表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ANTIQUE  作者: OOK&YOK
75/440

大地の帰還

●登場人物

・ココロ…アスビティ公国公女。始まりの存在に見出されANTIQUEのリーダーとなった十四歳の少女。

・吉田大地…土のANTIQUEに選ばれた地球の少年。闇のANTIQUEに攫われた幼馴染を助ける為異世界であるプレアーガへとやって来た。

・シルバー…鋼のANTIQUEに選ばれたアスビティ公国の軍人。生真面目な男で剣の使い手。

・キイタ…火のANTIQUEに選ばれた大国の王女。人見知りで控えめな性格。

・ガイ…雷のANTIQUEに選ばれた元シルバーの部下。豪快で力持ち。ややデリカシーに欠ける。

・アクー…水のANTIQUEに選ばれた正体不明の少年。知的で冷静。弓矢の使い手。


・ポーラー…三年前に森の中で意識を失ったアクーを助けて以来彼と生活を共にしている。



●前回までのあらすじ

 ココロ達が大地の治療の為に潜んでいるイーダスタの森。その程近くにある小さな集落、ヤック村で頻繁に行われる「言葉卸の儀式」とは、三種の魔族の一つフェズヴェティノスが人間達を洗脳し、操る為のものであった。フェズヴェティノスは種族の長であるオヤシロサマへの信仰心を煽り、巧みに村人達の心を掴んでいた。

 巫女として舞いを奉納するシキのリーダーであるハナは、オヤシロサマの孫娘であった。アクーに倒され激流に呑まれたフェズヴェティノス、オオグチの一族の長であるラプスの証言からANTIQUEの存在を知ったハナは、間近に迫る戦いに喜びを隠せない。一方、そんなハナに忠実でありながらも戦いには消極的な知将、ガウビは、ハナの命ずるままANTIQUE壊滅の為の作戦を練るのであった。









 ANTIQUEの能力者達とフェズヴェティノス達がそれぞれの思惑おもわくの中でそれぞれに過ごした夜は過ぎていき、やがて朝を迎えた。

 イーダスタの森の中にある洞穴ほらあなの前では、さわやかな朝の空気を切りくような鋭い音が響いていた。

 その音が鳴るたびに、美しい銀色の光が朝日を受けてらめき飛び散る汗が光の玉となって輝いた。

 汗を飛ばし続けているのはアクーの手厚てあつ適切てきせつ処置しょちとデュールの能力ですっかり元気を取り戻したシルバーであった。彼は痛みの消えた体に戦いのかんを取り戻すべく、起きるなり外に出て剣を振るっていたのだ。

「シルバー!何をしているの!」

 表から聞こえる不審ふしんな音に目を覚ましたココロが洞穴ほらあなを出てくるなり大きな声を出した。

「これはココロ様、おはようございます」

 ココロの心配をよそにシルバーは晴れやかな笑顔でココロを出迎えた。屈託くったくのないその笑顔に迎えられたココロは、肩透かたすかしを喰らって戸惑とまどった。

 すでに汗だくになっているシルバーは、一体いつからこうして剣を振るっていたのか。通常の人間であれば未だに立ち上がる事すらできない重症のはずだ。しかし、今のシルバーに昨日までの苦痛にゆがむ表情は見られなかった。

「だ、大丈夫…なの?」

「はい、もうすっかり。一日も早く遅れを取り戻しませんと。何せ、新たな敵との戦いはすでに始まっていますからね」

 言いながらシルバーは再び重たい剣を肩にかつぎあげると、そこからするどく気合一閃きあいいっせん、前面に振り下ろした。その刃鳴はなりに周囲の空気が震える。

 ココロは気が抜けたようにその場にしゃがみ込み、ひざを抱えてシルバーの訓練を見守った。

「よかった…」

 自然と笑みがこぼれる。それと一緒に涙もあふれそうになり、ココロは慌てて顔を伏せた。

「やってますな」

 そんな声にココロが顔を上げると、いつの間にかすぐ隣にガイが立っていた。左手には愛用の大きな剣をたずさえている。ガイの隣にポーラーの姿も見えた。

「信じられん回復力だな。人間じゃない」

 ポーラーがつぶやくとガイはニヤリと笑い、足元に転がる拳大こぶしだいの石を拾い上げた。

「信じられんのは回復力だけじゃあないぜ」

 そう言って、今拾った石をもてあそぶように何度か軽く放り投げる。

「ちょっとガイ?何をする気?」

 悪戯いたずらを思いついた少年のような表情をしているガイを見たココロは急に不安に襲われ、言いながら立ち上がった。

「何をする気かですって?こうするに、決まってるじゃないですかっと!」

 言いながらガイは手にした石を訓練を続けるシルバーに向かって思いきり投げつけた。ココロが止めるひまもなかった。

 投げられた石は物凄ものすごいスピードで、寸分違すんぶんたがわずシルバーの顔面めがけて飛んで行った。脅威きょういの集中力で剣をふるっていたシルバーは、ガイの存在にすら気が付いていない。

「シルバー!」

 思わずココロが叫んだその瞬間、シルバーの目の前でガイに投げられた石が真っ二つに割れた。

 いつシルバーが剣を振るったのかココロには見えなかった。しかし、シルバーは剣を持った右手を横に大きく広げている。体ごと回旋かいせんし、飛んでくる石を見事に剣先でぎ払ったらしい。

 舞い上がったシルバーの銀色の髪が静かにその背に落ちる。石ははじき飛ばされる訳でもなく、くだかれる事もなく、空中で一度動きを止めたかと思うと見事に二つに切り分けられていた。

 ポトリと音を立ててシルバーの足元に二つに分かれた石が落ちる。

「おー」

「見事!」

 ポーラーが声を上げるとガイもその動きをたたえた。

「ガイか」

 シルバーは一息つくとつぶやいた。ガイはうれしそうにシルバーに近づいて行った。

「すっかりもどりましたね、シルバー」

「うむ。もはや痛みは全くない。それどころか体中に力がみなぎっているようだ」

 ガイはシルバーの足元に落ちる真っ二つに切られた石を拾い上げた。

「しかし、技術も見事だがこの剣の切れ味はどうだ…」

 自分の手の中におさまった石の切り口を見つめながら、ガイがおどろきの声を上げる。シルバーは自分の持つ剣を目の高さに上げた。木々の間から差し込む朝日に照らされた鍛え上げられた鋼の剣をじっと見つめる。

「特別な剣ではない。どれほど鍛錬たんれんをしたところで、飛んでくる石を一刀両断いっとうりょうだんになどできるものだろうか…?」

「え?」

 つぶやくシルバーの顔をガイが見る。シルバーは剣を腰のさやに納めるとガイの顔を見た。

「感じるのだ…。私の手を通して、この手ににぎられた武器にまで、デュールの力が流れ込んでいくのが…」

 シルバーの話にガイは顔を上げ、その顔を一度ココロへと向ける。ココロにも今の話は聞こえていたようだ。ガイは笑顔を作ると誰にともなく言った。

「こいつぁおどろいた。おどろいたが、たのもしい限りじゃないっすか」

 そう言って笑ったガイは突然手に持った石を放り投げると、シルバーに背を向け歩き出した。数m離れた場所で立ち止まると、もう一度シルバーに向き直る。

是非ぜひ、手合わせを」

 そう言ってガイは、鉄の音を鳴らす左手で腰のさやつかんだ。その仕草しぐさを見たシルバーは、一瞬 おどろいたような顔をしたが、すぐに笑顔になると自分も半身はんみになって剣に手をかけた。

「願ってもない」



 シルバーとガイが模擬戦もぎせんを始めようとしていた頃、後から出てきたアク―が囲炉裏いろりに火を入れていた。キイタは目を覚ましてからずっと、きもせずに大地のそばから離れようとしない。

「見ていたら治るってもんでもないよ?」

 アク―は知っていた。今、心配そうな顔で大地を見つめ続けるこの火の能力者は、夜中に何度も起きては大地の様子ようすうかがっていた。余程よほどこの少年に思い入れがあるらしい。

「うん」

 そう答えるキイタはそれでも大地から目をらす事はなかった。しばらくそんなキイタの横顔を見つめていたアク―も、あきらめたように苦笑すると再び起き始めた火に目をもどした。

そばにいたいの」

 そう言うキイタの声に、アク―はまた彼女の顔を見た。相変わらずその目は大地を見ている。

「大地は私を助けようとしてこんな目に…。だから…」

「テリアンドスの戦いの時だね?だけどそれは別にキイタのせいって訳じゃないんだから」

 アク―がそう言うと、キイタはようやく顔を上げてアク―を見た。

「ANTIQUEの事も、魔族の事も、ハルから全部聞いていたから何の説明もいらないと思っていたけど、昨夜ゆうべのココロの話はそれなりに衝撃しょうげきだったよ」

 そう言うとアク―は、キイタの言葉を待つように口をざした。二人はしばらくの間黙って見つめ合っていたが、やがてキイタは再び大地の顔に目をもどし、話し始めた。

「この旅はココロから始まったの。私が仲間に入れてもらった時、すでにシルバーと大地がいた。ココロ自身、たった一人で戦ってきた時からたくさんの辛い思いをしてきたけど、新しい仲間にはその全てを語って聞かせる事が、始まりの存在のバディとして自分が背負せおうべき使命だと考えているの」

 そう言ったきり、キイタはそれ以上語ろうとしなかった。アク―はそんなキイタの横顔を見つめながら、それでも更に質問を重ねた。

「キイタは、ンダライのお姫様なんだよね?」

「うん、第二王女。父は、ンダライ王だった」

「第二王女って事は、お姉さんがいるんだ?」

 しかし、キイタはその質問には答えようとはしなかった。いつまでっても返事をしないキイタをみょうに思ったアク―が声を掛ける。

「キイタ?」

 キイタはもう一度アク―の顔を見つめた。

「いるわ、私の双子の姉。名前はイリア…。でも、今イリアは国にいないの」

「いないって?」

 キイタは一度大きくため息をつくと、体ごとアク―に向き直った。

「私の国ンダライは三種の魔族の一つ、アテイルに襲われた。両親は殺され、国政こくせいはアテイル一族ににぎられてしまった。私はそんなンダライから何とか逃げ出し、そこでココロと出会った。国が完全に壊滅かいめつしてしまうすんでの所でココロやシルバー、そして、大地に救われたの…だけど…」

 そこでキイタはまた一度言葉を切り、うつむいた。ほんの少しそうしていたキイタであったが、すぐに顔を上げると、真っ直ぐにアク―を見つめて言った。

「その時、イリアは敵の手に落ちたわ。多分」

「え…?」

「私はANTIQUEの能力者として魔族と戦う。この世界を守る。だけど、私の旅の目的はそれだけじゃないわ。敵に捕まったイリアを助け出し、二人で国に帰る。そして、あの悪魔のようなアテイルにめちゃくちゃにされたンダライを以前のような美しい姿にもどすの」

 くわしい内容まで聞かずとも、キイタの真剣な目を見るだけで、どれだけの試練しれんを乗り超えてきたのかうかがう事ができた。アク―はじっとキイタの顔を見つめたまま、口をはさめずにいた。

 キイタは、静かに微笑ほほえむと、また大地に目を移した。大地を見つめたままキイタが続ける。

「大地もね、自分の大切な友達を、暴走した闇のANTIQUEにさらわれたんですって」

「闇のANTIQUEに…?」

「そう。だから大地もそのお友達を助けて自分の世界に帰る事を目的にして、この旅に参加しているの」

 アク―は、まきに完全に火が着いた事を確かめると、そこに水を入れた鍋をかけて立ち上がった。静かにキイタに近づくとその隣に座り、彼女と一緒に大地の顔色を伺った。

 初めて会った時よりも血色が良くなったように思える。苦痛の様子ようすもなく、呼吸も安定していた。ただおだやかに眠っているようにしか見えない。

「やっぱり、大地はこの世界の人間ではないの?」

 昨夜、ガイのらした言葉を思い出したアク―がくとキイタはうなずいた。

「ええ、“地球”と呼ばれる別の世界から、土のANTIQUEに連れられてこのプレアーガにやって来た異世界の人」

「そんな事が…とても信じられない…」

 アク―は首を振りながら眠り続ける大地の顔を見た。

「アク―は?」

「え?」

 思いがけずキイタから質問を投げかけられ、アク―は顔を上げた。キイタは大地に目を落としたままだった。

 キイタは一度上を向き、顔にかかる長く赤い髪を後ろへ流すと、今度はしっかりとアク―を見つめ返してきた。すぐ近くに、自分を正面から見つめるキイタの白い顔があった。アク―は気まずそうに少し身を引く。

「僕は、って?」

「ポーラーから聞いたわ、記憶がないんでしょう?」

「え…あ。まったく、ポーラーの奴…」

「ポーラーを責めないで、彼は心配なの、あなたの事が」

「心配?」

「ええそう。あなたに記憶を取りもどしてほしいの。だけど、ここにいたままではそれはきっとかなわない。あなたは一緒にいるべき人達とここを出て、するべき事をしなくてはならないって…」

「…そう言ったの?ポーラーが?」

「そうよ」

 するとアク―は少し怒ったような顔になり、キイタから目をらした。

「勝手な事ばかり言って…。自分の事もちゃんとできないくせに…」

「私も大地も…ううん、他の三人だってそう。みんな自分達なりの目的を持っているわ。それは、これから出会う仲間達だってきっとそうなんだろうなって思う。そして、その目的を果たす事と魔族と戦い、この世界を守る事は決して相反あいはんするものではないのよ」

 キイタがそう言うのを、アクーは目をらしたまま聞いていた。何事か考えているような顔つきだった。

「アクーはアクーの目的を持って、私達と一緒に旅をしていいのよ。大地は、私にそれでいいと言ってくれたの」

キイタは、大地の手を自分の両手で包むようににぎった。

「だから、こんな所で寝ている場合じゃないのよ大地。目を覚まして、帰って来て大地!」

 言いながらキイタの中で熱い思いが高ぶり始めた。今にもこぼれそうになる涙をこらえ、大地の手を自分の額に押し当てた。

「…キイタ…」

 アク―がつぶやき、そっとその肩に手を掛けようとしたその時、突然キイタがおどろいたように顔を上げた。

「大地!」

「どうしたの?」

「大地が…、今、大地が、私の手を握り返した!」

「え!」



 白かった。見渡す限り一面白い地面がどこまでも続いていた。その白い世界に、大地は一人 たたずんでいた。

(ここは、どこだろう?)

 大地はキョロキョロと辺りを見回す。

(今、誰かに呼ばれたような…)

 そんな事を考えながら、ふと、足元を見る。自分は裸足であった。指先が地に埋まっている。サラサラとした気持ちのいい感触かんしょくが足の裏をくすぐった。

(砂だ―――)

 白く見えていた地面は、すべて粒子りゅうしの細かい砂であった。よく見れば自分は服も着ていない。紺色こんいろの海水パンツ一つの姿でここに立っている。

(海パン?じゃあ、ここは海か?)

 そう思った瞬間。前方からおだやかな波の音が聞こえてきた。かすかにせみの声も聞こえる。大地はもう一度ゆっくりと周囲を見渡した。

 遠くにきあがった大きな入道雲が見える。上を見上げると色のない空に真夏の太陽が照りつけていた。そこら中に陽炎かげろうが立っている。

 しかし、まぶしく輝く太陽も、自分のむ海岸の砂も熱くは感じなかった。

(何で俺はこんな所に…。今まで俺は、何をしていたんだっけか?)

 思い出せなかった。何か大事な事をしている真っ最中であったような感じがする。しかし眉間みけんしわを寄せて考えてみても、ここへ来る前に自分が何をしていたのか全く思い出す事が出来なかった。

 額に手を当てて考え込んでいる大地の耳に、かすかに人の声が聴こえてきた。大地は顔を上げると、その声にさそわれるように一歩 み出した。

 全然熱さを感じなかったが、足の下でサクサクと音を立てる砂の感触は心地ここちよった。

 やがて歩いていく先に、美しく輝く銀色の海が見えてきた。波打ち際にビーチパラソルが立っている。そのそばで男が二人、バーベキューコンロを使って肉を焼いている。ビールだろうか、楽しそうに笑いながら二人とも何かをゴクゴクとのどに流し込んでいた。

(あれは…父ちゃん…?それに、ああ、あれは、何だましろんのおじさんじゃないか)

 目を横に動かすと、光る海を背景にこちらには女の人が二人。

(母ちゃんと、ましろん所のおばさんだ…)

「ましろー」

 ましろの母親とおぼしき女性が、大きな声を出して手を振っている。大地はつられるように彼女の見る方へ眼を向けた。

 楽しそうなはしゃぎ声を上げて、一人の少女がけてくる。小さい、まだ幼稚園児位か。腰に子供用の浮き輪をはめたままなのでとても走りづらそうだったが、少女は笑いながら全力で走っていた。

(これは…、子供の時、うちの家族とましろの家族とで一緒に行った、海水浴だ…)

「だーいーちーぃ!」

 少女がこちらに向かって手を振っている。

(ましろ…、ましろ!)

 大地はこたえて叫んだ。しかし声が出ない。

(ましろ!ましろ!)

 何度 さけんでも大地ののどから声が出る気配けはいはなかった。大地はけだした。やわらかい砂に足を取られながら、手を振る少女のましろに向かって全力で走った。

 体が重く、なかなか辿たどり着けない。それでも笑いながら手を振るましろが少しずつではあったが近づいてきた。

 やがて大地はましろの前に立った。目線が低い。

(ああ、そうだ―――)

 大地は思った。この頃はまだ、大地の方が大きかった。この数年後、ましろは急激に成長し大地の背に追いついた。そして最後に別れた時、大地は絶対に認めたくはなかったが、ましろの方がわずかに背が大きくなっていた。

(最後―――?何だ最後って?ましろはちゃんとここにいるじゃないか、ちゃんと―――)

「大地、行こぉ」

 相変わらず満面まんめんの笑みで幼いましろが大地に右手を差し出す。

(うん)

 大地も微笑ほほえみ、自分の左手でましろの右手をにぎる。そのまま二人は仲良く海の中へと入って行った。水飛沫みずしぶきが舞い、それが真夏の太陽に宝石のように光った。

 口の中に海水の味が広がる。二人の母親が波打ち際で気を付けろとさけんでいる。笑う父親達の方から肉の焼けるいい匂いが漂ってきた。

 楽しくて、楽しくて、楽しくて―――。大地もましろに負けない程の笑顔で思い切り空を見上げた。さっきまで色がないと思っていた大きな真夏の空は、これ以上ない程に、深く、青かった。

 その空を映した海も青く、青く、青く、どこまでも青く輝いていた。

 広い空と波打つ海の間で、ましろの笑い声を聞きながら、大地の目の中は美しい青一色にまっていた。



「ましろ…」

 ようやく声が出た。かすかに開いた目の間から、やはり美しい青がいっぱいに入って来る。大地はゆっくりと目を開く。

(青い…。何て、何て綺麗きれいな青なんだ…。あの日の海と、空の色だ…。)

 やがて、青一色にまったゆがんだ世界が、大地の目の中で徐々に像を結んでいった。

 完全に開かれた大地の目に映ったのは、心配そうな顔でのぞき込んでいる真っ青な髪と、瞳を持った美しい少年の顔であった。

「あ…」

「気が付いた?動かないで」

 自分のいる場所を確かめようと顔をめぐらせた大地に、青い髪の少年が声を掛ける。

「ここは…」

「何があったか覚えている?君は、敵の攻撃を受けて重症を負ったんだ。今日でもう三日以上、眠り続けていたんだよ」

(敵?攻撃?一体何の事だ?)

「どうもピンときてないみたいだねぇ」

 アク―がつぶやいた時、洞穴ほらあなの入口が騒がしくなった。キイタから、大地の意識がもどったと聞かされた仲間達が一斉いっせいになだれ込んできたのだった。









評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ