剣が止まった。その剣先は何か巨大な力にガッチリとつかまれたのだ。

 目の前に視界をふさぐ真っ黒い影が立っていた。わずかに残る陽光ようこうに銀色の毛が光った。ラプスだ。その強靭きょうじんな爪が渾身こんしんの力を込めて振りぬいたガイの剣をつかみ止めている。頭上から、生暖なまあたたかい息が降りかかる。

 ガイは生まれてから一度も経験した事のない感情がき上がって来るのを覚えた。それが「恐怖」である事に、本人はまだ気がついてはいなかった。

 次の瞬間、左肩に強い衝撃しょうげきを受けた。ラプスに剣をつかまれ動きを止めたガイに、背中から襲い掛かった敵が鋭い牙を突き立てたのだ。

 ガイは迷う事なく左手で相手の頭をつかんだ。急に右手が軽くなった事で、ラプスが後方に飛び退すさったのが知れた。

 ガイは持てる力の全てをそそぎ込んだ電流を流した。ガイの左肩に食らいついた敵が声もなくズルリとその場にくずれ落ちていく。

 前のめりに転がるようにガイはすぐにその場を離れた。しかし、敵の執拗しつような攻撃は止む事なくガイを襲い続けた。

 敵が跳躍ちょうやくするたびにガイの体に傷が増えて行き、燃えるように熱い血が流れ落ちた。敵に体中を切りきざまれるままに、ガイの体は右に左に翻弄ほんろうされた。

(おかしい)

 遠のいていく意識の中でガイは思った。

(最初の攻撃で一体何匹の敵が倒れたんだ?その次の攻撃では?剣で二匹は倒したはずだ…。いや、三匹か?こいつらは一体何匹いるんだ?木の上にまだまだいたって事か?)

 自分の荒い息遣いきづかい以外、最早もはやガイの耳に届く音はなかった。目の前が真っ赤に燃えていた。あてもなく走り、敵の姿も見えないまま剣を振り回した。

 しかしスピードを武器とするオオグチ達にとって、ガイの動きはまるで止まって見えている事だろう。

 ついに力 きたガイは、無様ぶざまに顔から地面に倒れこんだ。胸が張り裂けそうだった。ほほを深く切られたのだろう、べっとりと血のついた顔に枯葉が張り付いた。

 それでもガイは地面をった。剣を地に突き立て、立ち上がろうと試みた。一体どれだけの血が流されたのだろうか?すでに指一本動かす力さえ残されていなかった。

 ようやく大きな木を背に敵を振り返る。ゆがんだ世界の中に、ゆらゆらと陽炎かげろうのように敵の姿が影となってれている。

 明確めいかくにその数を数える事すら、今のガイにはできなかった。立ち上がる事もできないまま、それでも右手ににぎられた剣を持ち上げた。左手には最後のチャンスにける電流が低い音を立てながら滞留たいりゅうしている。

 ゆっくりと敵の影が近づいてくるのがわかる。

(もっと来い、もっと近づいて来い)

 薄れる意識の中でガイは思っていた。目の前まで来た瞬間、最大の電撃をお見舞みまいしてやる。

 全身を切りきざまれながらも敵をにらみつけるガイの目は死んではいなかった。その目を見たラプスが小さな笑い声をらす。

「まったく、あきれる程 頑丈がんじょうな奴だな。一体どれだけ同胞どうほうを闇に帰せば気が済む?実際、少々見直したぞ雷の能力者よ。見事な戦いぶり、敵ながら天晴あっぱれだ。だが、まあ、ここまでだな」

 闘志とうしを失う事なく敵に向けられたガイの剣先が震えだしたかと思うと、ガチャリと重々しい音を立てて地に落ちた。左手に輝いていた雷の力も失せ、頭上に渦巻うずまいていた黒い雲も、いつの間にか消えていた。ガイはがっくりと頭を落とした。

(何てこった…。俺はここで死ぬのか?世界を守るとか抜かしておきながら、一つも役に立たないまま、こんなところで俺だけ脱落するのか…)

 ラプスがゆっくりと近づいてくる。その大きな力強い右手がガイの髪を鷲掴わしづかみにする。引き上げられた目の前に巨大な狼が立っている。その姿は、今までよりもはるかに大きく、はるかに恐ろしく見えた。

「ラ、ラプス様、お気を付けください」

 オオグチの一匹がおののいた声をあげる。その声にラプスがニヤリと笑う。

「何を気を付けろと言うのだ?見ろ、こいつの目を。この目はもう、戦える男の目ではない」

その通りだった。ガイ自身、誰よりもラプスの言葉が正しい事を知っていた。

(ウナジュウ、行け…。早く、早く次の能力者を見つけ出し、もう一度ココロ様達と合流するんだ…)

 最早もはや戦う意志を失くしたガイが思うのは、ただその事ばかりであった。

(ココロ様…、キイタ様…シルバー隊長…。最後まで、ついて行きたかった…)

 ラプスが空いた左手を高々と振り上げた。背後に上った明るい月が、その指先の鋭い爪を不気味に輝かせる。

 太く、鋭い、きたえられた剣のようなその爪で自分ののどを切り裂くつもりなのだ。そう感じたガイは覚悟を決めたように静かに目を閉じた。


 

「ガイ!?」

 ココロはそうさけぶと突然その場に立ち上がった。

「ココロ様?」

「ココロ、どうしたの?」

 シルバーと大地が同時にたずねる。

「今、ガイからメッセージが届いた…。戦っている…、森の中で、フェズヴェティノスと戦闘に入っている!」

「何だって!?」

 大地がさけんだ時にはすでにシルバーは剣を手に立ち上がっていた。その剣を腰に差した時、急に部屋の中がまばゆい光で満たされた。

 そこにいた全員が家の外に飛び出る。見れば遠く森の中から、天空に向け巨大な光の柱が立ち上がっていた。

「何だありゃ?」

 ポーラーが目を見開いてつぶやいた。

「ガイ…」

 キイタはそう一言 つぶやいた直後、その光の柱に向かってけだした。

「キイタ様!」

 シルバーはさけび、その後を二~三歩追った所で立ち止まった。

「私が行きます、ココロ様はここで!」

「俺も…」

 大地が言いかけると、すぐにそれをシルバーが止めた。

「ダメだ大地、お前は残れ!」

「何で?俺だってもう戦える!」

「ここに敵が来た時、ココロ様とポーラーを誰が守るんだ!」

 シルバーの怒鳴どなり声に大地はハッとして言葉を失くした。

「ココロ様、アクーに連絡を!大地、ここを頼んだ!」

 一瞬黙った大地に、有無うむをも言わさずシルバーが言いきった。

「シルバー!」

 走り始めたシルバーにココロが叫ぶ。シルバーが振り返った。

「ガイとキイタを、お願い!」

「おまかせを!」

 そう言うと今度こそ背を向けたシルバーは、先に飛び出して行ったキイタを追って走り出した。見上げた先で、巨大な光の柱が徐々に薄くなっていくのが見えた。しかし、そのおかげおおよその場所は特定できた。

(ガイ、待っていろ今行くぞ!)

 そう胸の中でつぶやいたシルバーの目に、前を走るキイタの背中が見えた。

「キイタ様!」

 走りながら名前を呼んだ。確実に聞こえているはずであったがキイタが止まる事はなかった。シルバーは更に足を速め彼女の横に並んだ。

「お戻りください!ガイの所へは私が参ります!キイタ様!お戻りください!」

 しかしキイタは止まらなかった。恐ろしい程真剣な眼差まなざしのまま走り続けていた。

「キイタ様!」

 シルバーがもう一度 さけぶとキイタは一瞬チラリと横目でシルバーを見た。

「ガイは私を助けてくれた。あんなにも自分を侮辱ぶじょくし続けた私を、命がけで守ってくれた!今度は私がガイを助ける!」

「キイタ様…」

 前を向いたままそう言うキイタの真剣な顔に、シルバーは言葉を失くした。やがて覚悟を決めたシルバーは自分も前を向くと、走りながら短く言い返した。

「お供いたします!」















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